ここは私に任せて逃げて!(上)
冒険者ギルドの朝は騒がしい。日が昇ると共に依頼書が更新され、冒険者たちは割の良い依頼を求めて依頼書の奪い合いをする。これはランクの低い奴ほど顕著になる訳だが例外はどこにでも出るものだ。冒険者が集まる掲示板から少し離れたところで談笑をしている男女3人組。新品の装備には凝った装飾がされているが、摩耗の度合いから見てもほとんど使ってないのがわかる。金には困ってないが社会経験だとでも思って適当に依頼を受ける典型的な初心者共だ。男は今日の獲物を見つけて笑みを深めるのであった。
あいつらはちょっと前に登録した3人組で既に洗礼は済ませてあるんだよなぁ、今日はいつもとは趣向を変えて絡んでみようかな♪︎
「ライアン、きょーはどの依頼にする?」
「いつも通りゴブリンの汎用依頼でいいんじゃね?3匹狩れば依頼達成だろ、最高じゃん。新しく出来たレストランに行きたいしさっさと終わらせようぜ!」
「賛成。今日もライアンのお金で昼食を食べる。」
「了解了解、金はパパに貰ってきたからいくらでも食べていいぜ!」
いつも通りのやり取りを経ていつも通りの道をゆく三人、いつもと違う点を上げるとするならば気配のない人影が三人を追っていることだろう。
「『スラッシュ』ふー、依頼たっせー 帰ってお昼食べよー」
「やっと終わったな、ゴブリン共俺に恐れをなして全然出てこないのはどうにかして欲しいわ。」
「ん、毎日狩ってるから絶対数が少なくなってるのかも………、?索敵に反応が出た。こっちに向かっている。」
盗賊の役割を担っていた少女は索敵範囲内に急に反応が出たことに驚きつつも、隠密持ちの冒険者が来たのだと判断した。
「ガキが三人か、ん?ガキにしちゃ良い装備してんじゃねぇか。どうやら当たりをひいたみたいだな。おい、ガキども。装備置いて立ち去れなんて言わねぇぜ、どうせ三人ともぶっ殺すんだからな!」
三人が注視する中草むらから出てきたのは殺気を振り撒く獣人の男であった。
くひひひひ、作・戦・大・成・功!!こいつらめっちゃ驚いてやがる!剣士くんなんて足ガクガクさせちゃって。最っ高!久しぶりに変化スキル使ったけどちゃんと変身できて良かったぜ。これで無茶しても俺だってバレないな。ま、実際殺す気なんて全くないけどね。
「ライアン、ここは私に任せて逃げて!」
剣士ちゃんが死亡フラグを立てながら剣を振り抜く、ん?そっからじゃ剣なんて…そこまで考えるが長年鍛えた体が反応してサイドステップでその場を離れる。刹那、轟音と共に一瞬前までいた地面が爆ぜて大穴をつくる。
こっわ!なんじゃそりゃ!音も振動も魔力さえ感じなかったぞ、どんなスキルだよ!初見殺しすぎるだろ!今回の主人公は剣士くんじゃなくて剣士ちゃんかよ!?
「な!今のを避けるなんて、ライアン早く逃げて!」
「くっ、フランあとは任せたぞ!」
「同意。私たちはギルドに知らせに行くべき。」
それだけ言って立ち去る剣士くんと盗賊ちゃん……え?
もっと食い下がれよ!決断早すぎない?確かに決断は早い方がいいし三人死ぬよりは二人だけでも生き残ったた方が良いよ?それでもあっさりしすぎだろ!ちょっと位なら待つよ?せめて「フランを置いてくなんて出来るわけないだろ!」ぐらいは言おうよ!テンプレを守ろうよ!っとそんなこと考えてる暇はないか。移動を繰り返してフランとかいう剣士の謎攻撃を避けつつ思案する。んーどうしたものか…驚きすぎて二人逃がしちゃったしな、当初の計画では人質取っていろいろ遊ぶつもりだったんだけどなぁー
『エクスカリバー』
…!!
七色に光る剣を上段に構えスキル名を叫ぶフラン、魔法剣術系最高峰のスキルであった。
「ふふふ、ライアンの前で使ったら嫌われちゃうけど今なら使い放題だね!ライアンに怖い思いをさせたんだから覚悟してよね?」
煙が晴れると、黒い笑みを携えた少女が立っているのであった。