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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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魔族領内乱勃発

 「魔王が倒れました!」

 サキュバスのセレナが、俺の顔を見るなりそう報告してくる。

 「魔王が倒れたって……どういうことだ?詳しく説明してくれ。」

 「はい、実は……。」

 

 セレナの話をまとめると、元々ゼナの砦を目指していた魔王軍だが、途中北方のハルの砦付近で、人族軍が攻めて来たとの知らせを受ける。

 そのため、ハルの砦で迎え撃ってほしいとの要請を受け、進路をハルの砦へと変えた。

 しかし、砦に近づくにつれて様子がおかしいと思い始める。

 攻められているという割には外に対する緊張感がないのだ。

 訝しみながらも砦に入る魔王一行。

 そこへ現れる人族軍。

 魔王一行は当然迎え撃つが、その背後より攻撃を受ける。

 人族軍とハルの砦に挟撃された魔王軍だが、魔王の最後の力によって難を逃れる。

 しかし、魔王は人族軍とハルの砦を道連れにその命を落とした。


 「その後、ゼキオン将軍より声明が出されたのです。魔王様の後を任されたので、我の下に集え……と。」

 「そのゼキオン将軍というのは?」

 「ハイ、魔族4大公の一人で『堅牢のゼキオン』と呼ばれている方です。魔王様とは常々意見を分かたれておりまして……。」

 「……そいつが黒幕だろ?」

 つーか、これ以上ないくらい怪しすぎる。

 怪しすぎて、もしやさらに裏があるのでは?と疑ってしまうぐらいだ。

 「えぇ、ですので、その声明に対しアラベス様が反抗いたしまして、今や魔族を二分する勢いです。」

 「そのアラベスというのは?」

 「帝国宰相である『疾風のアラベス』様です。やはり、魔王様とは相容れない意見をお持ちで、何かと対立しておりました。」

 「ふーん……ちなみにアドラーはどうしてる?」

 「アドラー様というと、あの『炎雷帝アドラー』様の事でしょうか?アドラー様は魔王様に付き従っていましたので、現在は行方不明です。たぶん落ち延びていると思われますが……。」

 炎雷帝?アドラーの奴そんな大層な二つ名を持ってたのか?

 「そうか……とりあえず、疲れただろう。休んでくれ……細かい事はまたあとでな。」

 そう言ってセレナを下がらせる。


 「センパイ……。」

 「レイさん……。」

 「にぃに……。」

 カナミたちが心配そうな顔で俺を見てくる。

 「そんな心配そうな顔をするなよ。俺達のやることは変わらない……ただ、ちょっと忙しくなるかもな。」

 俺は、そう安心させるように言う。

 「セレナが戻ったら、これからの事を決めたいと思う。その時はセイラとハクレイにも来てもらえるように伝えてくれるか?」

 俺はリィズに、そうお願いしておく。

 「その時はソラも連れてきてくれ。……寝ててもいいから。」

 ミリィにもお願いしておく。

 「カナ、ちょっと状況をまとめたい。付き合ってくれるか?」

 「ウンいいよ。」

 俺の言葉に、邪魔しないようにとミリィとリィズが席を外す……別にいてもいいんだけど、変なところで遠慮するよなぁ。

 別に、ただ俺が話すのをカナミは聞いているだけ……口に出すことで自分の中の考えをまとめてるだけなんだけど……まぁ、たまにカナミが的確な疑問などを投げてくれるから、思考が回りやすいって事もあるんだけどな。


 「さて、現在魔族の勢力は4つに分かれている。」

 「4つ?」 

 「そうだ。ゼキオン派、アラベス派、アドラー……旧魔王派、そして中立だ。中立の中には、まだ別の勢力が隠れているかもしれないが、とりあえず現在分かっているのはこの4つ。

 その中でアドラー派は、ほぼ壊滅状態……残っていたとしても、どちらかの陣営に取り込まれるのも時間の問題だろう。

 そして、中立派……この中から、どれくらいの数が流れ込むのか?または新しい勢力が出てくるのか?これによって、今後の魔族の在り方が変わってくるだろうな。」


 「ウン、わかる……それでどう動くの?」

 「そうだな……まず、ゼキオンとアラベスがどういう考え方なのかによるかな?まぁ、魔王と意見をたがえているって段階で、俺と意見が合うとは思えないんだけどな。

 だから現実的なところで、アドラーに力を貸す、もしくはアドラーを取り込んで第三勢力として立ち上がる……ってところかな?

