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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
12/153

初めてのクエスト

勇者様(笑)の後を追います。

初めてのお使い…じゃなくクエストですが、彼方は余裕ぶっこいてます。


 「…にぃに…にぃに…」


 リィズが呼んでいる。

 小さな声で「こっちだ。」と呼ぶ。


 ・・・しばらくしてリィズの姿が見える。


 「にぃにぃー!」


 リィズは俺の姿を見つけると一気に詰め寄り、ぎゅっと抱き着いてくる。


 「にぃに、にぃにぃー。」


 心配したんだからと泣きじゃくるリィズ。

 俺はリィズが落ち着くまで抱きしめてやった・・・。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「じゃぁ、行こうか。」


 「にぃに、行くってどこへ?」


 はぁ、リィズは何を言ってるんだ?


 「いや、今、依頼受けただろ?だから早速行こうかって言ってるんだが?」


 「イヤイヤ、にぃに、ちょっと待つっす。落ち着くっす。」


 何言ってんだ、コイツ…という表情で俺を引き留めるリィズ。


 「いきなり向かうって、一体何考えてるんすか?準備とかはどうするんすか?」


 「んー?行って、見て、帰って来るだけだろ?何の準備がいる?」


 なんだ、コイツと驚愕の目で見るリィズ。


 「・・・リビングアーマーと戦闘になったらどうするんすか?」


 「いや、それは、アレだろ?・・・こう、魔法で・・・ドッカーンと・・・。」


 「・・・。」


 ・・・ダメだコイツって目で見られている。


 「はぁ・・・、普通魔法使いって、頭がよくって論理的に・・・計算高く、ネチネチと嫌がらせの様に戦う人なんですが・・・。


 ナニ、ソレ?褒めてんの?貶してんの?


 「にぃには力業で押し通すタイプだったんすね・・・。」


 ・・・流石は爆炎の断罪者っす、ッパネェっす。

 リィズが何かつぶやいてるが、よく聞き取れない。


 「レイさん、ココは経験者のリィズに色々手解きをしてもらうべきじゃないかしら?何分、私たちは初めてですし、リィズは経験豊富そうですし・・・ぽっ。」


 「ねぇね、言い方がちょっとやらしぃ・・・何顔朱らめてんの!」


 「そうだな、『経験豊富』なリィズに『色々な技』を仕込んでもらうか?」


 「もぅー、にぃにまでー」


 リィズが顔を真っ赤にしている・・・からかい過ぎたか。


 「冗談はともかく、普通こういう場合どうするんだ?」


 「まず必要なのは事前準備っす。とりあえず旅の準備っすね、水とか食料とか。各自の装備の確認も必要っす。それから現在わかっている情報を集めて、その情報をもとに更に必要なものがあればそれも準備するっす。」


 「なるほどね。・・・んー、村まで戻る余裕はないな。とりあえず各自手分けして必要な物を揃えよう。ミリィとリィズは食料などの買い出しと情報集め頼む。俺は、鍛冶屋の親父の所行ってくる。」


