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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
32/153

精霊の森へ

 「精霊の森」

 それは、ミンディアの街の東に位置する、深い森の名称だ。

 森の中、奥深くまで進むと開けた場所があり、そこには『精霊樹』と呼ばれる古木がそびえたっていると言われている。

 精霊樹の根元には清らかな水を湛えた泉があり、その水は万能薬の素にもなるという。

 精霊樹の下で祈りを捧げると、古の精霊王が現れ願い事を叶えてくれるという伝説も残っている。

 ただ、精霊の森に足を踏み入れ、精霊樹のもとにたどり着けた者は殆どいないと言われ、どこまでが真実を伝えているのか、誰もわからないというのが現状ではあるが。


 俺達は今、その精霊樹のもとに向かうべく、精霊の森を目指して移動している。

 事の起こりは、例によってレイファの『神託』からだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「精霊の森?そこに行けと?」

 俺はレイファに聞き返す。

 「えぇ、今朝方ミルファース様より『神託』が降りました。例によってイメージだけですが、『封印』『解呪』『精霊の森』『新たなる道標』と……。」

  レイファの受けたイメージから推測するに、俺の封印を解呪する方法が精霊の森にあるんだろう。


 「じゃぁ、早速出発するか。」

 実は、祭りのステージの後から、ソラ達の人気が凄いことになっていて、下手に街中を歩けなくなっていたので、ちょうどいいタイミングだ。

 

 「あの……レイフォードさん、お願いがあるのですが……。」

 私も一緒に行っていいでしょうか?とレイファが言う。


 なんでも、新しくレイファのファンになった人たちが教会の周りに群がり『レイファちゃんを孫の嫁にし隊』のジジィ連中との小競り合いが絶えないそうだ。

 だからしばらく街を離れれば落ち着くのではないかと思ったそうだ。


 「一緒に来るのは構わないが……。」

 なんとなくミリィたちの方を見る。

 「背中しか空いてないっすよ?」

 リィズがレイファに向かっていう。

 ……リィズは何を言ってるんだ?


 「にぃにの右側はねぇね。左側は私、膝の上がソラっす。だから空いてるのは背中だけっす。」

 それでもいいなら……とリィズが言う。

 ……何を言ってるんだ。

 ……というより、いつの間に、そんな事決まったのだろう……。

 ……うん、深く考えたらダメだな。スルーしておこう。


 俺が考え事をしている間にレイファの同行が決定したようだ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 パチッ、パチッ……。

 火がはじける音がする。

 俺の膝を枕にソラが丸まって寝ている……。

 左右にはリィズとミリィが寄り添って寝ている。

 レイファは、ちょっと離れたところで横になっている。

 遠くの方で木々の騒めき……風で葉が揺れる音……が微かに聞こえる。

 昼間の喧騒がウソのような静けさだ……。


 俺達は、精霊の森に足を踏み入れたところで野営をすることにした。

 精霊樹の場所は、かなり奥まった所にあるらしいから無理をするのは良くない。

 「……精霊樹にたどり着くのはいつになるかわからないっすね。」

 俺の左側で寄り添っていたリィズがつぶやく。


 「何だ、起きてたのか?」

 「起きてるっすよ。にぃにかこっそり抜け出さないか、見張ってるっす。」

 「抜け出すって……人聞きの悪い……。」

 そんなことするわけがない。こいつらを置いて一人で……なんて……。

 「夜、月明かりの下でしか咲かない花があるって言っても、どこにも行かないっすか?」

 ……少しだけなら……行っても……。

 「……い、行くわけないだろ……たぶん。」

 「今、間があったっすよ!」

 しょうがないっすね……とリィズがつぶやく。

 「採集に行くなら、誰かを誘って行ってほしいっす。一人で行動するのはやめてほしいっす。」

 夜は危ないっす……とリィズは言う。

 「にぃにとねぇねの採集にかける情熱はもう十分理解してるっすから、この森に入った時から覚悟はしてたっす。ただ、夜は危険が一杯だから一人での行動は避けてほしいっす。」


