第八十六話 外宇宙の文化、野球拳
トップで仲間当てゲームをクリアしたラミィたちは一足早く次の階にやってきていた。
「おー、舞台」
中央に設置されていたのは四角いリング。
ジャンプで上がったルルがピースしていた。
「格闘技の試合でもするのかな?」
「どうだかな。あの魔族がそんなまともなゲームを用意しているとは思えんが」
やっぱり機嫌の悪そ~なレン。
力づくで脱がされたのでは無理もないだろう。
セスとメリルのコンビは強かった。
「おや……次も楽しいゲームになりそうだね……フフフ……」
皮肉っぽく笑いながらやって来たのはリンネ。
チームメイトのスズとエリザも一緒である。
「さっきのは酷かったからな。実力で決まるゲームなら嬉しいとこだけど」
「あ・り・え・ま・せんわ! あのハレンチ魔族に限ってそんなことは絶対に!」
スズは冷めた態度、おそらく付き合わされているだけなのだろう。
それに対してエリザはと~っても機嫌が悪かった。レンと同じ理由だ。
『思っていたよりも大分早く六チームがそろったな。やはり学院の関係者ばかりになってしまったか』
すい~っと飛んで来たリリム。
残りのチームも続々とやって来た。
ミランジェのチームやヴァリンのチーム。シュノセルたちもいる。
『さて、どんどん進めるぞ。次はチーム同士の直接対決だ。これで決勝に残る三チームを選ぶ』
どうせまともな勝負ではないのだろうと全参加者が思っていた。
『これからお前たちには……『野球拳』というゲームで戦ってもらう』
「野球拳? なんだそれは」
腕組みしたレンが聞いた。
『ルールは簡単。ジャンケンをして負けた方が衣服を一枚脱ぐ、というのを繰り返し、裸になるかギブアップを宣言したら負けだ。これを三対三の勝ち抜き戦で行う』
「やはり貴様は死ぬべきですわ。ルルにとって悪影響でしかない」
怒りを通り越した笑顔でエリザはレイピアを抜いた。
『待て、待て、待て。怒るな笑うな暴力に訴えるな。ギブアップも許可すると言っているだろう』
ふわ~っと天井付近まで避難したリリム。
今のエリザからは本当に殺されそうな"圧"を感じた。
「そうそ、嫌なヤツは棄権したらい~んじゃね~の~? あちしはやるけどさ」
リオンの言葉に渋々レイピアを収めたエリザ。
ちなみにリオンはシュノセルのチームだ。
『そういうことだ。野球拳は陰茎人たちにとって、古代から受け継がれてきた大切な文化だ。くれぐれも敬意を忘れずにな。細かな作法については今から動画を見せる。動画サイトというのは便利なモノだ』
実は違法アップロードされている動画なのだが、邪悪な魔族はそれを一切気にしていない。邪悪だね。
◇
野球拳の説明が終わり、くじ引きによって選ばれた二チームがリングに上がる。
一回戦はミランジェチーム対ヴァリンチームで始まった。
「「や~きゅう~うす~るならぁ、こ~いう具合にしやしゃんせ~、アウト、セーフ、よよいの~~~……」」
両チームすでに最後の一人。
ミランジェ対ヴァリンの大将戦である。
「「よォいッッ!!!」」
勝ったのは……ミランジェ。
「おっしゃあー!」
ガッツポーズで勝利の雄たけびをあげた。
もう下着姿で後がない。ギリギリのギリギリ。
「くっ! くく……ちくしょお~~」
ぷるぷる震えながらヴァリンはスカートを脱ぎ捨てた。
大人っぽい黒の下着におお~! と周りから声が上がる。
ちなみにこれ、町に中継されてる。
「ミランジェ~、覚悟は出来てんだろうなぁ? 次で決めんぞ」
「いくらヴァリンちゃん先輩でも今日は譲れないっすよ。叩き潰すんで、よろしく」
下着姿の美少女二人が顔を近付け血走った目でにらみ合う。
とても刺激的な光景だった。
「いくぞッ! ミランジェ!」
「こいやぁ!」
両者、気合爆発。
「「やッ! きゅッ! う~う! すっるならァ! こ~いう具合にしやしゃんせ! アウトッ! セーフ! よよいの~~~~~……」」
振り下ろされる、運命の手。
「「よォいッッ!!!」」
勝ったのは……ヴァリンだった!
「だははははは! 勝った! 勝ったぞ! 決勝進出だ!」
実はこの時、ヴァリンは既にミランジェが出す手をおおよそ掴みかけていた。
単純であるがゆえに、ジャンケンというゲームは無意識にやっているとパターンが出来てしまいがちである。
個人差の激しいそのクセを、ほんのわずかな時間で見抜いてしまうのだ。この天才は。
「……先輩、なんか勘違いしてねーか」
もうこれ以上脱ぐのは無理だろう。
ギブアップの言葉を待って笑っていたヴァリンだったが……。
「ウチはまだ、裸じゃないんだぜ」
ミランジェは乱暴な手付きでブラに手をかけ、引きちぎるように焼き消した!