 俺は二人に指示を出すと、待ち合わせ時間を決めて分かれる。

 別れ際「遅刻したらペナルティっすよー。」とリィズが叫んでいた。


 「まずは装備の確認だな。」


 俺は鍛冶屋の親父の所に向かう。俺とミリィに関しては魔法主体だし、ミリィには以前贈った杖もあるので問題ないが、リィズの持っているナイフではちょっと心もとない。


 「本当は本人に選ばせた方がいいんだろうけど…。」


 時間がないから仕方がない。今度、リィズに合わせて作ってやるから我慢してほしい。


 「親父ぃ、ちょっと話がある。」


 「ん?坊主か。どうした?」


 「ギルドで依頼を受けたから、これから出発なんだ。急いでいる。」


 「おいおい、いくら何でも急すぎやしないか?餞別なにも用意できてないぜ。」


 「いや、それはどうでもいいんだ。それより以前見せてくれた小剣あったろ?あれもう一度見せてくれ。」


 「どうでもいいって・・・。ちぃっ、しゃぁねぇなぁ・・・。ほらよ。」


 親父がよこした小剣を手にとって、じっくりと見る…これならいけそうだ。


 「親父、この剣売ってくれ。今手持ちがないから、納品した剣の売上金から引いてくれると助かる。」


 「・・・まぁ、いいけどよ。それ、坊主には合わないだろ?」


 「あぁ、俺のじゃなくリィズのだ。リビング・アーマーと戦闘になるかもしれないから・・・ちょっと奥借りるよ。」


 親父に断り、奥の作業場に入る。


 在庫棚を見回し、目当てのインゴットを見つけると勝手に取り出す。


 途中で買ったマジックジェムを取り出し、インゴットと共に作業台へ並べる。


 「さぁやるか!」


 インゴットとマジックジェムを手にして集中…魔力を注いでいく。

 十分魔力が行き渡った素材を炉に放り込む。

 買った小剣を手に魔力を注ぎ込む…行き渡ったところで炉にくべる。


 炉に魔力を注ぎ集中・イメージ…刃全体を素材がくるむように…魔力を纏うように・・・。

 魔力を流しながら小剣を鍛えなおす。一から鍛えているわけではないので時間はかからない。


 最後に柄の部分を、マジックジェムを嵌め込み調整する。


 出来上がった小剣を握り、イメージして魔力を流す・・・ジェムから剣先へ毛細血管のように魔力が流れ巡るイメージ・・・


 「・・・『光魔付与(エンチャント)!』」


 イメージが確定したところでルーンを唱える。


 「・・・出来合いだが、とりあえずはこんなもんだろ。」


 完成した小剣を持って作業場を出る。


 「ん?坊主終わったのか?・・・いい出来じゃねぇか!」


 俺の手にしている小剣を見て親父が言う。


 「あぁ、急に悪かった。助かったよ、ありがとう。」


 俺は親父に礼を言って店を後にする。


 「待ちな!」


 店を出たところで親父が呼び止める。


 「隣のバァサンからの餞別だ、持っていきな。」


 そういってアミュレットを3つ手渡された。


 「気をつけてな、レイフォード。」


 坊主ではなく、レイフォードと俺の名前を呼び、がんばれよ…と照れ臭そうに笑いながら親父は店に戻っていった。




 「にぃに、遅いっすよ。」


 待ち合わせ場所では既に二人が待っていた。


 「悪い、ちょっとコレ造ってたから。」


 ほらっ、とリィズに小剣を渡す。


 「時間もないし、間に合わせだから1本だけだけど。」


 「にぃに・・・。」


 リィズは感動して声も出ないようだ。


 「・・・にぃに・・・。遅刻は遅刻っす。こんなものじゃ誤魔化されないっすよ。」


 ダメだったらしい・・・。


 「リィズばっかりいいなぁ・・・。」


 ミリィは自分へのお土産がなかった為拗ねている。


 「・・・この依頼が終わったら何か作ってやるから。」


 「ほんと!」


 ご機嫌になったミリィがギュっと抱き着いてくる。


 「…ねぇねばっかりずるいっす…。」


 ・・・どないせいと・・・・・・。



 

 「ところで…。」


 俺は二人の後ろに群がる集団に目を向けて…


 「コレは…?」


 「ハッ!」


 二人の後ろに居た集団がビシッ!と整列する。


 「我々は『ミリィちゃん見守り隊』の者であります!」


 「同じく我々は『リィズちゃんに踏まれ隊』であります!」


 ビシッ!と一分の狂いもなく敬礼してくる。


 「「お二人が危険な依頼を受けたと聞き及んだのであります!!」」


 ・・・情報早いな・・・オィ・・・。


 「「ぜひ我々も「ミリィちゃんの」「リィズちゃんの」・・・『初めて』をごいっ・・・しょばぶぁばぁー・・・。」


 『爆風(ボムッ)


