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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
七本目! (お尻が)キレる若者たち

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第四十六話 対決、呪われし痔主



 レンが地獄の苦しみに耐えているのと同じ頃、フィノはというと……。


「ご協力ありがとうございました!」


 計った時間をメモに書き込んで、爽やかに礼を言う。


「なんだかよく分からないけど、喜んでもらえたのなら嬉しいよ。おじさん応援しちゃうから、頑張ってね」

「はい、頑張ります。それじゃあまた」


 おじさんは握手を求めたが笑顔でスルー。

 さすがに触りたくなかった。

 

(ふ~、これで七人目。ここのトイレを利用する人はそんなに酷い便秘じゃないな)


 レンとは違い調査は順調に進んでいた。

 何故かと言えばフィノは事前に事情を説明し、大なのか小なのかをしっかり確認したうえで、大の場合だけ離れたところから時間を計るというやり方をしていたからだ。


 基本的に他人の排泄音を盗み聞きするのは誰も得をしないのでやめておいた方がいいだろう。


(レンは上手くやってるかなぁ……)


 と、親友の無事が気になったその時、


「フィノさ~ん」


 覇気のない声を出しながらやって来たのは、エプロンドレスのメイドさん。


「あれ? スズ、どうしたの?」

「あのですね、実は昨日フィノさんたちが帰った後にリンネ先生が……」


 ちょっと申し訳なさそうに続ける。


「便秘の重症化を調べるなら、トイレに張り込むより町の病院を回って患者さんの記録を盗――集めた方が早いって……」


「そ……そうだね……!」


 言われてみれば確かにそうだった。

 その方法ならどの地区から流行りだしたのかも特定可能だろう。


「リンネ先生、もしかしてわざとトイレを調べろとか言ったのかな?」

「あの先生ならあり得ますね……後になって気付いたとか言ってましたけど」


 実際はスズに医療情報を盗ませるとは言えないからである。


「じゃあ病院に行こうか」

「その必要は無いですよ。もう私が回って来たので」

「え、もう?」

「あぅ、リンネ先生が手伝ってくれたんです」

 

 本当は一人で町中を回った。一晩かけて。

 おかげでスズは酷い寝不足だった。


「あの、それより、呪いの中心と思われる場所が分かったんですけど、今から向かいますか?」


「……凄いね、そんなに簡単に分かるものなの?」


「はい、私ももう少し苦戦するかと思ったんですが、町はずれにある広い道場だったので簡単に……」


「リンネ先生は?」

「今日は特別な仕事で町を離れてます」

「そっか……う~ん」


 もしハイズがいるのならリンネの協力は欲しいが、町にいないのではどうにもならない。


「ルルはもう関わらせたくないし、学院長先生に相談すれば誰か強い人に来てもらえるかな」

「……差し出がましいかもしれませんが、呪いのことをあまり(おおやけ)にしない方が良いのでは? その……余計な混乱を招きかねないので」


 そうだよね……とフィノは考え込む。

 ハイズの情報だけならまだいいのだが、自分とルルが彼女に生み出された存在であることが万一にも漏れたら困る。

 関わる人間は極力絞りたい。


「よし、あたしとレンの二人で行ってみるよ。地図とかないかな?」

「途中まで私がご案内しますよ。それに、他にも調べた情報はあるので、道中でじっくりと」

「そう? 嬉しいけど、危なくなったらすぐに逃げてね」



 ◇



 フィノとスズはレンと合流し、呪いの主の元へ向かう。


「向かう先は激龍拳という拳法を教えている道場で、師範(しはん)はロンという男性です」


 街を並んで歩く三人。


「激龍拳か、聞いたことがないな」


 興味深そうに返すレン。


「はい。道場とは言っても門下生はゼロで、潰れる寸前のようです。この町で強さを求める子供はみな魔導士を目指しますから」


「だろうな、何故わざわざここで道場など開くのか理解に苦しむ」


「魔導学院よりも歴史は古いみたいで、百年以上前、開祖が生きていた時代(ころ)はかなり栄えていたようですが、学院が出来てからは急激に衰えていったようですね」


「そして、今は(つい)える寸前か……」

 

