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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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100/153

※ 祝 100話記念SS カフェ!

すみません。100話という事でSSを挟ませていただきました。

本編の続きが気になる人ごめんなさい。

 「ねぇ、おかしくないかな?」

 そう言って香奈美が俺の目の前で、くるりと一回りする。

 翻るスカートから伸びる、すらりとした脚。

 ふわっとしたミニスカートのワンピースは、レースをふんだんにあしらっていて、香奈美の可愛さをより強調させている。

 「よく似合っていて可愛いよ……だけど街中は歩けないな?」

 俺は笑って答える。

 「そうだよねー。」

 カナミもその通りと笑う。

 

 「いよいよ、明日だね……。」

 「あぁ、香奈美達が頑張ってくれたおかげで何とかなりそうだよ。」

 「えへへ……私達のお店。夢の第一歩だね。」

 香奈美が本当に嬉しそうに笑う。しばらくこの笑顔が消えることはないだろう。

 「まぁ、3日間だけの限定だけどな。」

 「それでもいいの!私達の夢の第一歩には違いないんだから。」

 「そうだな……明日のオープンに向けて、最終チェックしようか?」

 「ウン。」


 嬉しそうに店内を駆け回る香奈美を見て、この話を受けてよかったと心から思う。

 「夢の第一歩か……、マサキさんに感謝だな。」

 俺は、マサキさんからこの話を持ち込まれた時の事を思い出す……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「ウーン、カナちゃんは今日も可愛いねぇ。」

 「アリガト、でも何も出ませんよ?」

 カナミがカウンター越しに常連さんと会話しているのを見ながら、俺はいつもの日課である製作スキル上げに精を出している。

 

 ここはUSO内のユーザーホームだ。

 元は俺の製作スキル上げの為の拠点だったのだが、カナミと知り合ってから、いつの間にかカフェに変わってしまった。

 今では、知る人ぞ知るという隠れ家的存在のカフェとして、それなりに人が出入りするようになっている。

 ただ、カナミが粘着されないかという心配がいつも付きまとってはいるのだが……。


 「そんなこと言わずにさぁ、今度オジサンとデートしようよ。」

 「えーと、お断りします。」

 カナミが断ると、近くのプレイヤーが集まってきて、カナミを口説いていたプレイヤーを取り囲み、店の外に連れ出す。

 そして響く爆音……。

 戻ってきたプレイヤー達は、何事もなかったかのようにおしゃべりに花を咲かす。

 カナミも、常連のプレイヤー達も、いつものネタなので気にしてないが、たまに目にした一見さんはかなり驚くらしい。 


 「あーヒデー目にあったぜ。」

 そう言いながら俺の前に腰かける、さっきの常連プレイヤー。

 カナミに声をかけ、口説いて、他のプレイヤー達に連れ出される。そして戻ってきて俺に話しかける……ここまでがいつものパターンだ。

 「マサキさんも、皆も飽きないね?」

 俺は目の前の常連プレイヤー……マサキさんに、そう声をかける。

 「おうよ!1日1回コレをやらないと調子が出なくてな。」

 ガハハ、と大笑いするエモーションを出すマサキさん。

 「それで実は相談があってな……ダイレクトチャット、いいか?」

 「了解、切り換えるわ。」


 ダイレクトチャット……通称D.C.は、他人に聞かれたくない個人同士の会話に用いられる。

 たまに、切り換えたつもりでいてオープンチャットで誤爆するというのは良くある話だったりする。

 まぁ、本当に聞かれたくない話であれば、連絡を取り合ってリアルで直接と言うのが安全だが、プレイヤー同士でそこまでの付き合いがあるのは珍しい……と俺は思っている。

 ……決して俺がコミュ障だからってわけではない……と思う。


 「で、実はいきなりなんだが……。」

 マサキさんからのD.C.が入る。

 「レイの住んでいる所って……。」

 いきなりマサキさんが俺の住む地名を言う。

 いったい何だ?

 「いや、実は俺もその近くに住んでてな。」

 俺の訝しむ気配を感じたのか、慌ててそう言ってくる。

 一方的に弱みを握って……とかではなさそうだが。

 「まぁ、一度リアルで会って話が出来ないかなと思ったわけだよ。」

 ……要はオフ会のお誘いか。

 「そうだな……いいよ、いつにする?」

 「こっちとしては出来るだけ早い方がいいんだが……今度の金曜日はどうだ?」

 今度の金曜は祝日で3連休の初日だ。中日の土曜よりは都合がいい。

 「あぁ、それでいいよ。」

 俺達は、時間とか場所を決めて、その日はログアウトした。

 しかし、オフ会か……香奈美も誘うか?