 最後まで言わせず、爆風(ボムッ)で吹き飛ばす。


 見た目は派手だが、範囲を絞り込み威力も最低限まで抑えてあるので、吹き飛ぶだけで周りに被害も出ないし、奴らにもダメージはない・・・はず。

 変な奴らが多いため、こんな魔法ばかり上達していく…平和だなぁ…。


 「「・・・。」」


 ミリィもリィズも困った顔で見ていた。


 「・・・行くか。」


 「「はい・・・。」」



 俺たちは直接森にはいかず、手前の村を目指すことにした。


 基本、アンデットは夜の方が活動的になるので、討伐するなら夜になってからの方が効率的だ。


 だから勇者たちも、その村で夜を待っているはず。

 そこで捉まえて、ギルドに連絡、応援が来るまで引き留めておけば依頼終了である。

 

 「・・・という事で、村への被害は今の所ないらしいわ。」


 「討伐隊も森を出たら追ってこないって言ってるっす。」


 俺たちは、道すがら情報共有を行っている。


 「う~ん、森が一つの境界になってるか・・・出てこないのか、来れないのか…。」


 「にぃに、それって違いあるんすか?」


 「いや、リビングアーマーが出現した原因にもよるから何とも言えないんだけど・・・。例えばリビングアーマーの出現原因が何らかの現象によるものだったとして、その効果範囲というかエネルギー源というか、とにかく『森の中でしか存在できない』というものであれば、比較的楽なんだけどね。」


 「森から出ることが出来ない…ってことすか?」


 「そう、影響力は森の中だけ。だから、村の人には安心してもらえるし、原因を探るのに時間がかかってもそれほど問題はない。」


 逆に…と続ける。


 「怖いのは出れるのに出てこない場合だね。その場合『命令』の可能性が高い。」


 「命令している人がいるってことですね。」


 「そう。その場合、相手の都合次第になる。今この瞬間『村を襲え!』って命令しているかもしれない。」


 「じゃぁ、早く行かないといけませんわね。」


 「あの『勇者様』は、絶対わかってないだろうからなぁ。・・・ん?リィズどうした?」


 「・・・今すごっく嫌なことが頭をよぎったっす・・・。」


 「何か気になるのか?」


 「この依頼は達成できることは間違いないっす。」


 「そうだな。」


 「でも、あの『勇者様』は、絶対大人しくしてないっすよね?」


 「まぁな。」


 「この依頼、引っ掻き回されるのは目に見えてるっすが、達成しちゃう…出来ちゃうっすよ。」


 「それが?」


 「…ってことは、今後『あの勇者様』が何かする度に、ワタシたちが後始末に駆り出される様になるんじゃないかと考えてしまったっす。」


 「「・・・。」」


 「まさかぁ・・・。」


 「無いと言い切れるっすか?」


 「…怖いこと言うなよぉ。」


 マジであり得そうで怖い。




 「ついたっす!」


 「まずは、勇者を探すか。」


 「聞き込みですね。」


 俺たちは村に着いた後、勇者がどこにいるか?リビングアーマーの被害は?他に気になることがあるか?等村人達に聞いて回った。


 一通り聞き終えた頃には、あたりが薄暗くなってきていた。



 「やっぱり森の中に入ったようですね。」


 「大人しくしててくれれば、終わってたのにな。」


 「まぁ、想定内っすよ。」


 俺たちは今森の前にいる。勇者たちが森へ向かったというので、追いかけてきたのだが・・・。


 「じゃぁ、一応確認な。俺が前を歩くから二人は後をついてきてくれ。その際、リィズは後ろを警戒な。」


 「了解っす。」


 「戦闘になったら、ミリィを囲んで守る様な位置取りで、リィズは攪乱、ミリィは補助と援護を頼む…ただ、初めての事だからな。実際にはその場の臨機応変になるだろうな。」


 「治癒魔法は使えるし、アイテムも持ってきてるけど…二人とも無茶しないでね。」


 俺は他に何か言うべきことはないかと考える。


 特に戦闘に関しては3人での連携は初めてなので出来る準備や助言は先にしておきたい。

 

 ミリィは弓矢と精霊魔法で戦うタイプだからどうしても接近戦に対する攻撃手段が少ない。一応攻撃用のアイテムも渡してあるが、やっぱり距離が取れるように俺たちが立ち回る方がいいだろう。