 三人が足を止めた。

 やって来たのは大きな赤い門の前。

 門の上には細長い竜の飾りが二匹。


「立派なものだな」

「スズ、危ないからここまででいいよ」

「……はい」


 対になった竜に吸い寄せられるように、フィノとレンは門をくぐった。



 ◇



「ひどい状態だな……」


 落ちていた空箱を蹴り飛ばすレン。

 道場の敷地内は落ち葉やゴミが散乱し荒れ果てていた。

 もう何年も人の手が入っていないように感じる。


「誰だ、お前たちは。その指輪を見るかぎり入門希望者じゃないな?」


 道場の中から声がして、やがて一人の男がスっと姿を現した。

 平凡な顔と体格、赤い上着に黒の長ズボン。

 身につけたドクロの首飾りだけが異様に浮いていた。


「フィノ、あいつか?」

「違う、ハイズじゃないし、生きた人間だ……でも――」


 離れていてもよく分かる。

 男の首飾りからただよう、死のニオイ。

 連想するのは、すべての命を見下すようなあの笑顔。


「無関係じゃない……絶対に!」

「ふっ、なら話は早いな」


 落ちていた石を拾ったレンはキュっと構えて、


「はっ!」


 勢いを付けて男に投げつけた!

 弾丸のようになった石が男に迫るが、


「ホアッチャア!」


 飛来する石よりも早く男の右足が上がる、と同時に破裂音。

 砂のようになった石が風に舞った。


「道場破りか? 運が良かったなお前たち、俺は今機嫌も体の調子も良いんだ。五体満足で帰してやるよ」


 右足を垂直に上げたまま、男はニヤリと笑ってみせた。


「凄い……あんな足技初めて見た……」


 驚愕(きょうがく)するフィノ。

 対してレンは嬉しそうに、


「あれが一流の武道家というものだ。うかつに間合いに入るなよ? 顔面が失敗した菓子のようになるぞ」

 

 魔導士が片手間に学ぶ体術とは比較にもならない。

 肉体の力のみで戦うことを突き詰めた、専門家(スペシャリスト)の技だった。


「ラッシュヴァイン!」


 フィノの手、腕、肩から合計十本以上の触手が撃ちだされ男に伸びる。


「気味の悪い魔法だな! ア~~タタタタタタタァ!」


 目にも止まらぬ速さで繰り出される男の連続突(ラッシュ)き。

 すべての触手が拳打で弾かれてしまった。

 しかし、その隙をレンは逃さない。じっくりと指輪にたくわえた特大の魔力を、


「アイスエイジ!」


 下に向かってぶちまける。

 敵を巻き込まんと一瞬で凍結する大地。

 だが直前に飛び上がるフィノを見た男もまた、素晴らしい反応速度で飛んでいた。


「危ないところだった……お前たち、魔導士としてはかなりのものだな」


 男は凍った地面に着地、上手くバランスを取った。

 その姿を見て感心したようにレンは口を開く。


「そちらもな。出来れば一対一でやりたかったが、呪術師とやらが控えているのならそうも言ってられん。フィノ! 次で決めるぞ!」


 同じように着地したフィノが拳を握り構える。

 

「うん!」


 相手は間違いなく強敵だが、レンが隣にいる限り負ける気はしなかった。

 連日のように模擬戦を行う二人は互いの行動がなんとなく読める。

 共に戦う仲間としてこれほど頼もしい相手もいないだろう。


「二対一はさすがに辛いか……」


 そんな二人の信頼関係が伝わったのか、男は困り顔で後ずさると、


「一時撤退だ! ふはははは!」


 高笑いしながら道場の中へ逃げていった。


「逃げた!? じ、実力の割にプライドの無い奴だ……」

「レン! 追うよ!」

「……くそっ、そんなことだから弟子がこないんだ!」



 ◇



 逃げだした男は道場の裏口から町へ飛び出した。

 人混みを避けるように走る。

 

(あいつら、呪術師がどうとか言ってたな。まさか首輪のことを嗅ぎつけて来たのか……?)


