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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
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Girl meets Boy

香奈美目線でのお話です。

 「後輩じゃなく、妹でもなく、一人の女の子として香奈美が好きなんだってことに気づいたんだ。ただのゲーム仲間じゃなく、彼女として付き合ってほしい。」


 彼の言葉が響く。今、私は告白されている。それも私がずっと想っていた人から。


 私から告白しないと関係は進まないとずっと思っていた。彼からしてみれば、私は妹みたいな存在なんだろうと考えていたから、彼から告白されるというシチュエーションは想定外だ。


 「わ、私は……」


 答えは、ハイなのに、Yesなのに言葉が続かないよ。不意打ちはずるいよ、彼方センパイ……。


 その時、予鈴が鳴り響く。昼休みが終わる。学校に戻らないといけないのにまだ私返事していない。


 「あ、ごめん。もう時間だね。返事は今度でいいよ。いきなり変なこと言ってゴメン。俺ももう仕事に戻るから。」


 そういって彼方センパイは逃げるように駆け出して行った・・・まだ返事してないのに……ずるいなぁ、もぅ。


 お弁当箱とレジャーシートを片付けて学校へ向かう。

 平静を装っているつもりだけど、心臓のドキドキが止まらない

 顔のニヤニヤが収まらない……これはちょっとまずいかも。


 「香奈ぁ、遅いよ~、もうすぐ先生来ちゃうよ。」


 教室に入ると隣の席の美鈴が声をかけてくる。


 「まったく、イチャついてるのもいいけど、時間忘れないでよね。ごまかすのも大変なんだから。」


 怒った顔をする美鈴だけど、それが彼女なりの照れ隠しだとわかっている。


 「で?」


 「でって?」


 「だから、今日のお弁当の感想!新作にチャレンジしたんでしょ?にぃにの反応はどうだったかって聞いてるの。……どうせ、美味しいよなんて言われて、浮かれすぎて遅れたんだろうけどっ!」


 ……私がお弁当作るって言ってもいらないって言うくせに…などと美鈴はブツブツ言っている。


 「あ、そういえばお弁当の感想聞いてない……それどころじゃなかったし。」


 「それどころじゃないって、何かあったの?」


 少し心配そうに美鈴が聞いてくる。普段文句が多かったり怒ったりしてるが基本優しい子なのだ。そんなところはお兄さんとそっくりなどと思ってついニヤけてしまう。


 「ウン、告白された。」


 なんでもないかのように平然と答えてみせる。心臓がドキドキしてるのバレないよね?


