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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
105/153

戦場にて

 「左舷、弾幕薄いよ!何やってんの!」

 俺の指示の下、左翼から魔法が飛び交う。

 右翼の方は……押し返してるな。

 「ハクレイ!中央突破だ。抜けたら折り返して左翼を挟撃!」

 「ハッ!……者共、続け!」

 ……ふぅ、これで、なんとか、戦況は持ち直すだろう。

 ってかなんで俺、ここで戦争の指揮取ってんだよ!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「おい、セレナ大丈夫か!」

 俺は血まみれになっているセレナを抱き上げ、ポーションを飲ませる。 

 「……レイフォード様……ありがとうございます。」

 ミリィが作成するハイ・ポーションは、部位欠損も条件次第で癒せるという優れものだ。

 セレナも、見た目ほど酷くはなかったらしく……と言うより殆どが返り血だったのだが……しばらくして完全に回復した。


 俺達がセイラ、ハクレイ達オーガ族と国境付近に着いたとき、そこはすでに戦場と化していた。

 小競り合いは起きているものの、本格的な戦争突入まではまだ時間がかかるという情報そのものが、間違い……と言うか敵が仕掛けた罠だったのだろう。

 セレナの話によると、サキュバス族が戦場についてほどなく敵の進軍が始まったらしい。

 それに対し魔族軍は、まだ軍勢が集まっていないどころか、指揮系統もはっきりしないまま戦争に突入することになり、本来ならば後方支援のはずのサキュバスたちも否応なく巻き込まれたという。


 魔族たちは個々の能力が勝ってる為、今のところ何とか持ちこたえているが、このままでは全滅必至だとか……。

 仕方がないか。

 「ハクレイ!連れてきたオーガ達を連れて突入。深追いはせず戦線の維持をしろ。

 セイラ、すでに戦闘に入っているオーガ達をまとめ上げて部隊を再編成。出来たところから、ハクエイたちの援護に回ってくれ。

 セレナ、疲れているところ悪いが、サキュバスたちを纏めて後方へ下がらせろ。その後俺の下で、各所への伝令を頼む。」

 俺は次々と指示を出す。

 とりあえず混乱している指揮系統をまとめ上げ、戦線を押し戻すことが出来れば、何とかなるだろう。


 ハクレイの指揮するオーガ達は戦意も高く、また戦闘種族なだけあって個々の戦闘力では人族を凌駕する。

 それが統率された指揮の元に動くのだから、ほどなくして混戦から整然とした戦いへと移行していく。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「セレナ、戦況はどうだ?」

 「はい、人族はハクレイ様の中央突破により、戦列が乱れ混乱しております。また、挟撃によって、押され気味だった左翼が戦線を押し戻しています。」

 「よし、ある程度押し上げたら、一旦下がって戦線を維持するように伝えてくれ。」

 魔族とはいえ、サキュバスのように空を飛べる種族は少数だ。

 しかし、少数とはいえ制空権を確保できるという事は戦場において有利に働く。

 各種族の特性を生かして適材適所に配置することが、勝利への第一歩なのだ。


 「……はぁ、ここに来てSLGをやるハメになるとは。」

 「まぁまぁ、私こういうの得意だから任せてよ。」

 そう言って得意げな顔をするカナミだが……。

 「俺に勝ったことは一度もなかったけどな……。」

 「アレは先輩が卑怯な手を使ってくるから!」

 「どこが卑怯だよ、立派な戦術だよ。」

 うーっと睨み合う、俺とカナミ。

 

 「そんな事より、これからどうするんですか?」

 俺達の間に割って入るミリィ。

 「ボクたちの出番ないの?」

 「そうっすね、見てるだけというのも、なんかモヤモヤするっす。」

 戦場に出たがるソラとリィズ……だが、俺はこいつらを戦場に出す気はない。


 『戦争は数だよ、兄貴!』

 と言う言葉がある様に、戦場では個々の能力より数が大事だ。

 確かに個々の能力差があればある程度の数の差は補えるが、それでも圧倒的な数には勝てない。

 例えば、リィズ独りで30~40人ぐらいと渡り合う事は余裕だろう。

 しかし敵が100人いた場合、30~40人()()、止められないという事だ。

 俺のやカナミの広範囲魔法でも、敵がさらに広範囲に広がっていては、全部を仕留める事など出来はしない。

 ……まぁ、逆に言えば、ある程度の数であれば、少ない戦力でも十分ひっくりかえせるという事でもあるんだが。

 