 魔導士、それもあれほど腕の立つ者が道場にやってくるなど滅多にあることではない。


(とすると、あの少女が言っていた敵はあの二人のことか……)

 

 さてこれからどうするべきか。

 家にはもう戻れないし、敵の数も二人とは限らない。


「まぁ、こんな町からは出ていっちまってもいいかな。ははは」


 人気のない裏路地に入った途端、笑いがこみあげて来る。

 ずっとふさぎ込むようにして生きてきたが、あの少女と出会ってからの日々はとにかく明るかった。


 あんなに幸せそうだった町の奴らがどんどん病んでいったのだ。

 自分と同じ、いや、それ以上の苦しみを味わっている者もいた。


 良心が少しも痛まなかったかと言えばウソになるが、それ以上に落ちていく他者の姿は愉快だった。

 ――なんだか……仲間が増えたような気がして。



「あんたを逃がすわけにはいかないよ。ハイズが関わってる以上はな」

「だっ、誰だっ!?」


 突然、声が聞こえて来た。


「あの子たちがもうちょっと頑張ってくれたら楽だったんだけど」


 背後、初めからそこにいたように立っていたのは、黒装束に身を包んだ正体不明の人物。

 少年とも少女ともとれるような中性的な声。

 顔すらも黒頭巾で隠していた。


「悪いけど早めに終わらせるぞ。さっさと帰って寝たいからな」


 不機嫌そうに言った後……黒装束は"その場から消えた"。


「ぐほっ!?」


 直後、男のみぞおちに拳がめり込む。


「かはっ……」


 よろめき呼吸が乱れたところに追撃の二連打、パパン! とタイミングよく内臓とアゴに打ち込まれた。

 威力そのものは大したこと無かったが、的確に人体の急所にねじ込まれる不快な打撃。

 男が学んだものとはまったく異なる技術体系から繰り出される神速の技。


「ぐっ……ホアッチャアアアア!」


 どうせ捉えることが難しいのならと、大きくなぎ払うような回し蹴りを当てずっぽうに放った。


「チッ!」


 まとわりついていた黒装束を蹴り飛ばすことに成功。


「ひゅうううう……」


 呼吸を整えながら両腕を縦に開き、正中線(眉間から股間までのラインのこと)を守るように構える。

 いくら速くともこれならそう簡単に急所攻撃は出来ない。

 男はまっすぐに黒装束を見据える。


「見たことのない体術だが、もう俺には通用しないぞ。速いだけなら次第に目も慣れる。所詮邪道の技、歴史ある正拳には遠く及ばん」


「はぁ、タフだねあんた。こりゃ捕まえるのは骨が折れるな……」

 

 うんざりしたような口調でふところに手を入れる黒装束。もう片方の手には短刀が逆手に握られている。


「ちょっと荒くいくぞ?」


 黒装束は取り出した何かを地面に叩きつける。

 ボフンと白い煙が狭い路地裏に広がり男の視界をふさいだ。


「煙幕か、卑怯な」


 男は全神経を肌に集中し風を感じる。

 足音は訓練で殺せても移動によって生じる空気の流れまではどうしようもないからだ。

 そして……つかんだ!


「そこだッ! ホアッッチョオオオオウ!!!」


 槍で突き刺すような鋭い蹴りが目に見えぬ敵を捉えた。

 黒装束は短刀の腹で受け止めたが衝撃を殺しきれず、吹っ飛んで壁に強く叩きつけられた。


「フッ……やはり俺の敵ではなかったな」


 勝ち誇り白い歯を見せた男の足元に、あまり見慣れぬ球形の物体がころんと転がった。


「――ん? なんだこれは?」


 球にくっついた火縄にはすでにジジジっと火が……。


「なっ? えっ? これは…………まさかぁ!?」


 慌てて黒装束の方を見たが、その姿は跡形もなく消えていた。


「やられた~~~!」


 ズズゥン! と平和な町に巨大な爆発音が響いた――。

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