 「あ、そう、告白……って、えぇー!!」


 いきなり美鈴が大声を上げる。


 「ちょ、ちょっと美鈴、声が大きい。周り、周り見て。」


 教室内を見回すと、何事が起きたかとみんなの注目を集めてる。


 「ゴメ、いきなりだからびっくりしちゃって、それより告白ってにぃにだよね?」


 周りに何でもないと声をかけ、小声で聞いてくる。


 「星野、廊下まで声が響いてるぞ!」


 ちょうどいいタイミングで先生が入ってきたので、美鈴もそれ以上の追及をあきらめ席に着く。


 次の休み時間質問攻めにあうよね。まだ返事してないって言ったら怒るかなぁ。美鈴はおにぃちゃん大好きっ娘だからねぇ。


 私がいつもお昼を一緒に食べている相手、彼方センパイは、実は美鈴の実のお兄さんだったりする。


 だけど、私と美鈴が親友ともいうべき間柄ってことを彼方センパイは知らない。

 頭良いのに周りの事気にしないんだよね、彼方センパイは。



 私と美鈴は同じ中学出身だ。


 私は中学の時は不登校気味の生徒だった。

 別にいじめられていたとかではないけど、周りと馴染むことが出来ない子供だった。

 だから友達なんて一人もいなかった。友達もいないから学校は面白くもなく休みがちで、そんなんだから友達もできないという悪循環に陥っていた。


 そんな中学生活に変化を与えたのがUSOというネットワークゲームだったりする。

 暇を持て余していた時、あるサイトで見つけたのをきっかけに始めてから5年以上になる。


 ゲームの攻略とか興味なかったけど、キャラクターが可愛いのがお気に入りだった。

 色々な装備で見た目が変わることを知ってから、とにかく可愛くするためにアイテムを集めていた。


 お人形さんごっこみたいなものだった。だけど、それも長くは続かなかった。

 見た目に大きな変化を与える装備は、ほとんどがレアアイテムと呼ばれるもので、課金アイテムだったりボスドロップだったりと簡単に手に入るものではなく、無課金でちょっと遊んでいる中学生にとってはとてもじゃないが手が届くものではなかった。


 結局手に入らないのなら意味がないと、遊ばなくなるのも当然だった。


 中学2年の時、美鈴がいきなり家を訪ねてきた。

 委員長だから来たくないけどプリントを持ってきたって事らしい。

 当時は、なんだコイツ?と思っていたけど、今ならそれが美鈴なりの照れ隠しだってことがわかる。


 美鈴はあまり学校に来ないクラスメイト=私のことを心配していたのでプリントを届けることを口実に様子を見に来たらしい。


 当時の私にとってはウザったいだけだったけど、USOのパッケージを見た美鈴が「私もやったことがある」といったことから、それなりに話が盛り上がった。


 だからと言って、私の生活が激変するわけでもなく、相変わらず学校に行ったり休んだりを繰り返す毎日だったが、学校に行ったときには美鈴が必ず声をかけてきて、小言を言いながら世話を焼いてくれるようになった。学校に行く日数が増えたのも美鈴のおかげだと思う。


 美鈴とはそれなりに仲良くはなっていたものの、一緒に遊びに出かけたりすることもない程度の関係だった。


 しかし春休みに入った頃、いつものように訪ねて来た美鈴と大喧嘩した。


 きっかけはよく覚えていないが、美鈴のおにぃちゃんの話になり、悔しくなった私はUSOで仲良くなった彼方センパイ―当時は彼方センパイだってことは知らなかった―レイにぃについての自慢をしているうちにエキサイトし、どっちの兄が自慢のおにぃちゃんか?ということを一晩中言い争っていた。

 

 翌朝冷静になった美鈴が、騒がしくしてゴメンナサイと謝っていたが、パパとママは私にお泊りするぐらいの友達が出来たと喜んでいた。


 結局どちらの兄が素敵か?(同一人物だったのだが)に結論は出なかったもののお互いに言いたいことを言い合ったためか美鈴との仲は深まっていった。


 学校は相変わらず好きになれなかったけど、美鈴と一緒に卒業したいと思えるぐらいには前むきになれたと思う。


 3年生になり、進路を決める一環で体験入学に行くことになった。


 私はどこでもいいと思っていたのだが、美鈴は瑞龍学園に行きたいと言った。


 県下一の名門校で、私ではとてもじゃないが入れない、それなりに成績のいい美鈴でもちょっと厳しいと言われていた。


 何でも、美鈴のお兄さんが通っていた学校で、自分じゃ入学ムリだけど、体験入学でもいいから行ってみたいんだそうだ。

 ほんとに、どこまでおにぃちゃん大好きっ娘なんだろうね。


 しかし、体験入学の後、美鈴より私の方が瑞龍学園に固執することになり、ムリだと言われながらも頑張って結果を出し、今ここにいる。

 ちなみに私のそばで一番無理だと言い続けたのは美鈴だったが、自分でも無理と言いながら一緒に受験することになった。

 美鈴に言わせると私一人で瑞龍学園に通わせるのは心配だからと言うことらしい。



 彼方センパイと初めてオフ会であったのは夏頃だった。

 彼方センパイのおかげで今楽しく学校生活を過ごせていることを伝えたくて、学校に連れてきた。


 最初は感謝の気持ちだったはずなんだけど、学校で色々お話をしたとき、今まで形のなかったレイにぃという存在が彼方センパイという形あるものに変わった時、私の中でモヤモヤしていたのが「好き」という気持ちだということに気付いた。


