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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
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ネコ耳少女の事情

 「ネコ耳!」

俺達を追っていた謎の人影……その正体はネコ耳少女だった。

「リィズ、とりあえず手を緩めてやってくれ……痛そうだ。」

 傍から見れば、幼気な幼女を苛めているようにしか見えないので、そう言っておく。

 

 リィズが拘束を解くと、少女はリィズの方を向き直り……ビックリした顔になった。

 「お姉さんの耳無くなった……。」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 モフモフ……モフモフ……ギュっ!……モフモフ……モフモフ……

 「あのぉ……ミリィさん?そろそろ話を……。」

 「ダメ!……モフモフ……。」

 

 あれから、ミリィ達と連絡を取り、少女から詳しい話を聞くために、宿屋に連れてきたのだが……。

 「可愛ぃ……。」

 ギュっ!

 モフモフ……モフモフ……。

 

 少女を見たミリィがずっとこの調子なのである。

 ちなみにずっと抱きしめられている少女と言えば……。

 「もぐもぐ……。」

 ミリィにもらったビーフジャーキーをひたすら食べていた。


 「ミリィさん?……そろそろ交代……。」

 「ダメっ!」

 「にぃに、何くだらないこと言ってるっすか!」

 しまった、つい本音が……。


 「ねぇね、抱いてていいっすから、話をさせるっす。」

 リィズは戻ってからずっとご機嫌斜めだった。

 ちなみにソラはというと……。

 「フーッ!」

 ……威嚇していた。


 「ソラも、ちょっと落ち着くっす!」

 リィズがソラを宥めている。

 

 「まず名前を教えて欲しいっす。」

 「もぐもぐ……みーな……もぐもぐ……。」

 「ミーナっすか、いい名前っすね。」


 モフモフ……もぐもぐ……モフモフ……もぐもぐ……

 ひたすらビーフジャーキーを食べ続けている少女をモフモフしている妙齢のお姉さん……シュールだ。

 リィズもこめかみを抑えながら、質問を続ける。

 「ミーナ、どうしてワタシ達を追ってきたっす?」

 「お姉さん耳あった……今ない……どうして?」


 どうやら、ミーナはエアリーゼの力でネコ耳姿になったリィズを見て、仲間だと思ってついてきたらしい。

 さらに話を聞いてみると、ミーナは迷子になっていたところを奴隷商に捕まり、売られるところだったらしい。

 昼間、リィズが助けた馬車は奴隷商の馬車だったようだ。

 盗賊の襲撃のどさくさにまぎれて、結構な奴隷たちが逃げ出し、ミーナもそれに紛れていたというわけだ。

 しかし、逃げ出したはいいものの、ここが何処かも分からず、途方に暮れていた時にリィズを見た。

 ネコ耳がついているお姉さん。ついて行けば仲間たちの所へ連れて行ってくれるかもしれない。

 そう思って後を追いかけてきて……今に至るというわけだ。


 ……モフモフ……モフモフ……

 ミリィがずっと独り占めしている……俺もモフりたい……。

 よし、ここは自然にミーナをミリィから引き離して……。

 「あのぉ、ミリィさん?ミーナも疲れているだろうし……そろそろ放してあげては?」

 「んー……ミーナちゃん。お姉さんから離れたい?」

 そう言って、ミーナにビーフジャーキーを見せる。

 「んーん、ココがいい!」

 ミーナの眼はビーフジャーキーに釘付けだ。

 「そうよねー。」

 よくできました、とビーフジャーキーをミーナに差し出す。

 ミーナは受け取ったビーフジャーキーに齧り付く。

 そんなミーナを見て、ミリィはまたギュっとモフモフを繰り返すのであった……。


 チクショウ!餌付けなんて卑怯じゃないか!


 ちなみに、そんな俺達のやり取りを、リィズは冷たい目で見ている。

 ソラはまだ威嚇している。


 仕方がないじゃないか……モフモフしたいんだよ。

 結局その夜はミリィがミーナを抱きしめたまま、リィズとソラがそのそばで寝て、俺の隣には誰も来なかった……。



 「みんな、聞いてくれ。」

 翌朝、俺は昨晩から考えていたことを告げる事にする。

 「ミーナを故郷に、それが難しければ、せめて仲間達のいるところへ送って行ってやろうと思うんだが?」


 「いいですね、是非そうしましょう。」

 俺の言葉を聞いたミリィは、すぐに賛成の意を示す。

 横ではミーナがモグモグしている。


 「また、何で急にそんな事言い出すっすか?」

 「リィズは反対か?」

 「反対って訳では無いっすが。」

 「いいか?ミーナは今一人っきりで寂しい思いを抱えているに違いない。」

 「・・・・・・そうっすかね?」

 リィズがチラリとミーナを見る。

 ミーナはお代わりをもらってモグモグしている。

 