 とにかく、人族が魔族に勝る「数」を主において戦争を仕掛けて来てる以上、こちらは何とかして数を減らしていくしかないのだが……って、なんで俺は魔族軍側として指揮をとろうとしてるんだよ!

 サガにも、魔王にも「俺は手を出さない!勝手にやれ!」と豪語しておいて、このザマだもんなぁ。


 「えーと、おにぃちゃん?……よしよし。」

 ソラが頭をなでなでしてくれる。

 「にぃにがなんか落ち込んでるっす。」

 「……まぁ、センパイだから……。」

 「とりあえずギュってしておきましょう。」

 ……殺伐とした戦場で、ほんわりとした空気が流れる…………が、周りの視線が冷たい。


 「……とりあえず、セレナ。サキュバスの中から情報収集に長けた者を数人集めてくれ。セイラ、前線のハクレイに伝言『戦線を維持し、指令があるまで、こちらから打って出ない様に』と。」

 セレナとセイラに指示した後、俺は仲間たちに目を向ける。

 「リィズ、ソラ、いつでも出れるように装備の確認を。カナミとミリィは、引き続きここで負傷者の治療にあたってくれ。」


 今、戦場は一種の膠着状態にある。

 機械じゃないのでずっと戦い続けるなんてことは不可能だ。

 なので、戦場ではこうしてお互いに引いて、膠着状態を維持しながら休息をとるのだ。

 ……もちろん、こういう時間はただ休むのではなく、色々と策謀がめぐらされる時間でもあるのだ。

 「レイ様、揃いましたわ。」

 俺の傍にセレナに連れられた数名のサキュバスが集まってくる。

 「お前達には、敵本陣の位置及び糧食庫、補給経路などを探ってきてもらいたい。警備が厳しい場合、無理はしなくていい。出来る範囲で頼む。それと……。」

 俺は蜘蛛型の魔道具を取り出す……「スパイ・だぁ」の『アルケニちゃん』だ。

 「これを敵本陣近くでバラまいて来てくれ。」

 サキュバスたちは恐る恐るアルケニちゃんを受け取る。

 サキュバスとはいえ女の子、作り物とわかっていても蜘蛛は嫌いらしい。

 ミリィが、同情した目でサキュバスたちを見ている。

 「セレナ、今のうちに休んでいてくれ。そして情報が集まり次第報告をよろしく。」


 数で勝る敵を相手にする場合の戦術なんて昔から決まっている。

 敵の頭を潰すか、補給路を断って兵糧攻めにするかだ。

 当然、相手もそれは警戒しているので、厳重に守りを固めているはず。

 だから、どこかにスキがないかを探るのが重要となり、それは敵方も同じ事を考えているわけで……。

 (レイ、罠にかかったわ。)

 監視していたファーから連絡が入る。

 敵さんも、こちらの様子を窺いに来たらしい。

 「よし、ファー、そのまま、幻覚を見せてやってくれ。内容は……そうだな、全軍をゼナの砦まで退く相談をしている感じで……司令官はリックの姿にでもしておいてくれ。」

 リックの姿ならインパクトもあるしいいだろう。


 「セイラ、ハクレイに伝言。『順次ゼナの砦まで退却。ゼナの砦に着いたら散開して、戦闘はゼナの砦の連中に任せるように。ただし、落ちたら困るので、様子見てヤバそうであれば手助けをするように』と。」

