勇者とドラゴンとミンディアの巫女 前編
「ここが、ミンディアなんですね。」
「あぁ、ようやく着いたな。」
ここミンディアは、領都から遠く離れた東南の方角に位置する穀倉地帯である。
街の周りには広大な農地が広がっていて、北には険しいヤムロ山脈がそびえ、東には精霊の森と呼ばれる深い森があるという、大自然に囲まれた、それなりに豊かな土地である。
・・・・・・まぁぶっちゃけ『ド田舎』なんだけどな。
街に着いた俺達は、先ずはギルドへ向かう。
到着手続きをしておかないと、依頼を受けることも素材の買い取りもしてもらえない。
カランカラーン・・・・・・
俺達がギルド内に足を踏み入れると、併設されているバーにたむろしている冒険者達が一斉に視線を向けてくる。
まるで値踏みをするかのように・・・・・・、いや、まるで、じゃないな。値踏みをしているんだ。
冒険者にとって相手の強さを推し量る能力というのは必須だ。
勝てない相手に向かっていくのは、単なる無謀だ。確実に勝てる相手だけを相手にする・・・・・・それが冒険者として長生きするコツだ。
だが、田舎に来るとそう言う能力に乏しい奴らが一定数いる。
「オイオイ、そこのニィちゃん、イイ女連れてるじゃねぇか。こっちに来て酌してくれよ。冒険者の心得ってモンを教えてやるぜ。」
こういう奴のように・・・。
近くでギャハハと品のない笑い方をしている奴もいる。
「にぃに、悪い人の顔になってるっす。」
リィズが小声で囁いてくる。
「仕方がないだろ。やっと巡り会えたテンプレシシュエーションなんだぜ。」
そう、今までの街では「何とか隊」とか言うわけ分からない奴らが幅を利かせていて、こういう風に絡んでくる奴がいなかったのである。
後は奴らにテンプレっぽく吹き飛んでもらうだけだ。
「なにを言ってるかわかんないっす。けどにぃにが楽しそうなのは分かったっす!」
俺は愛銃のドラグーンを取り出しリボルバーに弾を詰め込む。
M29ドラグーン・・・・・・あれから更に改良を重ねた自慢の愛銃だ。
グリップに埋め込んだ魔結晶を通じて魔力を流し込むことにより、魔力をエネルギーに代えて撃つことが出来る。差し詰めビーム銃かレイガンかと言うところだ。
魔力が続く限り弾切れを起こさないのが素晴らしい!
これは元々ソラのワルサー用に用意したギミックだったりする。
もっとも、ソラの場合はファルスの精霊力をエネルギーに代えて撃ち出すためのものだが。
戦闘中の使い勝手がよくなったのはいいが、ここで問題が起きる・・・・・・リボルバー必要?
リボルバーはロマンなのだ!弾倉に一発づつ弾を込める・・・・・・あの動作をせずにガンマンは名乗れない!
と言うことで、結局、火炎弾やスタン弾など特殊弾はリボルバーに込めて撃ち出すというスタイルに落ち着いた。
ちなみにこの件については、リィズやソラに熱く語ったものの、理解を得ることは出来なかった。
・・・・・・所詮、女に男のロマンは理解できないってことだな。
俺はリボルバーに5発目のスタン弾を込めた後、少し考えて6発目の弾を別のものに変える。
「オイオイ、なに黙ってんだよ。それともビビっちまったかぁ?」
ゲラゲラと品のない声で笑う男。
ここまでテンプレ通りに動いてくれる奴はいないなぁ。
俺は嬉しくなってつい笑ってしまった。
「なに笑ってや・・・うがっ・・・」
俺はやつの額にドラグーンを突きつけ、引き金を引く!
男は仰け反り倒れ込む。仕込んであるスタンの効果で体が動かせない為ヒクヒクしている。
・・・・・・野郎!・・・・・・。
やりやがって・・・。
周りの男が色めき立つ。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
俺に向かってくる男たちに向けて次々とトリガーを引く!
1回トリガーを引く度にリボルバーが回転し次弾が装填される……クゥー……これだよ!これがロマンだよ。
残弾残り1発……俺は群がる男たちの足元に向けて最後のトリガーを引く。
放たれた弾丸が男たちの足元に着弾……そして爆発!
吹き飛ぶ男たち。
テンプレ通りの展開に、俺は大満足だ。
・・・・・・ふぅ、いい仕事したぜ!
「にぃに……すっごくいい顔してるっすね……。」
「……くっ……てめぇ、タダで済むと思うなよ……。」
足元の男が呻いている……あれ、まだいたの?
