おかんキターーー
雨の日というのは冒険者にとっては休日に等しいものである。雨に打たれれば体力が減り、雨音は周囲の様子をうかがいにくくする。一部の例外を除き雨の日というのは危険に満ちているのだ。依頼を受ける冒険者がいないのであればギルドは閑散とする、わけではなく寧ろ多くの冒険者が朝から酒を飲みどんちゃん騒ぎをしている。
そんな中男は退屈そうに酒を飲んでいる。
はぁ、雨はダメだよ雨は。雨の日に新人が来るなんてまず無いしなぁ。今日は気分転換に依頼でも受けようかな……退屈だ…眠い…
「朝から何をしているんだ!!!」
うたた寝をする男を起こしたのは威勢のいい少年の声であった。
「雨の日といえど困っている人がいるんだ!酒なんか飲んでないで依頼を受けろよ!!腰抜け冒険者共!!」
退屈や眠気は既にどこかへ消し飛んでいた。この退屈な日に現れた救世主に歓喜する。
ありがとう神様、ありがとう世界!そこまでしてくれるっていうなら、俺も気合いを入れなくっちゃな!
いつも以上に気合いの入った男は最っ低に下卑た笑みを浮かべて少年へ近づくのであった。
「おい小僧、誰が腰抜けだって?まさか俺様の事じゃねぇだろうな?」
「お前達の事に決まってるだろう!朝から酒を飲んでどういうつもりなんだよ!冒険者ってのは困ってる人を助ける仕事だろ?雨なんて関係ないじゃないか!」
良いね!グレイトだよ!冒険者をヒーローか何かだと勘違いしてる思い込み強い系の主人公っぽい脇役だよ!
どこだ?思い込みの強い困ったくんをなだめるオカン的役割のヒロインは?まさか一人ってことは無いよな?
「ちょっと、コーキ!また他の冒険者さんに突っ掛かってるの!?止めてよ、皆さんに迷惑でしょ!!」
キターーー、おかんキターーー!
だがオカンよ、今日に限ってはお前の出番はない!俺がいるからな!
「おいおい、こーきくん(笑)、皆さんに迷惑だってよ?迷惑かけたらちゃんとごめんなさいしなきゃなぁ?」
こーきくん(笑)は小馬鹿にされた恥辱で顔を真っ赤にして小刻みに震えている。
「ふ、ふざけんな!決闘だ!お前みたいな酔っ払い俺一人で十分だ!」
沸点低いなぁもう少し会話を楽しませてくれよ…うん、もっとおちょくってやるか。
「みんな聞いたか?こーきくん(笑)は俺たちみたいな酔っ払いなら全員相手にしても勝てるって言ってるぜぇ」
「は!?そんなこと言ってないだろ!それとも一人で戦うのが怖いのか」
「え〜?腰抜け共って言ってたよなぁ?こーきくん(笑)こそ腰抜けの酔っ払い相手に怖がってんの?大丈夫だぜ、今なら逃げても笑わないからよぉ、ガハハハハ」
「ふざけんな!何人だろうとかかってこいよ!」
こーきくん(笑)はヤケになって承諾する。
その後、こーきくん(笑)が決闘場の申請を出したが多対一は流石に却下され俺とこーきくんの決闘となった。俺が出る時点でそんな変わらないけどね…ギルドはそれでいいのか?
グローブを両手に着けて構えを取るこーきくん、俺もそれに合わせて素手で相対する。武器を持ってないと思ったらこーきくんは拳士だったのか。
始めの合図とともに距離を詰めるこーきくん、ホントに拳士か?足さばきが素人以下だぞ、
『ファイヤジャベリン』
スキル名の宣言と共に飛来する炎の槍、詠唱破棄を用いて近距離で使われる魔法はまさに初見殺し、コーキの必勝の手筋であった。
…魔拳士かぁ、レアだけど魔力も筋力も中途半端な微妙な職業だよなぁ。そうすると詠唱破棄が恩恵か?うん、完全に職業選択間違えてるよね。
そんなことを考えつつも男は魔力のこもった拳で魔法を霧散させ、その勢いのまま拳はコーキの顔面を捉え意識を刈り取る。戦闘はいつも一瞬で片付ける主義であった。
その日、冒険者ギルドの入口には柱に縛り付けられた少年の姿が見られた。傍に立てられた看板にはこう書いてあった
ぼくはみなさんにめいわくをかけてしまいました、はんせいしてます。ごめんなさい。こうき じゅうろくさい