 ミリィの精霊魔法は多種に渡り強力だが、今回使えそうなのは闇の精霊と森の精霊が中心になりそうだ。対アンデッドには少し弱いか・・・。


 「ミリィ、矢だけど、念のため今のうちに聖水に浸しておくといいかも?」


 「あ、そうね。アンデッドさん相手だもんね。」


 ミリィが聖水の小瓶を取り出して、鏃に吹き付けていくのを見ながら、リィズに意識を向ける。


 リィズは、ナイフもしくは小剣を両手に持ち、相手の攻撃を躱しながら斬り裂いていくタイプだ。

 一撃の力が無い分、手数と急所狙いのクリティカルヒットで勝負するから、スピード命ってやつだな。


 ただ、リビングアーマー相手に何処までダメージを与えられるか?対アンデッド用の武器は渡したけど時間がなくて1本だけだからなぁ、攻撃力半減は仕方がないか。攪乱にはいいけど、動きが激しい分長期戦には向かないだろうから、タイミングよく俺と交代で敵をひきつければ何とかなるかな?


 あ、そうだ、伝え忘れてた。


 「リィズ、さっきの小剣な『光の刃(フラッシュ・エッジ)』のワードで魔力を放つことが出来るからな。


 「え、そんな機能付いてたんすか?・・・『光の刃(フラッシュ・エッジ)!』」


 リィズが光の刃を飛ばす。


 「おぉ、恰好いいっす!ありがとっす!」


 「魔力飛ばした後、また魔力込めなきゃ、タダの剣だからな。乱発は避けろよ。・・・魔力流し込むことはできるか?」


 リィズが小剣に魔力をながしこむ・・・。


 「出来るっす…ただ、ちょっと大変っすね。」


 …属性が合わないのかもな。最初だけは込めといてやろう。



 ミリィとリィズの戦闘スタイルを改めて見直してみると自分が如何に規格外かが良く判る。


 基本、魔法で戦う魔法使いだが、身体強化して前衛で戦うのも可能。

 魔法に関してはワンワードで発動可能な上、イメージ強化により通常より強化されていて、尚且つ全属性全適応、魔力は無尽蔵と来たら「何そのチート?」と言いたくなるだろう。我ながら無茶苦茶だよ。


 まだ経験不足の自覚がある為、勝てない相手は一杯いると思っているが、ちょっとしたモンスター程度…ましてやリビングアーマー程度には負ける気はしない。


 そういう自負があるから今回の依頼も余裕でいられる。むしろいい練習だと思っている。



 「もし、万が一何かあったら、俺が囮になるから二人は逃げる事。これは絶対だ。例えその結果、勇者を見捨てる事になるとしても、二人は逃げてくれ。」


 何かあっても、俺一人だけなら何とでもあると思っている。それより、二人を巻き込んでしまう事の方が怖い。勇者については知ったことじゃない。俺にとって二人の安全以外に優先する者はない。


