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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
六本目! 弄ぶ者

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第四十話 作られた姉妹



「呪術ってやつだろ?……さっきのは……」


 夢中になって何度もハチ型ゴーレムを踏みつけているハイズに、リンネが話しかける。

 油断せず、十分に距離を取って。


「おやん? 知ってたのー?」


 ハイズは戦闘中とは思えないほどくだけた調子で返した。


「なんらかの条件が必要な代わりに……相手に縛りをかける術……食らったのは初めてだけど……」


「正確には魂の掌握(しょうあく)なんだぁにゃ~ん。ユーには死の呪いをかけちゃったから、もう終わりだよん♪」


 ハイズはいたずらっぽく笑い、ステッキの先をクルクルと回す。


「はいソレ嘘……そんな必殺の能力だったら……敵の前に顔出す人はいないよね……リスクを冒してでも近付く必要があったんでしょ……何の準備もなく出来るのはせいぜい相手の動きを止めるくらいで……それも数秒が関の山ってとこだろ……」


「むふっ! 大当たり! ちなみにさっきの術は声を媒介(ばいかい)にしてミーのエネルギーを届けてるから、近付くほど拘束時間は延びるにゃ。これは嘘じゃないよ~」


 黙って数歩下がるリンネ。

 それを見たハイズはさらに楽しそうに。


「――って話をするとぉ、たまに耳を塞いで戦おうとするバカがいるんだよにゃあ! キャハ! キャハハハ!」


「エリザ先輩なら……やるかもなぁ……」


 スッと地面に手を付けるリンネ。

 魔力を流し込み、一気に引っ張り上げた。


「バトルゴーレム……レベルスリー……」


 土の魔力によって生み出されたのは二メートル近い身長を持つ人型ゴーレム。


「……いけ!」


 リンネが手を振ると爆発したかのように土埃(つちぼこり)が舞い、彼女の姿を隠した。

 それと同時に始動するゴーレムは一足飛びでハイズに接近、強力な足刀を浴びせた。


「ぐへっ!」


 顔面から鮮血をまき散らしハイズはよろける。

 ゴーレムは一流の格闘家のように素早く構え、体重を乗せた打撃を次々に打ち込んでいく。


「ぐえっ、がっ、おげっ!」


 一方的にハイズを攻めるゴーレムを見て、茂みの中に身を隠したリンネは喉の奥で笑った。


「くくく……魂の無いゴーレムに……呪いは効かないよねぇ」


 リンネが操るゴーレムの性能は同時に動かす数と反比例する。

 今戦わせているのは複数出すこともオート操作も出来ないがたっぷりと魔力を練り込んだ戦闘能力の高いタイプだ。


「ごほっ、ちょ、ちょっとたんま! たんま!」


 フィノと殴り合うことすら可能であろうハイゴーレムは圧倒的な強さでハイズを追い詰める。

 だが……それでもハイズの笑みが消えることは無かった。


「……なんだ?……ゴーレムの動きが……」


 (なめ)らかだったはずの動きが徐々に硬く、重く変わっていく。


「あれは……凍っているのか?……魔法?……」


 目を凝らしてみると、ゴーレムにはハイズの髪の毛が何本も取り付き、そこから生み出された冷気が体を凍結させているのが分かった。

 冷気は全身を侵食し、やがてゴーレムは完全に停止した。


「キャハハハ! バレバレなんだよマヌケ! 『チカヅケ!』」


 茂みに向かってステッキを振るハイズ。

 隠れていたリンネの体はハイズの方へ飛び出してしまった。


「つぅ~かま~えた~んだにゃ~ん♪」


 両手で強くリンネを抱きしめるハイズ。

 胸に顔をうずめるようにして笑う。


「キャハ! 驚いた? 驚いた? 実はミーも魔法が使えるのでした~~」


 虹色の髪がぼんやりと光を放ち、リンネの体が発火。


「あ……あああ……」

「色々な属性が扱える理由はぁ、秘密だけどねん♪」


 勝ち誇って語るハイズはさらに腕の力を強めた、すると――。


 ――べこっと、リンネの体が潰れた。


「にゃ?」


 潰れた体はバラバラになって崩れ落ち、破片は泥へと変わっていく。


「……偽物?」


 ハイズが首をかしげた時、その声は背後から聞こえて来た。


「ククク……近付かされる演技は……あれでよかったのかな……?」

「!?」


 振り向いた途端、シュッとリンネの手刀が横に流れ、ハイズの首は切断された。

 