とどめを刺すべく、弾倉に新たな弾薬を装填する。
カランカラーン……。
誰かが入ってくる。
「これは何の騒ぎだぁ!」
入ってきた男の声を聴いて足元の男が元気を取り戻す。
「あ。兄貴ぃ……この他所モンが……兄貴の力見せてやってください!」
……こりゃ、またテンプレな展開だなぁ……
「オゥ、あんちゃん、うちの舎弟共が世話に……!?」
テンプレ通りのセリフを吐きながら近づいてきた男が、俺の顔を見るなり絶句する。
「も、申し訳ありませんっ!!ボスがいらしたとは知らぬことと言え、ご無礼を!」
男が平謝りに謝ってくる。
それはいいが、ボスって誰の事だよ?
「あん?」
「ハッ!ご挨拶が遅れました!私、元『リィズちゃんに踏まれ隊』隊員No.35ミルアゴットであります!」
リィズが顔をしかめている。
「リズ姉……人気者?」
ソラが引き気味に言う……。気持ちはわかるぞ。
……というか、なんでこの街にいんだよ?
「ハッ!、実はボスたちが旅立たれた後、例の勇者殿が街を出て行かれまして……これはミリィちゃんやリィズちゃんを追っかけて行ったに違いないという事になり、我々先遣部隊が後を追ってきたのであります!」
「……あの自称勇者が、この街にいるのか?」
「いえ、なんでも「ドラゴン退治に行く」と言って、この街を出たそうです。」
……何考えてるんだ、あの勇者様は……ま、いっか。
「で、お前は、追いかけなくていいのか……っていうか、さっき『元』とかって言ってたなぁ。もうやめたから追いかけないのか。」
うんうん、ああいうのは、適当なところで切り上げて、自分を取り戻すのがいいんだよ。
しっかり更生しろよ……と元気づけてやる。
「いえ、自分は……リィズちゃんには大変申し訳ないのですが……真実の愛を見つけてしまいました!」
ホゥ、そうかそうか。愛は大事だよね……
「今の自分は『ソラちゃんに蔑まされ隊』隊員No.105 及び 『リィズちゃんに後ろめ隊』隊員No.16のミルアゴットであります!」
ダンッ!ダンッ!
……しまった、反射的に撃ってしまった。
まぁ、殺傷能力は無いから大丈夫だろうけど……
ソラを見ると、ドン引きしていた。
リィズは、そんなソラを見てニヤニヤしている。
「100人以上の隊員がいるんだって……ソラ人気者っすね」
「……キモい!」
「「「「「「「ありがとうございますっ!」」」」」」
ソラの言葉に店内の各所からお礼の言葉が飛び交う……いつの間に湧いて出たんだ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここはいいところですねぇ。小鳥さんも楽しそうです。」
そういうミリィの肩には、いつの間にか小鳥が止まっていた。
「まぁ、田舎だからなぁ……変な争いとかもないだろ。」
俺達はギルドを出て、街外れにある教会へ向かっている。
「ゴクッ……いよいよにぃにの昔のオンナと御対面っす。負けられないっす。」
リィズが、相変わらずバカなことを言っている
「違うって、何度言えばわかるんだよ。レイファには昔神聖魔術を教えてもらっただけだ。」
「そうですよ、リィズ、滅多なことを言ってはいけませんよ。レイさんは私たちのレイさんですよ。」
ねっ、と言ってにっこり笑うミリィ。
……その周りには何故か30羽を超える大小さまざまな鳥が集まっていた。
……しかも、みんな俺を狙っているような気がする……怖っ!
「おねぇちゃん鳥使い?」
ソラが不思議そうな声を出す。
「ねぇねのそばに集まるのは鳥だけじゃないっす。動物も寄ってくるっすよ。」
……きっと明日には牧場が出来てるっす。とリィズが言うが……その通りだろう。否定できない。
「おっと、見えてきたな……相変わらずの人気だな。」
教会の周りには人だかりができている。
レイファは、回復魔法が使える他、おっとりとした気性、誰隔てなく接する生来の優しさ、細かい事にも気が付く気立ての良さ、加えて豊満な胸……と、近隣の農村のジジィ達の人気者である。
「ほぇー……人一杯っすね。にぃにの昔のオンナは人気者なんすね。」
……まだ言うか!
