第八十四話 天和四暗刻字一色大三元
リリムの決起から十日ほど経って。
場所は再び子供部屋。
「や、やっぱり……!」
開いた本を興奮しながら穴があきそうなくらい見つめているのは、可愛らしいおさげの少女。
彼女の名はラミィ。
どうやらものすごい発見をしてしまったようだ。
「どーしたの?」
たいして興味無さそうにぼーっとした口調で聞いたのは、白髪の少女、ルル。
「レンちゃん、前よりちょっとおっきくなってるー!」
鼻息を荒くしながらラミィが見せてきたのは、なんとレンの写真集であった。
見開きで水着姿のレンが赤い花をくわえ寝そべっていた。どーいうセンスだ。
小さな谷間をのぞき込む様ないやらしいアングルで撮影されている。
「……」
大きくなってるって、どこのナニがどの程度? とルルは思ったのだが、
「あっそ」
詳しく聞くとめんどくさくなりそうだったので、魔法の言葉で打ち切った。こういう女の子である。
「はぁーー……。やっぱりレンちゃんはキレイだなぁ。天使さまみたい。天上界の美……」
うっとりとした恋する乙女の仕草でどこかを見つめるラミィ。
そのどこかに、ルルが視線をすいーっと動かしてみると、
「私は貴様の視線に時折恐怖を感じるぞ。ラミィ」
その天使さまが仏頂面で正座していた。
美少女アイドルのレンだ。最近はゴキブリバスターもやっている。
「レン、どうしてお花くわえてるの?」
「私に聞くな!」
「怒った顔もステキだなぁ……」
子供部屋にいるのはこの三人である。
今日は焼き菓子作りを教えてほしい、とフィノに頼まれてラミィはやってきていた(実は普通の料理も上手い)。レンは味見役。
現在は焼き上がりを待ちながら遊んで(?)いたのだ。
「あれ? そういえば今日リリムさんいないね。いつもはフィノさんかルルちゃんと一緒にいるのに」
思い出したかのようにラミィが。
「うん、最近家にもあんまり帰ってこない」
「あの魔族、何か良からぬことでも企んでいるのではないか?」
ことある毎に唇を狙われているのでレンは警戒中である。
「気になるなら、呼んでみる?」
「居場所が分かるのか?」
「わからないけど、家族だから離れてても話せる」
「どういうことだ」
「そーゆージュツなんだって」
後の戦いにそなえてリリムが家族に仕込んだものだ。
「ちょっとまってて」
と言ってルルは目をつむった……のだが、すぐに目を開いた。
「あれ、もう戻ってくるって」
ルルが開いた窓の方を見ると、少ししてからそのリリムが入って来た。
ちょっと疲れた顔をしている。
レンとラミィを見て「おっ」と声を出した。
「お前たち来ていたのか。丁度いい。手紙を出す手間が省けた」
ぽん! とどこからともなく手紙を二つ取り出すと、レンとラミィに渡す。
「参加は自由だ。我は寝る」
そう言うと、力尽きたようにベッドに落っこちた。
参加? 参加とは?
