剣闘王からの依頼ー後編ー
「待っていたぞ、ニンゲン!」
40階層に辿り着いた俺達の前に現れたのは、一人の魔族だった。
「魔族……。」
「なんで、魔族がここにおんねん?」
カルディも、ブランも、突然の事に驚き、戸惑っている。
「待っていた……と言ったな。俺達がここに来ることを知っていたのか?」
俺は、魔族に気になったことを聞いてみる。
「もちろんだとも!我々の偉大さを知るものが、お前らニンゲンの中にもいてな。色々教えてくれるのよ。」
魔族は、ガハハ……と笑う。
「此度、此処を目指すものがいると聞いてだな、上の階に歓迎の用意をしていたのだが……まさか辿り着くとは思ってもいなかったぞ!中々やるな、ニンゲンよ!」
何がおかしいのか、魔族は笑い続けている。
「なぁ、歓迎の用意って、あのモンスター達の事か?」
「その通り!あいつらを乗り越えてくるとは、大したものだ。」
「俺達が、あの程度に負けるとでも思ったか?」
「思ってたとも!だからこそ意外に思うのだよ!」
「なぁ、もし俺達が負途中で引き返したらどうするつもりだったんだ?」
……。
「……そんな細かいことなど、どうでもよいではないか。ガハハ……。」
笑ってごまかしているが、何も考えていなかったのだろう。
……俺は、こういう奴に心当たりがあった。
向こうの世界でも、こちらの世界にも、よくいる奴らだ。
奴らの特徴としては、思考回路が単純、とにかく豪快に笑う、後先の事を考えない……、そう、奴らの名前は「脳筋」だ。
奴ら全体において言えることは、とにかくめんどくさい。
対処方法はとにかく、関わり合いにならない事だ。
「……じゃぁ、そう言う事で。」
俺は、回れ右をして、帰ることに決めた。
「待った、待った、待った!勝手に帰らんでくれ!……話があるのだ。」
「と言われてもなぁ……こっちには、話すことなんてないぞ?」
なぁ?と、他の二人に話を振るが……。
「「……。」」
二人とも、事態についていけないようだった。
仕方がないか……俺は魔族の方に向き直る。
「で、話って何なんだ?手短に済ませてくれ。」
「ウム……そうだな……「世界の半分をやるから、仲間に……
スパーン!
ハリセンの軽快な音が鳴り響く。
「な、るぶぅ……」
俺は最後まで言わせなかった。
(レイ……すごく早かった。精霊化した時より早かったわよ。)
俺は、ファーの言葉を無視して、魔族に説教をする。
「お前は、何を言ってるんだ!そのセリフを言っていいのは「魔王」だけだ!
お前は魔王なのか?違うだろ!魔王じゃないのにそのセリフを口にするんじゃねぇ!……」
俺は、スパーン!スパーン!と、ハリセンで魔族を叩きながら言い聞かせる。
「スミマセンしたッ、スミマセンしたっ。」
魔族は土下座して謝っているが、許さない。
これだけは、しっかりと教えこんでおかなければ!
「モルゾフ、いつまで遊んでおるのだ?」
背後の扉からもう一人の魔族が出てくる。
「アドラー様、申し訳ございません。」
下っ端魔族が謝り倒している。
「あんたがコイツの上司か?」
俺はアドラーと呼ばれた魔族に声をかける。
「ウム……上司と言われればそうかもしれんが……。」
「だったら、部下の教育位しっかりしておけよ!こいつが何をやったと思ってるんだ!
部下のミスは上司の責任だぞ!どう責任取ってくれるんだ!あぁん?」
俺は、アドラーに上司としての責任を問う。
「いや、しかし……。」
「しかしじゃない!大体だなぁ……。」
俺はその後1時間にわたり、テンプレの重要性、魔王と魔族のあるべき姿、フラグの立て方、折り方など、滾々とアドラーとモルゾフに語った。
「……という訳なんだよ!」
「あ、あぁ………とにかくすまなかった。」
「……まぁ、わかってくれればそれでいいよ。……今度からは気を付けてくれよな。」
「あぁ、部下にはしっかりと言い聞かせておく。」
俺の熱い説得は、魔族たちにも充分伝わった様だ。
アドラーが心なしか引き攣っているように見えるが、気のせいだろう。
「ところで、何の話だっけ?」
ふと、俺が疑問を口にする。
(バッカねー、魔族が話があるって言ったんじゃない。で、それがくだらなかったから、あんたがキレたんでしょ?)