「!!」
殺気を感じる。
前方の教会から……いや、その周りのジジィ達からだ。
あっという間に取り囲まれた。
「のぅ、そこの若者よ。そこの嬢ちゃんの話……ちと、詳しく聞かせてもらえぬかのぅ?」
「そうじゃそうじゃ!話次第では……血の雨が降るぜぇー!」
・・・・・・ジジィのくせに血の気が多い奴らだ。
「リィズの勘違いで言いがかりだ!レイファには、昔世話になったので挨拶に立ち寄っただけだ!」
「ほんとかのぅ?」
「コイツ、レイファちゃんを呼び捨てにしやがったぞ!」
「死刑かのぅ?」
……こいつら……
俺は吹き飛ばしたやりたくなるのを必死にこらえた。
「ジジィ、お前らこそなんなんだ?用もなく取り囲んでいたらレイファの迷惑だろ。」
「ワシらはレイファちゃんを見とるだけじゃ」
「そうじゃ!、お主のような悪い虫が寄り付かんように見張っとるだけじゃ!」
「そうじゃそうじゃ!」
「なんといってもワシらは『レイファちゃんを孫の嫁にし隊』じゃからのぅ。」
・・・・・・また、変な奴らが出たよ……。
「おや、こっちの娘さんも別嬪さんじゃのう。」
「そうじゃのぅ。」
一部のジジィがミリィに目を付けた。
「レイファちゃんには負けるが中々ええチチもっとるのぅ!」
「ワシの孫の嫁にこんかのぅ?」
考えるより先にドラグーンを抜き、ぶっ放す……
……よりも早くリィズがぶちのめしていた。
「ねぇねは私の嫁っす!手を出すんじゃないっす!」
……行き場を失うドラグーン……
「おにぃちゃん、どんまい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「レイフォードさん、お久しぶりです。」
教会の大聖堂に当たる場所で、俺とレイファは再会を果たしていた。
「あぁ、久しぶりだな。変わりはないか?」
治癒術を教えてもらっていた時は、年相応にアタフタしていたものだが、数年ぶりに会ったレイファはすっかり落ち着いた大人の女性になっていた。
しかも……大きい……ミリィも大きい方だと思っていたが、それ以上の迫力がある。
……ジジィ達に人気があるのもうなずけるというものだ。
「「ぶぅー」」
リィズとソラがブー垂れている。
……スルーしておこう。
「そうですねぇー……変わりは特にありませんわ。レイフォードさんがこの地を去られる頃と同時期に、山賊や盗賊の被害が全く無くなったことぐらいですかねぇ?」
「にぃに、やっぱ、パネェっす!」
「え、おにぃちゃんの所為なの?」
「ソラ、あのですね……ゴニョゴニョ……。」
「え、そうだったの。おにぃちゃん凄い!」
リィズとソラが何やら話している……が、気にしないでおこう。
「レイフォードさんは……変わられましたね。」
レイファがくすくすと笑う。
「……?何も変わってないと思うが?」
何か変わったのだろうか?
「だって、いつの間にやら、そんな可愛い人と……焼けちゃいますわ。」
レイファがくすくす笑いながら、ミリィを指し示す。
……いつの間にか、ミリィがギュっとしていた。
よくあることなので、気にしてなかったが……。
「あ、ねぇねズルいっすよ!」
リィズがミリィに気付いて、抱きついてくる。
「ボクもボクも!」
ソラが後ろから乗っかる。
「ほんと、焼けちゃいますわ。」
レイファが笑いながら言う。
「……まぁ、確かに、変わったかもな。」
あの頃は、このように笑える日が来るとは思いもよらなかった。
「ところで、レイフォードさんは何をしにこちらへ?ただ観光にいらしたわけではないんでしょう?」
居住まいを正して、レイファが問うてきた。
「何故、そう思う?」
何かを確信しているかのようなレイファの様子が気になり、聞いてみる。
「実は、ミルファース様より『神託』を授かりました。その直後にレイフォードさんが訪ねてこられた。何かあったと考えるのは当然ですわ。」
「なるほどな。しかし偶々寄っただけかもという可能性は考えられないか?」
「その可能性もありますわね。『神託』がなければ、そのまま信じたでしょう。」
「どんな『神託』だったか聞いてもいいか?」
レイファがあそこまで言うという事は、俺達の存在を直接指し示すような内容なんだろうか?
