剣闘王からの依頼ー前編ー
「炎風陣!」
爆炎が、モンスターたちを吹き飛ばす。
「ふぅ、これで、このフロアーは一掃したかな?」
俺は、周りを見回す。
うん、大丈夫そうだ。
「相変わらずすごいね。ボクの出番ないじゃないか。」
「お前には魔種集めという仕事があるじゃないか。結構重労働だと思って気を使ってるんだぞ。」
俺はカルディに笑いながら言い返してやる。
ちぇ、雑用ばかり押し付けて……とか言いながら魔種を集めに行くカルディ。
カルディとは、最初に組んでから偶に一緒にダンジョンに潜る仲だ。
というより、最近はカルディかブランとしかパーティを組んでいない。
「その剣の使い心地はどうや?」
素材回収から戻ってきたブランが聞いてくる。
「うん、いい剣だよ。よく馴染む。」
俺は握っている白銀に輝く刃の剣を見ながら答える。
「ウチは、ケイオスより、そっちの剣の方が好きやな。」
そう、俺が今持っているのは『妖星剣ケイオス』ではなく『聖魔剣ファリス』と名付けた剣だ。
ケイオスの漆黒の刃と対になるような白銀の刃、が眩しく輝いている。
ケイオスは……一言でいえばやり過ぎてしまった。
まぁ、ブランの腕がよすぎた事、珍しい素材が有り余っていたこと、想定以上の剣が出来たせいで舞上がってテンションが上がりまくってた等々、色々要因はあると思うのだが、調子に乗って強化しまくり、エンチャントの重ね掛けをしたうえ、ファーが加護をかけたり、自身の力を定着させたりなどした結果、神器と言っていいほどの力を得たんだけど……突然アストラル界へ行ってしまった。
いや、ほんと、何言ってるのかわからなくなるけど、いきなり存在がかき消すようになくなった。
ファーが『逃げた』と言っているので、いじくりまわされるのが嫌になって、手の届かないアストラル界へ逃げたんだろう……とは思うが……そんなことあるのかね?
まぁ、依り代としての機能は問題ないし、呼べば顕現するので問題はないんだが……見た目丸腰は格好良くないので、もう一振り作成することにした。
それで新たに作成したのが、ファリスだが……実はこれもやり過ぎて、ブランが止めてくれなければ、ケイオスの後を追ったことは間違いない。
ケイオスがやや魔力過剰になっている為、ファリスは物理に重点を置いた作りになっている。
普段使いをファリス、ファーの力を開放するときや、魔力全開で行くときなど、切り札的な使い方をケイオスと使い分けをしているのが現状だ。
「レイ、少し手加減しようよー。素材のいくつかがボロボロになってるよ。」
ブランと話している間にカルディが戻って来る。
「まぁ、今回は、王さま直々の依頼だからケチケチすんなって。」
「レイはいいかもしれないけどさ、僕たちには通常の報酬しかもらえないんだろ?だったら素材の買い取りは貴重な収入源だよ。」
「せやなぁ、このダンジョン『レミアの穴』には、特別な許可がないと来られぇへんさかい、素材回収の機会は大事にせな。」
ブランの言う通り、今、俺達がいるダンジョンは、普段は厳重に出入りを制限されている。
そんなところに、なぜ俺達がいるかというと『王命』だからだった。
俺がブランの勧めもあり、武闘大会に出場し、剣闘王サガと試合をしたのは1週間前の事。
俺が望んだ報酬の条件として出してきたのが、この依頼……すなわち『レミアの穴40階層の調査』だった。
レミアの穴は今までの調査で39階層までは確認されていて、下の階層に続く道までは発見されている。
しかし、39階層から40階層へ行く段階で、向かったもの全員が精神に支障をきたし、誰一人として降りることが出来なかったという話は有名である。
そんな『前人未到の地』である『レミアの穴40階層』を調べてこいというのが、今回の依頼だ。
依頼を受けるにあたり、協力者を募っていいかと確認したところ「報酬なしで協力してくれるものがいるなら好きにしろ。」とのことだった。
つまり、クリア報酬である、自由民へのチケットは俺一人だけに適用されるのであって、他のパーティメンバーへの報酬は、俺との契約時に決めた報酬のみとなる。
……こんな条件で仲間になってくれるようなもの好きはいないだろうと思っていたが……二人もいたよ。
「ボクは、以前言った通り探しているものがあるからね。普段いけないところへ行けるのは願ってもないチャンスだよ。」
と、カルディは言うのだが、何を探しているかとか依然教えてもらってない。
