精霊とダンジョンとドラゴンと -その3-
「ボクが精霊使い…。」
ミリィに精霊使いの資質があることを告げられたソラはなんと反応していいかわからないようだ。
まぁ、想像もしていなかった事をいきなり言われても困るだろう。
「ソラちゃんが、よく聞くっていう声は精霊さんの声だと思うよ。」
「そんな…ボク…どうしたらいいの・・・。」
「怖がらなくて大丈夫よ。ソラちゃんに声が聞こえるってことは、その精霊さんとソラちゃんの親和性は高いわ。そしてソラちゃんは二つの選択肢があるの。」
よく聞いてね…とミリィが言う。
「まず、精霊さんとの話し方を覚えて、色々な精霊さんと仲良くなる方法。ちょっと時間はかかっちゃうけど、沢山の精霊さんたちが力を貸してくれるようになるわ。」
そしてもう一つは…と、話を続ける。
「もう一つは、今の精霊さんともっと仲良くなる方法。心からの願いはきっと届くわ。その精霊さんと契約できれば、とても大きな力を貸してくれる・・・それは素敵なことだと思うわ。」
「ボクに…出来るのかな?」
「ソラが混乱するのもわかるが、まぁ焦らないことだ。精霊との交信の仕方はミリィが襲えてくれるから心配しなくていい。」
「そう・・・だね。ボクが精霊使い…。うん、大丈夫。・・・お姉ちゃん、色々教えてください。」
そういってソラが頭を下げる。
「うん、ゆっくりと覚えていきましょうね。」
ミリィがソラを抱きしめ頭をなでる。
「にぃに・・・。」
ミリィとソラを見ながら、リィズが俺に声をかけてくる。
「ん、どうした?」
「・・・なんか、ねぇねを寝取られた気分っす。」
…ぽかっ。
とりあえず、ツッコミを入れておいた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「ソラっ!援護お願いっす!」
「うん、わかった・・・えいっ!…当たった。」
「その調子っす!!」
ズシャッ!ズシャッ!
リィズの双剣がキラーアントのボディを切り裂く。
後ろからもう一体のキラーアントがリィズを狙って飛び掛かる!
ズシュッ!
その目に矢が突き刺さり、キラーアントが体勢を崩す・・・。
「ナイスフォローっす!」
ズシャッ!ズシャッ!ズシャッ!ズシャッ!
リィズの双剣がキラーアントの脚を切り裂き、隙を見せた胴体を切り裂く。
そして、倒れたキラーアントを踏み台にして飛び上がる……。
「これで最後っす!!」
落下の勢いを利用して、最後に残ったキラーアントの頭上から剣を突き下ろす!
ズシュゥゥッ!!
そのまま剣を抜き後ろに飛びのいて距離を取り……。
「ライトニング!」
リィズの持つトール・エッジから雷が放たれる。
キラーアントは、雷のエネルギーを受け、爆散する。
「リズ姉おつかれ。」
最後のキラーアントが倒れたのを確認して、ソラがリィズの元へ駆けよる。
「ソラ、最後のフォロー助かったっす!腕を上げたっすね。」
「うん、ありがとう。ボク、お姉ちゃんと精霊魔法の勉強を始めてから・・・何て言えばいいのかなぁ「よく視える」ようになってきたの。」
「それは『精霊視』と呼ばれる能力よ。」
「ねぇね。」「お姉ちゃん」
「二人ともお疲れ様。シードの回収はレイさんがやってくれてるわ。さぁ、向こうで休みましょ。」
「ねぇね、さっきの『精霊視』って?」
