第四十四話 ヒロインたちのお尻事情
「さぁいくぞ! 試験開始だ!」
フィリス魔導学院の決闘場。
教員、ジズが声を張り上げた。
と同時に。
「ラッシュヴァイン!」
剣を持った人形にぎゅるぎゅるっと触手が絡み付く。
武器を構える事すら許さない速攻だ。
触手を操る黒髪の少女は捕まえた人形を恐るべき腕力で引っ張ると、
「どぉりゃあっ!」
力いっぱい殴り飛ばした。
べこん、と胴体をへこませた人形は観客席までぶっ飛び派手な音を立てる。
「ま、まぁこうなるよな。ははは……」
ジズは持っていた手帳にサインを書き込む。
「いちおう打撃耐性も魔法耐性も施してはあるんだが、威力がケタ違いだな……力はともかく魔法は以前よりも大分強くなってる。そうとう訓練してるな? フィノ」
爽やかな笑顔でフィノに手帳を渡した。
「あたしにはこの魔法しかないから、これだけをずっと練習してるんです」
手の指輪を見せ、嬉しそうにフィノは返した。
「その魔導輪、たまたま見つけた学院長が買い取った物だっけ。使える魔法があって良かったな」
魔法の指輪はどこでも買うことが出来るのだが、珍しい樹の性質であるフィノが使用出来る物は希少である。
指輪が無くとも魔法を使う者はいるが、魔力の扱いに長けたごく一部の実力者に限られる。
教員たちの中でも指輪に一切頼らないのはリンネくらいだ。
「けっこう古い物らしいんですよね、ラッシュヴァインの指輪」
「ああ、五百年くらい前の物だって話だからな。手に入ったのは奇跡だぜ」
「そんな昔の……」
「勇者様が魔王と戦った時代だな。……きっとさ、その魔法を開発した奴も苦労したんだろうぜ。だから何時現れるかも分からない、自分と同じ魔力を持った奴のために、わざわざそれを残してくれたんだ」
「感謝しないと……ですね」
捕らえた相手を無力化する触手の魔法。
ある時は形勢逆転の切り札として、またある時は他者を傷付けずに止める手段として、無くてはならないものとなっている。
初めて触手を見た時は驚いたが、こんなにも優しくて頼りになる魔法は他にないと今では考えていた。
「あっ、そうそう、試験に合格したから次は初の実戦訓練ってことになるんだが、体調を崩してる教員が多くてな……申請してもちょっと時間が掛かるかもしんねー。ワリーな」
少し呆れたような、困った顔でジズは謝った。
「えっ、流行り病ですか?」
「うん? ん~、流行ってるっちゃ流行ってるんだが……感染したりするようなモンじゃねーからなぁ。偶然だとは思うが……」
「どんな症状がでてるんです?」
「いや、あ~、うん……そのだな……」
どうにも歯切れが悪い。
返事を待っていると、観客席から幼い少女が飛び込んできた。
「終わったようだな、フィノ」
鋭い目つきにクールな態度、彼女はフィノのライバルにして最強のちびっ子アイドル――。
「レン! ずっと見てたの?」
「……まぁな」
フィノの表情がぱぁっと明るくなった。
「おっ、レンか。じゃ、じゃあオレはまだ仕事があるからこの辺で!」
わりとよく聞く台詞を言って逃げるようにジズは去っていった。
その後ろ姿を不思議そうに見た後で、フィノはレンに向き直る。
「今日も模擬戦? ぜんぜん疲れてないし、あたしはすぐでも大丈夫だよ」
ぐっと力こぶを作ってフィノが言う。
彼女の相手が務まる生徒はレンくらいだ。
「望むところだ……と言いたいが今日は別件だ。最近メリルの患者がやたら増えているようでな。フィノと手伝いに行ってやってほしいと学院長に頼まれた」
「メリル先生が? でもあたしたちに出来ることなんて……」
「患者を押さえつけるくらいだろうな。まぁ行けば分かるだろう」
「そうだね、すぐに行こう」
