精霊とダンジョンとドラゴンと -その5-
「魔人族の八脚のベルゲン」
ヤツはそう名乗った。
魔人族・・・グリムベイブルで得た知識によると、世界を統治する神々に追放された『魔神』に連なる眷属達の事だ。
数は多くないが、その力は神に与えられたものであり、それぞれの特性においては無敵とも言える・・・らしい。
俺が調べていた時点では情報が足りないことが多かったが、目の前にいる今なら…
「英知の書」
俺は気づかれないように小さな声で囁く。
「鑑定:魔人・八脚のベルゲン」
・・・・・・
・・・
・
・
「アナタをここで殺すとぉ、ユルグスに怒られちゃうからぁ、見逃してあげるぅぅぅ。」
そういって、ベルゲンは現れた時と同じように消えて行った。
「にぃに、あれは一体何なんすか?」
リィズが聞いてくるが・・・。
「リィズ、気を抜くな!まだ来る!」
「えっ!」
急に空気が変わる。嫌な気配が充満する・・・。
「ククク…そうそうお土産を忘れてましたよ。せっかく見逃してあげたのでぇ・・・生き延びてぇ、くださいねぇぇぇ・・・。」
ベルゲンの声が聞こえる。
ドォォォォォォンッッ!
地響きと土煙と共に現れる…何か。
「下がれ!」
リィズに声をかける。
ベルゲン程ではないが、かなりの威圧感がある。一度体勢を立て直さないと。
「ミリィ、ソラ。転移陣は後だ!ひとまずこっちへ!」
リィズ、ミリィ、ソラと合流する。
「子爵!向こうの隅に隠れていてくれ!その二人の事頼む。」
俺は、子爵たち3人に隠れているように指示する。…正直庇いながら戦える相手じゃない。
土煙が晴れて敵の全貌が見える・・・巨大な蜘蛛だ!
「リィズ、まず、脚を狙うぞ!蜘蛛型モンスターはガタイに似合わず素早い。まずは機動力をつぶす・・・。」
「わかったっす!」
「ソラ、眼を狙ってくれ。矢を打ち込むだけでなく催涙玉・火薬玉など全部使って構わない。ただ決して無理はするな。打ち尽くしたら下がっているんだ。」
「わかったよ、おにぃちゃん。」
「ミリィ、リィズと俺に風の加護を、そのあとは援護を中心に回復薬として待機していてくれ。ソラの事も頼む。」
「任せてください・・・風の精霊さんお願い!二人に加護を!『風の祝福』!」
俺の体に力が漲る…体が軽くなるのを感じる。
「リィズいくぞ!」
「了解っす!」
俺は走りながら体中に魔力を張り巡らせる。風の加護のおかげでいつもの倍以上のスピードが出る。
巨大蜘蛛が横っ飛びに動く…素早い!・・・しかし、対応できないほどではない。
剣を横薙ぎに…蜘蛛の前脚を狙う。
ガキンッ!
…ッ!堅い…剣がはじかれる。
……剣に炎を纏わす。虫系のモンスターは総じて炎に弱い。
ガキッ!…ズシャァ!
ズシャァ!ガキッ!ズシャァ!
まず1本・・・。
そのまま一旦後ろに飛びのく。
「きゃぁ!」
「リィズ!」
リィズが弾き飛ばされる。俺は、リィズのそばに駆け寄り受け止める。
蜘蛛の前脚が振り下ろされる。
ズン!
ギリギリで飛び退く。さっきまで俺達がいた地面に振り下ろされた前脚が突き刺さる。
ふぅ…
「癒しの風!」
後方からミリィの声が聞こえる。俺達の体を風が包む。
「ねぇねの癒しはすごいっすね。・・・行ってくるっす。」
「あぁ頼む。」
俺も、リィズと逆の脚を狙う。もう2本も切り落とせばかなり機動力が落ちるはず。勝負はそこからだ。
ズシャァ!ガキッ!ズシャァ!
シュッ!…ズン!
…ガキッ!ガキッ!…ズシャァ!
ズシャァ!ズシャァ!
ズン!