 「センパイ悪いんだぁ。ゼナの人達に押し付けるなんて。」

 「いいんだよ。元々ゼナからの戦力が来る予定なのに、未だに動かないって事は何か企んでいる証拠だから。」

 相手が先に動いたことにより、俺は予定を変更する。

 「セレナ、悪いが先行したあの子たちに『情報を集めたらA-3ポイントに集合』って伝えてくれ。その後、残ったサキュバスたち全員で、ここに集まるはずだった他の部隊がどうなっているのかを探って来てくれ。待ち合わせ場所は……。」

 俺はゼナの砦よりはるか後方のアルバの街を指定する。

 セイラにも、そこそこ戦ったらそこまで退却するようにと、オーガ達に連絡させる。


 作戦は単純だ。

 今、探りに来ている部隊に、魔族軍はゼナの砦まで退却するという情報を流す。

 その情報を得た人族軍は追撃をする。

 情報を怪しむかもしれないが、実際に魔族軍が退却し始めたら、追撃をしないわけにはいかないだろう。

 ある程度戦線が伸び切った所で、敵の糧食を焼き払い補給路を断てば、それ以上戦争を続けられずに一旦引き上げることになるだろう。

 と言うか、俺としてはゼナの砦付近で睨み合いをしてもらう方が都合がいい。

 魔族側も一枚板ではない以上、目に見える脅威はあった方が都合がいいのだ。

 なので、糧食の焼き討ちも補給路を断つのも程々にしておく予定だ。


 「じゃぁ、ソラとリィズは俺と一緒にA-3ポイントへ、ミリィとカナミはセイラと一緒にアルバの街まで退却してくれ。」

 戦争である以上、全くの被害を出さないというのは不可能だ。

 だから、なるべく被害を最小限にするようにと、指示をする。

 ぶっちゃけ、オーガ族やサキュバス族に被害が出るくらいなら、ゼナの砦の連中が全滅した方がマシだ。

 俺はそう言って、ゼナの砦を死守するのではなく、自分たちの安全を第一に行動することを言い含め、それぞれの行動に移ることにした。


 ◇


 俺達がA-3ポイントに着くと、そこにはすでにサキュバスたちが戻ってきていた。

 「……と言う感じです。」

 「ありがとう。よく分かったよ。後は戻ってセレナの指示に従ってくれ。」

 俺はサキュバスたちから報告を受けた後、その後の指示を出しサキュバスたちを見送る。

 予想通り、退却し始めたハクレイ達につられて、追撃戦に移るようだ。

 本陣の守りは1個大隊が残っているが、隙をついて糧食を焼くぐらいなら大した数ではない。


 この世界では、5人前後からなる『分隊』が4つ集まると『小隊』になる。

 そして『小隊』が4つ集まったのが『中隊』であり『中隊』が5つ集まったのが『大隊』となる。

 その為『1個大隊』は400~500人程度にという事だ。

 

 「戦いは数」それは間違いではないが、時と場合に寄るのだ。

 「にぃに、任せたっす。」

 「了解!『灼熱の大爆発(エクスプロージョン)』!」

 俺の魔法に巻き込まれた者たちが爆風で吹き飛ぶ。

 『灼熱の壁(フレイムウォール)