 そう、俺達はこの森に足を踏み入れた途端、採集に没頭してしまったのだ。

 だって、仕方がないじゃないか。この森の中は上質の素材の宝庫だ。

 昼間だけで完全回復薬30本分に相当する素材が集まった。


 完全回復薬は体力・魔力を一瞬で完全回復してくれる優れものだが、素材が集まりにくい事もあり、市場では殆ど出回っていない。

 効果の高さもあり、出回ったとしても1本あたり小金貨5枚から金貨1枚の値がつけられる。

 ギルドでも素材採集の依頼は常に出ている状態だ。

 

 「完全回復ポーションは、中々手に入らないんだぞ。作れる時に作っておかないと。」

 「それはわかるっすけど……アレもっすか?」

 リィズが目線で示した先には、ソラが握っているロッドがある。


 「ちょうど光輝草が手に入ったからな。」

 光輝草は魔力の流れに反応して光を発する特性がある。

 その特性を使って作り上げたのが、ソラが持っている『キラキラ・ロッド☆』だ。

 「ソラが、歌う時に振るとキラキラしていいよな?」

 光るロッドは魔女っ娘の必須品だ。ここでソラに持たせるのは必然と言える。


 「何だったら、リィズにも光るブレスレットとかキラキラグッズ作ってやるぞ。」

 「それは嬉しいけど、帰ってからでいいっす。」

 リィズが呆れたように言う。

 「素材集めも程々にしないと何時まで経っても精霊樹にたどり着けないっすよ。」

 もう寝るっす……と言って、リィズがギュっと寄り添てくる。

 「にぃにも、早く寝るっすよ……お休みっす。」

 

 ……翌日。

 俺達は素材回収に勤しんでいた。


 「あのぉ……レイフォードさん。……先に進まなくてもいいのでしょうか?」

 レイファが、困ったように訊ねてくる。

 「いいか、レイファ。目の前に高級素材が転がってるんだぞ。素材と精霊樹どっちが大事かなんて言わなくてもわかるだろ?」

 「え、えぇと……精霊樹じゃないんですか?」

 「はぁ?素材に決まってるじゃないか!」

 何を言っているんだこいつは?

 「……レイファさん、諦めるっす。」

 リィズが、レイファの肩をポンポンと叩き慰めている。


 ちなみにソラは俺が贈ったロッドを振り回しながら歌っている。

 実に楽しそうだった……。


 数日後……。

 俺達の前に神々しい光景が広がっている。


 「ようやく……つきましたわね。」

 レイファが疲れたように言う。

 ……そんなに疲れる道程だっただろうか?

 ミリィのおかげで迷うことなく、ここまで来れたし。

 俺はミリィやリィズ達の方を見る……彼女たちは疲れてないようだが……。

 「にぃには分かってないっすよ……。」

 リィズはそう言ってレイファの方へ近づいていく……。

 「にぃに達と付き合っていくなら慣れる事っす……。」

 リィズはレイファを慰めている。

 ……なんか良く判らないが、失礼なことを言われてるって事だけはわかったぞ。


 「さて、ここまで来たものの……これからどうすりゃいいんだ?」

 俺はレイファに訊ねる。

 「さぁ、私にもわかりません。『神託』ではそこまでのイメージを受け取れませんでしたから。」

 お役に立てなくて申し訳ありませんとレイファが謝るが、レイファの所為ではない。


 (全ての精霊に愛されし、精霊たちの愛娘……あなたの出番です。)

 突然、ファルスの声が響く。

 (ミリィ……精霊王女よ……。)

 「え、私?……精霊王女って……。」

 突然の名指しにミリィが驚く。


 (精霊王女ミリィよ、大樹に祈りなさい。貴女の祈りなら精霊女王にきっと届くことでしょう。)

 「えーと、私が、精霊女王に対して祈りを捧げれば……いいのかしら?」

 「どうやらそのようだな……。悪いが頼む。」

 「わかったわ。任せてね。」


 ミリィが精霊樹のもとに赴き、跪いて祈りを捧げ始める。


 しばらくすると、祈りを捧げているミリィの体が淡く光り始める。

 ミリィの周りに光が集まる……。

 いや、よく視ると輝いているのは精霊達だ。

 ミリィの周りを無数の精霊が飛び交う。


 やがて精霊樹の根元が一際強く輝く……。

 

