精霊とダンジョンとドラゴンと -その1-
ダンジョンです。正統派ファンタジーです。
・・・ちゃん、・・・ぃちゃん・・・。
…誰かが呼んでいる気がする・・・なつかしい・・・だれだろ・・・。
・・・ちゃん、・・・おにぃちゃん!
あぁ、今起きるよ・・・そう言って目を覚ます…。
「おにぃちゃん、おきた?」
「ん・・・うん?」
ここは…どこだ?
「よかった、目を覚ましてくれた。」
「・・・ここは・・・そうか。」
俺は、ミスル鉱山の転移陣で飛ばされて…ハッ!
「あの女の子は?ミリィは?リィズは?みんな無事なのか?」
あわてて周りを見回す・・・。すぐ横でちょっと困ってる顔をした少女がいた。」
「君は・・・無事だったか?・・・他の二人を知らないか?」
「ウン、ボクは大丈夫。・・・お姉ちゃん達は・・・わからない。」
気付いたら俺が近くで倒れていたそうだ。
「そっか、あの二人なら大丈夫だろうけど早く合流しないとな。・・・あっと、えぇーと・・・。」
そう言えば俺はこの子の名前を知らない。
「ソラ。ボクのことはソラって呼んで。」
「じゃぁ、ソラ。色々聞きたいこともあるけど、まずは二人と合流したい。ついて来れるか?」
ついて来れないようならここで待っていてもらうつもりだったが、ソラは大丈夫という。
「一応聞くが、ソラは戦えるのか?」
ソラは戦ったことがないからわからないという・・・だろうな。これくらいの年で戦える方がおかしい。
狩りに参加したことはあるらしいのでちょっとした武器の扱いはできるかもしれないが、基本的に戦えない前提で動くか。
「じゃぁ、まずは…。」
いくつかアイテムを取り出し、ソラに渡し使い方を教える。
「使い方は今教えたとおりだ。自分のみが危ないと思った時に使うんだ。」
コクコクとソラがうなずく。
「次は…と、…『英知の書』!」
俺はグリムベイブルを取り出す。魔力を封印されてから色々試したが多少の制限が出たものの、ほぼ問題なく使えることが分かった。元々魔力を使わない存在なのだろうか?
「鑑定:現在の場所」
色々と試していた時に見つけた、この機能…意外と便利だ。俺の認識外の部分においては分からないが、例えば、目に見えているもの、手に触れている物等は、それがどのようなものか詳しく教えてくれる。簡単に言えば自動で検索してくれる百科事典みたいなものかな?本来はこういう使い方をするのが正しいのではないかと思ってしまうほどに便利だ。
・・・・・・
・・・
・
「鑑定結果:現在の場所」
ダンジョン…現在地不明。総階層数不明。用途不明。生息モンスター情報量不足。設置罠情報不足。設置宝箱情報不足。採集可能素材各種中級薬草、各種中級鉱石、その他情報不足。
ミスル鉱山入り口に設置された転移陣より移動可。出口転移陣位置情報不足。
ダンジョン内の転移陣はすべて一方通行。
・・・・・・・・・。
情報不足の部分は、これから俺自身が見聞き体験することにより埋められていくだろう。
また最初に起点鑑定しておけばオートマッピング機能も働くのでダンジョン探索にはもってこいだ。
「さて、じゃぁ、移動するぞ。ソラ、遅れずについて来いよ。」
ソラに声をかけて狭くなっている方・・・通路と思わしき方へ向けて歩き出す。
しばらく歩くと目の前が広くなる。最初にいた場所と同じぐらいの広さがある。
中央付近に大きな山みたいなのが動いている・・・よく見ると巨大な芋虫だった。
「キャッ!」
芋虫の姿がはっきり見えると、ソラが悲鳴を上げる。
まぁ、芋虫が好きな女の子は少ないだろう。それが自分の体より数倍大きいともなれば尚更だ。
「『英知の書』!」
「鑑定:目の前の芋虫」
・・・・・・
・・・
・
「鑑定結果:クロウラー」
芋虫型の巨大モンスター。体長は2~10mと幅広い。
糸を獲物に巻き付け捕食する。
外皮は固いので、剣等の刃物は聞きにくいがお腹側が比較的柔らかい。
魔法抵抗力は低め
弱点は火
採れる素材、クロウラーの外皮、虫の肉、クロウラーの生糸
魔種クラス 8等~ランク外
・・・・・・・・・
とりあえず、良さそうなアイテムも落とさなそうだし一気に燃やせばいいか。
俺は、火炎球を取り出しクロスボウにセットする。
本当は銃を作成し、弾丸として打ち込む構想だったが、銃身の素材としてグラスメイア鉱石が必要だった事と、他に必要な属性石が足りなかった為にミスル鉱山村に着いてから作成しようと思っていたのだが…。
まぁ、今更ない物ねだりしても仕方がない。俺はクロスボウを構え、クロウラーに狙いをつける。
シュート!
