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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
九本目! 目覚めし巫女の墓

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第五十七話 みんなの力で



「ほら、あそこにおっきぃのがいるでしょ?」


 遺跡を進むと再び広い神殿のような場所に出た。

 三人は巨大な石柱に隠れて奥を見る。


「く、黒いドラゴン……!?」


 エスニャの声が少し震えた。

 家一軒分はある巨体、鋼のような黒い鱗、長く太い尻尾。

 圧倒的な存在感を放つ黒龍がその場を守るようにたたずんでいた。

 

「ドラゴンを見たのは初めてだけど、黒って珍しいの?」


 けっこう平気そうなミランジェ。


「はい、滅多に現れるものではありません。ブラックドラゴンの戦闘能力はドラゴン族の中でも特に高く、討伐に向かった騎士団が全滅したという記録もあるくらいです」


「へ~」


「ただでさえ厄介なのに、御多分(ごたぶん)()れず強化されてるみたいでね。一度戦ったんだけど無理そうだったから引いたのよ」


 遺跡の他のモンスターと同様なら恐らく再生もするのだろう。

 いくらユミルが強くとも単独でかなう相手では無い。

 

「でもま、二人がいてくれるならぜぇんぜん大丈夫♪ アタシが隙を作るから、その間に駆け抜けてね」


「先輩、荷物うちが預かろっか? 走んの大変でしょ」

「あっ、ハイ。お願いします、ミランジェさん」

「へへ~、まかせてまかせて」


 あれ? この二人こんなに仲良かったっけ? とユミルは不思議そうな顔でそのやり取りを見て、すぐにニマ~~っと笑った。


「あっはぁ! それじゃあ行きますかぁ!」


 だん、と地面を強く蹴り黒龍の前に出る。

 狂気すら感じる笑みで走り込み、握った短剣に水の魔力をまとわせ、二メートルほどの巨大な魔法剣を作り出すと。


「そぉ~~~らぁ!」


 大振りの一撃。

 強靭な足に傷をつけた。

 そのままの勢いで素早く背後に周り、もう一撃。


「ほらほらほらぁ!」


 ドズン! と尻尾の先端を叩き落した。


「ゴアアア!!!」


 黒龍は叫びながら傷付いた尻尾でなぎ払う、魔法剣で受け止めたユミルは後ろに飛んで威力を殺すと、黒龍の後ろを駆け抜けていく二人を見て「よし」と小さくつぶやいた。


「グルゥ……」


 完全にユミルを敵として認識した黒龍。じりじりと寄る。

 足と尻尾の傷は既に再生を始めていた。


「あは、やっぱり治っちゃうか」


 ユミルは一歩も引かない。魔法剣を肩に担ぎ、あくまで楽しそうに。


「んっふ、アタシもね? 肉体(フィジカル)は全教員の中でも最強って言われてんの。ま~~再生までは無理だけどねぇ~」


 水の魔力で(ころも)を作り、片手を振って大量の泡を浮かび上がらせた。

 これは彼女が全開で戦う時の戦闘スタイル。

 魔力の温存など考えてはいない。

 仲間がいるから、出来ること。


「今日はと~っても嬉しいことがあったのよぉ。だから、大盤振る舞いしてアゲル♡」


 魔法剣を空に向かって振ると、すべての泡が弾け、地下神殿に魔力の雨が降り始めた。



 ◇



 走りながらモンスターを切り倒すミランジェ。

 再生される前にとっとと駆け抜ける。


「先輩、大丈夫?」

「はぁ、はぁ、まだ……なんとか」


 どうにか付いていくエスニャ。


「だんだん狭くなってきたね。これならもうヤバいやつは出てこないかも」

「そうだと……嬉しいんですけどねぇ……」


 走って走って、ようやく、二人はたどり着く。


「着いた! やったー!」


 これ以上進む道が見当たらない部屋。

 ミランジェは両手を上げて喜んだ。


「はぁ、ひぃ……ミランジェさん、水差しを……」

「あ、そうだったそうだった」


 リュックをすぐに下ろして水差しを取り出し、エスニャに手渡した。


「……あれか」


 薄汚れた台座に水差しを置くと、


「宝はお返しします。怒りを鎮めてください」

 

 狭い部屋にエスニャの声が響く。


「これでいいのかな?」

「宝が持ち出されたことを認識して発動するトラップならこれでいいと思うのですが……」


 なにか変化はないか? と二人は部屋を見回す。

 すると、壁に描かれた巨大な壁画に心を奪われた。

 大きな大きな樹と、葉っぱのドレスを着た少女。そして彼女の周りに集まる人々。


「これは……やはり巫女と言うのは、あの少女のことなのでしょうか……?」

「先輩、上にもあるよ」


 壁画はもう一つあった。

 葉っぱの少女が水差しを持って、倒れた人を見つめている。

 どことなく、微笑んでいるような印象を受けた。


「水差しが巫女の宝、というのはほぼ間違いありませんね。あれは何をしているんでしょう……」


「なんか文字が書いてあるね。先輩読めないの? 古いものとか好きでしょ?」


「私が専門にしているのは古代文明の方ですからねぇ。この遺跡はおそらくもっとずっと……はるか昔、まだ人類の歴史が始まったばかりの頃、知識がないわけではないですが、あまり細かい解読は……」