 「・・・・・・ミーナの故郷にはたくさんのモフモフが待っているんだよ!」

 きっと故郷には心配している家族や仲間達がいるに違いない。


 「・・・・・・それが本音っすか!」

 ・・・・・・しまった!本音と建前を間違えてしまった。

 「フーッ!」

 俺がつい口を滑らしてしまったら、ソラがまた威嚇しだした。


 「どうどう・・・・・・ソラ落ち着くっす。」

 「・・・・・・・・・ソラは昨日からどうしたんだ?」

 「・・・・・・居場所を取られるんじゃないかと心配しているんすよ。」

 「何をバカな事を・・・・・・。」

 ソラの居場所が無くなるなんて事あるわけが無いだろうに。


 「・・・・・・あれをみても、同じ事言えるっすか?」

 リィズが呆れたように、ミリィを指差す。

 ミリィはモグモグしているミーナをギュッとしている。


 「まぁ、取り敢えずミーナを送っていこう。」

 「それはいいっすが、場所とか分かるんすか?」

 リィズに言われて、気づく……そういえばケモミミ少女なんて、ミーナが初めてだ。


 「ひょっとして……この世界ってケモミミ少女って珍しいのか?」

 「ケモミミって……なんすかそれは?」

 獣人はこのあたりでは見かけないっすね、とリィズは言う。

 「にぃにも、変なところで世間に疎いっすから……。」

 

 リィズの話によれば、300年ほど前に亜人戦争と呼ばれる、人間族と、獣人族・魔族を中心とした「亜人族」との間で大規模な戦争があったらしい。

 個々の能力では勝る亜人族ではあるが、人間族の数の暴力には敵わず、戦争は泥沼化していったらしい。

 この戦争で、各地の生産力が疲弊した事、各々の人口が激減した事、精霊が見限り始めた事などの理由に両者の間で話し合いが行われ、むやみに、互いのテリトリーを侵さないことなどの協定が結ばれ戦争は終結した。


 「それでも、ここ50年ぐらい前からそれなりに交流が再開したらしいっす。隣のリンガード共和国では獣人と人間が一緒に暮らしてることもあるらしいっすよ。」

 ただ、このアルガード王国では……とリィズが言いにくそうにしている。

 「何だ?この国ではまだ偏見が強いのか?」

 「いえ、そう言う事はないっす。領地によって様々っすが、偏見持っている人たちなんて少数派っす。ただ……今いるマイアス領ではあまり聞かないっすが、獣人を捕らえて奴隷にすることを推奨している領地があるらしいっす。」

 だから、獣人たちがこの国に近寄ることはあまりないそうだ。


 「そう言う事か……だから見かけないんだな。」

 「そう言う事っす。ミーナを送り届けるなら、誤解を受けないように細心の注意が必要っすよ!」


 「……よし、リンガード共和国に行こう!」

 「えっ?」

 なぜそうなるっすか?とリィズが聞いてくる。

 「リンガイアなら、獣人が一杯いるんだろ?」

 「それはそうっすが……。」

 「だったらモフりたい放題……じゃない、ミーナの事を知っている人もいるんじゃないか?」

 「……何やら本音が聞こえた気もするっすが……確かにそうっすね。この国よりは情報が集まりやすいかもっす。」


 「うー、おにぃちゃん、獣人の国へ行くの?」

 ソラが聞いてくるが……。

 「よく聞いてくれ、ソラ。男にはやらなきゃいけない時があるんだ。ミーナ独りぼっちは可哀そうだろ?」

 「ぶぅー……確かに独りぼっちは……でも……ぶぅ……。」

 ソラの中で中々折り合いがつかないらしい……。とりあえずはそっとしておこう。


 (なんだかんだと、理由つけてるけど、アンタただ、ケモミミをモフりたいだけだよね?)

 エアリーゼがそんな事を言ってくる。

 いきなり出てきて、なんてことを言うんだ、コイツは!

 「……何のことかな?」

 こういう場合はとぼけておくに限る。

 「……。」

 リィズの視線が冷たいが、気づかないふりをするんだ……。


 「とにかくだ、ミーナを仲間の元へ送り届ける。これは決定でいいな?」

 「まぁ、いいっすけどね。……でも、領都までもうすぐですよ。ここで引き返すっすか?」

 聖女に会わなくていいんすか?……とリィズが聞いてくるが……。

 「バカッ!聖女より、孤独に打ち震えて、淋しがっている少女の不安を取り除くことの方が最優先だろ!聖女様も、きっとそう言うはずだ!」

 「淋しがってる……っすか?」

 リィズがミーナを見る。

 もぐもぐ……。

 ひたすら食べているミーナが視界に入る……。

 「まぁ、にぃにがいいなら、いいっすけど。」


 そうと決まれば早速行くぞ!