 ただ、彼方センパイの事が好きなんだという自分の気持ちに気付いたショックで、彼方センパイの名字と美鈴の名字が同じことにまで気が回らなかったのは仕方がないと思うの。



 彼方センパイが就職してから、近くの公園で一緒にお昼を食べることが多くなった。


 学校を抜け出してのお昼は少しスリルがあって楽しかった。


 「香奈、昨日お昼どこ行ってたの?」


 「えっと、屋上、そう天気が良かったから屋上に行ってた。」


 「へぇー、じゃぁ私が屋上行った時誰もいなかったけどすれ違ったのかな?後、守衛さんが香奈らしき人物が外に出てくのを見たって問題になってるよ。」


 私が学校を抜け出していることは美鈴にはすぐバレた。今まで一緒にお昼を食べていたのに急に一緒しなくなったら、バレるよね?


 守衛さんや先生には、美鈴が一緒にいたと言ってくれたようで大きな問題にはならなかったようだ。


 「まったく、抜けだすなら裏門を使いなさいよ。あそこは鍵が掛かっているように見えて、実は掛ってないって、にぃにが言ってたから。」


 「そうなんだ、ありがとう。」


 お兄さんにもお礼と言いかけて、美鈴の名字と彼方センパイの名字が同じだということを思い出す。


 彼方センパイから妹の話題が出たことはなかったけど…


 「そういえば美鈴のお兄さんの名前って、ひょっとして彼方っていうんじゃ・・・」


 途中まで言いかけて口ごもる。美鈴がにらんでいた。その目は、あなたもなのと言っているようだった。


 彼方センパイは在学中かなりの優等生だったようだ。先生方からもいまだに話題に上ることがある。

 その為、妹である美鈴は事ある毎に先生に引き合いに出されたり、先輩方から紹介してほしいと言われたりして困っていたのを見てきた。傍から見れば彼方センパイはかなりの優良物件らしい。


 しかし、彼方センパイから内情を聞いてきた私からしてみると、今まで美鈴のお兄さんと彼方センパイが結びつかなかった。周りが見えていないのは私も一緒だ。彼方センパイの事は言えないなと、深く反省する。


 「いえ、そういうことじゃなくて・・・」


とりあえず美鈴に言い訳する。


 「私がUSOでお世話になっているレイにぃの事知ってるよね?」


 「うん」


 いきなり何を言い出すんだというような顔で美鈴がうなずく。


 「でね、美鈴には言いそびれてたけど、去年の夏頃オフ会で実際にあったんだ」


 「え、何、その人と付き合ってるってこと?」


 さっきまでの険しい目つきは消え、興味津々という感じで聞いてくる美鈴……お兄さんの事はもういいのかな?結構単純だよねぇ。


 「付き合ってるってわけでもないけど、それからよく会ったりしてる。」


 「それでそれで?あ、ひょっとしてお昼に合ってるのってその人?」


 今度紹介してよと美鈴が言う…美鈴も他の子たちと一緒で恋バナが好きなんだねぇ。

 でも紹介はどうしようかな?と思いつつ話を続ける・・・・・・。


 「鋭い。そう、その人の職場が近くで、いつもそこの公園でお昼食べてるって聞いたから・・・・・・ね。」


 「えー、お昼の逢引き。秘密の密会。ロマンチックだ~応援するよー。」


 「本当に応援してくれる?」


 私はズルい、切り札を隠して言質を取ろうとしている。

 でも、美鈴とこれからも仲良くしていくためには仕方がない。美鈴はお兄ちゃん大好きっ娘なんだから。


 「もちろん応援するよー、で、どんな人なの?」


 よし言質は取った。後は爆弾を落とすだけ……美鈴にとって特大の爆弾……ごめんね。


 「うん、実は瑞学のOBでね・・・私は彼方センパイって呼んでる。星野彼方さん。」


 彼方センパイの名前を出した途端、美鈴が固まった・・・・・・おーい、大丈夫ー?