 「でも、レイさんを置いていくのは・・・。」


 「にぃにを見捨てて行くなんて出来ないっす。」


 「大丈夫だ。俺一人なら何とでもなる。それより、お前らが人質になる方が困る。」


 わざと偉そうな態度を取っておく。余裕の感じは伝わったようだ。


 「あとは…迷ったりはぐれたりしてバラけたら速やかに森の外へ出て待つことだな。下手に探そうとか、無理に合流しようとか考えると余計に時間かかるからな。」


 場所を決めて合流する方が速い、と伝える。



 「じゃぁ、いくぞ!」


 アイテム・装備の最終確認をし、俺たちは森の中へ入る。


 一歩踏み込むと真っ暗で何も見えなくなる。


暗視(ナイト・ビジョン)!」


 明かりを点けようかとも思ったが、敵に見つかる危険があるので、暗視の魔法を皆にかける。


 「にぃに、これ凄い便利っす。いつもより良く見えるっす。」


 「そうねぇ、昼間みたいによく見えますねぇ。」


 暗闇で活動する術を身に着けているリィズと精霊の加護のあるミリィには、あの真っ暗闇の中でも活動に支障ないくらいは見えていたらしい。

 ・・・俺チートじゃなかったっけ?一歩目でいきなり自信喪失しそうだ。


 ゆっくりと辺りの気配を探るように進むが、何も見つからない。

 しばらく進んでも代り映えしない・・・


 「まったく気配がないっすね。」


 「そうね、木の妖精さんも答えてくれないわ。」


 「・・・。みんなちょっとストップ。」

 一度、止まって確認してみよう。


 「現在地確認(マップ)!」


 脳裏にぼんやりと森の地形図が浮かぶ…ハッキリしないところを見ると、全体の何らかの魔法がかかっているのかもしれない。


 自分たちのいるところに光点が3つ・・俺たちの分だけか・・・


 「探索(サーチ):生き物」


 ・・・かわらない・・・か。


 範囲を伸ばしてみるが、反応は変わらない。


 「この付近には人間はいないな。…それどころか動物さえもいない。」


 「それは勇者様は森の中にいないってことでしょうか?」


 「たぶん・・・ね。揺らぎがあってはっきりとは言えないけど・・・」


 「じゃぁ、リビングアーマーの有無を確認して早いところ森を出るっす。」


 「そうだな・・・ん?ちょっとまって・・・。」


 中央辺りに反応がある…少し集中・・・はっきりしないが「何か」がいる反応だ。


 ・・・頭痛がする。これ以上は厳しい・・・サーチを解除すると頭痛が収まる。


 「ここから左奥に少し進んだところに弱い反応があった。万が一勇者だとしたら弱っているのかもしれない。」


 「大変です、すぐ助けに行きましょう!」


 「勇者と決まったわけじゃないから、焦らず、慎重に…な。」


 逸るミリィに注意する。敵の可能性もあるのだ。


 「ゆっくり進むっすよ・・・。」



 しばらく進むと、遠くの方に小屋が見える。小屋の周りは少し開けた感じだ。

 俺たちはソロソロっと進み、木陰の中に身を潜める。


 「あからさまに怪しいっす。」


 「あの中に勇者様がいるのかしら?」


 「いるとしたら、あのリビングアーマーの群れを突破する必要があるっす。」


 リィズの言う通り、小屋の前の開けたところにはリビングアーマーがウロウロしている。


 「ちょっと待って…「探索(サーチ):人間:アンデッド」・・・。」


 俺が魔法を使うと、感知したようにリビングアーマーが動きを止め一斉にこっちを向く。

 俺はサーチをすぐ解除するとリビングアーマーたちがまた動き出すが、その動きは先ほどの意味のない動きではなく、何かを探しているようだった。


 「小屋の中には誰もいない。また、リビングアーマーはここに居るだけで全部だ。」


 俺は、さっきサーチした結果を二人に伝える。


 「このまま戻っても依頼達成と認めてもらえると思うけど…どうする?」


 一応二人に聞いてみる。


 「そうっすね。あまり無理しないほうがいいかもっす。なんか嫌な予感するっすよ。」


 「でも、小屋の中で、反応あったんですよね?念のため調べた方がいいのでは?」


 二人の意見が分かれる。どうするべきか?


 しかし悩む必要はなかった・・・なくなったというべきか?

 リビングアーマーの1体が、こっちに向かっている。

 このままここに居れば見つかるし、動いても見つかる距離だ。…仕方がない。


 「俺が、アイツを吹っ飛ばして斬り込んでいく。援護と攪乱を頼む!」

 そういって俺は目の前に迫ったリビングアーマーに魔法を叩き込む。


 「突風(ブラスト)!」


 魔力を収束して一点集中する。

 魔力の風がぶつかり、その勢いでリビングアーマーが仲間の元へと吹き飛ばされる。


 「神聖なる刃(セイクリッド・エッジ)!」


 俺は剣を抜き魔力を込める。俺の持つ鋼の剣が全体的に白く輝き、刀身に向かって収束していく。

 そして、リビングアーマーの群れに向かって走り出す。


 ヒュン!、ヒュンッ!と、空気を切り裂く音が後方より聞こえる。


 ミリィが放つ矢が俺を追い抜き前方のリビングアーマーに突き刺さる。

 聖水の効果か、矢が刺さったリビングアーマーから靄みたいなものが抜け出したかと思うと、崩れ落ちて動かなくなる。


 アーマーから抜け出した靄が鎧の周りでウロウロしているので、剣を一閃、斬り裂く。


 ザシュッ!ガンッ!キィィンッ!ガツッ!ザシュッ!・・・。


 「爆風(ブラスト)!」


 ザシュッ!