どういうものかがわかれば手伝ってやることもできるのだが、効率を無視してでも、他人に教える気はないらしいので、あまり深く突っ込まないようにしている。
「レミアの穴結うたら、高級素材の宝庫やで。ウチが行かんと、誰が行くっちゅうねん。」
……まぁ、ブランの反応は、予想できたといえばそれまでだが……。
なんだかんだ言っても、二人とも俺の心配をしてくれているというのもあるだろう。
それくらいわかるくらいには、俺も成長した……はず。
まぁ、二人に困ったことが起きたら、助けてやるくらいには恩義を感じておこうか。
◇
そして、問題の39階層に到達した。
「ここは……なんというか……。」
カルディが絶句している。
無理もない。俺もこのフロアを見て少なからず絶句した。
目の前には広場……と言っても300m四方ぐらいだろうか?……が広がっているが、それだけだ。
奥に階段らしきものが見える。
つまり39階層というのはたったこれだけのスペースだけしかない……のだが……。
「うようよおるわ……どないする?」
ブランの言う通り、階段の前に、ミノタウルスっぽいモンスター……っぽいというのは、通常のミノタウルスより3倍近く大きいからだ……が陣取っていて、その近くにサイクロプスと思われる巨人が2体。
さらにその周りにトロールとリザードマンの群れ、更にはスケルトンやゾンビなどのアンデットもいる。
それらが300㎡の中にひしめき合っているのだ。
正直、アンデットやリザードマンぐらいなら、大規模魔法で一掃できるだろうけど、あの数だと打ち漏らしが確実に出るな。
あと、雑魚が壁になって、巨人まではダメージが通らないかもしれない。
「たぶん、真ん中の巨人がここのボスだよね。……アレを倒さない限り、雑魚が無限に湧いてきたりして。」
カルディが笑えない冗談を言う……。
ま、でも、あれぐらいなら、何とかなるだろう。
「カルディ、ブラン、まず、俺が広範囲魔法を群れの中にぶち込む。
それで、ある程度の雑魚は吹き飛ぶはずだから、残った雑魚の処理を頼んだ。
俺は巨人を殺る!」
「OK。近づけなければいいんだね。」
「雑魚は任せとき!」
「ファー、エクスプロージョン放った後、ケイオスを呼ぶからな。頼むぞ。」
(任せといて。)
俺は、各自に指示を出した後、ファリスを鞘から抜いて構える。
「じゃぁ、行くぞ!」
ファリスを地面に突き刺し、ルーンを唱える。
『大いなる光、灼熱、爆風、炎火』……
俺の魔力がファリスに引っ張られ吸い出されていく。
『全てを力に変えよ。』……
俺の魔力を取り込んだファリスが黄金色に輝く。
魔力がどんどん吸い出されていく……。
『溶かし燃やし吹き飛ばせ』……
魔力の流出が止まる。
ファリスが内側から暴発しそうなぐらい小刻みに震えている。
俺は、ファリスを地面から引き抜き、着弾地点を、部屋の中央に定める。
『灼熱の大爆発!』
目標に向けて、ファリスを一薙ぎする。
ファリスの剣先から膨大な魔力が放出され……目的地点に着弾するとともに、そこを中心に爆炎が広がっていく。
高熱によって蒸発するもの、炎に焼かれるもの、爆風で弾き飛ばされるもの……様々ではあるが、一瞬で、その場にいたモンスターは消え去り、大きなクレーターが出来上がる。
「チッ!やっぱり残ったか。」
仲間が盾になった者達や、効果範囲の端の方にいた者達など生き残ったモンスター達が、一斉にこちらを見る。
「じゃぁ、行きますか!」
カルディとブランが、モンスターめがけて走り出す。
「こっちも行くか。」
俺はファリスを鞘に納めながら前方の巨人に目をやる。
サイクロプスは、多少のダメージがあったのか、倒れていたらしく、今起き上がろうとしている所だったが、ミノタウロス巨人はダメージが通っておらず微動だにしていなかった。
「来い!ケイオス!」
俺は虚空に右手をつきだす。
そこに淡い光が現れ、その光がだんだんと形を成していく。
……光が消えた後、俺の手には妖星剣ケイオスが握られている。
俺は、巨人共に向かって駆け出していく。
……ケイオスの召喚……ダメだ、顔がニヤける。
ケイオス……召喚!……かっこええ!
中々分かっているなと、俺の中の失われたはずの厨二心が、顔を出してくる。
ケイオスから、サムズアップのイメージが流れ込んでくる。
……まさかと思うが、これだけの為にアストラル界へ行ったんじゃぁ……。
……格好いいからOK!