 (ミリィ……次期精霊王の座を継ぐものよ……此度は会えて嬉しく思う……。)

 厳かな声が、森の中に響き渡る……あれが精霊女王か。

 

 (……フム……中々の力を持っておる様じゃ……娘たちが騒ぐのも無理はなかろう……。)

 (折角ここまで来たのじゃ……これを授けようぞ……。)

 集束した光がミリィのもとに近づき……腕の周りに集まる。

 光が消えたその後にはブレスレットが残されていた。

 ……精霊の加護のブレスレットか……


 (……中々楽しい時間じゃった……また会おうぞ……)

 そう言って、精霊女王の姿が薄れていく……。

 ……何か忘れてるような……って!


 「ちょ、ちょっと待ったぁ!」

 俺は消えゆく精霊女王を慌てて呼び止める。

 「ミリィ、封印、封印の事訊ねてくれ!」

 「あ、そうでした。精霊女王様、レイさんの封印を解除する方法を知りませんか?」


 (……フム……)

 精霊の光が俺の周りにまとわりつく……。

 (面白いのぅ……。)

 (……なるほどのぅ……。)

 (レイフォードと言ったか……英雄の魂を持つものよ……すべてはお主の選択次第じゃ……。)

 (健闘を祈っておる……王女の事をよろしく頼むぞ!)

 「ちょっとちょっと……解呪の方法は?」

 (お主の持つ力の本で「解呪の陣」の項を調べるとよいぞ……では王女とその一行よ、また再び相まみえる日を楽しみにしておるぞ。)

 

 あたりから、光が消え失せ森の中に静けさが戻る。

 …………。

 「……何か夢を見てた感じですわ。神々しくて……。」

 レイファがそう言う……。

 いや、神々に接している者が言うセリフじゃないと思うが……。

 

 「とりあえず、解呪のヒントももらえたことだし……。」

 俺はみんなを見回す。

 「ここの素材を回収するぞ!泉の水は汲めるだけ持っていく!」

 「そうですね。」

 ミリィが喜び勇んで泉へ向かう。


 「ここは、解呪を優先するのでは……??」

 「まぁ、にぃにっすから……。」

 なぜ??とはてなマーク一杯のレイファをリィズが宥めている

 

 その夜みんなで焚火を囲みながら解呪の方法について話す。

 「力の本って何の事か、レイフォードさんはおわかりですか?」

 レイファが聞いてくる。

 そうか、レイファは知らなかったか……。

 まぁ、グダグダ説明するより見せたほうが早いだろう。


 『英知の書(グリムベイブル)

 検索 『解呪の陣』

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ・

 ・

 呪いを解くための魔法陣……もしくはその方法。

 難度の低いものは魔法陣を描き解呪の呪文を唱えるだけで呪いは解ける。

 高難度の呪いになると儀式が必要。


 ふむ……もう少し情報が欲しいな……。


 鑑定:レイフォードにかかった封印 解呪についての情報

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ・

 ・

 魔人「無能のユルグス」により施された魔力封呪

 解呪の方法は術者の死亡もしくは術者による解呪。


 「解呪の陣」による解呪の方法

 人界と精霊界の交わる場所にて儀式を行う。

 陣のポイントにおいて火、水、土、風、光、月の属性者が魔力を通し、増幅した魔力によって呪を吹き飛ばす力技。

 属性者の魔力・対象者との親和性などにより効果に変化がある。


 儀式を行うにおいて最適な場所

 「精霊の森」「龍神の森」「亜人の森」「魔の森」などが適している。

 ただし、現在「精霊の森」は精霊力減少の為不向き……


 ……こんなところかな?