 「・・・・・・じゃぁ、香奈はにぃにと付き合ってるってわけね。」


 美鈴が再起動するまでしばらくの時間を要したが、復活するなりそう聞いてきた。


 「付き合っていないよ。告白もしてないしされてないし・・・・・・」


 「デートとかもしてないの?」


 「休みの日とか、一緒に出掛けたりもするけど、デートとは言ってないよね。後、お夕飯作ってあげたり、そのまま泊まっていったこともあったけど……。」


 「と、泊まったぁ?あなたたちどこまで……」


 「あ、泊まったって言っても何もしてないよ。ちょうどイベントがあって徹夜でUSOやってただけだから・・・・・・」


 「はぁ・・・お弁当を作ってあげて、休日は一緒に過ごし、夕飯も作ってあげた上で泊ったこともある。それでも付き合ってないっていうわけ?」


 美鈴がなぜか尋問口調になる……うぅ、怖いよぉ


 「ウン、付き合っていない・・・とおもう。」


 「話だけ聞けば、どう見ても恋人同士にしか見えない付き合い方だけどねぇ」


 にぃにのヘタレ・・・・・・と美鈴がつぶやいているが、彼方センパイのためにも聞こえなかった振りをしよう。


 「で、香奈の方はどうなの?にぃにのこと好きなの?」


 「ウン、好きなんだと思う……一緒にいると楽しいし、会えないときはちょっと寂しい……」


 「はぁ・・・・・・」


 美鈴が大きなため息をつく。やっぱりお兄さんに近づく女は排除!なのかなぁ・・・・・・


 「う~ん、香奈ならいっか。応援するって言ったしね。」


 ため息の後美鈴が思い切ったようにそう言ってくれた。


 「香奈、頑張りなさいよ。基本ヘタレだから、にぃにから告白してくることは無いからね。香奈の方からアタックしなきゃ何も進まないからね。」 


 ヘタレって、あまり彼方センパイの事悪く言わないでほしいなぁ。



 あれから1年半・・・・・・まさか彼方センパイが告白してくれるなんて・・・・・・・どうしよう、ドキドキ、ニヤニヤが止まらないよぉ。


 「香奈、顔ニヤけ過ぎ!」


 気づいたら美鈴が目の前にいた。いつの間にか授業が終わっていたらしい。


 「詳しい話、聞かせてくれるよね?」


 これは逃げられない。美鈴の目が怖いよぉ。




 「でね、ゲームの話から、なぜか私の話になって、そのまま告白されたの。でも返事をする前にチャイムが鳴って、返事は今度でいいからって、戻って行っちゃった。」


 「・・・・・・はぁ、にぃにらしいというか相変わらずだぁね。」


 あれから近くのハンバーガショップで美鈴に、今日のお昼の顛末を話したところ、ため息ととも呆れられていた。私に呆れてるというより彼方センパイに対して・・・・・・のようだけど。


 「いい、香奈、よく聞きなさいよ。まずにぃには香奈に振られると思っている。」


 「えっ、どうして??」


 びっくりだ、私の答えはYesしかないのに。


 「だって、その場で返事しなかったんでしょ?」


 「・・・ウン、でもそれはいきなりでびっくりして心の準備がというか……」


 「たぶんね、にぃには告白するつもりなかったんだよ。」


 「えっ、じゃぁ、なんで?」


 「はぁ・・・・・・にぃにはよっぽど香奈の事が好きなんだねぇ。たぶん気持ちがあふれて勢い余っての告白だったと思うよ。」


 美鈴の言葉に、思わず顔が赤くなる。嬉しいなぁ。


 「でね、告白したものの空白の時間があったことで、にぃにも冷静になってドン引きされてるって思たんじゃないかな?」


 「え、なんでそうなるの?私引いてないよ?嬉しくて言葉が出てこなかっただけで」


 「にぃにの悪い癖でね、スイッチが入ると周りの事お構いなしで語りだすの。それでよくドン引きされてたわー。今までにそゆ事なかった?」


 ……思い返してみれば、語りだすことはよくあった。


 「けど、私は聞いていて楽しかったよ?」


 「香奈のそういうところが良かったんだろうね。にぃにも、香奈なら引かずに聞いてくれるってのが嬉しかったんじゃないかな?