俺はスピードを緩めずサイクロプスの横を通り抜ける。
抜き残間にケイオスを横薙ぎにし、巨人の脚を斬り割く。
「チッ、浅かったか。」
斬りつけた瞬間、少し怯んだものの、すぐに棍棒を打ち下ろしてくるサイクロプス。
それを飛んで避け、打ち下ろした後の体勢が崩れているところを狙って斬りつける。
しかし、サイクロプスもわかっていたのか、身を捩ってかわす。
巨体の癖に中々素早い動きだ。
俺は一旦距離をあける。
巨人族が強敵なのは、巨体による力とタフさだと言われているが、実際にはそれだけでなく、巨体によるリーチの差が大きい。
こちらが攻撃範囲に入る前に、攻撃されるのだ。それらをかいくぐって、初めて攻撃に入れる。
しかし巨体故に、弱点の多い頭部周辺まで攻撃を届けるのは中々難しい。
「せめて空を飛べればな・・・・・・。」
つい無い物ねだりをしてしまう。
(空を飛びたいの?・・・・・・多分今なら出来るわよ。・・・・・・ケイオスに意識を・・・・・・そして私を感じて・・・・・)
俺は言われたとおり、ケイオスに意識を向ける。
ケイオスから俺の中に何かが流れ込んでくる感じがする。
・・・・・・あぁ、これがファーなのか。
何となくそう思う。
ファーの力が自分の中に流れ込み、溶け合い、混ざり合って、体全体に張り巡る。
体の一部に謎の紋様が浮かび上がり、背中からケイオスの刃の色と同じ漆黒の翼が広がる。
俺は軽く大地を蹴り飛び上がる。
飛び方は不思議とわかる。・・・・・・まるで飛ぶことが当たり前だというように、自然と理解出来る。
俺はそのままサイクロプスに相対し、肩口から袈裟切りに斬り下ろす。
先程までの堅い感じはなく、滑らかに斬り裂ける。
魔力を含め全体的にパワーアップした感じだ。
胴体を斜めに切り裂かれた巨人は、そのまま崩れ落ちる。
「これが『精霊化』か・・・・・・凄まじいな。」
俺が独りごちていると頭の中にファーの声が響く。
(どう?私と一つになった感想は?)
どことなく笑いをこらえた感じで聞いてくる。
「あぁ、最高だね。どこまでも飛んでいけそうなぐらいハッピーだね。」
(アハッ、言い過ぎだよー。)
ファーも御機嫌なようだ。
そのままの勢いで飛び上がり、もう一体のサイクロプスの目玉にケイオスを突き刺す。
「ここを出たらどこまで飛べるか、試して見ようぜ!」
(それ良いわね。・・・・・・どうせならアリゼ姉様に見せつけたいわ。)
「そう言えばリィズには翼がなかったな・・・・・・。悔しがりそうだ。」
俺はファーと他愛もない話をしながらも、サイクロプスの胴体を横薙ぎに切り裂きとどめを刺す。
(最初のイメージで固定化されるからね。・・・・・・ちなみにそのリィズって子とアリゼ姉様が一緒になった姿ってどんなの?)
「猫耳」
ファーに疑問に俺は一言で答える。
(・・・・・・ソウイウコトネ・・・・・・。)
俺の中からイメージを読み取ったらしいファーが疲れたように言う。
・・・・・・いいじゃないか、ネコミミ。
「・・・・・・っと、ちょっと気合い入れないとな。」
目の前に立ちふさがったミノタウロスから、強力なプレッシャーが放たれる。
俺は、プレッシャーを跳ねのけてミノタウルスに斬りかかる……が、斧の柄で防がれる。
そのまま斧が振り回される。
俺は飛び退いて、斧の斬撃を避ける。
巨体の割に素早い奴だ……。
「これは、真っ向から撃ち合うと厳しいかもな。」
(じゃぁ、どうするのよ。)
「……こうするさ。」
俺は少し考えた後、ケイオスを左手に持ち替え、ファリスを抜く。
(……剣が二本ねぇ……二刀流なんてできたの?)
ファーが、訝しげに聞いてくる。
「いや、出来ないよ。」
(じゃぁ、どうするのさ?)
あっさりと答える俺に、さらなる疑問を投げかけてくる。
まぁ、普通は出来もしないのに2本持つなんて馬鹿げてると思うよな。
だが、今の俺だからできる技がある。
「左手はファーに任せた!」
そう、出来ないならば、出来る奴に任せればいい。
これぞ、「秘儀、丸投げ!」だ。
(ちょ、ちょっと、任せたって……)
「大丈夫、ケイオスとファーなら出来るよ。」
俺はそう言って、再びミノタウルスに斬りかかる。
袈裟斬りに振り下ろしたファリスを、ミノタウルスの斧が受け止める。
そこへ左手のケイオスが斬りあげる。
ミノタウルスの胴を斬り裂く……ちょっと浅いか。
(中々難しいわね……)
「いや、十分さ。続けていくぞ!」
右から振り下ろす。
ガシッ!
