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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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オアシスと情報収集

 「あのオアシスで一旦休憩にしようか。」

 魔族領と人族領の国境が近くなってきた頃、砂漠の中に点在するオアシスの一つを見つけて、俺は皆にそう言う。

 色々魔改造を重ねた馬車は、砂漠の旅でも快適ではあるが、それでも3日4日と砂ばかりの景色が続けば流石に飽きる。

 ちなみに北国育ちのタイガーウルフ達に、この砂漠を渡らせるのは流石に酷なので、今馬車を引いているのはラクダ型のゴーレムである。


 普通、何の用もなく余所者がオアシスに立ち寄る事などまずないので、冒険者を兼ねた旅の商人という事にしてある。

 商品は冒険で得た魔物などの素材や、宝箱から得た様々な品物をメインで、後は一般的な日用品という事で適当に揃えてある。

 戦争が近いため、傭兵として雇ってもらおうというゴロツキなども数多く、正直な所多少怪しくても問題なかったりする。

 

 ◇


 ガラン、ガラン……

 俺が店のドアを開けると、中にいた客が一斉にこちらを見る。

 ま、こういう所ではよくある「品定め」と言う奴だ。

 大体の場合、自分にとって脅威にならない、もしくは関係ないと判断した場合、何事もなかったかのように、談笑に戻るのが常だが、中には、自分を大きく見せよう、優位に立とう、と絡んでくるものもいたりする。

 弱肉強食がまかり通るこの世界では、そう言う行動も間違いではない……しかし、その為には相手の力量を正しく判断できる能力が必要になってくる。

 相手の力量を読み間違えると、場合によっては命取りになるのがこの世界の常である。


 「……という事なんだけど、分かったかな?」

 俺は足元に転がる男たちに声をかける……が返事がない。

 徐に、手前に転がっている男の顔すれすれのところにナイフを突きさす。

 「わかったか?って聞いてるんだけど?」

 「ひぇぁ、ひゃぃ……。」

 「長生きしたいなら、自分と相手の力量差をしっかりと見極める事だよ。……マスター、俺の分と、後、ここの修理代は、こいつらが払うから。もし払わなかったら教えてよ。しっかりと取り立てるから。」

 俺はマスターにそう言うと、カウンターに座り水と軽い食事を注文する。

 こういうことは日常茶飯事なのか、マスターは俺に水を出した後、黙々と調理を始める。

 初っ端に変な奴に絡まれてしまったせいで、この場での情報収集は難しそうだと判断した俺は、次の作戦に切り替え、食事を楽しむことにした。


 食事を終え、水のお代わりを頼む頃には酒場の雰囲気も元通りの喧騒を取り戻していた。

 「アンちゃん、腕に自信があるようだが、気をつけなよ。」

 マスターが、水のお代わりを差し出しながら、小声でそう言ってくる。

 まぁ、さっきの奴らの事だろう。

 あいつらのこの後の動きも想定済なのだが、忠告してくれるマスターに感謝しておく。

 「忠告アリガト。ごちそうさん。」

 俺はマスターに小金貨1枚を渡し、そのまま出ていこうとするが、マスターが呼び止める。

 「アンちゃん待ちな!」

 「ん、なんだ?釣りならいらないぞ……修繕費や迷惑料も混みだ。」

 「それでももらい過ぎだ。」

 「だったら、余った分で、ここに居る奴らにご馳走してやってくれ。」

 俺がそう言うと、その言葉を聞き咎めた客たちから歓声が上がる。

 ふっ、決まったな。

 俺は格好を決めて立ち去ろうとする。

 「待ちな。」

 店のマスターが再度呼び止める。

 「まだ、何かあるのか?」

 「そう言う事なら、後小金貨2枚必要だ。」

 マスターが苦笑いしながら言う。

 しっかりしてやがる。

 「ほらよ。」

 俺はマスターに苦笑を返しながら金貨1枚を投げてやる。

 「毎度。」

 マスターがしっかりと受け取るのを確認して、俺は店を出る。

 俺が外に出た途端、店内が一層騒がしくなった。 

 