火炎玉がクロウラーに当たり飛び散る。そして一瞬の静寂の後…一気に燃え盛る。
クロウラーが炎に包まれる。後は待つだけでいい。突っ込んでとどめを刺す方が早いが、こっちにはソラがいるので、ムリはできない。
「・・・すごい・・・。」
燃えるクロウラーを見てソラが絶句している。
炎が収まり、一応解体して魔種を拾っておく。ダンジョンでは新たなモンスターの基になるとかって言ってたからな。後ろから襲われたらたまらん。
そのまま先へと進むと、また広い場所へ出た。どうやらこのダンジョンは各部屋があり、それを通路でつないでいる構造のようだ。今の所一本道だが分岐があった場合どうしようか悩む。できれば、分岐に当たる前にミリィたちと合流したい。
その後も何部屋か通過したがほとんどの部屋にクロウラーがいて退治するのに時間がかかった。
放っておいてすり抜けることも考えたが、万が一の事を考えて後顧の憂いは絶っておくことにした。
途中ソラが「ボクもやってみたい。」と言い出したので、クロスボウの手ほどきをした。
今後の事を考えると、自分の身を守れるぐらいに戦うことが出来るのは決して無駄にはならないからな。
ソラは意外とクロスボウの扱いがうまかった。また、解体なども手際が良かった。
「ボク、みんなのために少しでも早くたくさん採らないといけなかったから。」
もたもたしていると分け前が減るので必死だったそうだ。
何個目かの部屋に入るとそこにはクロウラーがひしめいていた。部屋をよく見ると通路が3つある。たぶん、ここが通り道になるのだろう。
俺は、まず中央の塊に向けて火炎球を放つ。
「ソラ、抜けて向かってくる奴がいたら火炎球を打ち込め!」
「ウン、任せて。」
ソラに指示を出すと、俺は剣を抜いてクロウラーに向かって走り出した。
『火炎剣』
俺はキーワードを唱えて柄の小玉から魔力を流す。
刀身が炎を纏う。
俺はそのままの勢いでクロウラーを切り裂く!
切口から黒煙が立ち上り、肉の焦げるにおいがする。そのまま剣を横薙ぎに・・・近くのクロウラーに横一閃!さらに切裂き、バックステップで距離を取る。
剣先を地面に突き刺し、魔力を流す。
手首の紋様に魔力が吸い取られるが気にせず流し込む・・・
『炎風陣!』
剣先を中心に魔力が広がる。その魔力をクロウラーがたむろう方へ導く・・・炎が舞い上がりクロウラーに向けて炎柱が走っていく!
火柱に当たったクロウラーは燃え出す。
「きゃぁ!」
後方で悲鳴が上がる。
「しまった!」
ソラが襲われている。…間に合うか!