「そうですね、かまわないですが……先にレイフォーさんの用事を聞いてもいいですか?……なんとなくその方が良い気がします。」
巫女のカンはバカにはできない。レイファが良いと思うなら、その方が良いのだろう。
「そうだな。実は……。」
俺は、レイファに魔人に封印を掛けられたこと、封印を解くための手がかりを探していること、別の魔人が出てきて意味ありげなことを言っていたのが気になることなどを話した。
「そうでしたか……。」
レイファは話を聞き終えると、何やら考え込み始めた。
「そうですね……何から話せばよいか……。」
しばらく後、レイファが話し出す。
「まず『神託』についてですが、レイフォードさんもご存じの通り、私では、あやふやなイメージしか受け取ることが出来ません。」
『神託』は受け手側の技量によって、「はっきりした言葉で聞こえる」ものから「なんとなくそんな気がする」ものまで様々である。
レイファの場合、イメージが伝わるだけ、それなりに技量は高いと思うのだが……。
「私が『神託』を受けたのは奉納祭の時でした。豊作祈願をしていたら、突然『神託』が降りてきたのです。」
あの時はびっくりしました……とレイファは言う。
まぁ、豊作祈願で『神託』が降りてきたらびっくりもするだろう。
「私が『神託』で受けたイメージは「飢餓」「原因」「ドラゴン」「勇者」「解決」「欠けた英雄の魂」「見えない絆」の7つです。」
よくわからないですよね?……とレイファが言う。
「んー、普通に考えて『飢餓』の『原因』が『ドラゴン』と『勇者』で『解決』するためには『欠けた英雄の魂』と『見えない絆』が必要……って事か?」
「おにぃちゃん、原因が勇者っておかしくない?」
……と言われてもなぁ、あの「勇者様」だったら「世界滅亡の原因」と言われても信じるぞ。
「ところが……ですね、数か月前に、北のヤムロ山脈でドラゴンを見たという目撃情報が頻繁に出るようになりまして……さらに勇者様がこの街におみえになられたものですから……。」
街の実力者たちが騒ぎ出したらしい。
ドラゴンが原因で飢餓?……あり得ないだろ。
ドラゴンは俺達人間を襲うことは無い。襲ってくるとすれば、それは報復行為だ。
……つまり、ドラゴンが原因で飢餓になるとすれば、ドラゴンがここ等一帯を焼き払わないと気が済まないくらい怒らせた場合で……。
「そういえば、勇者が来たって言った?」
さっきレイファがそんなことを言ってた気がする。
「ギルドで勇者様がドラゴン退治に行ったって言ってませんでしたっけ?」
ミリィがそんなことを言い出す。
「にぃに……とっても嫌な予感がするっす。」
偶然だな。俺もだ。
「えーとおにぃちゃん?勇者様がドラゴン退治しちゃまずいの?」
いや、退治できないから……。
「……。さぁ、みんな今度は領都に向かうぞ!すぐ出発だ!」
ここから離れよう!そうしよう。それが一番だ。
「そうっすね。それが一番だと思うっす。」
リィズも賛成のようだ。
『ダメです……あなた方には……向かって……。』
突然レイファが話し出す……いや、様子がおかしい。
『……この体では……無理が……ファルス……いるのでしょう。』
まさか……神降し!?
その時、ソラの体が輝き羽が生える……。ファルスが顕現したらしい。
『ミルファース様、お久しぶりでございます。』
『良い……時間がない……。受け取れ……。』
レイファの体から光の塊が飛び出し、ソラへ吸い込まれていく……。
しばらくして光が消え……レイファが崩れ落ちる。
意識を失ったレイファを寝かし、ソラ……ファルスに向き合う。
「……説明、してくれるか?」
俺はファルスに状況の説明を求める。
『そうですね。私はミルファース様の眷属に連なるものです。……。」
話をまとめると、ファルスは元々ミルファースの眷属……つまり神だったそうだ。
しかし、神々の務めより、音楽を楽しむために自由奔放に生きていたら、怒られて精霊からやり直せ、と言われて精霊に降格されたそうだ。
……まぁ、仕事もせずにサボってる奴がいたら、普通怒るわな。
ただ、今回に限ってはそれが幸いしたらしい。
ミルファース神が、俺達に伝えたい事があり、無理やりレイファの体を使って降りてきたはいいものの、レイファの器では長く顕現していられず、そこにファルスがいたため、すべてをファルスに押し付けて天界へと戻ったらしい。
『大体、レイ殿がここから逃げようとするから、ミルファース様が慌てて降りてきたんですよ。』
ミルファースの意思を受け止めるのはファルスであっても大変な負担らしい。
「で、結局俺達はどうすればいいんだ?」
ミルファース神があれ程慌てたって事は、よほど俺達が必要な何かがあるのだろう。
『簡単なことですよ。ドラゴン退治に向かったという勇者を止めてもらえればいいのです。』
ちっとも簡単じゃねぇ……。奴の動きは予測不能だ。
「やっぱりこうなるっすか……。」
リィズがあきらめたようにつぶやく。
「レイファさんが、目を覚ましましたよ。」
レイファを見ててくれたミリィが声をかけてくる。
「皆さん、……ご無理なお願いして……申し訳ありません。」
レイファが謝罪をしてくる……。
「レイファが悪いわけじゃないだろ。」
すべては押し付けたミルファースが悪い……何とか仕返しを……何か効果的な嫌がらせはないか?
「依頼を終えた暁には封印を解く方法を教えてくださると、ミルファース様がおっしゃってますので、頑張ってくださいね。」
……今回は勘弁してやるか。
「とりあえず、準備して、勇者の後を追うぞ!」
「「「はーい・・・・。」」」
みんなあまり乗り気じゃないなぁ……仕方がないけど。
次回ドラゴン退治?です。
前後編で終わるはずです。




