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気持ぢいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


港町レフーム、海を隔てた国との玄関口であり王国唯一の港だ。異国の品や海鮮品を買い付けに来る商人や海を見にやってくる旅人や貴族。普段のレフームには様々な人種、国籍、立場の人間が集まり首都のナハパッドに負けないほどの活気がある。そんなレフームには現在災害指定魔獣が出現し異国との貿易船も漁船も一切出せない状況であった。魚や交易品が出回らないため露店や食堂オークション会場等も殆どが閉鎖されている。



久しぶりに依頼を受けた男はレフームにいた。

聞いてはいたけどホントに人がいねーなぁ、露店で腹ごしらえしようと思ったが人っ子一人いやがらねぇ。さっさと依頼を終えて帰ろ…


男はレフーム領主から災害指定魔獣の討伐を依頼されていた。一度は断ったのだがベテラン受付嬢から発される圧力に負けてしまったのだ。


災害指定魔獣の名は『クラーケン』Sランク冒険者を含める大規模な討伐隊を編成してやっと勝てる魔物であり、主戦場が水中とのこともあり厄介さで言えば龍種と同等とされているほどだ。男はクラーケンについての様々な注意事項の説明をレフームのギルドで受けていた。本来最強と名高い男にするような説明ではないのだが手違いや連絡不足が重なりAランク冒険者の扱いを受けているのだ。男はそのような事には気付かずに退屈そうに説明を受けるのだった。






「おい、おっさん!ちゃんと説明聞けよ!相手はクラーケンだぞ、そんなんじゃ死ぬぞ。」


男は衝撃を受けた。油断していたのだ。

なんてこった!完全に油断していた!相手がクラーケンでも、ここがナハパッドでなくても威勢の良いガキはいるじゃねえか!


男に声をかけた少年は17歳にしてBランク冒険者にたどり着いた天才であって、新人とは程遠い存在であるが今の男にはそんなことは些事であった。そして、完全な親切心で男に声をかけた少年の運命を決めた瞬間でもあったのだ。



「んん?誰が死ぬって?俺様が?冗談だろ?相手はちょっと大っきいイカだろ?それにこんないっぱい冒険者がいるんだ、負けるわけないだろ?お前こそ大丈夫かよ今のうちからそんなにビビってたら、いざ戦う時におしっこチビっちゃうぞ〜、ガハハハハ」



男は自分が下品で無知で他力本願な中堅冒険者を演じ切ったことに満足していた。


最高だ!移動に3日もかかって最近テンプレ不足だったんだ!今の俺、死亡フラグの塊じゃねえか!戦闘開始10秒で死ぬムーブだよ!


「それが油断だって言ってるんだよ!説明聞いてなかったのか?龍種と同等なんだぞ!そんな簡単に行く訳がないだろ!」



「龍種?あれだろ、ビッグリザードに羽が生えたやつだろ?あんなの雑魚だって」


…流石に無理があったかな、ぽかんとしちゃってるよ…


「マサキ、説明は終わったんだから行きましょ。そんなおじさんに時間取られて私達の準備が疎かになったら大変だわ。」


「分かったよシア、すぐ行く。おっさん、ホントに気をつけるんだぞ!」



助かった〜、シアさんファインプレイだ!危うく三下冒険者じゃなくて頭のおかしなおっさんになるとこだったわ…

にしても、マサキっていう少年ただの良い奴かよ。

このギルドに俺の事知ってるやつもいなさそうだし、一発でかいのキメて慌てふためくのを見るのも面白そうだな!









「マサキ、貴方の優しさは美徳だけど今日は我慢して。相手はクラーケンよ、いくらマサキでも他人を庇って戦う余裕は無いはずだわ。一番大切なのはマサキの命だから。」


「ああ、ありがとうシア。だけどあのおっさんだって死んで良いはずはないんだ。できる限りの事はするよ。」


マサキは討伐隊の全員が生還できるようにしょうと決意を固くするのであった。









海岸線に並ぶ冒険者たちに緊張が走る。魔寄せの香を付けた船が沖から近付いてきているのだ。作戦は単純、沖にいたクラーケンをコの字型になっている入江まで誘い込んで総力を叩き込むというもの。単純ではあるが主戦場をより優位な場所に持ち込み、敵をクラーケンのみに絞るという点ではこれ以上ない作戦でもあった。懸念点を上げるとしたら総力が足りなければクラーケンの上陸を誘導する形になってしまい街に多大な被害が出る点だろう。








『GYOEEEEEEEE』


一定以上の魔力を持つ魔物が使う咆哮には瘴気や魔力がのり、実力不足のものを強制的に屈服させる。通常討伐では咆哮に耐えうる者が先制攻撃を行い咆哮を防止するのであるが、今回の討伐隊にはSランク冒険者がいない。つまりは咆哮から逃れられる者がいないのであった。ただひとりを除いて。



『インフェルノ』


咆哮が止み、クラーケンの移動する音のみが静かに聞こえる中、その静かな魔法の宣言は討伐隊全てに響き渡る。直後、音を置き去りにするほどの業火が入江を包み込む。冒険者たちは何が起こっているのかすら理解出来ずにただひとり立っている男を見上げるのであった。






気持ぢいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

マサキもシアも他の冒険者も更には奥で控えてるギルド職員たちも間抜けズラしてやがる!ナハパッドの中堅以上の冒険者は俺の事知ってるからこんな反応久しぶりだ!気持ちいいよぉぉぉぉ!!くぅぅ、このままマサキの所まで駆け寄って「ねぇ?今どんな気持ち?圧倒的格上冒険者の心配してたマサキのくんは今どんな気持ちなの?」って煽り倒してやりたいが…今やっても反応してくれなさそうだなぁ、勿体ない。帰ろ。



堂々と帰宅する男を追える者はなく、その場には驚愕と困惑のみが残るのであった。


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