体調を崩している者が多いとたしかにジズも言っていた。
自分に出来ることがあるのなら……とフィノは考え、レンと共に医務室に向かうのだった。
◇
「二人とも助かるよぉ~。暴れたり逃げ出そうとしたらしっかり捕まえてね~♪ 生きてさえいれば私が治療できるから」
花のような笑顔で恐ろしいことを言うメリル。
「手伝うのはいいんですけど……」
「くっ、まさか仕事以外でこんな格好をさせられるとは……」
ミニのナース服を着せられたフィノとレン。かな~り際どい。かなり。
「ほら、二人は人気者だから、サービスしておけばみんな大人しくなるかもしれないでしょ?」
なんかそのための人選っぽかった。
「それじゃあ午後の診察、いってみよ~♪」
白衣の袖をまくって、メリルは元気よく拳を振り上げた。
◇
『ケース1・エリザの場合』
「ここのところですね……お通じの方がちょっと……」
「エリザちゃんもか~。最近ほんと多いよねぇ。便秘?」
エリザは赤らめた顔でフィノたちの方をチラチラと見ている。
「あ、あの、メリル先生? 二人きりでというわけにはいきませんの? ワタクシにもその……色々とありますので……生徒たちの前でというのは……」
「気にするなエリザ。言いふらしたりはしないから安心して続きを話せ。これも治療のためだ」
ちょっとだけ嬉しそうにレンがそう言った、なんだか恨みがありそう。
キッとそちらをにらんだエリザ、やがて諦めたように話し始めた。
「……ええ、便秘気味ですわ。それだけならまぁ、大した問題ではないのですが……」
ここに来てなお言いよどむ。
「エリザちゃん、正直に話して? 恥ずかしがって悪化しちゃったら、それこそ生徒たちに示しがつかないよ~?」
やさし~くメリルがトドメをさした。
「くっ……そ、それでですね。まぁ大した問題ではないかと甘く見ていたのですが……先ほどトイレに行った時に……あの……その……」
「血が出ちゃったとか?」
真っ赤な顔でコクコクとうなづくエリザ。
「痛みはある?」
「い、いえ……」
「ふむふむ、なるほど~」
大きな胸の谷間からするりと札を取り出したメリルはエリザの額にぺたりと張り付けた。
これは気の力を利用した魔封じの結界術だ。
「じゃ、調べてみるからベッドに横になってお尻出してね~。二人ともお願い」
ぱちんと指を鳴らすと同時、フィノとレンがさっと周りこんでエリザを拘束した。
「お待ちくださいメリル先生! 他に! 他に調べる方法はございませんの!?」
「ないよ~♪」
「ふははは! 見苦しいぞエリザ! 観念して尻を出せ!」
「……レン」
ベッドに押し倒されパンツを下ろされるエリザ。
これほどの屈辱は人生で初めてかもしれない。
「大人なんだから暴れないでね~」
ニコニコとしながら潤滑用ゼリーを指に塗るメリル。
エリザの肛門に狙いを定めて……。
「えいっ!」
にゅぷり!
「はおっ!?」
「ん~?」
くにくにくに……。
「ふっ! うっ! はっ! おお~~~!!!???」
「ほぉほぉなるほど~」
ちゅぽっ。
「はぁうっ!」
「はい、終わったよ~。よく頑張ったね」
「はっはっは! 偉いぞエリザ! はっはっはっは!」
「……レン」
元の位置に戻る四人。
「ううう……誰にも見られたことなかったのに……」
涙を流すエリザの背中を困ったような笑顔でフィノがさすっていた。
「さて、エリザちゃん。あなたはね、『内痔核』です。俗に言うイボ痔だね」
「いぼっ!?」
「うん。排便時に痛みはないけど出血するのが特徴で、症状が進むとお尻から飛び出してくるようになるよ」
「飛び出すぅっ!?」
「幸いまだ軽度だから、お尻に負担をかけないようにしてればすぐ治るよ。生活習慣を見直してみてね」