「あ、私も知りたい。」
「そうね『精霊視』っていうのは・・・何て言えばいいのかしらね…レイさん風に言えば「視覚情報の増加と処理能力UP」とでも言うのかしら?」
「「??」」
「簡単に言えばね、暗い所でも見えやすくなったり、速いものでもしっかりと捉えることが出来たりするの。だからソラちゃんが「よく視える」ようになったのは間違いじゃないわ。」
「そうなんだ。ボク役立ってる・・・よね?」
「心配する必要ないっす!」
リィズはそう言ってソラを抱きしめ撫で回す。
「リズ姉、くるしぃ。」
「変な気を回すからっす。」
「私も仲間に入れてー。」
ミリィが二人纏めて抱きしめる。
「ちょっ・・・ねぇね、・・・。」
「きゅぅぅぅ・・・。」
「おーい、ソラが目を回してるぞ。」
俺が皆のもとに戻って来ると、リィズとミリィがソラを抱き潰している所だった。
仲良くて結構だね。
……もし……もしもソラが望むのであれば……この後も一緒に旅するのもいいかもな。
まぁ、ソラが決めることだし、今考える事じゃないな。
「あ、レイさんおかえりなさい。…どうでした?」
「うん、まぁ予想通りだな。あそこに見える祭壇っぽい所に転移陣が現れた。」
「にぃにが最初に言ってた通りっすね。」
「あぁ、このフロア、全部確認したが階段や昇降機らしきものはなかった。という事は、あの転移陣が次のフロアへ移動するための物とみて間違いないだろう。」
「じゃぁ、移動する?」
「ソラ、そんなに急がなくていい・・・まずは少し休憩だ。リィズもソラも大活躍だったから疲れただろう。」
とりあえず休めと促す。
「転移陣がいつまで発動しているかわからないから、余り悠長にはしていられないが、転移した先の状況が不明なので準備は必要だと思う。」
少しは休めるだろうと、リィズとソラを休ませている間に、俺は準備を進める。
「・・・ん。・・・うぅん・・・。」
リィズが目を覚ましたようだ。
「どうだ、体力は回復したか?」
「ぼちぼちっすね・・・ふぁぁ・・・。」
「ミリィとソラも起こしてやってくれ。そろそろ移動準備だ。」
「はぁーい。・・・にぃには寝てないんすか?」
「俺は、さっき休ませてもらってたからな。」
言いながら、俺は作業していた物を手早く片付ける。
ゴソゴソと物音がしたかと思えば、ミリィとリィズが起きてきた。
「レイさん、おはよーございまふ・・。」
「おにぃちゃん、おはよー。」
…よく考えたら今は朝なのか夜なのか…ダンジョンに入ってから時間間隔がマヒしてるなぁ…。
「よし、みんな起きたな、各自装備の確認をしてくれ。」
言いながら俺も装備を再確認する。まだアイテムも素材もある…大丈夫だ。
「大丈夫よ。」「いけるっす。」「問題ないよ。」
「じゃぁ、みんなにこれを渡しておく。」
そういって、ブレスレットとネックレス、指輪を各自に渡す。
ブレスレットはみんなお揃い、ミリィとリィズには指輪、ソラにはネックレスだ。
「これって・・・*ポッ*」
「にぃに・・・。」
「私も指輪ほしぃ・・・。」
あれ?みんなの反応がおかしいぞ?
「にぃに・・・嬉しぃっす!」
「あぁ、喜んでもらえて俺もうれし・・・いよ?」
「まさか、ここでにぃにからプロポーズされるとは思って無かったっす!」
え?あれっ?