不思議そうに顔を見合わせる三人。
レンは無言で手紙に目を通す。
「招待状? …………なっ、なに!?」
内容をまとめるとこうだ。
リリムが主催するゲーム大会に町の女たち全員を招待する。
参加は三人一組のチームで行う。
殴り合いなどにはならないので子供や弱い者でも安心して挑戦できるというものだった。
「優勝したチームには……ほ、豊胸ポーション『デカク・ソダーツZ』三人分を贈呈する……だとぉ!?」
ぷるぷる震えながら読み上げたレン。
同じように読んでいたラミィは手紙を握りしめて立ち上がった。
「欲しい! ぜったい欲しい! レンちゃん! ルルちゃん! わたしたちも参加しよ!」
「ま、ま、まぁ、貴様がそう言うなら手伝ってやらんこともな、ないが……」
「ルルちゃんは!?」
「んー、ほうきょーポーションってなに?」
「おっぱい大きくする薬!」
「メリルみたいになれるの?」
「そう!」
ポワポワと大きくなった自分を想像するルル。
セクシーな大人になったルルがサングラスをかけて「やったぜ」とピースしていた。
「……ありだな」
低い声でつぶやくと、立ち上がってすちゃっとグラサンをかけ、シャドーボクシングのような動きを始めた。気合い120%である。
「よ~し! ぜったい優勝しよう!」
完全に火が付いちゃったラミィが拳を振り上げ、ルルとレンもそれに合わせる。
すると、
「みんな~! お菓子とお茶の用意できたよ!」
一階から大きな声で呼ぶフィノの声が。
「「は~い!」」
元気よく返事をして、三人は英気を養うため、おやつタイムに入るのだった。
◇ ◇ ◇
そしてあっという間に大会当日。
早起きしたラミィ、ルル、レンは集合場所である空き地までやって来た。
「あ、ラミィちゃんたちも参加するの~?」
「はい。頑張ります!」
なんだか同年代の友達みたいなノリで話し掛けて来たのは、白衣を着たナイスバディな美女である。
女医メリル、二十四歳。
「貴様、ただでさえ大きなものを持っているのにさらに大きくするつもりか。強欲な女め」
冷たい目をしたレンが軽蔑するように言った。
「ち、違うよぉ。リリムさんからアシスタントを頼まれたの!」
プンプンしながら二十四歳が取り出したのは、『8』と書かれた札が三枚。
「はいどうぞ。ラミィちゃんたちは八番チームだよ」
三人の胸に不思議な力でペタリと番号札を張り付けた。
「八番目か、だが他の参加者の姿が見えないぞ?」
「うん、ここはあくまで仮の集合場所だから。ここで番号をふってからリリムさんの結界に私が飛ばすんだよ」
メリルが胸の前で手を合わせると、三人の番号札がぼんやりと光りはじめる。
「それじゃぁ、みんな頑張ってね~♪」
一瞬で、三人の姿がその場から消えた。
◇
飛ばされた先は、広い広い建物の中だった。
床には赤い絨毯、天井にはいくつものシャンデリア。
窓はなく、代わりに両開きの大きな扉がいたるところにある。
「あれ、おチビじゃん。へ~、こういうのはバカにして参加しないかと思った」
にししと笑いながらやたら露出の高いギャルが近付いて来た。
フィノの親友、ミランジェである。
「フン、派手女か。ラミィに組んでほしいとせがまれただけだ」
ぷいっとそっぽを向くレン。
「相変わらず可愛くね~ガキ。組んでるのはルルちゃんとラミィちゃんか」
ムカっとした顔の直後に笑顔。
コロコロと表情が変わるミランジェ。
「ミランジェさん、きょ、今日は負けませんよ」
「あはは、うちも負けねーよ。ところで、フィノっちは?」
「お姉ちゃんなら大会を手伝うって」
「あっ、やっぱそうなんだ~」
しばらく楽しく喋ってから、ミランジェはチームメイト(シェスカとエスニャ)の方に戻っていった。
「ねぇ、レンちゃん」
「なんだ?」
離れていくミランジェを見ながらラミィが聞く。
「どうして、ミランジェさんにだけあんなに意地悪なの?」
「……さぁな」
相手が誰であろうと、世話になったり、優秀な者であれば認める、というのがレンである。
ただ、ミランジェに対する態度だけは、なんだか腑に落ちないラミィだった。
◇
ラミィたちの後にも参加者は次から次へとやってくる。
最初は広すぎると感じたその場所も、百を超える人数が集まりだすとだんだん狭くなっていくように感じられた。
「そろそろ時間だが、町の者はあまり参加していないな。学院の生徒は多いが」
レンは他の参加者を見ながら話す。