斧で受け止められる。
左から振り下ろす。
バシッ!
斧の柄の部分で弾かれる。
右のファルスを突き出し、脇腹を抉る、
ズシャッ!
体勢が崩れたところで、左のケイオスが斬りあげる。
スシャァァァ―!
ミノタウルスが、堪らず膝をつく。
そのタイミングで、ミノタウルスの首めがけて右から斜めに斬り降ろす。
キィン!
さらに左手が振り下ろされる。
キィィン!
剣を振り抜いた後、一瞬の静寂が……
ズルッ・・・・・
そして、ズルッという音と共にミノタウルスの頭の位置がずれ……ゴトン!と地面に落ちる。
「ハァ、ハァ……。」
(やったね。やればできるじゃない。)
ファーが喜びの声を上げるが、俺は息を整えるので精いっぱいだ。
今の攻防で、かなりの精神力を持ってかれた。
慣れないことはするものじゃないと思う。
「ハァ、ハァ……あいつ等は……。」
俺は周りを見回す。
殆どの雑魚モンスターは倒れ伏し、2~3体が残っているだけだった。
「あれくらいなら任せてもいいかな?」
俺はようやく緊張を解き、地面に腰を下ろす。
同時に、ケイオスが掻き消え、俺の体の中から何かが抜けてく感じがした。
……精霊化が解かれたのだ。
ファーが、妖精の姿になって俺の周りを飛び回る。
(そんなに疲れた?)
「あぁ、あの『二刀流』がヤバい……ゴッソリと力が抜けて行った。」
(まぁ、あんな無茶する人間初めて見たわ……普通ならすぐ倒れてるわよ。)
「そんなものなのか?」
(当たり前でしょ。精霊の力とあなたの力を使って、精霊化しているのに、さらに精霊の力だけを部分的に分離させるなんて、普通は出来ないか、精霊化が解けるわよ。)
……いい考えだと思ったのだが、普通ではなかったらしい。
まぁ、出来たんだからいいじゃないか。
しばらく休んでいると、雑魚を一掃したカルディとブランが戻ってくる。
「よう、お疲れ。」
俺は二人に労いの言葉をかける。
「そっちも無事だったようだね。」
「雑魚っちゅうても、数が多いさかい、大変やったで。」
「まぁ、とりあえず休憩だな。」
俺は二人に回復薬を渡し、休むように言う。
「あれが下の階層に続く階段だね。」
俺の後方にある階段を見て、カルディが言う。
「そうみたいだな。」
「でも、おかしいなぁ。僕が調べたところによると、39層はもっと複雑な迷路みたいになっていて、階段に辿り着くまでが大変だって話なんだけど……。」
「情報がまちごうとるか、ダンジョンの構造が変わったか……やなぁ。」
「まぁ、ダンジョンの構造が変わったとみるべきだろうな。……俺も、カルディと同じ話を聞いたことあるからな。」
向こうの世界のゲームでは、入るたびにマップが変わる「不思議のダンジョン」なんてありふれていたからな。ここでそう言うのがあっても不思議じゃないだろう。
「一休みしたら、階段の周りを調べて、それから、先へ進もう。……降りるときに精神に異常意をきたすって報告があるからな……精神異常を引き起こす、何かがあるのかもしれない。」
「そうやなぁ……一応、状態対抗薬持って来とるけど……。」
まぁ、とにかくあと少しだ。
「何もあらへんね……。」
「そうだな……何も以上は感じないか?」
「ボクは大丈夫。」
「ウチもや。」
休憩を取った後、俺達は階段周りを念入りに調べたが、コレと言ったものは見つからず、また、特に身体・精神に異常もきたしていない。
「……とりあえず、降りてみるか……先に行く。」
俺は、二人の前に立ち、ゆっくりと階段を下りていく。
特に異常を感じないまま、俺は40階層に足を踏み入れた。
続いてカルディとブランが降りてくる。
「異常はないか?」
「大丈夫や。」
「ボクも。」
俺の問いかけに、何も問題ないと答える二人。
「じゃぁ、行くぞ!」
俺は、二人の部状態に問題ないことを確認すると、目の前の扉に手をかけ、一気に押し開く。
「ウハハハハ……、遅かったな、ニンゲン!」
40階層の扉を開いた先は、上の階層と変わりない広間があり、一人の魔族が待ち構えていた。
長くなり過ぎたので、前後編に分けます。