 迫るアーマーを斬りつけ、魔法で吹き飛ばし距離を取る。体勢を崩したところを、また斬りつける。


 何体目かのリビングアーマーが崩れ落ちる。


 「ふぅ…10体は倒したか…。ミリィとリィズは大丈夫か?」


 ざっと見まわすと、少し離れたところにいるリィズが目に入った。


 キィィンッ!キィィンッ!キィィンッ!キィィンッ!ガツッ!ザシュッ!・・・

 ガツッ!ザシュッ!・・・キィィンッ!キィィンッ!キィィンッ・・・

 右、左、上、左・・・とリィズが鎧を斬り付けている。


 1体を倒したものの体勢が崩れかける・・・後ろから切りかかろうとするリビングアーマー。

 よけきれない!と思った時、リビングアーマーの体勢が崩れる。その隙にバク転の要領で距離を取り体勢を立て直すリィズ・・・そのまま片手を振りぬく。


 『光の刃(フラッシュ・エッジ)!』


 リィズが振り抜いた小剣から光が刃となってリビングアーマーを襲う!

 すぐさま、その後を追うリィズ。先程の小剣が淡く光っている・・・走りながら魔力を込めているみたいだ。


 光の刃が鎧を斬り裂き崩れ落ちる。そこに漂う靄みたいなもの・・・。

 ザシュッ!追いついたリィズが靄を切り裂く。


 振り向き様、別の場所で体勢を崩しているリビングアーマーに向かって走り出す。


 「…俺より使いこなしてるんじゃね?」



 ミリィは・・・と探すと少し離れた場所からリィズをフォローしている。


 「大地の精霊さん、力を貸して!『崩壊』!」


 リィズを狙っていたリビングアーマーの足元が崩れ、足を取られた鎧が体勢を崩す。


 「風の精霊さん、お願い!『旋風刃』!」


 ミリィに向かおうとしたリビングアーマーが、風の刃に斬り裂かれズタズタになって崩れ落ち

る。


 「木の精霊さん!『蔦穿孔』!」


 俺の方に向おうとしているリビングアーマーの足元から植物が伸びて鎧を貫く。



 「ミリィ、サンキュー!そのまま足止め頼む。・・・リィズ!大きいの行くからタイミング合わせてよけろよ!」


 ……無茶言うっすねー。


 何か言ってるがよく聞こえない・・・まぁ、リィズなら大丈夫だろ。


 全体を見回す。だいぶ数が減ってきている。範囲を絞り集中…ルーンを詠唱する・・・。


 「『万物の根源たるマナよ!』『聖なる光と炎を示せ』『全てを焼き尽くし、全てを打ち壊し、再生の礎と成せ!』・・・。」


 イメージは全てを焼き尽くし清める高熱の炎・・・。リィズが飛びのくのを確認し、最後のワードを唱える。


 「『浄化の聖炎セイクリッド・フィアー!」


 リビングアーマー全体を炎が包み込み、鎧が融け崩れる・・・。ジュッ!と靄が蒸発する・・・。

 光が消え去り、炎が収まる頃には動くものは何もなかった…。


 「にぃにー!」「レイさーん!」


 二人が駆け寄ってくる。見たところ怪我もしていないようで一安心だ。

 俺も、二人の方へ行こうとした瞬間、体が固まる・・・。


 「おー、中々いい反応だねぇ。普通なら首と体が離れても気付かないよ?」


 後ろから声が聞こえる・・・。俺の首筋に刃が突きつけられている。皮膚一枚の所で止まっているのがわかる・・・形状は良く判らないが「死神の鎌」のイメージが頭をよぎった。