蜘蛛の前脚が振り降ろされる。
かわす…地面に脚が突き刺さる。
その脚に斬り付ける。
刃が途中で止まるが、魔力を流し込み強引に切裂く!
…ズシャァ!
そのまま後ろに飛びのく。
ふと、リィズの方に目をやる。リィズも脚を1本やった様だ。一旦飛び退くのが見える。
リィズにはほんと助けられてるな。
「おにぃちゃん、ゴメン。もうアイテムがないの。」
「大丈夫だ。そのまま援護に回ってくれ。」
蜘蛛の顔にソラが打ち込んでいてくれたアイテムが無くなったか…。
この後は、毒液攻撃なんかも気を付けないとな。
俺は地面に剣を突き刺す。
「リィズ!5秒後にジャンプ!」
「了解っす!」
俺は、剣に魔力を流し込んでいく・・・。
リィズが大きくジャンプする。
『炎風陣!』
剣先から炎が舞い上がり巨大蜘蛛に向けて炎柱が走っていく!
巨大蜘蛛に火柱が突き刺さる。
そのまま蜘蛛に向かって駆け出す。
蜘蛛に対し剣を突き刺す!
・・・堅い・・・が!
そのまま魔力を流し力任せに突き刺す!
反撃が来るッ・・・。不意に巨大蜘蛛の体勢が崩れる。
ミリィの援護だ。
「助かるっ!」
巨大蜘蛛の皮膚をさらに切裂いていく。
苦しみだした…暴れる。
苦しみまぎれに残った脚を振り回す。糸を吐いてくる...全てをギリギリで躱していく・・。
ッ!振り回された脚にリィズが吹き飛ばされる。
空中でリィズが体勢を立て直す・・・あの様子ならうまく着地できそうだ。
リィズが着地したところに、ミリィからの魔法が降り注ぐ…癒しの風だ。
ミリィの援護のタイミング、回復のタイミングは適格だ。俺もリィズも安心して戦える。そして・・・。
タッタッタッ!
ソラの放った矢が、巨大蜘蛛の顔に、口に、眼に突き刺さる。
巨大蜘蛛の反撃が緩む。・・・ソラ、ナイスタイミング!
ズシャァァ―!
リィズが巨大蜘蛛の脚を斬り割く…蜘蛛がバランスを崩す・・・。
今だ!
俺は魔力を流している剣を巨大蜘蛛の口へ突っ込む!
巨大蜘蛛は俺の腕ごと咥え込む。
・・・右腕の一本ぐらいくれてやるぜ。
魔力を流し込んでいく・・・
「『万物の根源たるマナよ』『大いなる光、灼熱、爆風、炎火』『全てを力に変えよ。溶かし燃やし吹き飛ばせ』・・・。」
『灼熱の大爆発!』
俺の握った剣が巨大蜘蛛の中で弾ける!
蜘蛛の中で爆風が吹き荒れる。蜘蛛の体内組織をズタズタにしていく。
幸い巨大蜘蛛の堅い外皮がエクスプロージョンの威力抑え込み、外へ漏らさない・・・まぁ、そうでなかったら、俺自身吹き飛んでいるところだったが・・・。
体内をズタズタにされた巨大蜘蛛だが、それでもまだヒクヒク動いている。
ズシャ!ズシャッ!