 ただ、魔王が無くなった今、魔王の娘とのコンタクトを第一優先にしたい。

 たぶん、他の魔王種の奴ら……特に魔王を倒した奴は魔王の力を求めて焦っているだろうからな。」


 「……うーんどういう事?」

 カナミがちょっと分からないって聞いてくる。

 「本来なら、魔王が倒れたことにより、魔王の真の力を倒した奴が取り込むことが出来るんだが、前にも言ったように、魔王は自分の死をキーにして娘へ力を移譲している。

 だから、魔王を弑た者は、手に入れるべき力が入らなくてアテが外れたはずだ。

 目論見が外れた奴らは、当然その力のありかを探っている。そして、その力が娘へ流れたと知ったら、何が何でも手に入れようとするはずだ。

 だから、他の奴らより先に何としても娘とコンタクトを取る必要がある……魔王との約束だからな。」

 

 「じゃぁ、まずは魔王の娘さん探し?」

 「そうなるんだけど……そのためにもまずはサキュバス族とオーガ族の意思確認かな?一応俺も魔王種だから、奴らの上に立つ資格はある。このまま俺につくか、別陣営に属すのか……それによって俺達の動き方が変わってくるかな?」

 「成程ねぇ……で、もし、センパイについて行くってなったらどうするの?」

 「そうだな……、そうなったら拠点が必要となるからな……ここから南東にあるミランの街とミラ砦を奪うか。」

 「ここじゃダメなの?……近くにゼナの砦もあるけど?」

 「ここは、ちょっと立地が悪すぎるかな?もっと規模が大きくなったら必要になるけど、今の状況ではデメリットが多すぎる。」


 「じゃぁ、もしサキュバスかオーガ族、もしくは両方が離れて行ったら?」

 「サキュバス族が離れて行った場合は、さっきと変わらず拠点を奪いに行く。オーガ族が離れて行った場合、もしくは両方が離れた場合は、俺達だけで自由に動く。」


 「うーん、サキュバスとオーガで対応が違うのは何故かなぁ?」

 「オーガ族が残った場合は拠点が必要になるけど、サキュバス族だけなら数も少ないし、魔王島を拠点にすればいいからな……サキュバス族の適正は情報収集と支援だから拠点がなくても問題ない。」


 「なるほどー、そう言う事ね。」

 「それで、アドラーとの接触だな……アドラーなら娘についての情報を持っているはず。」

 「んー、でもそれって他の陣営の人たちもそう思うよね?」

 「あぁ、だから今アドラーは追われていて、必死になって身を隠しているはずなんだ。そこを助けることが出来れば……そう無下な態度はとらないだろう?」

 「でも、アドラーさんの方が私達を信用してくれるかどうか……。」

 「そこは賭けだな……まぁ、物別れに終わったとしても情報源が一つなくなっただけと思えば、それほど影響はない……と思う。」

 正直、変革前のアドラーとの友誼に期待している面はある。

 何とかアドラーの協力は得たいところだけど、ムリだったらしょうがないと諦めるだけだ。


 「まぁ、最悪、魔王の力が他所に渡った場合、その魔王を倒せばいいだけの話だからな。」

 「アハッ、その時は『勇者パーティ』だね。」

 「女神も、そっちを期待してたんじゃないか?」

 「そうかも……でも、世界が変革しても、結局同じ結果になっていくっていうのが驚きだよ。」

 「それこそ『世界の修復能力』が働いているんじゃないか?」

 「うーん、でもそれって、エルフィーネ達がやったことが無駄って事だよね?」

 「そう……なるかな?今頃ミィルが怒ってるんじゃないか?」

 「アハッ、そうかも?」

 

 「っと、話がそれたけど、大体まとまったかな?

 ・サキュバスとオーガの意思確認して拠点確保。

 ・アドラーの救出。

 ・魔王の娘と接触。

 この三点を同時進行で行う。」

 

 「ウン、わかりやすくていいよ。……じゃぁ私はちょっと周りの様子を見てくるね。」

 「あぁ、ありがとう、おかげで考えがまとまったよ。」

 俺はそう言って、出ていくカナミを見送る。

 実際には、拠点確保の後、各種族の取り込みなども進めていく必要がある。

 ゼキオン、アラベスがどういう奴らかは分からないけど、アドラーを取り込むと必然と敵対することになるからな。 

 戦力の確保も急務だな……最悪ドラゴン達に相談することも視野に入れておくか。


 ◇


 「……現状は、今セレナが話してくれた通りだ。」

 セレナが戻り、セイラとハクレイを交えて、改めて話してもらう。

 「そこで、サキュバス族の長たるセレナ、オーガ族の長たるセイラに問う。……お前らはどうする?」

 俺が重々しく聞いたのに、何故かキョトンとしているセレナとセイラ。

 「どうする……とは?」

 セレナとセイラは、この人何言ってるんだろうね?って感じで顔を見合わせている。

 「いや、だから、ゼキオンとかアラベスとかの陣営に行くのか?って……。」

 「「あんまりですわ!」」

 俺の言葉を聞いて、なぜか怒りだす二人。

 あれ?何か起こらせること言ったっけ?