 「もう用済みの玩具だったから別に要らなかったけど、他人の手で壊されるってのは、あまりいい気分じゃないんだぁね。はじめて知ったよ。」


 少し刃の力が緩む・・・。

 首筋に魔力を集め強化すると同時に叫ぶ。


 「逃げろっ!早く行けっ!」


 二人は躊躇っている・・・が一瞬の事。リィズがミリィの腕を引っ張り森の奥へ駆けだす。


 そうだ、それでいい・・・。


 「いいよぉ~、二人は逃がしてあげるよ~。」


 でも君はダメ!と首にあてがわれた刃に再び力がこもる…が、強化魔力のおかげで、それ以上は進まない。


 「おやぁ~、なかなか面白いことするねぇ・・・ふむ・・・これは・・・。」


 何やら、思索に耽っている。


 俺はそれを隙だと観て取る。

 首を捻り、体を沈め刃から逃れる。

 そのまま低い体勢から強化した回し蹴りを叩き込み、その流れで相手の顔を蹴り上げる…仮面…!?

 俺の蹴り上げは躱されたが、バク宙の要領で反動を利用し距離を取る。


 漆黒のローブとマントに仮面。手には死神を彷彿とさせるような大きな鎌。

 …なんだ、こいつは?


 わかるのは異様なまでのプレッシャー・・・勝てないと本能的に悟る。


 片足に重心をかけ、突進する・・・と見せかけて、体を反転させ、そのまま一気に走り出す・・・はずだった。


 「うがっ!」


 体を反転させた瞬間、背中に魔力の塊を叩きつけられる。

 一瞬息が止まり、その場に崩れ落ちる。


 「面白いねぇ・・・しばらく留守にしてたらこんな面白いことになってるなんてね・・・クックック…。」


 く、くそ…体が動かねぇ・・・


 「おやぁ…ふむ…。とりあえずこうして…。」


 手首に光が集まりすぐ消える…瞬間、ドンっと体が重くなる。


 「あとは・・・クックック…しばらく寝てなさい。」


 魔力の塊をぶつけられる。


 「グ、ガァッ・・・」


 息が出来ない…意識が…遠のく…ミリィ……リィズ………か、かな………み……。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ・・・ぃに・・・にぃ・・・にぃに・・・・・・。

 …遠くでリィズが呼んでいる気がする……。


 ・・・ぃに・・・にぃ・・・どこにいるの?・・・にぃに・・・・・・。

 …いや、リィズが呼んでる!


 急速に意識が覚醒していく。…ここはどこだ?…俺は一体…。


 ・・・にぃに・・・にぃに返事して・・・にぃに・・・。

 リィズが呼んでいる。


 「こっちだ。」と呼ぶ。自分で思っていたほど声が出ない。聞こえただろうか?


 ・・・しばらくしてリィズの姿が見える。


 「にぃにぃー!」


 リィズは俺の姿を見つけると一気に詰め寄り、ぎゅっと抱き着いてくる。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。


 「落ち着いたか?」


 あれからミリィもやってきて、二人して泣かれた。


 今も、二人とも俺にしがみついている。


 「ウン…ぐすっ…無事でよかったす。」


 リィズの口調がいつも通りに戻っている。さっきまでは、出会った頃のような口調になっていたが、やっぱりこっちの方がリィズらしい気がする。


 「ミリィは……もう少し時間かかりそうだな。」


 ミリィはひとしきり泣いた後、ギュッとしがみついたまま一言もしゃべってくれない。


 「・・・。」


 俺もまだ体に力が入らないし、もうしばらくこのままでもいいか・・・



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ・・・仰せの通り、陣を埋め込んであります。


 漆黒の衣装に身を包んだ男が、片膝をつき顔を下げたまま報告する。


 ・・・・・・ハッ、『駒』の方は晦ましを掛けてある故、問題はないかと・・・・・・。


 ・・・面白い玩具を見つけました。自由に泳がせて・・・ハッ、仰せのままに・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。


 ・・・フッ、さて、どうなることやら。


 誰もいなくなり顔を上げた男は仮面をしているので表情は伺えない。


 ただ仮面の奥で輝く紅い瞳の光が期待に満ちているかのように揺らめいていた。

 

チート能力者にとって、リビングアーマなんぞスライムと大差ありません。

最後に大技使ったのは、調子に乗ったからです。



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