 ……いや、相手が分からないから、とりあえずは俺だけでいいだろう。

 

 ◇


 金曜日、俺は待ち合わせ場所に向かう。

 相手が指定してきた場所は、俺も香奈美とよく行く場所なのでなじみ深い。

 「……まだ来てないか。」

 俺は周りを見回すが、マサキさんらしい男性は見当たらなかった。

 まだ、10分前だしな……。

 もう一度周りを見てみると、ひざ丈スカートのワンピースが良く似合う、お嬢様っぽい感じの女性と目が合った。

 俺は慌てて目を逸らす。

 見てたと思われると通報されるかもしれない……って、香奈美の時も同じような事を思ってたなぁ。

 等と考えていたら彼女が近づいてくる。

 「ひょっとしてレイフォードさん?」

 誰だ?俺の知り合いにこんな可愛い子いないぞ?

 「アハ、分からないですよね、マサキです。今日は来ていただいてありがとうございます。」


 「改めまして、真崎 瞳と言います。」

 最寄りのカフェに入り、席についてそれぞれ注文を終えると、目の前に座ったマサキさん……瞳さんが自己紹介をする。

 「あ、あぁ、初めまして、星野彼方と言います。」

 「アハ、驚いてますね♪」

 「だって、あのオッサンが、こんな可愛い子だなんて誰も思わないでしょ?」

 「それが狙いです♪」


 可愛いと言っているが、実は瞳さんは俺より3つ年上のお姉さんだった。

 しかし、どう見ても二十歳そこそこにしか見えない……こう言う実例を見ると、下手に女性に年を聞くのが、如何に危険な行為かというのがよくわかる。


 瞳さんの話では、以前ネットでリアル女性とバレて嫌な思いを散々したことがあり、それからはオッサンキャラで通しているとか。

 その後も何故、俺の住んでいる所が分かったのかとか、キャラにまつわるアレコレとか、USOの話題で大いに盛り上がった。


 「あ、おしゃべりに夢中で本題を忘れるところだったわ。」

 瞳さんはそう言って、居住まいを正し俺を見つめる。

 「星野さん、あなたの……いえ、あなた方の力を貸していただけませんか?」


 瞳さんの話では、この近くにある飲食店に向いた店舗を買い取って再建するプロジェクトがあり、その全責任を任されたのだと言う。

 色々なコンセプトを考えた末、USOの俺のユーザーホームを再現したいとのことだった。

 そして俺には、そのデザイン及びコンセプトの監修と実働3日間の運営を手伝ってほしい、とのことだ。


 「色々格好つけて話したけど、要はあのお店の雰囲気をリアルで再現したくなっただけなのよね。」

 「でも、いきなりそんなこと言われても……。」

 「この場ですぐとは言わないわ。……明日の夕方、もう一度会えるかな?OKなら、そこでもう少し具体的な話を、NGならこの話はなかったことで……どう?」

 「そうですね、明日の夕方まで考えさせてください。」

 「じゃぁ、明日の18時、ここでいいかな?」

 ゆっくりして行ってね、と言って瞳さんは先に店を出ていく。

 この後打ち合わせが入っているそうだ。

 「はぁ……あのカフェをね……。」


 コーヒーを飲み干して店を出る。

 手伝いとはいっても、実質立ち上げを任されるようなものだ……俺も職場で似たようなことをやっているだけに、その大変さは嫌というほどわかっている。

 いくら責任はないからと言われても、そう簡単に引き受けるわけにはいかないだろう。

 