「レイさん、・・・謹んでお受けいたしますわ。・・・ポッ」
あれっ?ちょっと待って・・・
「おにぃちゃん…ボクは、まだ早いの…仲間はずれじゃない…よね?」
「ちょっと、待ったぁーーー!!!」
なぜか勘違いされている。
「いいか、勘違いするなよ!それは位置確認のためのアイテムであって、プロポーズとかそんなんじゃないからな!」
「「「えー・・・・。」」」
(…普通指輪って愛の証に贈るもんだよね…。)
(…まぁ、普通はそう考えますが…レイさんですからねぇ…)
(…ボク指輪貰ってない…)
(にぃにだからしょうがないかぁー・・・)
(レイさんですからねぇ・・・)
(指輪・・・・)
三人で何かボソボソしゃべっているが知らないほうがいいような気がしたのでスルーすることにした。
「指輪とネックレスにはめ込んである魔晶石から微弱な魔力を放つようにしてある。一応魔力充填してあるからいざという時の魔力タンクとしても使えるぞ。
で、指輪とネックレスになっているのにはちゃんと理由がある。
ミリィは、すでに魔石のネックレスをつけているからな。アクセサリーとしては指輪がいいだろうという事だ。
リィズは、戦闘中動き回るからな、ネックレスだと邪魔になるだろうという配慮だ。
ソラは二人のような問題はないから、直にネックレスだ。
決してプロポーズの証だったりハブにしたわけじゃないんだ…わかるよな?」
うぅ・・・なんか三人の視線が冷たい。
「ブレスレットだが・・・とりあえず装着してみてくれ。」
各自が、腕にブレスレットを装着すると、一瞬光があふれ収束していく。
「中央に大きめの魔晶石、周りに8個の魔晶石が埋め込んであるのわかるか?」
皆が頷く。
「じゃぁ、ブレスレットに魔力を流し込んでみてくれ・・・。」
「中央の魔晶石が4色の光でで点滅してますね。」
「ボクのも・・・。」
「私のもそうっす。」
うまくいっているようだ・・・。
「そのままみんな少し離れてみて。」
「あ、光が離れましたわ。」
「ほんとだ。」
「ミリィとソラはそこに居てね。リィズ、俺と一緒にこっちへ来てくれ。」
二人にはブレスレットを見てるように言い、リィズと二人、隣の部屋まで移動する。
「にぃに、なんすか?ひょっとして二人っきりになりたくて連れ出したんすか?」
「アホか!ブレスレットよく視ろ。」
「うぅ・・・冗談が通じないっす…。」
ブレスレットを見てみる。中央は俺とリィズを表す黒と緑の光、周りの小さい魔晶石の中の一つがミリィとソラを表す青と金の光が交互に点滅している。
「これなんすか?」
「つまり…だ。ここに俺とリィズが居るから中央の魔晶石には俺とリィズを表す色の光が光っているんだ。」
「なるほどっす。じゃぁ、この小さい魔石の光はねぇねとソラって事っすね。」
「その通り。小さい魔石は、現在の俺達に対して方角を表している。ミリィたちはあっちの部屋に居るからこの位置の魔石が光るってことだ。」
「なるほどっす。」
「じゃぁ戻るぞ。」
リィズが理解したようなので、二人の元に戻ろうとするが…。
「にぃにちょっと待つっす。」
そう言ってリィズが抱き着いてきた。
「折角なのでにぃに分補給っす。」
「・・・あほか!」
ツッコミを入れるが、リィズは離れようとしない。仕方がないのでそのまま背負って戻ることにした。
「リィズ、どうしたんですか!?」
「リズ姉、怪我した?」
「甘えてるだけっす!」
そういって、リィズはスリスリしてくる。
「リズ姉ズルい。私も・・・。」
そういって、ソラも抱きついてくる。
・・・緊張感ないなぁ・・・・・・。
「ブレスレットの使い方は理解できたか?」
「はい。大丈夫です。」
「ボク達を表す光で位置がわかるんだよね。」
「あぁ、その通りだ。この先転移した時、また別の場所に飛ばされるかもしれない。これがあれば大体の位置が分かるから、速やかに合流することを第一として考える事。」
