第八十一話 酢の効能その2
フィノたちが大群を相手に戦っていた頃。
学院側の穴から地下洞窟に入ったリンネチームもまた、ゴキブリンの大群に襲われていた。
「リンネちゃん」
不満そうな顔でつっ立っているミランジェ。
志願したらあっさりと同行を許可された。
「なぁにかな~……フフフ……」
隣でニタニタしているリンネ。
「これじゃうち、何のためについて来たのかわかんない」
二人の視線の先には、大群の中を目にも止まらぬ速度で動き回る影がいた。
手にした直刀が振られると数匹の首がまとめて飛ぶ。
見ていて恐ろしいのは、切り裂くたびに飛び散る体液などをまったくかぶっていないこと。
いつになっても着ているメイド服は洗い立てのように綺麗だった。
「ってか、スズちゃんマジ? なんでこんな強いの?」
スズの正体についてはセスから聞いていたのだが、戦っている姿を見たのは初めてだった。
その強さに釘付けになっている間にも、スズは効率よく敵を始末していく。
「あれが忍者ってやつだよ……刀の使い方でも教わったらいいんじゃないかな……ここの教員じゃ誰も知らない技をいくつも持ってるはずだから……」
一匹残らず切り殺すと、スズは手慣れた動作でヒュッと刀を払い、紙で汚れをふいてから鞘に納めた。
プリメーラが見ていたら大興奮だったかもしれない。
「リンネ。ど~して私が一人で戦わなくちゃいけないのさ?」
さっきまでとてもカッコよかったのだが、今にも吐きそうな顔のスズ。
やっぱり虫は苦手らしい。
「理由その1……班員であるキミの実力を確かめるため……理由その2……敵集団の戦力把握のためあえて見にまわった……理由その3……敵戦力が不明なためリーダーの私は不測の事態に備える必要があった……理由その4……ミランジェちゃんには体力回復のための時間が必要だと判断した……理由その5――」
たんたんと説明を続けるリンネ。
イラっとした顔になってスズが割り込んだ。
「はい全部建前。本音は?」
「本音その1……キミがデカいゴキブリに囲まれてるところが見たかった……本音その2……一人で戦えばその分時間が掛かるから……フィノちゃんたちがボスを倒してくれて楽出来るかもしれない……本音その3……私もゴキブリは大嫌いだから出来る限り戦いたくない……本音その4……ミランジェちゃんにキミの力を見せておきたかった……本音その5――」
「あーもう分かった。あんたはいつか斬ることに決めたよ」
「ひどいなぁ……言われた通りにしたのに……」
リンネはいたずらっ子のようにニヤニヤしている。
よくもまぁあれだけペラペラ言葉が出てくるものだと感心していたミランジェは、はっと我に返ってスズに話しかけた。
「スズちゃん。どーやってそんな強くなったの? どんな修行した?」
「悪いな。忍の修行については弟子以外に話せないんだ。そういう決まりでね」
「そっか~……。ちぇっ」
なら弟子になってみようかと一瞬考えたがやめた。
自分がなりたいのはやはり最強の魔導士だったからだ。
「でもさ……やっぱりスズちゃんは優秀だよね……せっかくだから学院と直接交渉してみたら?……結構な金額で雇ってもらえそうな気がするけどね……私より余程いい仕事しそうだし……」
「駄目だね。秋霧の忍はいかなる組織にも属さない。金のためにも戦わない。力の無い人々に代わり、悪を挫くための影なのさ」
やっぱりプリメーラが見ていたら大興奮しそうな台詞を言って、スズは刀をメイド服の中にしまった。
◇
「リンネ先生はどんなメンバーで入ったのかな」
地下洞窟を歩きながらフィノがつぶやいた。
「どうでしょうね。実力的にはジズやユミルさんですが、あの二人は地上の守りとして残す可能性が高いでしょう。正直、他の教員では力不足ですし、元々リンネは単独で動くことを好むので一人か、修行目的でミランジェさんを同行させるかもしれませんわね」
ほとんど間を置かずにエリザから返事が来た。
なんとなくつぶやいただけなのだが、とても真面目に答えてくれる。そういう先生なのである。
「二人ともそろそろだ。一番の大物が近い。こいつが巨大ゴキブリンのボスだ!」
セスの言葉を聞き二人は気を引き締める。
「――ここだ! フィノ、この壁を思いっきり殴ってみてくれ」
「うん……。どぉおりゃあ!」
洞窟が崩れたりしないだろうか?
