鉱山村と孤児の少女
新ヒロイン登場の予感・・・
「エア・スラッシュ!」「エア・スラッシュ!」「ライトニング!」
「おーい、はしゃぐのはいいけど、気をつけてなぁー。」
「ライトニング!」「ライトニング!」
「アハッ!楽しぃ―。もひとつ「ライトニング!」・・・やった!」
…ダメだ、聞こえてねぇ。
「リィーズぅー、大きいの行くからよけてねぇー。」
・・・ミリィもさっきからはしゃぎまくりだ。
「行くよ!大地の精霊さん、お願い!『大地崩壊!』」
ミリィの魔法が放たれたところを起点に大地が唸りを上げて崩れ落ちる。崩壊が収まった後には半径100m位のクレーターが生じていた。
そこに居たはずのゴブリンたちは跡形もなく消え去っている。
事の起こりは、先日二人の為に作った武器が原因だった。
ミリィの杖はうまくできたものの、リィズのショートソードは素材強度が足りなかった為、途中で魔力崩壊してしまった。
怒ったリィズのご機嫌を宥めつつ新しいショートソードが出来たのが今朝の事。
試し切りをしたいと言っていた矢先、ミリィがゴブリンの巣を見つけたので、ミリィとリィズの犠牲になってもらった…という事である。
「おーい、全部埋め立てちゃったらお宝見つからないじゃないか。」
「任せるっす!…エア・スラッシュ!、エア・スラッシュ!」
おぉー、エア・スラッシュで穴を掘るとは…あり得ねぇ…。
結局、元々無かったのか、地中深く埋もれてしまったか、お宝は見つからなかった。
「にぃに―、これ凄いっす。魔力効率半端ないっす。ありがとっす。」
喜んで頂けた様で何よりだ。
「明日にはミスル鉱山村に着けそうだな。」
「村に着いたらゆっくりしたいって言ってましたけど、何かあるんでしょうか?」
「あぁ、ミスル鉱山の奥の方ではグラスメイア鉱石が取れるんだ。」
「グラスメイア鉱石って、あのミスリル銀に並ぶレアメタルっすか?」
「よく知ってるな。ミスリル銀と同程度の魔力伝導率を持ち、加工次第ではミスリル銀より強度が高くなるという、鍛冶師垂涎の鉱石の一つだよ。購入出来ればいいけど、ムリなら採掘させてもらえないか頼んでみるつもりだ。」
「最近、にぃにの生産熱が凄いっす・・・。」
「グラスメイア鉱石があればウィング・エッジのパワーアップが出来るぞ?」
「にぃに、早く鉱山村行くっす!休んでる暇ないっす!」
「リィズ、慌てないの。今夜一晩中歩いても辿り着けないわ。だから、今夜は早く休んで明日頑張りましょう。」
「そういうことだ。慌てなくてもグラスメイア鉱石は逃げないよ・・・たぶん。」
逃げなくても在庫切れはあるかもしれない…。
翌日の昼過ぎ、鉱山村を目前にして俺達は休憩をとっていた。
「うぅ・・・、ねぇねゴメン。」
「はしゃぎすぎ!言う事聞かないからですよ。」
リィズが寝込んでいる。
珍しい事もあるものだと思うが、ただでさえ前日調子に乗って魔力剣を使い過ぎてた上に、興奮して眠れないからって一晩中森の中を「試し打ち」して回っていた・・・魔力枯渇を起こさない方がおかしいだろ。
「川で冷たい水でも汲んでくるよ。リィズの事頼むな。」
「はい、行ってらっしゃい。」
川縁まで来た・・・とてもいい陽気だ。眠くなってくるな・・・。
・・・っといかん。リィズとミリィが待ってるから早く戻らないと。
~~~~♪
水を汲んで戻ろうとすると、どこからともなく歌声が聞こえる。
・・・いい声だ。つい聞きほれてしまう。
~~~~~♪
・・・ん?、この曲・・・。
~~~♪
まさか…。俺は歌声の主をさがす。
~~~~♪
なぜ、この世界で、この曲が!?
~~~♪…~~~~♪
・・・・・・知らない曲に変わった…。
・・・がさっ・・・
茂みを掻き分け、抜けた所に大きな岩があり、その上に座って歌っている女の子がいた。
~~~♪
「・・・!?だれっ?」
歌うのを辞めた女の子が、岩の陰に隠れる。
「ごめん、驚かせちゃったかな?」
「・・・だれ?」
「俺はレイフォード。…旅人だよ。」
「…村の人じゃ…ない?」
「それより、君がさっき歌っていた歌・・・。」
「逃げて…村に…近寄っちゃダメ!」
そういって、女の子は走り去っていく。
「あ、ちょっとまっ・・・行っちゃったか・・・。」
村に近寄るな…って。それよりあの歌…。
村の子…だろうか?また会えるだろうか?