「あの、ワタクシこれでも座っていることなどはほとんどないのですが……」
「激しい運動や力んだりするのも良くないよ、無茶な訓練とかやってるんじゃない?」
思い当たるフシはけっこ~あった。
リリィやハイズに敗れたことによって、己の力不足を痛感したエリザは仕事をしながらもかなり厳しいトレーニングを続けている。
「エリザ先生、もしかしてルルと危ないことしてるんじゃ……」
「さっ、させてませんわ!」
前日もしっかりスパーリングに付き合わせていた。
そういえばルルのかかと落としを受け止めた時に相当踏ん張ったような……。とあごに手を当てエリザは思い出す。
「とにかく、安静にしててね。しばらく体使った授業は禁止。診断書出すから学院長さんに渡して。お薬も出すからちゃんと使ってね」
「……はい、ありがとうございました」
◇
『ケース2・シェスカの場合』
医務室の扉が開き、シェスカが顔を見せた。
――が、フィノを見つけた瞬間。
「ッ!」
慌てた様子で逃げ出した。
「フィノちゃん、レンちゃん、お願いね~♪」
メリルの指示を聞き、二人はシャっと動き出した。
「いやっ! 離せっ! 離してよ! 離しなさいったら!」
「ダメだよシェスカ! 悪いところがあるなら診てもらわなくちゃダメ!」
あっさり捕まったシェスカ。
フィノに担がれて医務室に戻って来た。
必死で暴れているがどうにもならない。
「おかえり~。で、シェスカちゃんはどこが悪いのかなぁ?」
小さな子供に接するようにメリルは聞く。
しかしシェスカは黙ってしまって答えない。
「シェスカ、黙ってないで教えて? ね?」
フィノは担いでいたシェスカを椅子に座らせるのだが、
「いっったぁい!」
大きな声を出して飛び上がったシェスカ。もう涙目。
「わっ! ご、ごめん」
「ふむふむ、座ると激痛かぁ……なんとなく分かったからベッドに横になってお尻出してね~。サクサクいくよぉ」
椅子から立ち上がったメリルに涙目のまま人差し指を向けるシェスカ。
「いやだって言ってるでしょ! ウォーターバレット!」
水の魔法を発動するも相手が悪すぎた。
指から発射された水弾はすぐさまレンに握りつぶされ、メリルに札を張られ、次を考えるよりも早く、フィノに腕を掴まれてしまった。
「ぐ……」
あまりにも、実力が違う。
「動きがぜんぜん見えなかった……」
真面目なノリで絶望しかけたシェスカを、メリルが発した次の言葉が引き戻す。
「じゃ~ベッドに押さえつけてパンツ脱がせてね~♪」
「いやぁああああ!!!」
普段は天使のような笑顔でシェスカに接するフィノも今日だけは厳しかった。
うつ伏せに寝かせ、スカートを脱がせパンツをずり下ろす。
「いやだっ! いやっ! 見ないで! いっそ殺せ~~~!!!」
大好きなフィノにだけは見られたくない……というシェスカの想いもむなしく、メリルの指は彼女の肛門に迫る。
フィノの目の前で……。
ずぼッ!
「ひうっ!!!」
ぐ~にぐ~に。
「あっ! いやぁ! フィノ! 見ないで! 見ないでよぉ……みなっ……いで……」
「う~ん? ここかな」
ちゅん。
「ひぐうううう!?」
「あっ、痛かった? ごめんね~」
すぽっ。
「あひっ!」
「よし、状態が分かったよ」
メリルが離れてもシェスカは動かない。
ベッドに顔をうずめてシクシク泣いていた。
人生で一番恥ずかしいところを一番好きな人に見られてしまったのだ。
「シェスカ……泣かないで。今度修行でも何でも一日中付き合うから……」
悲しそうにシェスカの頭をなでるフィノ。なでなで。
「……分かったわ。絶対だからね?」
意外と早く立ち直った。
たとえ泣き崩れても再び立ち上がる。それが人間の強さだ!