 「さて、と……。」

 店を出るのに、少し時間食ったが、まぁ丁度いいだろう。

 「この辺りでいいだろ?出て来いよ?」

 俺は表通りから少し離れたところで立ち止まり、周りに声をかける。 

 「イヒヒヒヒ……さっきはよくもやってくれたな。お礼をしに来たぜぃ。」

 現れたのは予想通り、さっき俺が軽く遊んであげた奴らだった。

 威勢がいいのは仲間を引き連れているからだろうけど……。

 「お前バカか?さっき教えたのもう忘れたのか?30人程度で……」

 バァンッ!バァンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!……

 俺のセリフの途中で銃声が鳴り響く。

 あっという間に、俺の目の前の男を残して、みんな地面に転がり、のたうち回る。

 

 「はぁ……、ソラお留守番だって言っておいただろ?後、カナミも止めろよ。」

 何が起きたか分かっていない男を、蹴り倒し、踏みつけながら、陰に隠れているカナミとソラに声をかける。

 「だって、おにぃちゃん帰って来るの遅いんだモン。」

 「ゴメン、止める間もなかったよ……ソラちゃん、恐ろしい子……。」

 「まぁ、いいや……。ソラ、俺は、このオジサンたちに聞く事があるからもう少しかかるんだ。でも、せっかくだから手伝っていくか?」

 俺がそう言うと、ソラは嬉しそうに「ウン」と頷く。


 「じゃぁ、とりあえず……ちょっと待ってなよ……『電撃波(スタンウェイヴ)!』」

 俺は転がっている男たち全体に電撃の魔法を放つ……ムリすれば動きそうなやつらが少しいたから、一応念の為だ。

 「よし、じゃぁそこに転がっているオジサンたち縛っていってくれ。後な、こういう時はマヒ系の魔法を絡めておいて、しっかりと動けなくしておかないと危ないぞ?」

 「ウン、分かった。」

 ソラが俺の言葉に頷くと、嬉々として男たちを縛り上げていく。

 「うーん、ソラちゃんの教育にいいのか悪いのか……。」

 カナミが、そんなソラを見て頭を悩ませる。

 「まぁ、この世界で強く生きていくなら、こういうことも必要と割り切ろうぜ……それより人数分穴掘ってくれ。」

 「そうね……仕方がないかぁ。」

 カナミも、自分の中で折り合いをつけつつ、魔法で穴を掘り、縛り上げられた男たちを放り込んで、首だけを出して埋めていく。

 

 「クッソがぁ……こんなことして、タダで済むと思うなよ!」

 俺の足元で喚く男……忘れていた。

 「ゴメン、お前の事忘れていたよ。」

 俺はお詫びもかねて、丁寧に縛り上げ穴に埋める。

 20分後、そこには首だけ外に出て、後は埋められている男たちの姿があった……。


 「ちょっと時間かかっちゃたな。」

 「おにぃちゃん、ボクお腹すいたよ。」

 「うーん、これでも舐めて、もう少し待ってて。」

 俺は共有バックから飴を取り出してソラに渡す。


 「さて、お前らには聞きたいことがある。」

 俺は首だけになった男に声をかける。

 「ケッ!誰が話すかよ!」

 身動きできないのに、威勢の良い奴だ……ここまで周りが見えない馬鹿だと、かえって感心するな。

 「カナ、タロウを呼んでくれるか?」

 「ウン、分かったよ……コール!」

 「ヘン、誰が来たって……ゲッ!」

 カナミの召喚によりタイガーウルフのボス「タロウ」が現れる。

 タロウが俺の傍に寄ってきてお座りをするが、足元の首が気になるようで、ちらりと見ては舌なめずりをする。


 「さて、聞きたいことがあるんだが?」

 俺は再度訊ねる。

 「誰が……ヒィッ!」

 反抗しようとした男の顔をタロウが舐める。

 「ゴメンねぇ、タロウたちのご飯まだだったよ。」

 そこにカナミが声をかけてくる。

 「ねぇねぇ、おにぃちゃん、ご飯のお預けはツライよ?」

 ソラも言ってくる……カナミは計算してのセリフだが、ソラのは天然だ。

 「ウーン、まぁ、ここに沢山あるしな……。」

 俺のセリフにタロウが喜んで舐め回す……。 

 「タロウ、まだ、お預けだ……大丈夫エサは逃げないからな。」

 そう言って、タロウを宥める。

 そして男の方を見て三度訊ねる。

 「聞きたいことがあるんだが?」


 ◇


 「……大したものないなぁ。おい、本当にこれだけか?他に隠してないか?」

 俺は転がっている男に声をかける。 

 「本当だ、もうない・…ギャッ!ゆ、許してくれ……。」

 その男はタロウに舐められながらも、もう何も残っていないことを主張する。


 あの後、やけに素直になった男からアジトの場所を聞き出し、ここへとやってきたのだが、本当にただのチンピラの集まりだったらしく、戦争や傭兵に関する情報どころか、オアシス内の重要な情報すら持っていなかった。