「わかったー。」「了解っす。」「わかりましたわ。」
「とりあえず、俺が先に行くが時間差が出来るかもしれない。転移先にモンスターがいるかもしれない。すぐ戦闘に入れるようにして移動するぞ。」
俺は剣を抜きながら、みんなに注意を促す。
「じゃぁ、先に行く。」
そういって、俺は転移陣に足を踏み入れた。
頭がクラっとする。しかし意識を失っては転移先に敵がいた時致命傷を負うかもしれない。何より、あとから来る3人を危険に晒すわけにはいかない。
俺は意識をしっかり持つ・・・。目の前がはっきりしてくる。
剣を握る手に力を入れる。足元をしっかり踏みしめ、周りを警戒する。
・・・敵はいなそうだ。後ろで転移する気配がする。
一応警戒をしたまま転移を待つ。アイツらだと思うが、万が一違ったらと思うと、警戒を解くわけにはいかない。
転移の光が消え去り、3人が姿を現す・・・。3人の姿を確認して俺は警戒を解く。
「無事転移出来たな。」
「周りは大丈夫そうですね。」
「あぁ。このまま先に進もう。」
「了解っす!先頭に立つっす!」
俺達はリィズを先頭にミリィとソラを真ん中、殿を俺が務める形で進んでいく。
通路を進んでいくと少し開けたところに出る。中央あたりにモンスターがいるのが見える。クロウラーだ。
「ここも、基本さっきまでのフロアと同じつくりみたいだな。」
「そうですね。戦闘方法も同じスタイルでいけそうですね。」
「じゃぁ、まずボクが相手の気を引くね。」
「そのまま私が突っ込むっす!」
「ミリィはそのまま待機な。リィズたちが怪我したら癒してやってくれ。俺はリィズのサポートをする。」
「お任せくださいね。」
「じゃぁ、いくぜ!」
「ハイ。!」
ソラのクロスボウから放たれた矢が、クロウラーの眼に突き刺さる。
ズシャッ!ズシャッ!
飛び込んで行ったリィズの双剣がクロウラーの外皮を切り裂く。そのままの勢いを利用して、向こう側に降り立ち切裂く。さらにサイドステップで位置を入れ替え切裂く。
一か所に留まらず斬りつけては距離を取る、ヒットアンドアウェイだ。
・・・動きが早くなっているな。連戦が続いているから慣れてきたかな?
RPGでいうなら「レベルが上がった」とでもいうべきか。
ソラも大分手馴れてきたようだな。クロウラー位なら問題なさそうだ。
この分ならローテーションを組んで休み休み進めていけそうだ。
このフロアを攻略し、次のフロアを確認できれば、ダンジョンの全体が推測できるかもしれない。
そうすれば出口までの推測もたつだろう。
とにかく、ある程度先が見えるようになるまでは、多少時間がかかっても安全マージンを取って進めていくしかない。
・・・できればどこかで素材を補充したいところだが・・・。
「ライトニング!」
リィズがクロウラーにとどめを刺す。・・・余裕だな。
このまま後2~3部屋攻略しよう。
あれから、調子よく攻略は進んでいる。今は少し広めの部屋で休んでいるところだ。
結界石を設置してあるので、安心して眠れる。
前フロアの広さから考えると、たぶん明日にはこのフロアの攻略が完了するだろう。
攻略は順調だが・・・次の階層あたりからパターンが変わるはずだ。
前の世界でのゲーム経験から見ても間違いないだろう。
できればこのフロア内で効果的なアイテムを手に入れるか、装備をパワーアップしておきたいところだけどな。
「レイさん、休まれないんですか?」
「いや、休むけど…ちょっと考え事がな。」
「寝付けないんですね。・・・私もです。だからチョットだけ傍にいさせて下さいね。」
そういって、ミリィは俺にもたれかかってくる。
俺は、その重みを感じながら先の事を考える。・・・もう少し情報が欲しいな。
まぁ、とりあえずは明日だな。明日このフロアを確実に攻略しよう。
ドラゴンまだ出てきませんねぇ・・・次ぐらいでダンジョン攻略完了の予定でしたが・・・このままでは後3~4回は脱出できそうにありませんね。