「ライトニング!」
「炎の鳥」
魔法を唱える二つの声が聞こえ、空を襲おうとしていたクロウラーを排除する。
そして杖を持つ女性がソラを保護する…ミリィが間に合ってくれたようだ。
双剣を構えた小柄な少女…リィズが周りのクロウラーを切り裂いていく。
…あっちは任せて大丈夫だな。
俺は前方に目をやると、まだ息のあるクロウラー達に次々ととどめを刺していく。
すべてのクロウラー達が息絶えたのを確認して、俺は二人の元へ向かう。
「・・・にぃにー!」
リィズが勢い良くぶつかってくる。
「にぃに、にぃに、無事でよかったー!…ぐすん」
「リィズ、泣くなよ。お前も無事でよかったよ。」
「だって、だってぇ・・・。」
泣きじゃくるリィズを抱きしめながらミリィの方を見る。
ミリィもホッとした表情で涙を浮かべている・・・が、何故かソラを抱きしめている。
まぁ、ソラも可愛いからな、ミリィの琴線に触れたんだろう。
「ミリィも無事でよかった。後、力入れすぎるなよ。ソラが目を回してる。」
***・・・***
リィズもミリィも落ち着いたところで、俺達は情報交換することにした。
「気づいたらリィズが倒れていて、起きるまで待ってたんです。」
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「おっきなムカデの群れがウジャウジャと…気持ち悪かったっす!」
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「途中分かれ道があったんですが…」
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「こっちに来て正解だったっす。にぃにのピンチに駆けつけたっす!」
話をまとめると、転移陣で転移させられた後、やはり二人共意識を失っていたようだ。
ミリィが先に目覚めたものの周りに誰もいなく、探したら少し離れたところにリィズが倒れていたので介抱しながら目覚めるのを待っていたそうだ。
リィズが目覚めた後、二人で相談して先に進むことに決めた。
二人がいたところは俺達の所と同じく行き止まりだったため、俺と合流する為に待っているよりは先に進んだ方が早く合流できるだろうと考えたからだ。
マッピングデータと二人の話を合わせてみると、どうやら俺達は隣同士の部屋に居たらしい。
ただ一本道の為、合流するには大回りが必要だったが。
先に進むと俺達の時と同じように広い部屋があり、そこにはムカデのモンスターがいたそうでリィズの軽いトラウマになったとか。
その先も巨大ムカデ、クロウラーなど虫モンスターのオンパレード・・・ミリィとリィズは何ながら駆け抜けてきたそうだ。
しばらく進んだところで分かれ道となっていてどっちに行こうか迷っている時に爆音が聞こえたそうだ。たぶん「炎風陣」を使ったときだろう。
部屋に入ったところで、女の子が襲われそうになっているのを見かけて、助けに入ったそうだ。
「そっか、いいタイミングだったよ。助かった。」
その後、俺もこれまでの経緯を話す・・・。
「・・・というわけで、二人との合流を優先にしたから、俺もまだ詳しい話はしていないんだ。」
と言ってソラの方に目をやるとミリィに抱きかかえられたまま、ウトウトとしている。
「二人も疲れただろう。とりあえずは一息入れて、休んでから、これからの事相談しよう。」
「そうね、ソラちゃんの事も気になるけど、休ませてあげようね。」
「じゃぁ、私も…。」
と言ってリィズが抱きついてくる。
まぁ、今は仕方がないよな。
俺はリィズを抱き上げて膝の上にのせてやる。
「とにかく休めよ。…お疲れさん。」
リィズの頭を撫でてやる。リィズは俺の胸の中に顔をうずめていたがやがてすぅーすぅ―と、寝息が聞こえるようになった。
「ミリィも疲れてるだろ?横になったらどうだ?」
「私は大丈夫よ。でも・・・。」
ミリィが空を起こさないようにそっと抱きかかえたまま俺の横に移動してくる。
そのまま俺に体重を預けてきて…。
「しばらくこのままいさせてね。」
・・・やがてミリィの方からも寝息が聞こえてきた。
俺も安心したら眠気が襲ってきた。とりあえず、周りに結界石設置してあるし大丈夫だろう…。
俺はそのまま眠気に抗わずに意識を手放した…。
精霊もドラゴンも出てきませんでした。
仕方がないのでタイトルを変えました
(その1がついてます…前編でも良かったんですが;)
※週末に書き溜めて毎日更新できるようにします。