双剣が蜘蛛の頭を切り落とす・・・やがて、蜘蛛は動かなくなる。
「にぃに!なんて無茶するっすか!・・・ねぇね、早く来て!」
「!!「水の精霊さん!光の精霊さん!生命の精霊さん!お願い!『再生の光!』」
「お兄ちゃん、大丈夫?痛くない?」
「いやまぁ・・・」
なんといっても手が爆散し肘から先が炭化していたわけだから、痛いとかそういう次元ではないのだが・・・ソラを心配させることもなかろう。
「ソラは心配しなくていいよ。ミリィの回復で元通りになるから大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃありません!!肘から先が無くなってるんですよ!いくら再生できるって言っても限度がありますよ!治るまでどれだけ時間がかかるか!なんでこんな無茶するんですか!もう、もう・・・・!」
ミリィが怒って泣きながら治癒魔法をかけてくれている。
「ゴメンナサイ…。」
つい謝ってしまいました。
「にぃに…。ホントは私も文句言いたかったっす。でも…ねぇねがキレちゃったから…まぁ良いっす。」
もう一回謝った方がいいっすよとリィズが忠告してくれる。
「ゴメンナサイ…」
「……ツン!」
ミリィが治療を続けてくれているがまだ時間がかかりそうだ。
リィズは巨大蜘蛛の解体に行っている。
「あ、そうだ。ソラ悪いけど子爵たちに声をかけてきてくれ。モンスターも倒したし、固まっていた方がいいだろう。」
「ウン、ボク行ってくるね。」
ソラに子爵たちを呼びに行くようにお願いする。
「・・・あの・・・ミリィさん?」
「・・・・・・。」
怒ってらっしゃる・・・まぁ、仕方がないな。
俺は治療を続けてくれているミリィを抱き寄せて囁く。
「心配かけてゴメン。」
ミリィは黙ったままだったが小さく頷いてくれた。
俺達はしばらくそのままでいた。
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「うん、大丈夫だな」
ようやく腕の再生が終わり、手を握ったり開いたりして具合を確かめる。
「さすがミリィの治癒魔法だ。ありがとう」
「…神聖魔法の回復魔法なら、もっと早く治ったのでしょうが……。」
「…すみません私、回復魔法使えないですから…。」
シスターのマリーが申し訳なさそうに言う。
「あ、ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないんです。私たちのパーティには神聖魔法の使い手が居ないので無茶しないでという事が言いたかっただけで…。」
ミリィが慌てている。あんなミリィを見るのは久しぶりだな。
子爵たち3人は戻ってきた時、俺の惨状を見て少しドン引きしていた。
と同時に戦闘の酷さを実感したみたいだ。
「治療も終わったし、脱出しよう!・・・たぶんこの転移陣を抜ければ外に出れるはずだ。」
「にぃに大丈夫?もう少し休んだ方が・・・。」
「いや、出口が目の前なんだ・・・少なくとも子爵達は早く帰りたいだろうし・・・ミリィが大丈夫であれば進もうと思う。」
「私は大丈夫ですが、外に出た後の村人さん達の事はどうするつもりですか?」
「それなんだよなぁ…とりあえず、村長を捕まえて事情を聴きだすか。」
そこで子爵が口を挟んでくる。
「あーそのことなんだが、村の事は私に任せてもらえないだろうか?」
悪いようにしないから…と子爵が言ってくる。
「そもそも村人達の所為でこんな目にあっているんだが?」
「わかっている。そのあたりの事も考慮したいと思っている。」
「・・・グラスメイア鉱石で手を打ってやるよ。」
「あぁ、助かる…。」
「じゃぁ、先の事は出てから考えるとして・・・いくか。」
俺達は、転移陣の前まで来る。
「最後にもう一度確認だ。」
俺はみんなを見回す。
「この転移陣を抜けると間違いなくダンジョンの外だと思う…しかし、そこが何処かまでは分からない。鉱山の中だと推測するが実際の所は出るまで分からない。だから、転移陣から出たらあたりを警戒してくれ。鉱山にはモンスターが出るって噂もあったから油断しないように。」
俺は再度みんなに注意を促す。
「じゃぁ、いくぞ!」
そういって俺は転移陣に足を踏み入れた。
目の前がゆがむ・・・しばらくして視界がハッキリしてくる。
さすがに何度も経験しただけあって、だいぶ慣れてきた。
歪みが消えたところで、俺はあたりを警戒し見回す……。
広い…大広間とでもいうべきだろうか?