「シェスカちゃんは……『裂肛』だよ。切れ痔だね」
「切れ痔……」
「お尻がスパッと切れちゃってるの、ナイフで切りつけたみたいにね。出血はそこまで多くないけど痛みが激しいのが特徴かな」
「治るのかしら? この痛みじゃ何もできないじゃない」
「うん、大丈夫。これくらいなら十日もあれば塞がるよ。お薬きちんと使ってね。あとは便秘の改善かな。水は多めにとってね~」
「水ね……分かったわ。他に気を付けることは?」
しばらくメリルの話を聞いた後、礼を言ってシェスカは帰っていった。
◇
『ケース3・エスニャの場合』
「失礼いたしますー……」
一目見ただけで「不健康だな」と分かるような痩せ方をした女の子、エスニャはぼそっと挨拶をして入って来た。
ミニスカナース状態のフィノとレンを交互に見てへらっと笑い、
「フィノさんもレンさんもなんでそんなギリギリの恰好してるんですかねぇ? 趣味でしょうか? え、なんかのプレイですかこれ? スケッチしてもいいですかぁ? 無料でこんなサービス受けちゃっていいんでしょうかねぇ、そもそも――」
興味のあることだけは早口で語る子である。すごく嬉しそう。
「黙れ、モヤシ」
「あっ、ハイ……」
レンの一言で大人しくなったエスニャはのそっとした動作で椅子に座った。
「エスニャちゃんは今日はどうして?」
「ええ、はい、それがですねぇ……お尻の方にちょっと違和感がありまして、痛みも少しあります」
「うん、痔だね、お尻見せて」
もう面倒くさくなってきているのか、メリルの判断は早かった。
「へ? お尻見せてって、この状況でですかぁ? そ、それはちょっとぉ――」
「見せろ、モヤシ」
「あっ、ハイ……」
面倒なのはレンも同じだったみたい。
エスニャは大人しくベッドに横になりパンツを下ろした。従順である。
「エスニャちゃんは大人しくて助かるよ~、ここの女の子たちって『ウガー!』って娘がほんと多くて……」
「意味不明なようでしっかり伝わりますねぇその例え……」
まな板の上の鯉のようになったエスニャ。
「力抜いててね~いっくよ~~……」
メリルは肛門に向かって狙いを定めて……。
「えいっ」
じゅぼっ!
「――おほぁ♡」
「むっ? これは……!」
ぐにぐにぐに!
「ああ♡ おおぅ♡ ほあああ♡」
「……やるな~」
ずきゅんっ!
「んほぉおあ!」
「ふ~……」
ちゅぽん。
「終わったよ~」
「おおお……相変わらずもの凄い体験ですねコレは……筆舌に尽くし難い……」
服を着て、お尻をさすりながらエスニャは立ち上がる。ほんのり頬が赤くなっていた。
「エスニャちゃんはね~……これ! 『外痔核』で~す! エリザちゃんのとは違って外側に出来るイボ痔だよ~♪」
さらっとエリザの恥ずかしい情報を漏洩した。大問題である。
「あ~、通りで異物感が……」
「お尻の穴の隣にね、ちょろっと、小指の先っちょくらいのが出来てるんだ。長時間座りっぱなしだったりすることが多いんじゃないかな?」
「はい、確かに……ん?」
エスニャはそこで気付いた。
「あの、外側に痔が出来ているのなら見ただけで分かりますよね? 中に指を入れる必要は無かったのでは?」
「ぶぶー! ダメで~す! 検査は念のためにやるんです! 中もしっかりチェックしないと」
これ、ホントにやられます。
◇
『ケース4・ミランジェの場合』
「んきゃー! どしたのフィノっちそのカッコ! チョー最高……じゃなくてまさか誰かにやらされて――いっでぇええええ!」
入って来るなり鼻息を荒くしたミランジェだったが、体に負担がかかったのかうずくまってしまった。尻を押さえて。
「ミランジェ! 大丈夫!?」
「フィノは外した方がいいんじゃないか? 派手女の血圧が上がるぞ」
「……黙れおチビ……うちが……この程度で!」
歯を食いしばりながら立ち上がるミランジェだったが……。
「いっでぇえええええ!」
気張ったのは逆効果である。
しかし、心を落ち着けて脱力するというのはミランジェがもっとも苦手としていることであった。
「これは重症かもしれないね……ミランジェちゃんをベッドへ!」
「分かりました!」
「……任せろ」
真剣な表情で指示を出すメリル。
横向きに寝かされたミランジェの短いスカートとパンツはすぐに下ろされた。
「くっそ~、フィノっちはともかくおチビにこんなカッコ見られんのはムカつく……」
「言ってる場合か、意地を張っていると二度と戦えん体になるぞ」
「うう~、フィノっちなぐさめて……」
「よしよし……メリル先生、お願いします」
「うん、任せてね。ミランジェちゃん、ひざを抱えてもっとお尻を突き出すようにして」
メリルは言われた通り突き出されたミランジェの尻に左手を置き、右手の中指と人差し指を立て気の力を一点集中させる。
「出血がひどいから治療と検査を同時に行うよ。これほど大きな力を使うのは十年ぶりくらいかな……フィノちゃん! レンちゃん! しっかり押さえててね! いっくよ~~!」
ズボォッ!!!