「小賢しいけど隠れるのは下手なマヌケ……そんな奴を(よそお)っておけば……大抵の人は騙されるんだよね……ゴーレムに戦わせて本体は隠れるって戦術そのものが……何故か舐められやすいし……」


 笑顔のまま転がったハイズの頭に、ダミーに着せておいた服を回収しながらリンネは語り掛ける。


「それとさ……さっきのは魔法じゃないよ……ただ魔力をぶつけてるだけ……複数の性質を扱える理由は……他人から奪い取ったとかそんなオチでしょ……キミみたいな奴に……美しい炎が出せるとは思えないからね……」


 服を着終わって、吐き捨てるようにリンネはそう言った。



 ◇



「エリザ先輩……生きてますか?……死んでるなら……そのまま死んでて欲しいんですけどね……」


 フィノの小屋にやって来たリンネ、出来る限り声を張る。


「リンネ!? こっち! こっちですわー!!!」


 隣の部屋から三倍くらいの大きさで返事が返って来た。


「ああ……生きてたか……これで……学院長を継がされずに済みそうだ……」


 聞こえないようにぼそっとつぶやいて、リンネは声のした方へ。


「リンネ! あの二人は!?」


 ベッドに寝かされているエリザを発見した。

 顔色は悪くない……というかかなり良かった。

 しっかり寝て食べていたようだ。


「先輩……まずは助けてもらったお礼からでしょ……私がもっと慎重に動いてたら……今頃ゾンビ化してましたよ……青白い顔で『ごめんなさい死にました』って学院長に報告するの恥ずかしいでしょ?……ヒヒヒ……」


「冗談を言ってる場合ではありません! 何があったか教えて!」


「はいはい……あの気持ち悪い女は……私が倒しました……白髪の女の子はフィノちゃんと下にいますよ……」


「ハイズを倒した!? 死体は? ちゃんと始末したんですの!?」


「死体なら小屋の前に転がってますよ……あ……生首をフィノちゃんに見られる前に……処分した方が良いかな……」


「違う! ハイズはそう簡単に倒せません! 心臓を貫いても、頭を切り裂いても平然と動いていましたわ! 奴自身が特別な肉体を持つゾンビなんです! すぐに戻って確認を!」


「まさか……」


 小屋を飛び出しハイズの死体を確認しに行くリンネ。


「………………いない……」


 首をはねたはずの死体は跡形もなく消えていた。

 状況が悪化していることに気付いたリンネはすぐに気を引き締め、エリザの元へ戻る。


「……死体が消えていました」

「やっぱり! どこかで体を直しているはずですわ!」


「エリザ先輩……動けませんかね?……出来ればすぐにフィノちゃんと合流して……下山したいんですが……」


「動けるのならとっくにそうしていますわ! 奴に呪いをかけられてこのベッドから起き上がれないのです!」


「ですよね~…………呪術ってのは……しっかりとやればここまで相手の自由を奪えるのか……本当に……厄介な術だな……」


 珍しく困った様子で、リンネは肩を落とした。



 ◇


 