 色々考えているうちに部屋に辿り着く。

 「俺の部屋の前に美少女が立っている……。」

 「美少女に待たれるシチュエーション、どう?」

 俺を待つ美少女……香奈美がそんな事を言ってくる。


 「暑かっただろうに……入って待ってればよかっただろ?」

 「……だって……。」

 俺と香奈美は、この春に付き合いだしたばかりだ。

 と言っても、この部屋には付き合う前からよく来ているし、合鍵だって持っている。

 普段なら、中で待っているはずなんだけど……。


 「ん、どうした?入らないの?」

 香奈美は何か考えているようだったが、意を決したように聞いてくる。

 「今日どこ行ってたの!あの女の子は誰?」

 香奈美はそれだけ言うと俯いてしまう。

 「えーと、今日って……。」

 「こんなの、ヤキモチ焼いているみたいでイヤだけど……気になるモン。センパイが他の人とデートだなんて……信じてるけど、信じてるけど!」

 香奈美は、必死に、何かを堪える様にしながら、それでも何とか声を絞り出すという感じで言ってくる。

 あちゃぁ……失敗した。

 「とりあえず、中でゆっくりと話そうか。」

 いかにも修羅場ってますと言う感じになりかけたので、中へと促す。

 俺でも、人並みには世間の眼というものが気になるのだ。

 

 「落ち着いた?」

 「ウン……このハーブティ美味しぃ。」

 「カモミールとジャスミンのブレンドだよ。」

 「そっか、ジャスミンのホットって初めて飲むよ。」

 「普通にアイスティとか、アイスコーヒーとかあるけど、元々お茶とかコーヒーってホットが基本なんだよ。……何故だかわかる?」

 「ん、わかんない。」

 「即答かよ。」 

 「だって、説明したいんでしょ♪」

 「そう言われると、話したくなくなるなぁ。」

 「わぁー、うそうそ。なんで、どうして、聞きたいなぁ。」

 そう言って、笑いながら俺を見上げる香奈美。


 「ま、仕方がないか。……諸説色々あるけどね、俺が一番好きな説は……ほら、熱いとすぐ飲めないだろ?だから、飲み頃になるまでの時間というのが出来るわけだ。その時間がすごく大切で……例えばイライラしてる時、緊張してる時、悩んでいる時……ちょっと時間置けば、心に余裕が出来ないか?そう言うちょっとした、大事な時間を作る為に、熱いお茶があるって考え方なんだけど……どうよ?」

 俺の言葉に香奈美が聞き入っている。

 「そう……だね。センパイの言う通りだよ。……なんか、珍しく久しぶりにいい話聞けたって気がするよ。」

 「おいおい、俺の話はいつも為になる話ばかりだろ?」

 「ソウデスネー。」

 いつもの調子が戻ってくる。

 よかった、泣かせたくないからな。香奈美にはいつも笑っていてほしい。


 それから、香奈美にオフ会に誘われた経緯から、マサキさん……瞳さんが何故オッサンキャラを使っているのかとか、今日の本題に至るまで話して聞かせる。

 「という事で、明日までに返事をすることになったんだよ。丁度香奈美に相談したかったから、来てくれて助かった。」

 「へー、そうなんだ……でも、カフェのオーナーかぁ、やってみたら?」

 「あっさりだなぁ。」

 「だって……。ねぇ?それって私も手伝っていいのかなぁ?」

 「いいと思う……というより、初めから頭数に入っていると思うよ。」

 「だったら、尚更だよ。やろうよ、カフェ。」

 香奈美が、力一杯力説してくる。


 「やけに乗り気だけど、一体どうして?」

 「あー、この前言ったこと忘れてるなぁ。……それとも本気にしてなかった?」

 「この前?……将来リアルでもカフェをやりたいって?」

 「そうそう、それよ!」

 以前、USO内でカナミが、出来る事ならこんな感じのカフェを、リアルでもやってみたいって言ってたことがある。


 「そう言えば、本気で目指すなら、出来るだけの応援するって言ったっけ。」

 「そうだよ!思い出した?……今回は、私達のお店じゃないけど、この経験はきっと役立つと思うんだ。だからやってみたいよ。」

 香奈美の話を聞いていると、今まで悩んでいたことが何でもない事のように感じる。

 そうだな、こう言っては何だけど、今回は失敗してもリスクは殆どないし、そう考えるといい練習台だよな。


 「じゃぁ、香奈美、明日一緒に来てくれるか?約束は18時だから、それより前に待ち合わせて、適当にぶらついて……。」

 「10時駅前!」

 「え?」

 「明日は、10時に駅前!水族館でデート!いいですか?」

 「ハイ……10時デスネ……。」

 

 ◇


 「じゃぁ、香奈美ちゃんも手伝ってくれるのね。よかったぁ……どうやってお願いしようか悩んでたのよ。」

 俺達が待ち合わせのカフェに行くと、瞳さんはすでに来ていた。

 香奈美を紹介し、是非カフェをやらせてほしい、香奈美も手伝いたいと伝えると、瞳さんは大喜びで、今後の計画を離してくれる。


 「コンセプトは、あのユーザーホームね。レアアイテムとかは飾れないけど、代わりのオブジェは、後からカタログ送るから、そこから選んでみて。

 食器とかはこっちで手配かけるけど、何か意見とかある?