「んおおおおお~~~!?!?!?」
「耐えろ! 派手女!」
チュコチュコチュコチュコ!
「あっ、あっ、あっ、ああああ~~~!!!」
「まだまだ~!」
ぐりゅんぐりゅんぐりゅん!
「ミランジェ! あたしに合わせて呼吸して! ひっひっふー! ひっひっふー!」
「ひっひっひっ……ひぃいいいいい!!!」
じゅぼあっ!
「あっ!!!!!! ――――……んぅ……」
「お、終わったぁ~」
汗だくになって息をつく四人。
それはもう大変な手術であった。
「ふーー……。ミランジェちゃんはね、『裂肛』だよ」
白衣を脱いで椅子に戻ったメリル。
「はぁはぁ……切れ痔っすか……(相変わらずスゲー乳してんなこのセンセ)」
「うん。それも傷が深くなって潰瘍になっちゃってるの。便秘もかなり重いはずだよ。調子が悪いならもっと早く来ないと……」
「う……ごめんなさい……」
「この分だと一時的に治してもすぐに再発しちゃうよ。食生活の方から改善しないと」
「ミランジェ……あたしが面倒みるから一緒に頑張ろうね。甘いものばっかり食べてちゃダメだよ」
「ひ~ん、フィノっちがうちにつらく当たるなんて……」
「どこがだ! 少しは反省しろ!」
「るっせーぞクソガキ……いっでぇえええ!」
◇
「二人ともお疲れさま。と~っても助かったよ」
その日の夕方。
疲れた顔で座るフィノとレンに、木製のコップが渡された。
中には謎の黒っぽい液体。
「わぁ、甘い……」
一口飲んだフィノがふわっとした笑顔に。
「美味しいでしょ~? 私の故郷で取れる海藻を使ったお茶なんだ。いろいろブレンドしてあるから栄養満点だよ」
一人だけ元気そうなメリル。そう言って自分も飲み始めた。
「……ふだん茶はストレート以外口にしないんだがな、不思議とこれは悪くない」
目をつむり、じっくりと味わうレン。
「疲れてるから甘いものが美味しく感じるんじゃないかなぁ?」
「たしかに、今だから良いのかもしれんな」
そうしてレンも微笑んだ。
「それにしても、どうしてこんなに便秘や痔が多いんだろう?」
というフィノの言葉を聞いて、メリルは「うん……」と少し考えてから口を開いた。
「未知の流行り病……という可能性もなくはないんだけど、何故かこの町だけなんだよね。普通はもっと早く、国中に広まっちゃったりするから……」
「以前学院を襲った魔族の可能性は? あのバカげた事件を引き起こすような奴だ、こういうこともやりかねんだろ」
「リリィさん? それはないかなぁ。あの人の魔力は私がしっかり封印してるし、エルクちゃんたちの所から逃げ出したらすぐに連絡が来ると思う。そもそも、魔力や気の力が町を包んでたら私はすぐに感知できるから……」
魔力でも気でもない、と考えた時、フィノの頭に一人の少女が浮かんだ。
「まさか……呪い……?」
「呪術かぁ、それなら私にも分からないね。可能性はあるかも」
呪術師ハイズ……彼女ならたしかにやりかねないだろう。
どんなふざけた攻撃も大笑いしながら仕掛けてくるイメージがあった。
「……あたし、リンネ先生に相談してきます」
礼を言ってコップをメリルに返すフィノ。
「待て、私も行こう。貴様とリンネでも倒せなかったという呪術使い、もしもそいつが関わっているのなら見てみたい」
レンも立ち上がり、座っていた椅子にコップを置いた。
「ありがとう、レンが来てくれるなら凄く頼もしいよ!」
微笑み合うフィノとレン。
「もし困ったら遠慮なく声かけてね! 出来る限り協力するから……」
部屋から出ていく二人の姿を、少し羨ましそうに見つめながら、メリルはコップを片付け始めた。