「俺はキレてなんかないぞ?……ま、いっか。それで話って?用がなければ帰りたいんだが?」
俺は、魔族たちにさっさと話せと詰め寄る。
「ウム……いや、ちょっと待ってくれ……モルゾフ、どこまで話が進んでいるのだ?」
「……それが……まったく……」
「……お前帰ったら減棒な。」
何やら世知辛い会話がなされているが……。
「ウム、すまなかった。……最初から話そうか。」
「そうしてくれると助かるが・・・・・・その前にこいつら帰していいか?・・・・・・どう考えても、話を聞いたら厄介事に巻き込まれるとしか思えん。」
「・・・・・・構わないが、今更だと思うぞ。お前等は既に渦中にいるからな。」
・・・・・・厄介事の自覚があるのかよ・・・・・・質わりぃなぁ。
「僕は残るよ。情報屋としてはこの機会を逃したくないね。」
「ウチも残るで。同じ巻き込まれるなら、状況把握は基本やで。」
「・・・・・・だそうだ。話を続けてくれ。」
まぁ、二人がいいなら、口出す事じゃないな。
「ウム、何から話すか・・・・・・世界の半分をやるから仲間に・・・・・・」
スパコーン!
「お前もかっ!お前もなのかっ!」
俺はアドラーにハリセンをたたき込む。
「待て、違うんだ!」
アドラーは慌てて弁解する。
仲間の勧誘は本気らしいが「世界の半分」云々はつい口が滑ってしまったらしい。
アドラーの話をまとめると、元々「レミアの穴」は魔族領と繋がっていて魔族が管理していたらしい。
しかし、何十年か前の大地震で、人族側のダンジョンと繋がってしまい、そのことを憂慮した魔族によって閉鎖すると共に、その時の人族の代表と話し合いをもって、ダンジョンに入り込まない協定を結んだとの事だ。
しかし、サガが王になるとその協定は無視され、人族側からレミアの穴を通って魔族領に入ってくる人間が増えたらしく、現在ではダンジョンの構造を変化させて、そう簡単に魔族領に来れないようにして急場を凌いでいるというのが現状だそうだ。
「正直、これ以上人間が此処を通るのは困るんだよ。」
アドラーは、心底困っているようで、俺は興味が沸く。
「そんなに困る事なのか?」
「あぁ、実はこの先は魔族領の中のサキュバス集落に繋がっていてな・・・。」
・・・・・・何となくわかってしまった。
以前に魔族領に入った奴らが、サキュバス集落に居着いて傍若無人な振る舞いをしているらしい。
サキュバスとしても、貴重な供給源であるため強くは出れず、せめて、少しでいいから働いてくれと言っても「働いたら負けだ!」の一点張りで、どうしようもないらしい。
最近では他の種族にちょっかいをかけているようで、魔族領の上層部に被害届が続出中とのことだ。
だから、人族で奴らを纏め上げるぐらいの実力を持ち、魔族と有効関係を結べる人材を募集中とのことだが・・・・・・。
「どうだ?お前なら実力的にも申し分ない。仲間になれば男爵の地位と、領地、後サキュバス族の中から好きなだけ側仕えとして選ぶ権利をやるぞ。」
(よかったわねー。サキュバスちゃん達がいればエロい事やり放題よ。)
ファーがとんでもないことを言ってくる。
ブランの視線が冷たい。
「アホか!そう言うことを言ってる奴らが、今魔族達に迷惑かけているんだろうが。」
そんな事よりもっと重大なことがある。
「なぁ、今までの話からすると、サガ国王はここに魔族がいるって事を知っているってことで間違いないか?」
「サガとやらが、今人族をまとめている奴のことであれば、間違いないな。」
アドラーの答えに、俺は思考を張り巡らせる。
サガ国王は知っていて、俺をここへよこした・・・・・・その真意はなんだ?