 俺は知りえた情報をみんなに伝える。

 

 「属性者を探さないといけないでしょうか?」

 ミリィが聞いてくる。

 「うーんどうなんだろうなぁ。」

 「精霊の森がダメって言うのはつらいっすね……他の場所はどこにあるんでしょうか?」

 リィズの言葉に同意する。

 「そうだな……。他の場所は直接行くことはできないらしい。それぞれ、龍族、亜人族、魔族が入り口を管理してるってことだ。」

 「ねぇ、おにいちゃん、ランに聞けば龍神の森の場所教えてくれないかな?」

 ソラがそんなことを言ってくるが……。

 「いや、そう簡単には教えてくれないだろう。もし教えてくれるとしても「我を倒したら教えてやる!」とか言ってバトル展開になりそうだ。」

 「それあり得るっす!」

 リィズが同意する。

 

 (精霊の森は精霊女王が降臨したことにより精霊力が減少しましたが、1~2年もすれば元に戻ります。)

 ファルスが教えてくれる。

 (姫様が女王の力を賜わりましたので、今までよりもっと協力ができるようになりました。……私だけでなく、他のみんなも力になりたいと言ってます。)

 ファルスの言葉と同時にミリィを中心に光が広がる。……精霊たちの光だ。

 「うわぁ、綺麗ですねぇ。」

 レイファが感嘆の声を上げる。

 「そうだ、ファルス。属性者に心当たりはあるか?」

 (精霊たちを見てれば分かると思いますが……、今ここに揃っていますよ。)

 言われて周りを見回す。


 レイファの周りには黄色い光……大地を表す土の属性の光。

 リィズの周りには翠色の光……千差万別の変化をもたらす風の属性の光。

 ミリィの周りには様々な光が漂っているが一際強く輝く蒼い光……清らかなる流れ、水の属性の光。

 ソラの周りにはファルスの輝きをはじめとした金色の光……万物を照らし出す光の属性。


 (ここにはいませんが炎龍であるラン様はもちろん火の属性であります。そして……。)

 ファルスはそこで言葉を切る。

 (月の属性に関しましては……今はお伝え出来ません。いずれわかる日が来るでしょう。……それより今は精霊たちとの交流を楽しんでくださいませ。)

 「……そうだな。」

 俺はみんなを眺める。リィズの周りの光が激しく明滅している。


 (そこのアンタ!リィズちゃんのブレスレット作り直しなさいよ!)

 いきなり翠色の輝きを放つ精霊に文句を言われた。

 (あのブレスレットの質じゃ、私の力が発揮できないわ!作り直しなさい!)

 

 ていっ!

 俺は、ハリセンを取り出してその精霊をはたく。

 (いたた!ぶったー、精霊をぶったー……というより、何故はたけるの?それ何よ!)

 「これはな『精霊叩き』だ。ファルスにツッコミを入れるために密かに作成してたモノだよ。」

 (……!!)

 (アンタねー、そんな無駄に高度な物作れるなら、リィズちゃんのブレスレット、もっといい物にしなさいよ!)

 その精霊……エアリーゼと名乗った……が言うには、リィズの事が気に入ったらしいが、依り代になるものがリィズのブレスレットしかなく、あれでは自分の力が発揮できないからもっといい物を用意してほしい……という事らしい。

 まぁ、あのブレスレットはダンジョン内で急遽作成したものだからな。

 「いい機会だし、街に戻ったら皆の装飾品を作り直すか。」

 (そうしなさい。特級品を作るのよ!)

 「わかった……特級品を作ってやるから精霊石をよこせ!」

 (ウッ……仕方ないわね。その代わり最高のものをつくるのよ、いいわね!)

 

 そして、俺の手の中に翡翠色に輝く石が残される。

 俺はそれをリィズに渡す。

 「かなり気に入られたようだな。」

 「ワタシもビックリっすよ。」

 「まぁ、リィズは風の属性との相性もいいし、力になってくれるだろうよ。」


 (あの……レイ殿……他の精霊たちが……)

 俺がエアリーゼの為に装飾品を作ることを知った他の精霊たちが我も我もと押し寄せてくる。

 結局ファルスにも手伝ってもらって混乱を収めることが出来たのはかなり経ってからだった。

 

 「レイさん、これからどうしますか?」

 ミリィが聞いてくる。

 これから……か。

 「明日、街に戻ろう。そして……領都に行く!」

 

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