 と言いつつもリュックの中から手帳を取り出し、壁画の文字と見比べるエスニャ。

 その間もミランジェは壁画の少女に釘付けになっていた。


「原始時代……か。元々サルだったんだっけ、うちら」


「一部の学者が唱えている進化説ですね。正確にはサルと人間は共通の祖先から進化したのではないか、という考え方です。けれど、けっこう怪しい話ですよ」


「そうなの? じゃあ、うちらってどこから来たのかな……」


「個人的には来訪説を支持しています。人間はこの大地ではなく、どこか、別の場所からやって来たという考え方です」


「それってお寺で僧侶の人たちが広めてるやつ? 人間は神様の世界からやって来たって」


「近い考え方であるというだけで、教義(きょうぎ)鵜呑(うの)みにしているわけではありませんよ。ただ、現在の状況だとそう考えるのが真実に近いかと」


「なにか根拠みたいなものがあるんだ」


「逆です、何も無いからなんです」


「え?」


 ミランジェは初めて壁画から目を離し、エスニャの方を見た。


「化石が見つからなくなるんですよ。ある年代を(さかい)に、それより古い時代の物が。人間も動物もモンスターも魔族も、植物以外はぱったりと……これが何を意味しているか分かりますか?」


 エスニャも、ミランジェの方を向き、その目を見て話す。



「ある時、私たちは突然この地上に出現しているんです。今と変わらぬ姿でね」



 黙って見つめ合う二人。

 沈黙を破ったのは、エスニャ。


「まぁ、たんに見つかっていないだけ、という可能性もありますから、あくまでそういう考え方もあるという話ですね」


 そして手帳に目を落とした。

 と、その時、ドズン! と大きな音が空気を伝い二人の耳に届いた。


「ユミル先生だ! まだ戦ってる!?」

「水差しは戻したのですが……」

「うち、手伝ってくる!」


 振り返って走り出したミランジェ。


「ま、待ってください」


 その場に残るか追うか、迷うエスニャ。

 解読中だった文字を見て、


「メ……ルフィ……ノ……ス……」


 読めた分だけメモを取り、ミランジェの後を追った。



 ◇



「ブルーストリーム!」


 水流のビームが黒龍に命中。

 直後、ユミルは開いた手の平を前に突き出す。すると今の攻撃でまき散らされた水がブンと光る。


「はぁ!」


 今度は開いた手をぎゅっと閉じる動作。

 それによって遠隔操作された水が集まり黒龍の自由を奪った。

 ユミルはすかさず床に張られた水の上をすべるように高速移動し飛び上がると、


「そーら!」


 魔法剣で顔面をナナメに切りつけた。


「グガア!」


 これには黒龍もたまらず、両翼を広げ飛び上ることによって避難。


「はぁー、はぁー……また仕切り直しか……」


 黒龍を見上げ、肩で息をするユミル。うっすらとした笑顔。


「……うん?」


 にらみ合いのなかで気が付いた、先ほど切りつけた顔面の傷が再生を始めない。


「あは。あの子たちやってくれたのね……終わりが見えた、か。もうちょっと早かったら最高だったんだけどなぁ」


 魔力も体力も大分消耗してしまっていた。

 本来ならとうに殺しきれるだけのダメージを与えているのだが……。

 

「愚痴ってたって」


 黒龍の牙の間から漆黒の煙が漏れる。


「仕方ないか!」


 連続で吐き出される黒炎の玉を左右に飛んでかわす。

 攻撃が途切れる一瞬を見計らって――。


「アクアスピア!」


 水で作った手槍を、黒龍の翼目掛け全力で投げつけた。

 突き破られる翼。

 空中でバランスを崩した黒龍はドズンと音をたてて降り立った。


「押し切る!」


 魔法剣を両手で握り(ふところ)に飛び込む。


「アタシがここで頑張らなきゃ、だれがあの子たちの帰り道を作るのよ!」


 腹を、足を、首を、リスクを一切考えずに密着状態で魔法剣を振り続ける。

 ここで決めねばどの道もう持たないと分かっていたからだ。


「やぁああああ!」


 当たれば即死の爪を紙一重でかわし腕を切りつけた。

 切断までは無理だが確実に傷はつけている。

 怒涛(どとう)の連続攻撃でひるんだ黒龍の隙をユミルは見逃さない。


「もらったぁあああ!」


 飛び上がり、決着をつけるため、逆手に持った魔法剣を頭に深く突き刺した!