「ミランジェさん以外にも強い人ばっかり……ま、負けないもん」
ラミィは拳を作って気合いを入れる。
戦いとなれば勝ち目はないが、今日はゲーム大会である。
普通の女の子にもチャンスはあるはずだ。
「リリム来たよ」
相変わらず低いテンションでちょっと上を指差すルル。
その先には、参加者を見ながら空中をゆっくりと飛んでいるリリムがいた。
そのまま中央まで来て、
『女たちよ、我が城によく集まった』
何らかの術で拡声しているのだろう、広い空間に大きな声が響く。
『豊胸ポーションは欲しいか?』
ほしーい! とか、よこせー! という声がそこいら中からあがる。
『そうか、欲しいか。ならば全員にくれてやる。と、本当はそう言ってやりたいのだが、残念ながら、その数には限りがあるのだ』
演説のように一言一言を強く発しながらリリムは語り続ける。
『ならば争え、奪い合え、他者を打ち負かし、その欲望を満たす。ヒトのみならず生物ならば必ず持って生まれた本能だ』
ぎゅっと拳を握って力説する。
『だが暴力は美しくないと我は考える。何より、女の顔が苦痛に歪むのは我慢ならん。やはり道徳と本能は相容れぬものなのだ。両立することは決してない……そう、つい最近まではそう考えていたのだ』
そこでリリムはスマホを取り出し、高く掲げた。
『しかし、天より舞い降りし陰茎人たちによってもたらされた一つの叡智がある。彼女たちの社会ではeスポーツという遊戯が存在していた。そこでは驚くべきことに、安全な闘争というものが成立していたのである』
ふたなり星人のやらかしによってこの世界の常識破壊が始まっていた。あ~あ。
『そこに着想を得た我は、eスポーツとまでは言えずとも、平和的かつ全力で戦うことの出来るゲームをいくつか用意してみた。ぜひ楽しみながら争ってみてほしい。当然だが、直接他の参加者を攻撃することは禁止とする』
ふぅ、と一息つくと、少し語気を弱めて続きを話し始める。
『前置きが長くなってすまない。それでは予選のルールを説明する。最初のゲームは、この城の二階を目指して競争を行う、階段探しゲームだ。これで十チーム三十人にまで絞らせてもらう』
パチっとリリムが指を鳴らすと、ズラリと並んだたくさんの扉が一斉に光りはじめた。
『扉の数は全部で五十。抜けた先の通路にはそれぞれ違った障害が用意されている。ここで注意しておいてほしいのは、たとえ通路のゴールまでたどり着いたとしても、必ず階段が存在するとは限らないということだ。五十のうち、四十は行き止まりという構造になっている。通常の競争なら足の速い者が勝つだけだが、これなら誰にでもチャンスがある』
「質問、よろしいでしょうか?」
手を上げたのは、目の下にクマのあるとても痩せた女の子だった。
ミランジェのチームメイト、エスニャ。
『許可する』
「ありがとうございます。どこの扉に入るか、というのはこちらで選んでもよろしいのでしょうかねぇ?」
『問題ない。そこも含めてゲームだ。それは今から話すつもりだった』
「はいはーい! こっちもひとついいッスかぁ?」
頭の上にぴょこんとアホ毛が伸びた小さな女の子が手を上げた。
学院の生徒、シュノセルだ。
『許可する』
「例えばの話なんスけどね。二つのチームが最後の枠を争って走ってたとして、最初にゴールしたのはAチームの先頭、その直後にBチーム三人が入って、最後にAの残りって場合、勝ったのはAとBどちらになるんスかね?」
『その場合はAチームだ。最初の一人が二階に上がれば、その時点でチームの順位が確定する』
「りょ~かいッス」
いたずらっぽい笑みを浮かべ返事をすると、シュノセルはチームメイトに耳打ちを始めた。
先ほど質問をしたエスニャもまた、ミランジェとシェスカを連れて隅に移動し、周りに聞こえないように何やら話し合っている。
「……この大会、普通の戦いとは違う強者がいるのかもしれんな」
それを見ていたレンが小さくつぶやいた。
◇
『――さて、質問はもうないか? ならばそろそろ始めよう。扉が開いたらスタートだ』
五、四、三とリリムがカウントダウンを始めた。
『二、一。スタートだ!』
すべての扉が一斉に開かれた。
「ぃよっしゃあ!!!」
誰よりも大きな声を出してロケットスタートを決めたのは……ミランジェ。
一番近い通路に真っ先に飛び込んだ。
少し遅れて他のチームもそれぞれが選んだ通路になだれ込んでいく。