 でも、今回はそれが裏目に出た。普段引かない香奈でさえ引くようなことを自分は言ったと思い込んでいるね、絶対。」


 「えーそんなー。」


 なんで?告白されて嬉しいのに、なんでこんな展開になってるの?わかんないよぉ。


 「いい、香奈。ここからが大事。にぃには、明日会ったら、絶対ごまかしてくるよ。たぶん、香奈が返事をする前に、昨日言ったことは冗談でからかってみただけーみたいな事言ってくるはず。」


 「えーなんでそうなるの?」


 嬉しかったはずなのにもう泣きそうだよ。


 「だからね、明日にぃにを見たら、何か言われる前に返事をしなきゃダメ。もう、いきなり抱き着いて好きを連呼するだけでもいいからね。絶対だからね。」


 美鈴が言うんだから間違いないだろうけど、そんな誤解されているなら、今からメールか電話で誤解を解いておいた方がいいんじゃないかなぁ?


 美鈴に思ったことを伝えてみる。


 「あーダメ、きっとにぃには今頃電源切ってると思う。嫌なことは後回しにするタイプだからね。」


 そんなことないでしょ、と電話をかけてみるが、電源が入っていないとのアナウンス。

 

 「美鈴はよくわかってるんだね。」


 「まぁ、兄妹だし。ずっと見てきたから・・・・・・」


 いいところも悪いところもねと美鈴は言う。なんか羨ましいなぁ。


 「とにかく、香奈は明日にぃにが言い訳する前に返事をすること。わかった?」


 「イエッサー、ボス!」


 おどけて敬礼のまねごとをしてみる。


 楽しいなぁ、嬉しいなぁ。明日はもっと楽しくなるんだろうと、この時の私は信じて疑わなかった。



 次の日、授業中に家族からの緊急の連絡ということで美鈴が呼び出された。

 戻ってきた美鈴は顔面蒼白だった。


 「美鈴、何があったの、しっかりして。」


 美鈴に声をかける。


 「にぃにが……帰らなきゃ……」


 美鈴がつぶやいてるがかすれてよく聞こえない。


 「お兄さんが事故にあわれたそうだ。星野は早退する。門に迎えが来るそうだ。水上、悪いが手伝ってやってくれ。」


 先生がそう言ってくる。

 

 今、先生なんて言った?お兄さんが事故?お兄さんて彼方センパイの事?なんで?なんで?どうして?



 それからの事はよく覚えていない。美鈴の帰り支度を手伝って門のところまで付き添ったと思う。そしてそのままいつもの公園で彼方センパイを待っていた気がする。


 

 美鈴と会ったのは三日後の彼方センパイの葬儀の日だった。


 私も斎場まで行ったけど、どうしても中に入ることが出来ずに、結局いつもの公園のベンチでぼーっとしていた。


 彼方センパイがいなくなるなんて、信じられない、信じたくない。でも、彼方センパイは二度とここへは来ない。


 葬儀の後、美鈴は何も言わずに私の隣に来て座っていた。私も何も言わなかった。


 「おにぃちゃんね。走ってくるトラックに向かって飛び出したんだって。」


 何時間ボーとしていたのだろうか?あたりが暗くなる頃に美鈴がそうつぶやいた。

 そして、帰るねと言って美鈴は去っていった。


 私は何を言われたのか理解できなかった。


 一晩中そうしていて、夜が明ける頃にやっと「彼方センパイは自殺だった」と言われたことに気付いた。


 なんで、どうして自殺なんて・・・・・・私が返事をするのが遅れたから?