少し心配になったが、言われた通り壁を全力でぶん殴った。
ズドン!
壁に大きな横穴が開き、すぐ向こうに広い空間が見えた。
「危なくなったら逃げろよ?」
二人に挑発的な笑顔を見せ、セスはひょいっと横穴を抜けあちらへ。
「逃げるものですか」
ムッとした顔になったエリザも。
「もぉ、お母さんったら」
少し呆れてフィノも後を追った。
◇
フィノたち三人が入ったのは、思っていたよりもずっと広い空間だった。
何故だか、入った途端きつい酢のニオイが鼻についた。
奥には水も溜まっていて、おそらく彼等にとっての食料なのだろう、人間が捨てた生ゴミなどもたくわえられている。
壁には黒くて小さいカプセルのようなものがびっしりとくっついていた。
「ありゃ多分ゴキブリンのタマゴだな」
「あ、あれが全部タマゴ……」
気色悪そうにエリザが口をおさえた。
「きっとアレが巨大ゴキブリンに育つんだ。自然発生したモンスターじゃなくて、大きな力を持ったボスが手足にするために生み出してるんだろうな」
「ですが、そんな大物はどこにも……」
レイピアを抜いて辺りを見回す。
「いや、いる!」
声を出したセスだけでなくフィノもすぐに気が付いた。
凄まじい圧力のようなものを全身で感じたからだ。
「エリザ先生! 奥の水たまりです!」
よく見れば、そこにはゴキブリンが一匹だけいた。
ちゃぷちゃぷと水たまりの上を泳いでいる。
しかし、今まで倒して来た相手に比べればとても小さな個体である。
ただのゴキブリよりは数倍大きい、という程度。簡単に踏みつぶせそうだ。
違いをあげるとするならば、色が赤い、ということくらいだった。
「レッドゴキブリン……? あれは何の変哲もない雑魚モンスターでは?」
「油断するな! あいつは信じられないくらい強いぞ!」
拍子抜けしたエリザに向かって大きな声で言ったセス。
その赤いゴキブリンが水たまりから上がり、こちらに気が付いた時、
『ほっほっほ。何が入って来たのかと思えば、小さな小さな、あわれな生き物が三匹ですか』
「えっ!?」
フィノには確かにその声が聞こえた。
「二人とも待って! あの赤いゴキブリンは自我を持ってる!」
セスとエリザの前に出る。
「待って! あたしたちは確かに戦いに来たけど、出来れば誰も傷付けずに終わらせたいの! 話し合うことは出来ないかな!?」
『おや? あなたはたしか……。あぁそうそう。ワタシを解放してくれたあの女の側にいた少女ですね』
「あたしのこと知ってるの?」
フィノにはまったく覚えがなかった。
当然だがゴキブリの知り合いなどいない。
『ビンに閉じ込められ、あの摩訶不思議な液体に漬けられていたワタシを覚えていませんか? 逃げ出した時はたいそう驚いていましたね』
「ビンで漬けられてた? う~ん…………あっ」
ピン、と思い出した。
「あーっ! もしかして、ラミィちゃんの屋台で出してたレッドゴキブリンの酢漬け!?」
なんだか分からないという人はうねうね☆マジック! の第七十話を読み返してみてね。
『思い出したようですね』
表情が無いから分からないがレッドゴキブリンはどことなく満足そうだ。
「あ、あの、ごめんなさい。あたしの友達がお酢に付けちゃったりなんかして……」
悪いのはラミィだがとりあえず謝った。
その様子を見ていたセスとエリザは顔を見合わせて首をかしげる。
『いいのですよ。ワタシは一度人間の戦士に敗れ、気が付いたらあの少女の元にいたのです。ワタシが弱かっただけのこと』
つまり冒険者にハントされ食材として売られたのだ。
『おまけに――ほほほ。あの少女はワタシに大きな力を与えてくれたのです。あの液体によって』
「……酢が?」
だんだん感覚がマヒして驚きが少なくなってきたフィノ。
酢って凄いね。
「じゃあ、地下にこんな凄い巣を作ったり、あんな強くて大きなゴキブリンを生み出せたのも酢の力なの?」
『ええ。酢ばらしい力でしょう?』
「へ、へー。酢ごいね……」
とりあえず空気を読んで合わせた。
「そ、それより、地上に巨大ゴキブリンを送るのをやめてもらってもいいかな? 食べ物とかだったら分けてあげられると思うし、人間が許せないんだったら――」