 腹が立ったので、組織の人間全員を張り飛ばして縛り上げ、溜め込んだ財産をすべて没収したところだが、金貨に換算して10枚に満たない程度のモノしかなかった。

 そこから、かさ張るものや換金性の悪いものを除くと、金貨3枚と言う所だ。

 俺はそれらをまとめて、火をつける。

 財源を残しておくと、調子づくからな。

 「な、なんてことを……ヒィッ……。」

 ボスらしき男が文句を言おうとしたが、タロウに舐められて黙る。


 「ねぇ、おにぃちゃん、もう限界だよぉ。」

 ソラがウルウルとした目で見上げてくる。

 「あぁ、そうだな……大した情報がなかったのは残念だが、これ以上いても仕方がないしな、帰るか。」

 「ねぇ、帰るのはいいけど、コレはどうするの?」

 カナミが転がっている男たちを指さす。

 「ほっとけばいいだろ?30分もすれば動けるようになると思うし、もし、今度顔を見たら、その時こそタロウにあげればいいだろ?」

 「それもそうね。……タロウ、また今度ね。」

 そう言って、カナミも俺の傍までくる。

 「じゃぁ、帰ろー。」

 ソラが無邪気に笑いながら、俺とカナミの手をつなぐ。

 情報収集は、また明日あの酒場ですればいいか、と思いながらリィズとミリィの待つ宿へと戻るのだった。


 ◇


 「うー暑いっすねー。」

 御者台に座る俺の横でリィズが言う。

 「だから、馬車の中にいろって言ったのに。」

 「それはそれっす。この権利は譲らないっす。」

 なんでも、旅の間俺の隣に座る権利とやらをかけて色々勝負しているらしい。

 まぁ、旅の暇つぶしにはちょうどいいんだろうな。

 俺の隣が褒美になるかどうかはよくわからんが。


 「まぁ、今日中には国境を抜けるからな。そうしたら砂漠ともサヨナラだし、ちょっとは涼しくなるだろ?」

 「結局にぃにはどっちの陣営にも手を貸さないんすよね?」

 「あぁ、もう戦いが始まっていたら、どっちかの陣営に潜り込んで、隙を見て国境を抜けようと思たけど、そこまでする必要もなさそうだしな。」

 「魔族領に入ったらどうするっすか?」

 「そうだなぁ……どうしよっか?」

 実は何も決めてない……と言うか、情報が少なすぎて決めようがないんだが。

 「チェムとか、セイラとかってどうなってるっすかね?」

 サキュバスのチェム……鬼人のセイラ……二人とも俺達と関わりがある魔族だけど、世界の変革の影響がどこまで起きているか分からない。

 「まぁ、完全に見知らぬ人にはなっていないだろうけどな……。」

 たぶん、世界の変革があったうえで変わらないのは魔王だけだろう。

 リック、カミラ、アドラー辺りなら、彼らの強さ、魔族としての格、俺と出会ってからの状況から考えて、ひょっとしたら変わってない可能性もあるが……、あまり期待し過ぎないほうがいいだろう。


 「そうだな、サキュバスかオーガの里でも探してみるか。」

 「いいっすね。」

 「……っと、そう話はうまくいかないみたいだな。」

 「そうっすねぇ……どうするっす?蹴散らすっすか?」

 目の前に立ちはだかる……魔族の一団かな?

 「そうだな……とりあえず軽く絞めるか。」


 ◇


 「オイ、国境付近の怪しい奴らはどうした?」

 陣の入り口で警備していた魔物が声をかけてくる。

 「いや、実は……。」

 「お、捕らえたのか?」

 警備隊員が俺達を覗き込んで言ってくる。

 「おぉ、人族と言ってもいい女じゃないか……どれ。」

 下卑た笑いと共にミリィの胸に手を伸ばす魔物。

 シャキンッ!