 ソラに飛び掛かろうとした一団を炎が遮る。

 「『当たらなければどうという事はない!』なんだよ。」

 ソラのワルサーが、迫る敵を撃ち倒していく。

 「えーと、こういう時は……『見せてもらおうか、人族軍の性能とやらを!』だったすか?」

 リィズの双剣が、人族軍を切り倒していく。


 そろそろ潮時かな。

 『炎の爆風(ブラストファイア)!』

 俺は集められていた糧食の倉庫に向かって魔法を放つ。

 糧食が建物ごと吹き飛ばされる。

 「リィズ、ソラ、引き上げるぞ!」

 爆風にまぎれて、その場を去る俺達。


 「ふぅ、うまくいったな。お疲れ。」

 俺はリィズとソラを労う。

 「にぃにもお疲れっす。……ところで、あのセリフは何すか?」

 「アハハ……まぁ、お約束ってやつだよ。」

 俺が冗談で「こういう時にこう言え」と言ったのを素直に再現しつつ、何のことか分からないと言ってくるリィズ。

 「でもね、おにぃちゃん、私が踏んだ人『俺を踏み台にしたぁ!』って言ってくれなかったよ?」

 ……まぁ、相手にまで求めるのは酷というものだろう。

 「とりあえず、アルバの街まで行こうか。」

 俺はそう促して戦場を後にするのであった。


 ◇


 「あ、レイさん、ご無事でしたか。」

 アルバの街に辿り着いた俺達をミリィが出迎えてくれる。

 「あぁ、俺達は大丈夫だ。そっちはどうなっている?」

 「ウン、ゼナの砦が一時ヤバかったけど、今は、相手も引いて、にらみ合いが続いているって感じかな?」

 俺の問いに、カナミが応えてくれる。

 「オーガ族も徐々に引き上げてきていますので、明日には揃うと思いますわ。サキュバス族はまだ戻って来てませんね。」

 オーガ族やサキュバス族の状況をミリィが教えてくれる。

 「そうか、とりあえずみんな休んでくれ。色々動くのは明日になりそうだからな。」

 「そうね、ソラも限界みたいだし、休ませてもらいますね。」

 「あ、ねぇね、私も行くっす。」

 ミリィとリィズが、ソラを連れて寝所の方へ向かう。


 「カナミも休んだらどうだ?」

 「ウン……もう少し一緒にいてもいいかな?」

 カナミの顔色が悪い。

 「何かあったのか?」

 「あったというかあるというか……センパイ気を付けて。何か、とてつもない悪意が覆っているの。みんな、その悪意に飲み込まれていく……。」

 ガタガタ震え出すカナミをそっと抱きしめると、カナミは俺に体重を預けてくる。

 

 「落ち着いたか?」

 しばらくしてカナミの震えが止まったのを確認してから声をかける。

 「ウン、大丈夫。ごめんね。」

 「いいさ、でもさっきのは?」

 俺は気になっていた事を訊ねる。

 「ウン……たぶん女神の権能……未来予知ってまではいかないけど、警告?みたいなものかな?」

 「近い内に悪意が襲ってくるってか?」

 「ウン、そんな感じ……どう動いても巻き込まれるの。」

 「じゃぁ、巻き込まれること前提で対処していくしかないわけか……。」

 「悪意ってのがもう少し具体的にわかればよかったんだけど……。」

 「いや、充分さ……魔王軍の動きがおかしい事と何か関係があるんだろう。」

 「そうかも……。」

 と言うより、現状それ以外考えつかないよな。

 そうすると、悪意の正体は内乱を起こそうとしている奴って事か?


 「セレナたち大丈夫かな?」

 俺と同じ考えに至ったのか、カナミがぼそりと呟く。

 魔族内部に悪意があるとするなら、探りに行っているサキュバスたちにも危険が及ぶ。

 「まぁ、セレナはしっかりしているから大丈夫だろう。」

 「そうだよね。」

 魔族領に入ってからバタバタしてた所為で、しっかりと情報を得ることが出来ていないのが、不安を煽る。

 現状、どのような勢力があってどのような動きがあるのか分からないのだから、動くに動けない。

 セレナたちには早く戻ってきてもらって、情報の整理をしたい。

 これからの行動を決める指針にするためにも必要な事だ。


 「とにかく、今ジタバタしても始まらないさ。すべてはセレナたちが戻って来てからだな。」

 「そうだね……。」

 「まぁ、今は無理やりにでもゆっくり休むことだな。」

 「きゃっ!」

 俺がカナミを抱き上げると、びっくりしたのか短い悲鳴を上げる。

 「もぅ、不意打ちは卑怯だゾ。」

 「勝てばいいんだよ。」

 俺は笑いながら、カナミを皆のいる寝所へと運ぶ。

 とりあえず、今日は疲れた……ゆっくりと休もう。


 翌日、セレナが戻ってきた……凶報と共に。

 「レイ様、魔王が倒れました!」

 

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