「レンちゃん! ルルちゃん! わたしたちも急ごうよ! あそこの道にしよ!」
ルルの手を取って走り出したラミィ。
けれど、
「落ち着け」
さっと周り込んで止めるレン。
「レンちゃんどうして!? 早く行かないと先を越されちゃう!」
「まず話を聞け。勝負を投げてはいない」
冷静に聞き取りやすく、やや急ぎながらレンは話す。
「通路の先には障害があると言っていただろ。どんな罠を用意しているのかは分からないが、基本的には最初に飛び込んだチームが割を食うようになっている」
「うん、あっちこっちから悲鳴が聞こえるよ」
ラミィには聞こえなかったが、耳に手を当てたルルは確かにその声を聞いていた。
「それと、ゴールに階段が用意されているのは五十のうちの十、やみくもに飛び込んでもよほど運が良くなければ外れを引くだろう。その場合はここまで戻って道の選び直しだ。あまりにもロスが大きい」
「でもどうするの? ここにいたって……」
「あのアホ毛の質問を覚えているか?」
「シュノセルさんの?」
「ああ、あの時のリリムの答えの中に、『一人目がゴールした瞬間にチームの順位が確定する』というものがあった。それを聞いた時のアホ毛のツラがどうも気になってな。ずっと見ていたんだが、あいつのチーム、ゲームが始まった途端バラバラになって違う道に向かっていったんだ」
「あっ! そうか! 最初の一人がゴールすればいいのなら、何も三人で同じ道に行く必要はないんだ!」
「そういうことだ。恐らく意図的に用意されたゲームの抜け道だろう。あのアホ毛め、周りに気付かせないよう、わざと回りくどい例え話でこの方法が有効か確認しにいったんだ」
「だったらわたしたちも違う道に行こう!」
「そうだな。見たところモヤシやヴァリンも気が付いているようだった。それに、さっきからこちらを見ているリンネも不気味だ」
「え?」
レンが視線を送った先にいたのは、長い黒髪で顔を隠した女だった。
ギリギリ見える口元からはニヤニヤと笑っているのだけが分かる。
ただただ不気味。
「リ、リンネ先生も参加してたんだ……」
「他の参加者への攻撃が禁止というのはラッキーだったかもな。よし、私たちも行くぞ。慌てるのと急ぐのは違う。どんな時も冷静さは失うなよ」
「うん!」
「おー!」
ラミィとルルの返事を聞いて、レンは走り出した。
◇
「いよう、レンじゃないか。キミも一人か?」
「なっ、なんだここは?」
通路の途中で妙な部屋に出た。
奥に向かう道が結界で閉ざされているのだが……まぁそんなことは大したことじゃない。
異常なのは、そこで足止めされていた参加者たちが、
「カン! カン! もう一個カン!」
「アア! 見える! 未来が見えるワ! 次のターンでワタシがツモる未来が! あなたは自らのカンで墓穴を掘るのヨ!」
「ツモ、嶺上開花」
「キエエエエエエ!?」
なぜか、麻雀やってた。
「ほらレン早く座れって。人数揃わないと始めらんねーんだぜ」
テーブルから話しかけてきているのは、赤いツインテールの女の子、リオン。
椅子の背もたれに腕をかけてこちらを見ていた。
卓には他に女の子が一人と、なんとエリザがいた。
「まさか、麻雀がこの道の障害なのか……?」
言われるがままリオンのいる卓につく。
「その通りですわ。麻雀で勝った一人だけが先に進むことを許され、負けた三人は吐き出した点数分の時間足止めを食らうそうです」
「そういうことか。面白い。今日はこれで貴様らを叩きのめしてやるとするか」
自身満々に笑うレン。
実は麻雀が生まれた国の出身である彼女は物心ついた時からこのゲームを家族と遊んでいたのだ。
それもトップ率は身内でダントツ。
得意中の得意なのであった。
「あんまあちしを舐めない方がいいぜ~? 学院に来てからは毎日のようにこれやってっからさぁ」
「恥ずかしながら、ワタクシも一時期麻雀にはのめり込んでいまして、そちらの世界ではそれなりに名が通っていますの」
「ふん、雑魚どもが」
配牌が終わり手を確認。
(良い手だ! 一気に突き放して勝負を決めてやる)
ほくそ笑み勝利を確信した、その瞬間だった。
まったく無警戒だったアホそうな女の子が、かちゃっと手牌を倒した。
「いきなし揃ったのだー! しかも字牌ばっかなのだ! 役満なのだー、がははは!」
「そ、そんなバカな!? くーっ!」
レン、事実上の脱落であった。
これで彼女が次に進めるのかどうかは、ラミィとルルに託されたのである!