 「えっ?」

 ミリィの腕に伸びた腕が、切り落とされ地面へ落ちる。

 「にぃに、捕まったふりして魔王の所に行くんじゃなかったすか?」

 「そうは言うけど、コイツがミリィの胸を触ろうとしたんだぜ。」

 「ふんっ!」

 いきなり、リィズが、俺の前で転がっている魔物を蹴り飛ばす。

 「ねぇねの胸は私のもんっす。何勝手に触ろうとしてるんすか!」

 ゲシゲシッ!と蹴り飛ばすリィズ。


 「こいつら……やっちまえっ!」

 「あ、待て、お前ら……。」

 バァンッ!バンッ!バァンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!……

 ソラのワルサーが火を噴く。

 ……あっという間に制圧される魔物たち。

 「あーぁ……やっぱりこうなったかぁ。」

 呆れたように言うカナミ。

 「まぁ、みんな気が短いからなぁ。」

 「センパイが言うな!」

 スパーンとハリセンの音が鳴り響く。


 「でも、どうするの……コレ?」

 地面に転がる魔物と魔族たち……。

 「……まぁ、とりあえず……。」

 俺は地面に転がっていた魔物の腕を拾い上げる……さっき斬り捨てた奴だ。

 そして、それを魔物の腕につけてポーションを振りかけてやる。

 「おぉ!俺の腕が!」

 「無事くっついたか……じゃぁ。」

 俺はその魔物に麻痺の魔法をかけて動けなくする。

 

 「さて、と……。」

 俺は前方から来る一団を待ち受ける。

 「これは何事だ!」

 やってきた一団の長らしきものが、地面に転がる魔族や魔物達を見て声を上げる。

 「先に襲ってきたのはそっちだからな。」

 とりあえず主張はしておく。

 「お前らがやったのか!」

 「返り打ちにしただけだよ……それより聞きたいことがある。」

 「黙れ!おい、こいつら……を……。」

 隊長が指示を出すよりも早く、リィズが背後を取り、双剣を喉元に突き付ける。

 俺は隊長さんの前に行きもう一度聞く。

 「聞きたいことがあるんだが?」

 「は、はひ……な、何でしょう……?」

 「アドラーはこっちに来ているか?」

 「な、な、何故元帥の名前が此処で……。お前は……いや、貴方様は何者ですか?」

 「そんな事はどうでもいい。アドラーはいるのかいないのか?」

 「アドラー元帥は、まだ国元におられます。」


 ◇


 国境の警備隊の連中には、情報料として各種ポーションを渡しておいた。

 ここで弱体化してもらうわけにはいかないからな。

 「で、センパイどうするの?」

 まぁ、魔族領の奥まで行く前にやることもあるしな……

 「とりあえずアドラーに会うのは後回しだな……こちらの事を覚えている保証もないしな。」

 「じゃぁ、当初の予定通りサキュバスかオーガの里を探すって事でいいっすか?」

 「そうだな……でもとりあえず今日の野営場所を探すのが先かな?」


 「キャー、誰か、助けてー!」

 その時、近くで助けを求める悲鳴が聞こえる。

 「「「「……。」」」」

 「前にも、こんなことなかったか?」

 俺の問いかけに、みんな遠い目をする。

 「助けてー!助けてー!誰かぁー!」

 「……見捨てるわけにもいかないよな?」

 