「あ……」


 ハズだった。

 しかし、魔力を大きく失ったユミルはもう魔法剣を維持することが出来なかった。

 刺したのは魔力による強化を失った短剣である。


「グオオオオオオ!」


 黒龍の反撃。

 腕を振り下ろしてユミルを床に強く叩きつけた。


「ごほっ! がはっ……」


 どうにか維持出来ていた水の衣のおかげで即死だけはまぬがれた。

 なんとか立ち上がろうとするユミルを踏みつぶそうと、黒龍の足が上がる。

 瞬間的に間に合わないと判断したユミル。

 残されたわずかな魔力を道連れに使うべく覚悟を決めた。


「待て待て待て待て~~~い!」


 突然、よく通る女の声がした。

 直後。

 横から滑り込んできた何者かが間一髪のところでユミルを助け出した。


「ふぃ~。危なかったな、ミランジェの先生よ」


 陽気な声。無邪気な笑顔でニパっと笑う。


「あなたは酒場にいた……セスさんだったかしら……?」

「げっ、覚えられてたのか」


 困ったように笑うセス。

 驚くべきことに、抱き抱えたユミルを見て話しながら黒龍の攻撃をすべて避けていた。


「ミランジェは? って聞きたいとこなんだけどさ、まずはこいつ、何とかするか」


 よっ! と声を出してセスは加速、一気にその場から離れるとユミルを下ろした。


「黒いドラゴンなんて初めて見たな~。悪いけど、やっつけちまうぜ?」


 軽い動きで黒龍に迫っていくセス。

 一人では危険よ。と出かかった言葉をユミルは飲み込んだ。

 不思議な直感だったが、目の前にいる彼女が負けるとは思えなかった。



「でっっけぇな~。くらえ!」


 セスは黒龍の足をドカっと蹴る。


「あれ? 効いてないな」


 首をかしげているところに、黒い炎の玉が吐き出された。


「あちゃちゃちゃー!!!」


 大慌てで逃げ惑うセス。

 お尻に付いた火を叩いて消すとやっと真剣な顔になる。


「やったな~~?」


 しゃっと姿勢を低くして急接近すると、傷付いた黒龍の体をするするとのぼって顔の前に。


「いくぞ! ひ~~っさつ!」


 腕をブンブン振り回して勢いを付けると、


「殺人ぱんち!」


 ドスっと目を攻撃した。


「グギャアアアアアアアアア!」


 なんか、かなり効いてた。


「あっはっは! 殺人ぱんちじゃなくて殺龍ぱんちだったな! おっ?」


 笑いながら、黒龍の頭部に突き刺さった短剣を引き抜く。


「いいもんめっけ! これは勝ったな」


 くるくるっと回して、再び同じ場所に突き立てた。

 傷をえぐられ暴れる黒龍。

 セスは楽しそうに頭にしがみついている。



「……バカみたい」


 呆気(あっけ)に取られてその戦いを見物するユミル。

 命がけの戦場が子供の遊び場になってしまった感覚だった。

 

 でも……と思い直す。

 いくらユミルの攻撃で弱っているからと言っても、黒龍はそんなに甘くない。

 遊んでいるように見えるのは、余裕があるからなのだろう。


 セスが黒龍と戦っている間に少し回復したユミル。

 加勢するべきかどうか迷っていたところに、ミランジェとエスニャが戻って来た。


「先生大丈夫!? それと……セスさんがなんでここに?」


 駆け寄って来た二人。

 完全に振り回されている黒龍を見て困惑。


「アタシも分かんないけど、助けられちゃったのよね」


 複雑そうにユミルが。

 そんな三人に気付いたセスが話しかけてくる。


「お~~い。手伝ってくれよ。最後はみんなで決めようぜ?」


 こっちを見ながら、黒龍の足の傷を短剣で切りつけ転ばせた。


「なんかよく分かんないけど、やろう!」


 ミランジェが前に出る。


微力(びりょく)ながら私も……」


 エスニャが続く。


「……最後にもうひと踏ん張り、行きますかぁ!」


 最後にユミル。


「よし! 今からあたしたちはパーティーだ! 息を合わせていくぞ!」


 セスの号令で各々が構えを取り。


「ファイア!」

「ストーン!」

「ブルー!」

「ひ~~っさつ!」


 最高の攻撃を黒龍に放った!


「キャノン!」

「フォール!」

「ストリーム!」

「殺龍きっく!」


 三属性の強力な魔法を同時に浴びせ、見事黒龍を討ち倒すことに成功した。

 それと――。


「あちぃ! いてぇ! 流される!」


 セスだけちょっと巻き込まれてた。

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