 「レイ様、私達はあなたに忠誠を誓ったのですよ。お忘れですか!」

 「そうです!私達の忠誠をお疑いですか!」

 「イヤ……そう言うわけじゃなくて……。」

 あれ?命約は破棄されてるけど忠誠を誓ったことはそのままって事?


 「ほら、あの時と状況も変わってるから、どうかな?と……。」

 「状況など、何も変わっていませんわ。私達はレイ様と共にあると誓いました。そしてレイ様がそこにいらっしゃる……どの状況が変わったというんですか?」

 「その通りです。レイフォード様と御姉様がそこにいらっしゃるのに、私が心変わりすると疑われるのは心外です。」

 「あ……と、アハハ……ゴメンナサイ!」

 俺は素直に頭を下げる。 

 「いえ、わかってくださればいいんです。」

 何とか、怒りを収めてくれたみたいだ。

 しかし、変革前の忠誠がそのまま活きていたとは嬉しい誤算だ。

 ……って言うか、わかっていればあんなに悩まずに済んだんだよな?……ま、いっか。


 「じゃぁ、これからの事だけど……。」

 俺は拠点として南東のミランの街とミラ砦を奪う事を告げる。

 「出来れば、平和的に拠点としたいんだが、今は時間が惜しい。ウダウダ言うようなら武力制圧も辞さないが……セイラ、ハクレイ、頼めるか?」

 「そうですな、ミランの街の代表は知らぬ仲ではないので一度話してみましょう。」

 聞かないようなら制圧します、とハクレイが請け負ってくれる。

 「じゃぁ、リィズ、ミリィ、ソラ、セイラたちに力を貸してやってくれ。詳細はミリィに一任する。ミリィの言葉は俺の言葉だと思って従ってほしい。」

 「ハッ!心得ました!」

 そう言うとセイラとハクレイは、準備のために席を外す。


 「セレナ、大変だと思うが、サキュバス全員でアドラーの捜索にあたってくれ。……本当は、こういう捜索に長けた種族がいればよかったんだが……。」

 「レイ様、大丈夫ですわ。ボギーやリリム、アルラウネ達にも協力要請しますので、任せておいてください。この任務が成功した暁には彼女らも傘下に入ることをお許し願えれば、喜んで働いてくれますわ。」

 「あぁ、それは約束しよう。ただ、他の陣営もアドラーを探しているはずだ。くれぐれも気を付けて、何かあればすぐに俺を呼ぶこと。わかったか?」

 「仰せのままに……では、さっそく捜索に向かいますわ。」

 そう言って席を外す、セレナを見送る。


 「えっと、センパイ……私はどうすれば?」

 「あぁ、カナは俺と一緒にきてもらう。」

 心配そうに聞いてくるカナミにそう答える。

 俺は俺で、独自に魔王の娘を探すつもりだ。

 それと同時に、レイファにも協力を取り付けたい。

 同時進行で色々動くため、カナミにかなり頼らなきゃいけない。

 「ウン、そう言う事なら任せておいて。」

 カナミが元気一杯に引き受けてくれる。

 とにかく、ここからは時間の勝負になるだろう。

 打てる手はすべて打っておきたい。


 「……リザード族か……。」

 ふと、思い出す……龍に連なる種族……リザード族・龍麟族。

 ドラゴンを遠い祖とし、人と交わり人族の特性を色濃く残す者達が竜人族なら、魔と交わり魔族・魔物の特性を色濃く残したのが、リザード族・龍麟族だ。

 先ほどのセレナやセイラの様子を見るに、リザード族も傘下に入ってくれる可能性が高い。

 ならば、魔王の娘の情報は全くないのだから、情報を収集しつつリザード族とコンタクトを取ってみるのも一つの手かもしれない。

 今は少しでも多くの戦力が必要なのだ。


 「リザード族ねぇ……ウン、いいんじゃない?ちょっと情報集めてくるから、センパイは準備お願いね。」

 俺の考えを聞くなり、カナミは飛び出していく。

 俺はその後姿を眺めながら、この先の事を考える。

 ゼキオン、アラベス……当面はこの2陣営を相手取る必要がある。

 しかし同時に相手にするにはこちらの戦力が心もとない。

 あまり目立たず、両陣営が互いに潰しあうように仕向けるほうがいいだろう。

 そう言う意味では、アドラーを引き入れるのは、かなりのリスクを伴う。

 奴らに察知されない内に済ませたいが、そうもいかないだろうな。

 とりあえずは「いつでも潰すことが出来る」と思わせる様に動くべきだな。


 ……はぁ、シリアスは苦手だ……けど、ここを乗り越えないと笑顔で暮らせないってなら頑張るしかないかぁ。

 とりあえず、アドラー無事でいてくれよ……。

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