酢の可能性についてはいったん置いて、フィノは説得を再開した。
難しい話は苦手なのだ。
『小さい』
「――えっ?」
言葉をさえぎって、異常な進化を遂げたレッドゴキブリンは語りだした。
『小さいと言ったのです。ワタシが戦うのは恨みでも食料のためでもない。種のため。ゴキブリン及びゴキブリがこの地上で最も優れた生命であることを知らしめ、世界を支配するためなのですよ。人間にはワタシたちの糧となる酢ばらしい仕事を与えましょう』
なんかもう説得は無理くさかった。
「……だったらもう、戦って止めるしかないみたいだね!」
そう言って構えたフィノを見て、エリザとセスも臨戦態勢で前に出た。
『ほっほっほ。そんな小さな力で今のワタシと戦うつもりですか。身の程を知りなさい』
そして突然、何の前触れもなく、赤ゴキは爆発的な加速で突進を始めた。
「エリザッ!」
動きを先読みしたセスがすでに叫んでいた。
エリザは攻撃そのものには反応できなかったが、名を呼ばれたことでとっさに横に飛んだ。風の加速を利用して全力でだ。
「み、見えなかった……」
ついさっきまで自分が立っていた場所に開く穴を見て、エリザは震えた。
もし、あんな速度の突進攻撃をもろに受けていたら……。
『よくかわしましたね。褒めてあげますよ。ほっほっほ。ですが、次もかわせるとは限らない』
「あいつの正面で立ち止まるな! 速すぎて反応できないぞ!」
セスの声かけで本格的に戦闘が始まった。
「ラッシュヴァイン!」
「ウインドカッター!」
フィノとエリザは常にまわりこむように動き続け、魔法による攻撃を行うがなかなか当てることが出来ない。
「ほらこっちだ! かかってこい!」
二人がなるべく狙われないよう赤ゴキの正面に位置取るセス。
鋭い第六感による先読みで即死級の威力を持つ突撃を避けながら反撃の機会をうかがっていた。
「――そこだっ!」
そしてついにセスはとらえた。
超スピードで動き回る赤ゴキの移動の先、そこにあらかじめ拳を置くようにしてヒットさせたのだ。
『ぐほ!』
上から叩き潰す様なセスのパンチ、だが。
「な、なんだと?」
その拳が徐々に、ゆっくりと持ち上がっていく。
『ほっほっほ。なかなか遊べるようですね』
ブゥーンという羽音が聞こえてきた。
赤ゴキは殴られたまま宙に浮き上がることで拳を持ち上げていたのだ。
『では、少しだけ実力を見せてあげましょう。少しだけね』
ギャオッ! と空中で急発進、目の前にいたセスの腹部に重たい一撃をぶちかました。
「うわあああああ!」
軽々と飛んだセスの体は壁に強く打ち付けられた。
「セスさん!」
エリザの声に反応するように赤ゴキはそちらへ飛んだ。
空中でも変わらぬ超スピードで動くその姿はまさに赤い彗星である。
「きゃああああ!」
セス同様にエリザも弾き飛ばされた。壁にめり込み、意識を失う。
『ほーっほっほっほ。空中ではあらゆる方向に最大の速度で動き出せるのですよ。これが酢によって強化されたゴキブリの力です。酢ばらしいでしょう?』
これを見せるためにお前はあえて残したのだ。
と言わんばかりに、空中で止まりフィノに話しかけてくる赤ゴキ。
「お母さん……エリザ先生……」
倒れた二人を見て、静かな怒りをその瞳に宿すフィノ。
『まだ戦うつもりですか? やめておきなさい。見たところあなたの動きが一番遅かったですよ。しょせんはニンゲン。進化したゴキブリには遠く及ばないのです。負けを認めて惨めに逃げ出しなさい。かつてのワタシのようにね。ほほほ』
赤ゴキを見据えたまま、フィノは地面にその手をついた。
「たしかにあたしは遅いよ。でも、勝負を決めるのは足の速さだけじゃない――」
魔法の指輪に魔力を込める。
これは以前、ルルと戦った時に閃いた切り札。
「ラッシュヴァイン!」
手、腕、肩から無数の触手が生えて地面に突き刺さる。
触手は大地に深く根を張り、強大な星のエネルギーをフィノに送り込んだ。
「力と丈夫さだったら自信があるんだ! あたしは何回殴られたって倒れないよ! どこかで捕まえたら絶対に離さない!」
触手を消して拳を構えたフィノ。
普段よりもはるかにパワーアップしていた……だが!