 それでね、ウェイトレスなんだけど……。」


 瞳さんは、今決まっていることやこれからの展望をどんどん話していく。

 俺や香奈美は、その一つ一つに対し、確認や要望を伝えていく。


 それからの話は早かった。

 店の外観、内装等は、瞳さんの趣味や俺達の意見に従ってどんどん出来上がっていく。

 メニューは香奈美が瞳さんと相談して決めて行ったようだ。


 ちなみに、瞳さんがどのような手段を使ったのか分からないが、話が決まった1週間後に俺の職場にこのカフェの立ち上げ案件が持ち込まれ、そのプロジェクトの責任者として俺が任命された。

 責任者と言っても、社内でこの案件に関わるのは俺一人だったが。


 まぁ、うちの職場はコンサルト事業もしていて、事業立ち上げの相談も業務内容ではあるのだが、まだ新米の俺をしかも一人だけで任せるというのはあり得ないと思うんだけど…………深く考えるのはヤメよう。後戻りできなくなりそうだ。……世の中知らない方が幸せという事はたくさんあるのだよ。


 とにかく、仕事としてこの案件に集中できるのはありがたい。

 今、俺が頭を悩ませているのはコンセプトの部分だ。

 USO内のユーザーホームを再現となると、公式非公式問わず運営に断りを入れる必要もある。

 それにメイドカフェみたいなノリにはしたくないが、衣装などからしても、そういう要素も取り入れなければならないのか……考えることがいっぱいだ。


 「うーん、彼方君の言いたいことも分かるけどね……ぶっちゃけるとね、売り上げとか気にしなくてやりたいようにやってくれていいよ。……そうだね、文化祭のノリでやってくれればいいかな?」

 瞳さんはそう言ってくれる。


 「センパイは考えすぎなんだよ。……来た人がお茶を飲んで笑顔で美味しいって言ってくれる、ちょっと落ち込んでいたけど、ここに来たら少し気分が浮上した、いつ来ても楽しい……そんな、どんな気分の時でも足を運びたくなるようなカフェがいいなぁ。」

 香奈美の言う事は理想だと思う。現実とは違うから理想なんだ。

 でも……理想があるからそれを目指していける……。

 「そうだな、文化祭のノリでいいって言ってたし、やりたいようにやってみるか。」

 すべてが納得できたわけでもないが、出来ること出来ないことがあり、自分にはまだまだ経験がなさすぎる。


 そして、店舗が完成し、オープン間近にようやく衣装が出来上がる。

 ぶっちゃければ、USOのアンチミラードレスのコスプレだ。

 USOの運営からは、許可が下りただけでなく、3日間の限定コラボフェアとして宣伝までしてくれた。

 おかげで問い合わせが殺到し……想定以上の集客があるかもしれないと、慌てて知り合いに当日のヘルプを頼んだり、在庫の追加発注をしたり、オープン前の1週間はこれ以上ないほど忙しかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「ごめーん、遅れたっす!……外凄い人っすよ。」

 予定時間より遅れてやってきた梨珠が外の様子を教えてくれる。

 「いいから、早く着替えて!もう時間ないよ!」

 オープン当日は想定以上の賑わいを見せている。

 まだオープンまで1時間近くあるのにすでに長蛇の列が出来ているのだ。

 急遽店外にテラス席を設置したが、全然足りていない。


 一応キッチンスタッフとして、俺以外に美里さんと瞳さんがいるが、手が足りないかもしれない。

 ホールスタッフは、香奈美と梨珠に、妹の美鈴の他、瞳さんの知り合いで3名が来てくれている。

 昼からは天も来てくれることになっているが……。

 大丈夫だろうか?不安で一杯になっていく……。

 「大丈夫だよ。」

 不意に、香奈美が俺の手を握ってくる。

 「大丈夫、成功するから、がんばろ?」

 「そうだな。」

 根拠も何もないが、香奈美が言うなら大丈夫なんだろう。

 何故かそう思えた。


 「じゃぁ、皆さん、よろしくお願いします。」

 俺は、スタッフ皆に細々とした注意事項を伝えて、オープンを告げる。

 そう、俺達の夢はここから始まるんだ。


 カランカラーン。

 店の扉が開き、お客様が入ってくる。


 「ようこそ!『KA・KU・RE・GA』へ!」


 ◇

 