周囲からワーっと歓声があがる。
リングサイドにいたエスニャが「あっ」とつぶやいた。
「……マジか」
堂々と形のいい胸を張るミランジェを見て、ヴァリンは得体のしれない恐怖を感じていた。
一瞬で別人になってしまったようにすら思えた。
下着でいるのにやたら暑い。
「そこまでさらす覚悟があったか。いい度胸じゃねーかミランジェ」
強がってはみたが足が震えている。
一方ミランジェは余裕たっぷりに笑っていた。パンツいっちょで。
「や、やってやる! アタシは豊胸ポーション売っぱらって、遊んで暮らすんだ!」
かませの代表みたいな台詞を吐き出して、変貌したミランジェに挑むヴァリン。
結果は……。
「くっそーー! 絶対グーだと思ったのに!」
やっぱりダメだった。
で、脱ぐの? と周りからの視線が刺さる。
「ううう、ギブアップ……」
優秀な能力を持っているはずなのに、いつだって上手くいかない天才だった。
◇
『次だ。ルルチームとエリザチーム。リングに上がれ』
リリムの言葉を聞いて動き出す六人。
『両チームの先鋒が決まったらゲームスタートだ』
ルルたちはリング上で輪を作って作戦会議を始めた。
リングの上で輪である。
「だそうだ。誰から行く?」
まだ不機嫌そうなレン。
「わたし、人前で脱ぐとかはちょっと……」
すごくイヤそうなラミィ。普通の女の子なので当然だろう。
「ルルは別にいいよ」
チャっとグラサンをかけて親指を立てるルル。
「……それも服としてカウントされるのなら、ルルは少し有利だな。よし、先鋒を任せる」
「まかせろ」
あっさりと決まった。
エリザチームの方もすぐに決まったらしく、リンネがフラフラと前に出てきた。
「よろしくね……ルルちゃん……」
「うむ」
「ルル! 下着になる前にギブアップをしなさい! ミランジェさんたちのマネをしてはいけませんわ! いいですね!」
「わかった」
教育ママさんのように怒鳴るエリザ。敵だけどね。
「ほんと……いつもうるさいね……じゃ……始めよっか……ルルちゃん……」
リンネは「せーの」と言ってタイミングを合わせる。
「「や~きゅ~う~す~るなら~♪ こ~ゆ~ぐあいにしやしゃんせ~♪」」
拳をふりふりしながら可愛く踊る二人。
さっきまでの修羅場とは打って変わってお遊戯会のようだ。
「「アウト、セーフ、よよいのよい♪」」
「あ、勝った」
出したチョキをそのままVサインに使うルル。
「おやおや……負けちゃったかぁ……」
負けたリンネは服に手を――かけずに、
「じゃ……ギブアップで~……」
いきなりそう宣言した。
「はぁ!?」
大きな声を出したのはエリザである。
「リンネ! 何を考えているの! もう少し頑張りなさい!」
「いや……これ脱いだら……肌が見えちゃいますから……」
「肌くらいなんですか! たかが上着一枚でしょう!」
「これでも私……清純派で通っているので……」
リンネはヘラヘラしながらリングを下りてしまった。
「それじゃ、私が行くか」
次に前に出たのは、最近では生徒たちからも学院のメイドさんとして認知され始めたスズだ。
「よろしく頼むよ」
「うむ」
ルルとスズはコツっと拳を合わせて挨拶、そして野球拳を始めた。
「「よよいのよい」」
「おっと、私の負けか」
「イェイ」
負けたスズはメイド服に手をかけたのだが、そこでピタッと止まった。
ちょっと待て、本当に脱いでしまっていいのだろうか?
実はこのメイドさん、正体は忍者である。
当然この下には黒の忍装束に武器やら武器やら武器やらが……。
「ギブアップ」
メイド忍者の判断は速かった。
「はぁ!?」
もっかい大きな声を出したのは、やっぱりエリザ。
「スズさん、もう少しその、頑張ってみる気はありませんの?」
「申し訳ありません。この服はメイドの命ですから」
エリザにスッと頭を下げて、スズはリングから下りてしまった。
「仕方ありませんわね」
腰に手を当てフンと息を吐くエリザ。
長く美しい金髪をなびかせ(わざわざ風の魔力を使って)、人目をうんと意識したモデル歩きで前に出る。
こういった状況は見栄っ張りにとって最高の舞台なのだ。
「ルル、今日はジャンケンで勝負ですわ」
「うむ」
「ルル、あの魔族の口調をマネするのはやめなさい」
「うむ」
「……で、では、始めましょうか」
「「や~きゅ~う~す~るならぁ」」
踊りながら、エリザはあることを考えていた。
(リンネとスズさんにルルが出した手、二回ともチョキだった。まさか……)
「「よよいのよぃ」」
出てきた手は、やはりチョキ。
グーを出していたエリザは勝利した。
(~~~ルルッ!)
チョキを出したまま目をぱちくりさせているルル。
エリザは歯ぎしりしながら心の中で彼女の名を呼んでいた。
「もういっかい」
グラサンを外したルルと再戦。
出てきた手は……。
(~~~~ルルッ!!!)
やっぱりチョキだった。
ここでエリザは確信する。
この子、チョキが手癖になってる。
どうしよう。あまりにも簡単に勝ててしまう。
かといって他の手にしなさいと教えるのもどうなのだ。
「もういっかい」
上着を脱いだルルが拳を突き出してきた。
次はきっと勝てると信じて、またチョキを出してくるのだろう。
なんだか、とてもいたたまれない気持ちになってしまったエリザは――。
「ギ、ギブアップですわ……」
ぺたんと膝をつき、敗北を宣言していた。
決勝進出を賭けた野球拳対決は、ルルの三人抜きで決着したのだ。