「・・・・・・魔族の撃破・・・・・・だろうな。」
考えが口をついてでる。
「ん?なんだ?やるのか?」
モルゾフが俺のつぶやきに反応する。
「やらねぇよ!」
全く・・・・・・脳筋って奴は質が悪い。
しかし、サガ国王に裏がある以上、ここまま戻ってもどうなるか・・・・・・。
せっかくの魔族との繋がりも、バッサリと断ち切るには惜しい気もする。
「どうするかなぁ。」
「あー、レイ、悪いんだけど、僕は魔族達の方へ行くよ。」
俺が悩んでいると、カルディがそう言ってくる。
「一応理由を聞いてもいいか?」
「んー、魔族達も思ってたより悪くないみたいだし、僕の捜し物も魔族領側にあるかもしれないし・・・・・・何よりこのまま戻って無事に済むとは思えないからね。」
「まぁ、そうだろうな。」
正直、サガ国王が何を考えているかわからない以上、最悪を考えて行動するべきだろう。
「ブランはどうする?」
俺はブランに聞く。
素直に戻ると、最悪口封じされることも伝えておく。
「ウチは……店もあるし、あそこにそれなりに愛着もあるしなぁ……。」
どないしよう……と悩むブラン。
「じゃぁ、ブランは、今すぐ地上へ戻るんだな。そして、39階層でモンスターに襲われて、引き返して来たというんだ。
俺は、ブランを逃がすためにモンスターたちを引き付けていた。
だから、その後どうなったかはブランは知らない。
加えて、カルディも戦闘中に姿が見えなくなった。生死はわからない。
ブランが知りえた情報はそれだけだ。」
俺は、ブランが今まで通りの生活を送れるようにする為のプランを授けてやる。
それでもしばらくは監視が付くだろうが、その後、俺が戻れば、全ての注目は俺に来るはずだ。
「そんなん、レイフォードに無茶負担かかってるやんか。」
そこまでせぇへんでも……とブランは言うが、俺だけに注目してもらった方が都合がいい。
そう、ブランに言い、今すぐ戻るか、魔族領に行くか選べと伝える。
あまり時間がないのは確かだ。
「……せやな、申し訳ないけど、言葉に甘えてええか?」
「あぁ、ケイオスやファリスを鍛えてもらった恩もあるしな、それくらいは気にするな。」
「あれはちゃんと代金もろうとるで。……ホンマおおきにや。」
「戻ったら、俺の救出隊を出せとか喚いて騒ぎ立てろよ。その方が真実味が増すうえ、怪しむ奴も減る。」
「あぁ、そうするわ。」
「じゃぁ……ここでお別れだな。地上に戻ったとしても、会えるかどうかわからないしな……今まで助かった。ありがとう。」
「……なんや、その辛気臭いのは。似合わへんで!落ち着いたら、必ず顔出すんやで。そん時は、ケイオスにもファリスにもまけぇへん物作ったるさかいに。」
「あぁ、その時はよろしく頼む。」
俺は、笑顔でブランを見送る。
ブランは名残惜しそうに、何度も振り返りながら上への階層に続く階段を上がっていった。
さて、2~3日時間が空いてしまったな。どうするかね。
「結局、お前はどうするんだ?」
アドラーが聞いてくる。
「あぁ、いったん戻るよ。……サガ国王が何を考えているかも確認しておいた方がいいしな。」
それより……と俺はアドラーに気になっていたことを訪ねる。
「一応聞いておくが、お前らは敵じゃないという事でいいんだよな?」
「我らに敵意を持っていないならば、そうなる。……今はそれどころじゃないのでな。」
魔族側にも色々事情があるらしい。
「へぇ、暇つぶしに聞かせてくれよ。何かいい案が出るかもしれないぜ。」
「お主、暇なのか?暇なら俺と一発やらないか?」
モルゾフが言う……お前、言い方気をつけろよ。
(キャー!やらないか?だってぇ。レイ、やる?やるの?やっちゃうの?)
ファーが浮かれている……こういう奴がいるから気をつけろと言うに……。
「やらねぇよ。……で、アドラー。何か困ってるなら聞かせろよ。魔族に恩を売るいいチャンスだ。」
「お前……そう言う事はもっと……まぁ、今更か。」
「そうだよ、レイはストレートすぎるよ。もっと、うまく煽てて遠回しに絡めとるようにしなきゃ。」
アドラーとカルディが呆れたように言ってくるが、いいんだよ。どうせ暇つぶしなんだから。
「お前らに言ってもどうしようもない事なんだがなぁ……勇者が弱すぎるんだよ。」
勇者が弱すぎて困るとアドラーが言うが……勇者って、あの「勇者(笑)」の事か?
「……すまん、あいつ等とは係わり合いになりたくない。……忘れてくれ!」
「レイ、勇者知ってるんだ?アドラー達が困ってるのを何とかしてあげるんじゃなかったの?」
「ムリ!アイツらは無理!」
放っとくのがいいとアドラーに告げるが……。
「しかしなぁ、勇者に死なれると困るんだよ。最近では魔人たちがちょっかいをかけているって噂も聞くし……魔人と事を構えたくないし……。」
「無理無理……放っておくのが一番だ。」
「しかしなぁ……。」
アドラーが言うには、勇者と魔王は一対の関係であり勇者と魔王が存在することで世界のバランスが取れているんだそうだ。
魔王を倒せるのは勇者のみで、魔王を倒した勇者はこの世界に種を残した後、いずれともなく消え去る運命らしい。
また、勇者が魔王を倒す前に死んでしまった場合、後継となるものがいれば、その者に勇者は引き継がれるのだが……。
「いなかった場合はどうなるんだ?」
「魔王様が狂う。」
「は?」
なんのこっちゃ?