 リンネと別れたフィノは白髪の少女ルルと木陰に座る。


「どうして、あたしをお姉ちゃんって呼ぶの?」


「同じ人間の手で、ルルより先に生みだされてるから」


 変な言いまわしをするんだなぁとフィノは思った。

 少し変わった女の子なのだろうと勝手に納得した。


「生き別れの妹ってことかな。お母さん……あたしをじっちゃんに預けた後でルルを産んだんだね……」


 実の親とはいえフィノは呆れてしまった。

 育児放棄されたことを恨んでいたわけではない、何か事情があるのだろうと考えていたからだ。

 だがこの分だと他に兄妹が何人いるか分かったものでは無い。


 それだけに、次のルルの言葉は重いものとなった。


「ちがう、セスはルルたちを産んでなんかいない、いたずらに作って、放り投げただけ」


 落ち着いた様子で語るルルではあったが、そこには確かな殺意が込められていた。


「……どういうこと?」


「ルルたちはね、戦うために作られた人間そっくりの偽物なの、半分は人間で半分はモンスター、母親はセス、父親はどこかのバケモノ」


 悪夢のような話だった。

 言葉を失うフィノに容赦なくルルは続ける。


「そうやって器を作ってから、赤ちゃんの魂を中に入れるんだって、上手くいけば普通の人間みたいに育つけど、ほとんど失敗だった、一緒に生まれた姉妹はみんな死んじゃった、一番出来のよかったお姉ちゃんだけを連れてセスは逃げちゃったんだ」


 だから、とルルは語気を強める。


「セスは殺す、邪魔するならお姉ちゃんも殺す、ルルはね、みんなの仇を討つって約束したの」


 うつむいて考え込んでいるフィノをルルはのぞき込む。


「ねぇ、お姉ちゃんも一緒にいこ?」


 フィノは無言のまま、妹をそっと抱きしめた。

 そして頭を優しくなでながら、ゆっくりと口を開く。


「今まで大変だったね、ルル。これからは、あたしがずっと一緒にいるから…………だけど――」


 どうしても()に落ちないことがある。


「お母さんが赤ちゃんだったころのあたしを連れて逃げたのなら、ルルたちが生まれたのはおかしくない? 見たところ四、五歳は離れてるけど……」


「あれ? なんでだろ、お姉ちゃんのことも捨ててからルルたちを作ったのかな」


「どこでも出来るわけじゃないんでしょ?」


「ルルたちは実験室で……セスは逃げちゃってて……あれ?」


「そもそも、ルルはその話を誰から教えてもらったの?」


「…………ハイズ」


 深い記憶の底、どこかで聞いた覚えのある名前だった。


「ルル、お母さんのことはいったん待って。話も聞かずに恨んじゃったらかわいそうだよ」


 フィノは立ち上がって体をほぐす。


「あたしは……そのハイズって人と話してくる」

「ルルもいく」


 フィノは微笑んでルルの肩に手を置いた。


「ここで待ってて、ルルはもうその人と会わない方が良い」

「……わかった」

「よし、良い子! 明日からはあたしと暮らそうね!」


 もう一度抱きしめてから、フィノはリンネを追いかけた。



 ◇



 ひとりになったルル。

 言われた通りにその場で待つ。


「あれが、ルルのお姉ちゃん……」


 道端に生えている花を見ながら、ぼんやりとフィノのことを考えていた。

 事前にイメージしていた姉の姿はあまり人間味がなく、もっと冷たいものだったのだが、実際に会って受けた印象は真逆のものだった。


 もしかしたら、母親もハイズの話とは違うのかもしれない。


 それは今までの生き方を否定されかねないものではあったが、嫌な気分にはならなかった。

 なによりも、共に暮らそうと言った姉の言葉が、ずっと心の中を温めてくれていた。

 