 「……やっぱり。」

 「今回もまた、見事なまでの『お約束』ね……。」

 駆け付けた俺達の目の前には、以前もどこかで見た事のある光景が繰り広げられている。

 俺達は、それを見て大きなため息をつく。


 目の前には蜘蛛の巣に捕らえられ、あられもない格好で身動きが取れずにいる女の子。

 そして、それを狙って、いまにも襲い掛からんとする巨大蜘蛛。

 まったく同じ光景だった……。


 「誰だか知りませんが、助けて下さぁーい。食べられちゃいますぅー。早くして下さぁーい。」

 俺達に気づき、泣きながら助けを求める女の子の背中からはそれほど大きくない黒い翼が見える。

 そして小柄ながら、出る所はしっかりと出ているボディライン。

 「チェム……。」

 巨大蜘蛛に掴まり、いまにも食べられそうになっているのは、ロリサキュバスのチェムだった。


 「あ、レイフォード様じゃないですかぁ!助けてくださいよぉ!」

 誰か?ではなく俺だということに気付き、助かったぁという声を出すチェム。

 「チェム、アナタはここで何やってるんすか?」

 拾った小枝の先で、チェムの胸をツンツンと突っつくリィズ。

 「アンッ、そこダメですぅ……助けてくださいよぉ。」

 涙目で訴えるチェム。

 「チェムちゃんだぁ、新しい遊び?」

 そこにソラも加わり、身体の敏感なところを突っつきまわされるチェム。

 「ゴメンナサイ、あんっ……許してください。ダメぇ……私が悪かったです、嫌ぁ……でも助けて。……アンッ……いやぁ……。」


 「おーい、遊んでないで助けてやれよぉ?」

 というか、いい加減にやめてやってほしい……かなり、眼に毒だ。

 「本当にけしからん胸っす。蜘蛛の代わりに食べてやるっす。」

 そう言って、チェムの胸を揉み始めるリィズ。

 「あんっ、嫌ですぅ……別の意味でピンチですぅ……あんっ、それ以上はダメぇ……。」


 ビシッ!

 必死にチェムの胸を揉みしだくリィズの頭をカナミが叩く。

 「落ち着きなさいっ!」

 「ハッ、つい我を忘れてしまったっす。……サキュバスは侮れないっす。」

 「ぐすん……助けて……。」

 涙をいっぱい貯めた目で俺を見上げてくるチェム。

 ウン、これはかなりクるものがある……ミリィのバインドで拘束されていなければ飛び出していったに違いない。

 というか、飛び出しかけたところをミリィのバインドに掴まったんだが……。

 「レイさんも落ち着いてくださいね。」

 笑っているけど、笑っているはずなんだけど……ミリィの笑顔が怖い。

 ちなみに、巨大蜘蛛は確認した時点で魔法を打ち込み、息の根を止めている。

 

 「センパイ、一つ聞いていい?」

 カナミが戻ってきた。

 落ち着いたリィズが、ソラと一緒にチェムの救出をしている。

 「センパイ、ここに来た目的覚えていますか?」

 「決まってるじゃないか。ロリサキュバスを捕まえぐぅっ……。」 

 俺が最後まで言い終える前にミリィから氷の礫が落とされる。

 「レイさん?」

 「冗談です。魔王の娘の情報を得るためです、ハイ……。」


 「うぅ……酷い目にあいました。」

 泣きべそをかきながら、リィズたちと一緒にやってくるチェム。

 俺も酷い目にあったよ。

 「レイフォード様お久しぶりですっ。」

 ぴょこんとお辞儀をするチェム。

 「前にあったのはぁ……あれっ?いつでしたっけ?……それに、私って、どうやってレイフォード様と知り合ったんでしたっけ?」

 あれ?あれ?と考え込むチェム。

 チェムの反応からすると、それなりの親交があったことはそのままだが、きっかけとなった出会いがすっぽりと抜けている……ってところか。


 「えーと、えーと……まいいか。」

 チェムの中で適当に折り合いがついたらしい。

 「とにかく、久しぶりですね。里に案内しますね、みんなも喜びますよ。」

 「それはいいんだが、何故縛られたまま?」

 チェムは両手首が縛られたまま、身体にも糸が絡みつき動きにくそうだ。

 「魔力で強化された糸みたいで、中々切れないんす。無理するとチェムを傷つけそうだったのでそのままにしてるっす。」

 ん……たぶん俺の力なら切れるだろうけど……これはこれでいいのでしばらくは放っておこう。

 「……にぃにが、また悪い顔になってるっす。」

 「チェムに欲情しないように気をつけないとね。」

 「……やっぱり胸?」

 「やっぱり、レイさんも縛っておきましょうか?」

 ……俺の扱いが酷ぃ……。


 俺達はチェムに案内されサキュバスの村へ赴くことになった。

 「チェムちゃんの様子を見ている限り、大丈夫そうだね。」

 「あぁ、どれくらい変革の影響を受けているかどうかわからないが、「セレナーデ」関連に関して以外は心配しなくてもよさそうだ。」

 「うん、よかったよ。でも……。」

 「心配するな。何とかなるさ。それに、一つだけ確かなことがある。」

 「えっ?」

 「今夜は野宿しなくても済みそうだって事。」

 「あはは、確かにね。」


 森の中に、俺とカナミの笑い声が響いていた。

 

 

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