「言葉通りだよ。勇者がいなくなると、魔王様は正気を失って、破壊するだけの災厄となる。……その力は強大で、世界を破滅に導くまで止まらないんだ。」
……魔王と勇者のシステムはそういう風になっているらしい。
「……じゃぁ、何か?魔王ってのは勇者に殺されるためだけに存在するのか?」
「いや違う……魔王様にだけ与えられた使命がある……それが何だか知らないがな。」
「……ふーん。だから、勇者には後継者が出来るまでは生きていてもらわないと困るってか?」
「まぁ、その通りだ……しかし、あの勇者は弱いくせにアンデットの群れに飛びこんでいったり、勝てないのにドラゴンに喧嘩を売ったり、挙句の果てには、危険だと言ってるのに、わざわざ毒の沼地に嵌まり込んだり……。」
相当鬱屈してるなぁ……あの勇者相手じゃ無理もないけど……な。
「要はあの勇者の後継者がいればいいんだろ?」
「そうなんだが……。」
「確かアイツのそばに女魔術師がいたはずだ。サキュバスに言って、勇者をその気にさせて魔術師を襲うように仕向けたらどうだ?」
「……お前、鬼か!」
(レイのその鬼畜っぷり、大好きよー!)
「勇者も喜ぶ、子供が出来れば魔王も魔族も喜ぶ……いい事づくめじゃないか?」
「……レイ、魔術師さんの気持は?」
……。
「物事に犠牲はつきもの……まぁ、冗談はともかく、勇者がほんとにイヤなら逃げ出してるだろ?」
「ふむ……一応考えておこう。」
では、そろそろ戻るとアドラーが言う。
「あぁ、中々有意義な時間だったよ。今度、魔族領に遊びに行かせてもらうから、その時は歓待してくれよ。」
「ふむ……そうだな、極上のサキュバスたちを用意しておこう。」
……いや、それはまずいから……
ミリィやリィズ達になんて言われるか……。
「……気持ちだけありがたく受け取っておくよ。」
「そうか?遠慮しなくてもいいのだが?」
「それより、カルディの事頼むぜ。」
俺は、カルディの安全を保障するようにお願いしておく。
「任せておくがよい。俺がしっかり面倒見てやるからな。ガハハハハ……。」
モルゾフが請け負ってくれるが……余計心配になったぞ。
「まぁ、気を付けてな。」
俺はカルディに別れを告げる。
「あぁ、レイも、魔族領に来たときは訪ねてきてよ。」
そう言って、カルディはアドラー達と共に、扉の向こう側へと消えて行った。
「さて、ファー……どう思う?」
俺は周りの気配が無くなったことを確認して、ファーに問いかける。
(どうって……魔族のこと?王様のこと?)
「どっちもだな。ファーの感じたことを聞かせてくれ。」
(感じた事と言われてもねぇ……魔族は嘘は言ってなかったと思うわ……ただ、ホントの事も言ってないと思うけど。)
「だろうな。まだ、何か隠している感じは俺にも分かった……ただ、今の状況では、関係ないというかどうしようもない事だろうけどな。」
(そうね、たぶんその通りだわ……。王様については……レイ、本当に王様の所に戻るつもり?)
「……どうしようか悩んでいるんだけどな。ブランの安全を考えたら、一度は戻った方がいいだろうな。」
(戻ってすぐ、首切られるかもよ?)
……あり得ないとは言い切れないのが辛いところだ。
「まぁ、何か対策を考えていくさ。一応公式には、戻って報告すれば自由の身だしな。」
(300万ミネラはあるの?)
「そんなのはどうとでもなるさ……例えば、貴族をだましてダンジョンに連れ込み、300万で護衛をさせるとか……。」
(ひどい話ねぇ……鬼畜だゎ……クスクス……)
ファーが笑い転げている。
「命の値段にしたら安いもんさ。外に出たら、300万ミネラなんてたったの小金貨3枚だぜ。」
(そうね……クスクス……)
「まぁ、そこまでしなくても、こいつらを売りさばけば300万ミネラにはなるさ。」
俺のバックの中にはメリラ鉱石を始めとした、希少素材が詰まっている。
自由の身になったら、ココでのごたごたは無視してアルガード王国へ向かうぞ。
(アルガード王国?)
「ファーが外にいた頃にはまだなかったのかな?たぶんそこにエアリーゼがいるはずだ……逢わせてやるよ。」
約束だからな……とつぶやく。
(……ふ、ふーん、そうね、仕方がないから付き合ってあげるわよ。)
「ま、とりあえず、あと2日ほど、ダンジョン内で時間つぶさないとな。……ケイオス呼んで暴れるか。」
(いいわねー、せっかくだしこの中のモンスター根こそぎ狩っちゃいましょ。)
……二日後、俺は300個近くの魔種を持ってダンジョンを後にした。
投稿遅くなってしまいました。
待っていた方、申し訳ありません。