今度会ったらあの歌事を聞かないとな・・・。
「あ、にぃにお帰りっす。」
リィズが出迎えてくれる。
「もう大丈夫なのか?」
「迷惑かけたっす。もう大丈夫っす。」
「じゃぁ、片づけたら出発しようか。」
「準備はできてますからいつでも行けますよ。」
「ミリィはいつもながら手際良いな。…じゃぁ行くか。」
「「はい。」」
「村に寄るなって・・・何かあるのでしょうか?」
俺は、先程会った女の子の事を二人に話した。
「わからん・・・。」
「結局村に行かないと分からないっすよね。」
「そういうことだな。」
すべては村に入ってからだな。
--**--**--
「ミスル鉱山村」・・・領地内最大級を誇るミスル鉱山の麓に位置する村である。
ミスル鉱山は、産出量もさることながら、領地内ではここでしか採れないグラスメイア鉱石のおかげで、各地よりたくさんの人が集まってきた。
人が集まれば、その人たちを相手に商売が成り立ち、商人が来れば宿泊施設が必要となり…そうして自然と出来た村が鉱山村である。
普段より鉱夫が出入りしている為、村中はいつも賑わっているのだが・・・。
「静かですね・・・。」
「誰もいないっす。」
・・・確かにおかしい。人がいる気配はあるのだが、誰も外に出ていない。
「こういう時は冒険者の基本に戻るか?」
「冒険者の基本…ですか?」
「酒場で情報収集っすね。」
「その通り…ってことで行くか。」
カランカラン…。
酒場に入ると数人の客が、入ってきた俺達に視線を向け…何事もなかったかのように談笑に戻っていた。
「マスター、シードルを3杯と軽く食べれるものを適当に。」
「…はいよ。」
出されたシードルに口をつける。特に薄めてあるわけでもなく、まっとうな酒場だという事がわかる。つまみを適当に口にしつつ、マスターに話しかける。
「外に人いないけど、鉱山に何かあったのかい?グラスメイア鉱石を買い付けに来たんだけど?」
「そりゃぁ、タイミングが悪かったな。今、鉱山は閉鎖中だよ。」
「なんでまた…。」
「さぁな、あっちの連中の方が詳しいんじゃないか?」
「そうかい、じゃぁ、ここに居る連中に1杯ずつやってくれ。俺のおごりだ。」
マスターに注文をした後、談笑している客の元へ行く。
「少し、話させてもらっていいか?」
「あん?話すことなんかねぇよ。」
「あのぉ、村の外にはなぜ人がいないのでしょうか?」
「おぉ、嬢ちゃん、それはな…。」
俺の言葉は無視する癖にミリィにはベラベラと…こんな村キライだ・・・。
「まぁまぁ、にぃに、こういう日もあるっす。」
ミリィが聞きだした話によると、最近鉱山の奥から何やら怪しい声が聞こえるという。
さらに行方不明者が出たり「化け物を見た」という目撃情報などがあるという。
そのため、現在は鉱山を閉鎖。近くの街の冒険者ギルドに調査依頼を出して待っている状況だという。
ついでに、森で会った女の子の事も聞いてもらったが誰も知らないという。ただ、近くの街から孤児が流れ着いていることがあるらしいので、そのうちの一人じゃないかとのことだった。
「鉱山閉鎖って事はグラスメイア鉱石は手に入らないっすか?」
「原因が分かって再開するまでは無理だろうなぁ。」
「冒険者ギルドに依頼が出てるんですよね?それって私たちが受ける事ってできないんですか?」
「ねぇね、それだ! 私たちで解決すれば万事OKっす!」
「受けるのはいいが、ここからギルドのある街まで行って、戻ってくるのか?どれだけかかるんだ?」
「各村や街にはこういう事態に備えてギルドに直接連絡手段が用意されているっす。この村の場合は酒場のマスターか村長さんのどちらかが連絡取れると思うっす。」
「じゃぁ、まずは酒場に行ってマスターに聞いてくるか。」
リィズの言う通り酒場のマスターを通じてギルドと連絡が取れた。
依頼は確かに来てるが、受ける冒険者が居なくて困っていたらしく、俺達が受けてくれるのならと二つ返事で受理してもらった。
「依頼内容は鉱山の調査。そしてできる事であれば原因の排除だ。今日は準備して明日鉱山に行くぞ。」
「「はぁい。」」