「やっほ~~。一人で何やってんのかにゃ?」


 戻って来たのは姉ではなく、


「あれ? お姉ちゃんがそっちいかなかった?」


 首に新しい()い目を作ったハイズだった。


「たぶんこうなるだろうと思ったから別ルートから来たんだにゃあ。どうせミーじゃヤドリギさんを殺すのは無理だし、それよりどうだった? ヤドリギさんは」


「ぽわっとした」


「意味分かんねー、キャハハハハ――」


 スイッチが入ったようにけたけたと笑うハイズに、真顔でそれを見ているルル。


「ハ……ハイズか?」


 かすれた男の声がわずかに聞こえ、ルルとハイズはそちらを見る。


「あぁ? 誰かにゃ?」

「お……俺だ……助けてくれ……」


 首をはねられた男の死体だった。

 転がった頭だけで話している。


「おりょ、どこのゾンビかと思ったらアルガスくんじゃん。ま~だそんな器にしがみついてんの?」


「もう一度……もう一度生き返らせてくれ……まだ死にたくない……必ず……役には立ってみせる……」


 むふぅと息をついて、ハイズが寄っていく。


「しょうがないにゃあ。だったら役に立ってもらおうかな」

「助かる……次は……負けん……」


 アルガスの頭を見下しながら、ハイズはすっと片足を上げ――


「な……なにを……!?」

「えい♪」


 ぐしゃりと踏みつぶした。

 すると、潰れた頭からは小柄な男の魂が飛び出した。


「アルガスくんはね、たぶん本来の肉体じゃないとヤドリギさんを壊すことは出来ないと思うんだよにゃあ……でもユーの死体はもう焼却されちゃってるから、新たに生まれ変わるくらいしないとムリ……」


 笑顔で、幽体となったアルガスの首を絞める。


「だったら、ミーにエネルギーを提供することで、役に立ってほしいんだぁにゃあ~ん」


 捕まえた魂から、赤い光を吸い上げていく。

 そのエネルギーはハイズの髪にどんどん吸収される。


「ん。ユーは炎の力か。量も質もしょっぼいにゃあ、でもまぁ、さっき使った分くらいにはなったかな? キャハハ!」


 力を奪われたアルガスの魂は極端に薄くなり、しばらく明滅(めいめつ)した後で、やがて完全に消え去った。

 

 そしてハイズはくるっとルルに振り返る。

 霊視能力の無いルルには全てが見えておらず、つまらなかったのか再び道端の花をながめていた。


「ルル、ユーには今からもうちょ~っと頑張ってほしいんだにゃ」

「なにすんの?」


 ルルは花を見ながら答える。

 軽い足取りで寄るハイズ。


「ヤドリギさんの器を壊してほしい。ミーのためにね♪」

「いやだ、ハイズはルルを騙してたかもしれないし」


「キャハハ! それこそウソ! ミーほど正直な美少女なんて、この世どころか霊界中探したっていないんだぁにゃあん」


 もたれかかるようにしてルルの耳元で喋る。


「実はね……ルルたち姉妹を作って辛い思いをさせた黒幕は、ヤドリギさんなんだにゃ」

「なにいってんの?」


「オモイダセ……姉妹たちの死を……」

「はなして」


 語り掛けているのは、長年にわたり準備を整えて来た悪意。


「オモイダセ……愛する者を無くした痛みを……」

「…………」


 育ててきたのは、目的を果たすための強い憎悪。


「オモイダセ……復讐を誓った、あの日のことを……」


 揺り起こそうとしているのは、生きるために必要だった殺意。


「さぁ! ミーのために! 『タタカエ!』」


 ルルの瞳から光が消え、ゆっくりと立ち上がると、無言のままフィノを追いかけ走っていった。




「…………植物ってのはミステリーだよにゃあ。語りもしなけりゃ笑いもしない、遊ぶこともしないし戦うことだってない」


 生えていた花を見下ろし、その場にいない誰かに語る。


「そこには確かに命と魂が宿っているのに、ミーたちとは根本的に造りが違う……人類や魔族が現れるよりもずっとずぅっと前から、この星に寄り添って生きて来た、とても身近な超常存在……莫大なエネルギーを持つ何かの末端……」


 恍惚(こうこつ)とした表情で片足を上げて、


「ヤドリギさんとひとつになれたら、きっと教えてもらえるんだろうにゃあ」


 ぐしゃり、と花を踏みつぶした。

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