今までいた所とは空気が違う…ダンジョンからは脱出できているようだが…
俺が周りを確認していると、次々と転移してくる気配がした。
とりあえず、みんなの転移が終わるのを待つ。
「出れたの…かな?」
「ここ、どこっすかね?」
「たぶん鉱山の中だろう。」
ソラとリィズの疑問に答えてやる。
「あの右手の方に見える扉。たぶん上に続いている階段だろう。」
「では、あちらの方に移動しましょうか。」
「そうだな。」
俺達は階段がある扉の近くまで移動する。
扉を開けると、予想通り階段があった。
「この階段を上っていけば出れるだろうな。」
「ようやく外に出れるっすね。」
「そうだな。…ッ!」
広間の奥からイヤな気配が流れてくる。
「子爵。シスターと商人さん連れて先に村に戻っていてくれ。」
「君は?」
「奥からイヤな気配がする。片づけてから行くので心配するな。」
「しかし・・・」
「足手まといなんす。素人はさっさと行くっす!」
「あぁ…すまない。」
リィズのキツイ言い方の裏に隠された優しさを子爵は汲取ってくれたようだ。先に帰ることを了承してくれる。
「ソラも、一緒に…」
「イヤ!ボクも一緒に戦う。」
「何が出るか分からないんだ!危険なんだぞ!すぐそこから外に出れるんだ!先に行け!」
「イヤ!!」
「ダメだ!」
「にぃに、言い争ってる暇ないっす。」
「ソラちゃんの事は私が守るから、今は目の前の敵に集中しましょ。」
「・・・仕方がない・・・か。いつものフォーメーションで行くぞ。ミリィとソラは援護。俺とリィズで突っ込む。いいな。」
「「「はい。」」」
俺は前方を見る・・・気配が増えている。
敵の全容が見えてくる・・・人型…か?
30体以上はいるな・・・更に奥に何かいるようだが・・・。
「リィズ、数が多い。気をつけろよ!」
「大丈夫っすよ!にぃにこそ気を付けるっす!」
「はいよ。」
俺は予備の剣を取り出し飛び込む用意をする。
チッ!こんな時に魔法が使えれば・・・一発大きいのをぶち込んでやれるのに・・・。
「レイさん、リィズ先に魔法を打ちます。その後飛び込んでください!」
「「了解!」」
「大地の精霊さん、お願い!『大地崩壊!』」
ミリィの呪文で地面に大きなクレーターが出来る。
足を取られてバランスを崩すもの、押しつぶされて動けなくなるもの様々だ。
「よし、行くぞ!」
俺達は人型モンスターに向かって駆け出す。
「風の精霊さんお願い!二人に加護を!『風の祝福』!」
俺達に風の加護がかかる。
シュッ!シュッ!シュッ!
俺達の後ろから矢が追い越していき、前方のモンスター達に突き刺さる。
ソラからの援護だ。
ガキーン!
グゥ・・・堅い…ゴーレムか!
「リィズ!こいつらゴーレムだ!気をつけろ。」
「わかったっす!」
リィズは関節、首や手足の付け根など隙間に双剣を突き刺していく。
俺もゴーレムの弱いところに剣を叩き込んでいく。
数が多いが一体一体は大した強さじゃない。これならいける。
「リィズ!10秒だけ時間を稼いでくれ!薙ぎ払うから10秒後上へ飛べ!」
「了解っす10秒っすね!」
俺は剣の柄に空いている穴に魔結晶を入れる。
その魔結晶に魔力を流し込んでいく……。
俺に襲い掛かってくるゴーレムはリィズが、ミリィが、ソラが排除してくれる。
『万物の根源たるマナよ』『猛き風となりて吹き荒れよ』・・・
剣に魔力が漲っていく・・・後は解き放つだけだ。
リィズがゴーレムの頭を踏み台にして飛び上がる
…今だ!
『真空烈波!』
俺はキーワードの発動と共に剣を振り回す。
剣先から魔力を帯びた風が巻き上がり周囲のゴーレムを薙ぎ払っていく。
「やったっすね、にぃに。」
リィズが飛び降りてくる。
「あぁ、でもまだ完全に動きを止めたわけじゃない。油断するな。」
グウォォッォォォーン!
奥から咆哮が聞こえる・・・なんだ?
「にぃに、あそこ・・・」
リィズが指さす方を見る…大きなシルエット・・・・まさかあれは!?
土煙が収まり始め、それが姿を現す…。
あれは…ドラゴン!
やっとドラゴンが出てきました。
けど…ダンジョンの中じゃなかったですね(^^;