 「まずはミスル鉱山まで転移で戻って、そこからカシミアの街まで戻ろう。そして、ギルドを通して隣国へ渡る。」


 「仕方がないっすね。」

 とリィズが苦笑いする。

 「フーッ!」

 ソラが威嚇する。

 「良かったね。おうちに帰れるよ。」

 とミリィがミーナに話かける。

 「モグモグ・・・・・・うん・・・・・・モグモグ・・・・・・。」

 食べながらも嬉しそうに頷くミーナ。


 さて、待ってろよ!

 リンガイアでは絶対にモフってやるからな!

 俺は、決意を新たに、まだ見ぬリンガード共和国に思いを馳せるのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「姫様、お茶が入りました。」

 しなやかな体つきの女性が私に声をかける。

 「姫様なんてかしこまらないでよ。二人の時はナミで良いって言ってるでしょ。」

 そう言って私はメイド服を着た女性……リーンに応える。

 「アハッ、でも、姫様のお付きってことで、この身を守っているのも事実ですからね。隙を見せないようにしませんと……。」

 誰が、どこで聞いているかわかりませんから……とリーンは言う。

 もぅ……リーンは堅いんだから……。


 「そういうこと言う子は……こうです!」

 私はリーンのお尻に手を伸ばす。

 「あ、ちょっと……姫さまっ……ヤン……そこ、ダメェ……。」

 「ええんか、ココがええんかっ!」

 私は毛深いソレを撫でまわす。

 「アッ、ダメェ、……ダメですってば……アン、イヤっ……イヤっ……ダメェーーーー……。」

 私はひとしきり撫で回して満足する。

 「ふぅ……ダメね。止める人がいないとついつい……。」

 「はぁ、はぁ……ついついじゃないですよぉ……尻尾はダメって言ってるじゃないですかぁ。」

 リーンが恨めしそうな目で訴える。

 「アハハ……ゴメンねぇ……リーンが可愛いのがいけないのよぉ。」


 リーンは見ての通り、猫科の獣人だ。

 その可愛いミミや尻尾をモフるのが、最近の私の密かな楽しみだったりする。

 特に尻尾をモフった時のリーンの反応が可愛くて、ついついやりすぎてしまうのだ。

 

 「ところで、何か新しい情報はあったの?」

 「えぇ、やはり先日、郊外で襲われた奴隷商人が獣人を扱っていたのは間違いないようです。逃げ出した者たち数名から話を聞くことが出来ました。」

 乱れた衣服を直しつつ、リーンが報告してくれる。

 「その商人の処分は領主様に任せるとして……商品になっていた獣人たちは無事なのかしら。」

 「盗賊団に襲われたタイミングで、大半の者が逃げ出したそうですが、その後の行方までは……。」

 「そう……出来る限り保護するように手配するわ。」

 ありがとうございます……とリーンは言うが、お礼を言われるほどの事じゃない。

 「それで、一つ気になる報告がありまして……捕まっていた者の中に「ミーナ」がいたらしいのです。」

 出来るだけ平静を装うようにリーンが言うが、隠しきれていない。声が震えている。

 「ミーナって、あなたが探していた妹?」

 「そうです……やっと、やっと手掛かりが見つかりました。」

 リーンが声を押し殺している。

 無理もない、リーンは突然行方不明になった妹をずっと探していたのだ。


 「本当に……よかったね。それで保護はされたのかしら?」

 「それが……馬車から逃げ出す所までは証言があるのですが、その後の行方についてはさっぱり……。」

 「そう……何か、近郊で目撃証言とかないのかしら?」

 「私もそう思いまして、手当たり次第情報を集めたのですが……。」

 「あまり芳しくなかったのね。」

 「えぇ、一応ガリアの街で見かけたかも?というような曖昧な証言はあったのですが……。」

 「今はその証言に頼るしかないわね。……ガリアの街にいたのなら領都へ来る可能性も高いわ。ミーナの捜索を優先するように指示を出してちょうだい。」

 ガリアから何処かに出ようと思ったら、領都まで来た方が何かと便利なのだ。

 ガリア―領都の街道を張っておけば見つかる可能性も高いだろう。


 「姫様……ありがとうございます。」

 「お礼なんて水臭いわ。リーナの為だもん、当然でしょ。……どうしても気が済まないというなら、ミーナちゃんが見つかった時、ミミをモフらせてくれればいいわ。」

 「……クスッ。そうですね、ミーナに聞いてみますね。」

 リーンに笑顔が戻ってきた。

 

 大丈夫、リーンとミーナは必ず再会できる……私のカンが告げているからね。

 

 

事情も何もありませんでした……。

領都目前で隣国に行くことに……。

欲望の赴くままに行動した結果、周りが振り回されることに……よくあることですね。


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