『…………小さい』
そんなフィノを見下す、地上最強の生物、ゴキブリ。
『力ならかなうと思ったか? その程度で? ニンゲンごときが? ゴキブリにィ?』
目の前の赤ゴキが何倍にも膨らんでいくような錯覚を覚えた。
『そんなパワーアップで調子に乗るなど千年早いわァ!』
激しい地鳴りが始まった。
究極の生物に反応するかのように。
『こっ、これが……酢の力を全細胞に取り込んだ……ゴッ、ゴキブリの……! くおお~~!』
地鳴りが大地震へ変わっていく。
赤ゴキのボディが金色に変化しスパークをまとった黄金に輝き始める。
フィノはただ、戦慄しながらその変身を見ていることしか出来なかった。
『ふぅ……。お待たせしました。これがワタシのフルパワーです。ゴールデンゴキブリンとでも呼んでいただきましょうか』
地震はおさまらない。
『では、続きを始めましょう。小さき者よ』
星が、その存在に恐怖していた。
◇
一方その頃地上では……。
「う~ん、フィノちゃんたち凄いのと戦ってるなぁ」
目をつむったメリルが心配そうにそうもらした。
「見えるんですか?」
フィノたちが入っていった穴の前でしゃがんでいたラミィ。
穴は青く光る水晶のような結界で閉じられていた。
「んーん。見ることは出来ないんだけど、私は魔力や気っていう生命エネルギーを感知することが出来るから。戦いが始まれば場所や相手の強さもなんとなく分かるんだ。昔は苦手だったんだけどね」
「フィノさんたち、苦戦しているんですか?」
「そうだね。あんまり状況は良くなさそう。フィノちゃんには私の気を込めた札を持たせてるから、いざとなったら助けに行くことも出来るんだけど……――ッ!?」
突然、大きく目を見開いたメリル。
やがて驚愕の表情で震え始めた。
「な、なに……これ……? こ、こんな存在が町の地下に潜んでいたの……?」
どういうことですか? とラミィが口にしようとした時。
ゴゴゴゴゴ……と地鳴りが始まり、次第に大地が震えはじめた。
「きゃあっ! な、なんですかこれ!?」
「大地が悲鳴をあげてる……。無理だよ、こんな相手に勝とうなんて。これじゃ、リリムさんよりも……魔王よりも……ずっと……」
絶望。
膝をついたメリルの姿はその二文字を物語っていた。
けれど、すべてを諦めてしまったようなメリルと違って、ラミィの胸にはまだ希望が残っていた。
「メリル先生! わたしを学院に転移させてください!」
それはラミィにとっての正義のヒーロー。
どんな時、どんな相手が来ても助けてくれる。
彼女なら、きっと彼女ならと。
「心当たりがあるんです! どんなゴキブリが相手でも、絶対に負けない女の子に!」
◇
『ほっほっほ。まだ立ち上がるというのですか。根性だけは大したものですね。ふむ、名誉ゴキブリと認めても良いのかもしれません』
ボロボロになったフィノはフラつきながらも拳を構えた。
「やめろ……フィノ……そいつには……勝てない……」
腹をおさえながら起き上がったセス。
「お母さんはエリザ先生を連れて逃げて。あたしが時間を稼ぐから、みんなでどうするかを考えるんだ。大丈夫。人間は強いから、きっとこの危機だって乗り越えていける。諦めないで」
「バカ言うなよ。もうお前から逃げるのはゴメンだ。時間稼ぎならあたしがやる」