 「5番テーブル、カモミールとブレンドティです!」

 「3番テーブルのミントティとホットコーヒーあがってるよ!」

 「誰か2番にヘルプお願いします!」


 店の中は喧騒に包まれている。

 ホールスタッフの香奈美たちが行き来するたびに、スカートが、ひらり、ふわりとする。

 彼女達が笑顔で接客している様は見ていて癒される。


 最初は予想以上の来店数に驚いたが、大半の客はUSOのコラボグッズを手にすると、さっさと帰って行く。

 また、素人同然のホールスタッフの中で、普段バイト等でファミレスやカフェの経験のある梨珠の存在が大きく、自分の事だけでなく、周りまで目を配って、適切な指示を出してくれる。

 彼女のおかげで、あれだけたくさんいたお客も、順調に捌いていくことが出来ている。

 

 「この様子だと、交代で休憩に入れそうね。」

 昼も過ぎたあたりで、瞳さんがそう声をかけてくる。

 お客様も落ち着き、店内はやや閑散としてきている。

 「そうですね、瞳さんお先にどうぞ。」

 「あら、彼方さんに先に休んでいただきたかったのだけど?」

 「いや、俺はここで彼女たち見てる方が癒されるんで。」

 笑いながらそう言うと、男の子ねーと言って、瞳さんが休憩に入っていった。


 「キッチンは暫く大丈夫そうね。私もホールに回るから、何人か休憩させてあげて。」

 美里さんが、そう提案してくれる。

 「ありがとう。お言葉に甘えるよ。」

 そう言って、俺はホールスタッフに休憩の指示を出す。


 ◇


 「センパイ、お疲れ様。」

 客足が途絶え、一息ついたところで、香奈美が俺の傍へとやってくる。

 「どう、疲れてない?」

 「ウン、疲れてるけど、楽しいよ。やっぱり、プレイヤーが多いね。今度オフ会で使いたいっていう意見が多かったよ。」

 「そうか……。」

 「あ、でも、ほらコレなんか、センパイのブレンドが美味しいってほめてるよ。」

 見ると、アンケートの中には、チラホラとお茶の味について触れているのもある。 

 「これぐらいゆったりした感じがいいね。」

 店内には5組程度のお客様がのんびりしている。

 「まぁ、毎日こんなんじゃ、生活は出来ないけどな。」

 「もぅ、またそう言う事、言うしぃ……。」


 カランカラーン。

 「おっと、お客様だよ。」

 「はーい。いらっしゃいませ……。」


 ◇


 うぉぉぉぉ……!

 天ちゃーん!……

 梨珠ちゃん、マジ天使!

 美里さん素敵ぃ!

 …………。


 店内は何故か、ミニスステージが出来上がり、そこで天と梨珠と美里が歌っている。

 店の外では、道行く人が、何事かと足を止めて見入っている。

 アンミラドレスの裾を翻しながら、歌って踊る姿は、見ていてすごく楽しい。

 お客さんが興奮するのも分かるけど……。

 こういう予定にない事されると困るんだよね。

 

 ◇


 「「「「「「お疲れ様でしたー。」」」」」」

 カチンと皆でグラスを合わせる。

 「あっという間の3日間だったね。」

 香奈美はそう言ってくる。

 過ぎてしまえば、あっという間の3日間……しかし、中身の濃い充実した3日間だった。

 

 一応打ち上げという事で、閉店後の店内を貸し切って、ささやかな飲食をしているのだが、今ここに居るのは俺の他に、香奈美、美鈴、天、梨珠、美里だけで、他の皆は用事があるといって帰ってしまった。


 「でも楽しかったっすよ。」

 「あれだけ騒げば、楽しかっただろうねぇ?」

 俺はジト目で梨珠を見る。

 梨珠は結局3日の間、天が来るたびに色々けしかけ、挑発し、結局ライブをやるという流れに持って行った。

 天の方も、それにノッた振りをしながら、実は大喜びだった気がする。

 また、お客様もノリが良く……というより期待した目で二人の動向を見守っていた。

 