その夜、俺達は明日のための準備をする。
「装備は問題ないか。」
・・・自分の分を新しく用意出来無かったのは残念だが、まぁ、仕方が無い。
「レイさん、ポーション類はどうします?」
「そうだな、各自数本ずつ持って後はミリィが持っててくれ。」
「にぃに、私の手持ち分ってこれだけっすか?」
「いや、これをいくつか持って行ってくれ。」
「これって、にぃにが作ってた・・・。」
「そう、炸裂玉に煙幕玉、麻痺毒に爆風他色々詰め合わせ。攪乱、撤退どのような状況でも役立つはず。」
アイテムの分配、鉱山内でのフォーメーション、突発的なトラブルが起きた際の対処法など考え得る限りの事態を想定し、念入りな準備を行った。
「よし、これで準備は万端だな。後はゆっくり休んで体調を整えよう。・・・特にリィズ、ちゃんと寝るんだぞ。」
「うぅー、にぃにがギュッてしていてくれたら寝れるかもっす。」
「・・・それもいっか。じゃぁ、リィズ、ミリィ寝るか。」
「えっ?・・・にぃにがデレた?」
「たまにはいっかと思ったんだが・・・やっぱ一人で寝るわ。」
「あぁ、嘘っす、冗談っす。ほら、ねぇねはやく寝るっす!」
・・・俺の腕の中で、リィズがスヤスヤと寝息を立てている。昨晩も寝ていなかったし、疲れていたのだろう。不思議な感じだ…。
変な気が起きないわけでもない。俺に好意を抱いている・・・しかも、それを隠そうとせず真っすぐにぶつけてくる美少女が腕の中にいる・・・。これで変な気を起こさないほうがおかしい。
ただ、それ以上に今はこうして抱きしめる、ただそれだけでいいという気持ちの方が強かった。
「レイさん・・・。」
逆の腕の中にはミリィがいる。リィズと同じく、俺に好意を寄せてくれている。ほんと、どこのリア充だよと言いたくなる。
俺が求めれば、二人とも応えてくれるだろう。それに何の問題があるのかとも思う。
ただ・・・心のどこかでそれでいいのか?と問いかける声がする・・・。
「無理…しなくていいんですよ。私は・・・私達は待っていますから。」
ね・・・といってギュっとしがみ付いてくる。
俺の心の迷いを見透かしたかのようにミリィが言う。ほんと、敵わないな。
ミリィをぎゅっと抱きしめる。
今日の俺は、確かにおかしいかもしれない…明日の事が不安なんだろうか。
ただ・・・今は、今だけは、腕の中の温もりを感じながらゆっくりと休むことにしよう…。
翌日、俺達は村の人の案内で鉱山の入り口の 前まで来ている。
「ここから入って50m程降った所に坑道の入口があるのじゃ。」
そう言いながら進む村長さんについて行く俺達。
暫く歩くと「ここじゃ。」といって立ち止まる村長。
目の前の入口は大きな扉が閉まっている。
「モンスターが出るっちゅう噂もあって閉めているんじゃが、今開けるでのぅ。」
といって村長さんが鍵を開けると、他の村人たちが扉を開けてくれる。
「行方不明者も出ておる。気をつけて行くがええて。」
「あぁ、じゃぁ、行ってくる。」
そして鉱山に入ろうとしたその時・・・。
「ダメッ!逃げて!」
そう言って女の子が飛び出してきた。
「ここは危険なの。入っちゃダメッ!」
その女の子には見覚えがあった。森で歌っていた少女だ。
「ジャマスルナァ・・・。」
なぜと聞く間もなく少女の体は村人たちによって鉱山の中に押し込まれる。
「なにを・・・っ!」
「きゃぁ・・・。」
そのまま俺達も鉱山の中へ押し込まれ・・・扉が閉められた。
ガチャリと鍵を掛けて音がした・・・。
「大丈夫か?ケガしてないか?」
俺は一緒に押し込まれた少女と二人に声をかける。
「私達は大丈夫よ。」
ミリィが答えてくれる。
「ダメ・・・逃げて!」
少女が言う・・・が。
「逃げてと言われても・・・ッ!」
俺たちの足下が光り出した。避けようとするが足下が固定されて動けない。
「チッ!転移の陣か!」
俺は近くにいた少女に向かって手を伸ばすが、触れる寸前に少女が転移する。
そして次の瞬間、俺も・・・。
転移する寸前に考える・・・。どこに跳ばされるのだろうか?
そして俺の意識はブラックアウトした・・・。
次はダンジョンアタックです。