へへっと笑いながらフィノに並んだセス。
セスを説得するのは無理だと判断したフィノは、気絶したエリザを見て、彼女だけでも逃がす方法はないかと考え始めた。
『酢ばらしい! そろそろ終わらせてしまおうかと思っていましたが、あなたたちがどうするのか。興味がわいてきましたよ』
あまりにも膨大で、目に見える程濃い、シュインシュインと金色に輝く生命エネルギーをまとうゴキブリン。
『カッ!』
彼(彼女?)の次の攻撃、それはただ気合いを飛ばすだけという、通常なら攻撃とはとても呼べないようなものだった。
しかし、あまりにも強すぎる力を持つ黄金のゴキブリンが放つソレはどんな魔導士の魔法よりも威力があった。
「「うわあああああああ!」」
埃のように吹き飛ばされて地面を転がるフィノとセス。
『おっと申し訳ありません。少々力み過ぎましたか。ワタシ自身まだこの力を完全にはコントロール出来ていないのですよ。ほほほ、ほっほっほっほっほ……』
ぶっちゃけわりとマジのガチで世界の危機だった。
『おや?』
何かに気が付いた黄金のゴキ。
吹っ飛んだ時にフィノの上着のポケットからヒラリと札が落ちたからだ。
穴に入る直前、メリルがフィノに持たせたものである。
『何者かの生命エネルギーを感じますね。術か何かが仕込んであるのか。ま、ワタシに比べたらとても小さなエネルギーですが』
無視することにしたその直後、ブゥンと札が光りはじめ、その場にいないはずの何者かの声が聞こえてきた。
「まったく。ようやく撮影が終わって茶を淹れたところだったんだがな。またゴキブリ退治か」
『ん?』
落ちた札の上に突然出現したのは、
「レン……?」
不機嫌そうに腕を組む美少女アイドル、レンだった。
『何が来たのかと思えば、あなたたちよりもさらに小さな子供ではありませんか。さすがのワタシもここまで小さな存在を痛めつけるのは心が痛みますねぇ。ほほほほ、ほ~っほっほっほ!』
「レン……逃げて……」
倒れたフィノがそう口にするよりも先に、レンは動いていた。
黄金のゴキブリンの前で、地面に両手を置き。
「アイスエイジ!」
最大威力の氷魔法を発動!
ぴっきーんとその空間に氷河期が訪れる。
『な、なに!? 氷だとぉ!?』
急に慌て始めた黄金ゴキブリン。
まとっていたエネルギーはしゅんと消え去り、金色に輝いていたボディは元の赤に戻ってしまった。
背中の羽も元気を失い、ポトリと地面に落ちてしまった。
『はっ、はっ、はっ、サムイサムイサムイサムイ……こっ、これだけはダメなのよ……』
凍り付いた地面から逃れようと必死に足をしぱしぱと動かすが上手く進めていない。
寒いところではまともに動くことも出来ないようだった。
「なにやら学院が騒がしいと思ったが、まさかこんな雑魚モンスターが大量発生していたとはな。チッ、面倒な」
舌打ちしながらゴキブリンに近付いたレンは、その足をすっと上げて、
『あっ!』
ぐしゃっと、踏みつぶした。
「周りにあるのはタマゴか。すべて潰しておかんとまたラミィが騒ぎ出すな。つくづく面倒な……」
踏みつけた足をぐりぐりとやりながら振り返る。
「――フィノ!? そのケガはどうした! 誰にやられた!?」
こうして、世界の危機はレンによって救われたのである!