 「あはは……お客さんも喜んでいたっすよ?」

 「今日なんかは、お客様が、いつ始まるのかと待ち構えていましたからねぇ。」

 そう、美里の言う通り、今日は、天のステージが始まるのを期待していたお客が多かった。

 昨日と一昨日の騒ぎが口コミで広がったせいだろう。

 USO内でも、話題に上っていた程だ。

 今日なんかは、わざわざ地方から、来てくれたプレイヤーもいたらしい。

 香奈美が対応していたが、いつもユーザーホームに来てくれる常連さんだったとのことだ。

 

 「でも、アンケート結果見ると彼方さんの事が多いですよ。」

 そう言って美里がアンケート用紙を見せてくれる。

 そこには……

 「店長のハリセン、どこから出したの?」

 「店長のハリセン捌きが神!」

 「店長のツッコミが一番面白かった。」

 etc.etc.……。

  

 俺はそのまま机に突っ伏す。

 まぁまぁと、頭を撫でる香奈美。

 ボクもーと、天も頭を撫でてきて……結果もみくちゃにされる。


 ◇


 「まぁ、色々あったけど無事終わったのはみんなのおかげだよ。ありがとう。」

 結構いい時間という事もあり、御開きにする際、俺は改めて皆にお礼を言う。

 「ウン、私からもありがとうを言わせて。今回の事はすごく勉強になったよ。いつか自分のお店持ちたいって改めて思った。」

 俺の言葉に続き、香奈美もそんな事を言ってくる。

 「仕方がないっすね、その時はバイトとして雇われてあげますよ。」

 梨珠がそんな事を言う。……素直じゃないからな。

 しかし、梨珠はそんな年までフリーターをやるつもりなんだろうか?


 「ま、将来どうなるか分からないけどな、そう言う店があるといいなとは思うよな?」

 俺が言うと皆は頷いてくれる。

 「でも……?」

 「どうした美里?」

 「カフェの店長さんの稼ぎで、私を囲えますか?」

 美里が、俺の腕を取り、絡めながらそんな爆弾を落とす。

 「囲いません!」

 香奈美が俺と美里の間に割り込む。

 「あらら、本妻に怒られちゃったわ。」

 怖い怖いと言いながら距離を置く……どこまで本気なんだか。


 ◇


 「でも楽しかったねー。」

 香奈美と手をつなぎながら歩く、帰り道。

 みんなとは途中でわかれている。

 美里が梨珠や天を送ってくれると言うので言葉に甘えた。

 何故か美鈴も「梨珠に話がある」と言って一緒について行った……まぁ、気を利かせてくれたんだろうな。 

 「まぁ、大変だったけど、いい経験にはなったな。」


 「ウン……。私決めたよ……大学にはいかない。」

 香奈美は何かを決意したかのように伝えてくる。

 「……そうか。」

 「そうかって、何も聞かないの?普通そこは、なんで?とか、大学行かないでどうするんだ?とか聞くモンじゃないの?」

 「香奈美が決めた事だからな。」

 「ぶぅー、なんか冷たい。」

 俺の反応は香奈美が思っていたものではなかったらしい。

 ここは、物わかりのいい彼氏に惚れ直す処じゃないのか?


 「……まぁ、香奈美の最終的な就職先に学歴は関係ないからな。」

 俺は、平静を装ってそう言う。

 「えっそれって……?」

 香奈美が顔を赤らめる。

 香奈美の顔を見てるのが気恥ずかしくなり、つい顔を背ける。


 「ねぇ、それってどういう事かなぁ?」

 腕を絡ませ、甘えた声で聴いてくる。

 わかってて言ってるな?

 「最後まで言わせるなよ、恥ずかしぃ。」

 俺は顔を背ける。

 「えー、言ってくれないと分かんないよぉ?」

 さらにじゃれついてくる香奈美。

 「ええい、この話はお終いだ。」 

 「何で何で―。」

 ケラケラと笑う香奈美の肩を抱き寄せて、耳元でささやく。

 すると、香奈美は真っ赤になって、小さく「ウン」と頷いてくれた。


 月に照らされた二人の影が重なり合う……。

 この時間がずっと続けばいい……俺達はお互いにそう思っていた。

     

前回の引きがあんなんだったのでSSを挟むかどうか悩みましたが……まぁ、100話という事で、PVも2万を超えましたので……(^^;

 

正直SSを挟むかどうか悩んだのですが、100話という節目は二度とないものなので思い切って挟むことにしました。


次回、ガイアドラゴンのがっちゃん登場です。

 

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