第四十七話 エピローグ お尻に☆マジック!
一方、逃げだした男を追ってフィノとレンは町の中を走っていた。
「レン、あの人のことなんだけど、出来れば大怪我させずに捕まえたいんだ」
「と言うと?」
「嫌な感じの首飾りをしてたでしょ? あれからハイズと同じ臭いを感じたの。たぶん……あの人も利用されてる。助けたいんだ」
「……手加減など出来る相手では無いが」
そんな前置きをして、
「貴様がそう言うのなら従ってやる。代わりに後で一杯おごれよ」
と、レンは頼もしく笑った。
「ありがとう! あたし、何でもするから!」
そう二人が笑いあったタイミングで、ズズン――と聞こえてくる爆発音。
「なんだ!?」
「あっちだ! 行こう!」
◇
「ちくしょう……あの野郎むちゃくちゃしやがって……」
かろうじて爆発から逃れた男はフラフラと町の通りまで出てきた。がくっと片膝をついて息をつく。
周りには爆音を聞きつけた野次馬が大勢集まって何事かとざわついていた。
マズいな、目立ちすぎている。と男が考えた時にはもう遅い。
野次馬の集団を飛び越えて、二人の魔導士が現れた。
「わざわざ居場所を教えてくれて助かったぞ」
「首飾りを渡してください! その呪いは、きっとあなたを不幸にします!」
レンとフィノ。
有名人二人の登場に野次馬から「ワァッ」と歓声が上がる。
「首飾りを……渡せだとぉ?」
怒りを声に乗せ、男は立ち上がった。
「これのおかげでどれだけ俺が救われたと思ってる!? 不幸だと? ふざけるのもいい加減にしろ!」
「話し合っても無駄だな。予定通り捕らえるぞ!」
「……うん」
臨戦態勢を取る三者、野次馬からの歓声はさらに大きくなっていく。
「くらえ!」
「ホァタァ!」
レンと男が激しくぶつかり合った。
氷の鎧を展開してようやく互角の肉弾戦だ。
「ラッシュヴァイン!」
隙を見てフィノも触手や足払いなどで勝負を決めにいく。
だが、レンに比べて戦闘技術で劣るフィノの攻撃は中々男に届かない。
「お前たちに、お前たちに俺の絶望が分かるか!? この世でたった一人のこの俺の!」
男の動きがキレを増していく。
「あの惨めさが! あの悲しみが! あの悔しさが!」
「くっ!」
レンの攻撃ですら男に通らなくなり始めた。
逆に強力な打撃を次々ともらってしまう。破壊された氷がバラバラと散らばる。
「どいつもこいつも俺と同じようになればいい! はははは! はーっはっはっは!」
憎しみの鬼となった男の猛攻に二人は防戦一方だった。
しかし……。
「はっはっはっは――うっ!」
ピタッ、と男の動きが止まった。
「おお……おおおお……」
尻を押さえて苦しみだす男。
来た。
来てしまった。
あの少女の力で誤魔化されていただけの、地獄の苦しみ。
「うおおおおお!」
地面に倒れ苦しむ男。
それを見ていた、野次馬の一人がボソッとつぶやいた。
「あんなに動き回るから、"キレ"ちまったんだろうなぁ……」
ちょっと気まずそうにしていたフィノとレン。
腰に手を当て、やれやれと首を振ったレンが男に近付く。
「詳しい事情は分からんが、他者を呪ったところで解決する問題など何一つない。己を認めてやれずに、見下した時点で、貴様は失敗したんだ」
そう言って首飾りを奪い取ると、握りつぶすようにして破壊した――。
◇ ◇ ◇
~数日後~
無事、呪いの主を捕まえたフィノたち。
流行り病である便秘の原因を取り除くことは出来たが、肝心のハイズについて男はほとんど何も知らなかった。
「まさか……名前すら聞かされてなかったとはね……あの人を抑えても……なにも動きがないし……ハイズはこの国から離れたってのもホントっぽくなってきた」
ワインを口にしながら、リンネは愚痴るように言った。
「これはただの勘ですけど、あたし、ハイズは仲間を作ったりしないと思うんです」
対面に座っているフィノは視線を深く落としながら話す。
とある事情でレンが動けないので、今日は一人でリンネの元へやってきていた。