 「ずるいよ、彼方センパィ……私まだ返事してないのにぃ……・好きって言ってないのにぃ……、言い逃げするなんてズルいよぉ……」


 涙があふれて何も見えなくなる。私はただ泣きじゃくることしかできなかった。




 「香奈ぁ、今日もすぐ帰るの?」


 「うん、帰って勉強しないと……テスト近いからね」


 「香奈の口からテストなんて言葉聞ける日が来るとは思わなかったよ」


 「赤点取ると彼方センパイに怒られるから」


 「…うん、そうだね。おにぃちゃん勉強に関しては厳しかったよね」 


 彼方センパイが姿を消してから一ヶ月が過ぎたころ、美鈴ともようやく普通に話せるようになってきた。


 ただ、美鈴は彼方センパイの事を話すとき、いつもの「にぃに」ではなく「おにぃちゃん」と呼ぶようになった。まだ、美鈴の中でも整理がついていないのだろう。


 ふと、「おにぃちゃんと呼ばれると実妹と混同するからやめてくれ」と彼方センパイに言われたことを思い出す。…あれはいつ言われたんだっけ?



 三か月が過ぎた。


 彼方センパイの事故の原因はまだ警察が調べている。


 公式見解としては、彼方センパイの自殺ということで落ち着きそうな感じではあるが、事故現場の目撃証言の中に、センパイが飛び出す前に「危ない」って叫んでいるのを聞いた人が多数いた事や、事故の後、トラックが消えていたことなど不審な点が多いことから、何かの事件に巻き込まれた可能性も否定できないらしい。


 不思議なことはまだあった。


 葬儀の後、美鈴に1台のノートパソコンを渡された。彼方センパイが使ってたものらしい。形見としてどうぞ……と。


 中には私とのメッセージのやり取りや、写真なんかがたくさん残されていて、見るたびに涙があふれて、すぐ電源を落として封印した。


 事故の原因に不審なことが多いと聞いた時、私の中で、何かが引っかかった。

 だけどそれが何なのか、形にならないモヤモヤが心を占めていた。


 ある日、本屋で「異世界転生フェア」と書かれたのぼりを見かけたとき、何が引っかかっていたのか分かったような気がした。


 そう「異世界転生」だ。異世界転生の定義は「現実世界での突然死」と「異世界での生まれ変わり」だ。


 彼方センパイが話してくれた「異世界転生」というサイト。


 センパイはゲームって言っていたけど、誰もゲームなんて言っていない。紹介した……ミ……あれ?誰だっけ?

 誰かからの依頼で受けたクエストの後、センパイはその人からサイトを教えてもらったっていってた。私も一緒にクエストしたのは覚えてる。……でも、誰?名前が出てこない。


 家に帰って、封印したセンパイのパソコンを立ち上げる。


 彼方センパイ…ううんレイにぃはクエストのログやスクショをいつも残していた。


 リアルで会うようになってから、見せてもらいながらその時の話を何度も聞いたことがある。


 ログを見れば忘れたキャラクターの名前があるかもしれない。

 そう思って探してみたのだけど残っていなかった。

 レイにぃが残し忘れたんじゃなく、その部分が不自然に消されていた。



 確かにいたはずなのに思い出せない謎のキャラクター。

 消されたログ

 異世界転生の意味

 異世界転生というサイトで登録した後の突然死。

 死の状況にまつわる不信な状況。


 これらは偶然?いや違う、あまりにも不自然すぎるよ。

 たかがゲームの話、ちょっと不審と言われてるけどただの事故。

 そういわれると、ただそれだけの話かもしれない。

 でも私の中で何かが引っかかる。


 私に何ができるかわからないけど、私が納得するまであきらめない。


 私があきらめない間は彼方センパイがどこかに存在していると信じて行動しよう。


 やる前からあきらめちゃダメだよね。彼方センパイが教えてくれたんだよ。

 

だから・・・・・・必ず見つけるから、待っててね、センパイ。



 

全然異世界が出てこなくてごめんなさい。

現実世界のヒロイン香奈美とはここで一旦お別れです。

次回、ようやく異世界転生です。

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