「他人を信じていないとか、そういうのじゃなくて……あたしたちが道端の虫を見ているような感覚でしょうか。興味を持ったり好きになることはあっても、恋人や友達にしようとは考えない……そういうものを感じるんです」
「ん~……まるで昔から知ってたみたいに語るね……まぁ、向こうもキミには強い執着を持っているようだし……何か……通じるところがあるのかもしれないね……」
くっとワインを口に含むリンネ。
「あの男の人――ロンさんはどうしてますか?」
尋問には向かない、という理由で、フィノは彼から遠ざけられていた。
捕まえてから一度も会っていない。
「ん?……ああ……彼のことなら……スズちゃんに説明してもらおうかな……おいでおいで~」
リンネは手元の鈴をちりんちりんと鳴らした。
「い、いらっしゃいませぇ~。ご主人様ぁ……」
奥の部屋からゆらりと現れたのはピンクのメイドさん。
この恰好にまだ慣れてないフィノは何とも言えない表情でスズを見た。
「あのぅ、その顔やめてくれませんか? 結構傷付きますから……」
「あ! ごっ、ごめんね、スズ。かわいいと思うよ!」
あたふたとするフィノに寄って来たスズ。
「……え~と、ロンさんのことですね。ある程度話を聞き出してから道場に帰しました。いつまでも拘束してはおけないですし、首飾りが無くなれば普通の人ですから。今はリンネ先生の監視付きで日常生活に戻っています」
「そうなんだ。みんなの体調も良くなっていってるし、いったん解決ってことでいいのかな?」
「油断は出来ませんが、このままハイズが現れなければそういうことになるんじゃないでしょうか」
「あとは、ロンさんが立ち直れるかどうかだね……」
「大丈夫じゃないかなぁ……多分ね……くくく……」
「どうしてですか?」
ニヤニヤしながら割り込んできたリンネ。
あんたが私に説明しろっつったんだろうが……とスズは思ったが(略)
「それがさぁ……彼とフィノちゃんたちの戦いが……野次馬に盗撮されてたみたいで……あの戦闘を町中の人がもう見てるんだよね……それで……ふふ……彼にも少なからずファンが出来たみたいで……道場への入門希望者が増えてるみたいだよ……」
「と、盗撮……」
困った話ではあるが、それが彼の為になったというならなんとも複雑な気分である。
「病気の方も治らないようなものじゃないしね……このチャンスが掴めるかは彼次第だけど……独りじゃなくなって……収入も出来れば……変われるんじゃないかな……」
「あはは……頑張って、ほしいですね!」
まぁ、いいか。と思えたフィノだった。
◇
「やっぱり始末した方が良かったと思うけどな。あの男がもう一度ハイズに利用される可能性は高い」
フィノが帰った後。スズは腕組みをしながら、呆れたように言う。
「フィノちゃんの手前……そうもいかないでしょ……最近だとレンちゃんも影響されてきてるし……」
リンネは新しく用意したグラスにワインを注ぎ、スズに手渡した。
「あんたならいくらでも言い訳出来ると思うけどね。どう考えたってそうした方が良いんだから。影響されてきてるのって、自分もじゃないか?」
「ふふふふ……そ~かもね~……」
「……そうとう酔ってんな」
苦笑いして、ワインを口に含むスズ。
「いやぁ……それにしてもさ……やっぱキミ優秀だよね……まさか一晩で呪いの発生源を特定するとは思わなかったよ……」
「あの子に変なことさせられないから無理したんだよ。もう二度とやらないぞ。寝不足になるわ、刀は折られるわで今回は散々だったんだからな!」
「武器の一つや二つ……余裕で買えるくらいの謝礼は出すよ……それだけの働きは……してくれたからね……」
「えっ! いいのか!?」
「うん……というかさ……キミは能力を安売りしすぎじゃない?……今の任務なんて投げ捨てて……私の下につくなら五倍は払うよ?……これでも稼ぎだけはあるからね……」
「それは出来ないな。忍は金のために動くわけじゃない。あんたみたいな人種には理解できないと思うけど」
「うふふ……そりゃ残念……」
リンネは寂しそうに笑いながら、新しいワインを取り出した。
◇
リンネの部屋を後にしたフィノはその足でレンの部屋に向かった。
「レーン! 入るよ」
返事を待たずに中に入る。
「あ、お姉ちゃん」
出迎えたのは妹のルルだった。
「レンの調子は?」
「まだダメ」
ふるふると首を左右に振るルル。
そう……と深刻そうにフィノが。
「私の心配はいらん……さっさと帰れ」
弱々しい声。ベッドに寝ているレンだった。
現在彼女は重度の便秘に悩まされている。もう七日は出ていなかった。
なぜ、こんなことになってしまったのかと言えば、それはハイズの首飾りを壊したことが原因である。
呪いの媒介となっていた呪物を破壊したことで、込められていた悪意のエネルギーをもろに受けてしまったのだ。
「心配だよ、みんなの様子を見てるかぎりこのままだと……」
フィノはそこで口を閉ざす。
「お尻切れちゃうよね」
姉がにごした事をルルが言ってしまった。とことん素直な子である。
「黙れ……私は切れん」
「レン……」
悲痛な思いが顔に出るフィノ。
しばし、部屋の中は静寂に包まれる。
「あのね」
と、ルルが沈黙を破った。
「ござるのお姉さんが言ってたんだけど」
もう嫌な予感しかしないレン。
「ジパングって国ではね、便秘を治すために、お尻にうねうねしたお魚を入れるんだって」
絶対ウソだ。絶対に。
「だからさ、お姉ちゃんのうねうねしたやつをレンの――」
「ふざけるな! そんなことで治るわけがないだろう! フィノ! 貴様からも何か言って……」
そこまで言ってさぁっと青ざめたレン。
フィノがと~っても真剣な顔でこちらを見ていたからだ。
「お、おい!」
「試してみる価値はあるかもしれないね。ルル! レンをしっかり押さえてて!」
「うん」
「うんじゃない! やめろ! はなせ! 正気か!?」
「あたし、何でもするって言ったもんね!」
大切な親友のため、フィノはありったけの魔力を指輪に込めて――。
「ラッシュヴァイン!」
「やめろおおおおおおおおおおおお!!!」
これで治ったかどうかは、ご想像にお任せします。
~あとがき~
どうもこんばんは! 作者です。
ライトノベルを書くようになってから思う事なんですけど、人生において失敗したな~とか、嫌な思いだけして終わったな~みたいな事でも、「お話を作る」とか「人間」を表現するといった活動においては結構プラスになったりするんです。
人生何がどう役に立つか分からないね!って話なんですけど、今回の切れ痔編はまさにそうでしたね!
血が・・・作者の血が作り上げた物語です。
それと話は変わるんですけど、先日、ミランジェの直腸検査あたりを書いてた頃だったかな。
パッと頭の中にアニメの映像みたいなもんが浮かんで流れてくれました。
うねうねマジックの最終回から数年後くらいのエピソードで、フィノの卒業試験が行われる日の話です。
これもお話を作り始めてから体験するようになった現象で、前作では二回ほどあったんですがうねうねマジックでは初めてでしたね。
ヒロインたちが想定外の言動をするんで「え? そんな事考えてたのか・・・」ってこっちが驚かされるんです。
すごい神秘体験!
す~っごくカッコいいシーンだったんで、最終回のラストシーンで書こうと思っています。
今年中には厳しいと思うんですけど来年には完結できるかな?
作者の場合文章力が全然ヒロインたちに追いつかないんですけどね・・・その時までに少しでも上手くなって表現してやらんと。
最終章を始めるにはまだまだバラまいておかないといけない物が沢山あるんで、やりたいエピソードの中にちょこちょこそういった物をはさんで行く形で進めていきたいと思います。
例えば今回だったらハイズが次に企んでいることを臭わせておくとかそんな感じの。
さて次回は、プリメーラやシュノセルのようにモブから引っ張ってきた女の子がメインのお話になると思います。
いつも通り少し休んでから、話が出来次第書き始めると思うので、良かったらまた見に来てください!
それではまた~。




