第三十七話 エピローグ ぐちょぐちょのベッドシーツ
翌日。
「指はきちんと動くかなぁ?」
「問題ないッスよ」
椅子に座ったシュノセルがグーパー運動を行う。
「うん、大丈夫だね」
女医のメリルが机の上に置いたカルテに記入する。
「気の治療は初体験だったけど凄いッスね。久しぶりに死も覚悟したんスけど」
「生きてたのは奇跡だよ? 即死してたかもしれないし、すぐに私がこれなくても死んでたし……」
「HAHAHAHA! 万事休すというやつでござるな!」
腕組みをしたプリメーラが笑った。
「う~ん、九死に一生の間違いかなぁ? プリメーラちゃんはどうしてあんなに元気だったのか不思議なんだけど……」
困った笑顔になるメリル。
「日々の鍛錬の成果にござろう!」
「絶対違うと思うッス」
「モンスターに襲われたなら仕方ないけど、普段の特訓でも大怪我しないように気を付けてね」
「逆にもっと無茶できそうッスけどね。メリル先生的にも怪我してくれた方が儲かるんじゃないスか? どんな契約でここにいるのかは知らないけど、術で怪我治す人なんて見たことないッスよ。絶対安くはないはずッス!」
「ま、まぁお金はそれなりに貰ってるけどね…………ここだけの話ね、世界にはすっごいお金持ちもいるから、腰が抜けちゃうような金額で雇おうとする人もいるんだよ~」
「ぶっちゃけ、億ッスか?」
「もう、ちょ~~~っと上かなぁ? えへへ」
「ひえ~~~……」
「美人で胸がデカいことも金額が跳ね上がる理由になってそうでござるなぁ……」
「もちろん学院からはそんなに取ってないからね? お金の無い人は無料で診るし! えっへん!」
メリルはそう言って大きな胸を張った。
「あ~出た出た、こういう偽善者たまにいるんスよね~」
「ボコボコにしたライバルに爽やかな顔で『良い勝負だった』とか言っちゃうタイプでござるな。聖なる外道にござる」
「そ、そこまで言わなくても……ぐすん……」
「別に嫌ってるわけじゃないッスよ?」
「そうそう、気軽にこんなこと言える大人はそうはいないでござる」
「う~~~ん、それ褒められてるのかなぁ?」
「褒めてるでござるよ」
「というかこの学院の大人たちってみんなそんな感じッスよね。なんというか、目線を合わせてくれる人が多いッス」
「あ~、それはねぇ、生徒のことをよく知ってるからだと思うよ~」
「どういうことでござるか?」
「私は違うけど、他の先生たちはこの学院の卒業生でしょ? だから知ってるんだよ、生徒のみんながどんな想いでここにいるのかってこと。普通の人だったら、失敗しても命を落とさなくて済むような仕事を選ぶよね? それなのにこういうところに来るってことは、人それぞれ事情を抱えてる。本名や過去を隠してる子も少なくはないからね……それがよく分かっちゃうから、対等に付き合うことが出来るんじゃないかなぁ。もしかしたら、みんなの中に、過去の自分や亡くした友達を見てるのかもしれないね……」
「…………ま、そうかもしんないッスね」
「拙者は至って普通の女子でござるがな!」
「そ、そうなんだぁ……」
「はははっ! どっからツッコんでいいのか分かんないッスね!」
珍しく、声を出して笑うシュノセルだった。
◇
「で、私の名前は出さなかったんでしょうね?」
怯えた表情のスズにずずぃっと顔を近付けるシェスカ。
「はいぃ、言ってません、言ってませんよぅ……」
「なら、よし」
シェスカは腕を組み、どかっとベッド(スズの)に腰掛ける。
「シェスカさん、スズさんのおかげで助かったんですから、もう少し穏便に……」
なだめる様にエスニャが言った。
「助かったかどうかはまだ分からないけどね。結局、組織の連中には逃げられちゃったんでしょ?」
「あうぅ……レンさんが倒れたフィノさんを介抱している間に消えていたらしくて……」
「皆偽名なうえも顔も隠していましたからねぇ……追跡は難しいでしょう。なぜか私は見つかりましたが……」
「あれだけ堂々と同人誌売ってたらそりゃ見つかるわよ」
「当然ですが人目につくようにした方が売れますからねぇ」
「いちいち商売にしないで、身内でこっそり楽しめばいいじゃない」
「趣味と実益を兼ねた活動なので大人しくやるつもりは毛頭ありません。もう一つの趣味である古代の資料や魔道具の収集には何かと費用がかかるので」
あ、これは喧嘩になる流れだ、とスズは察した。これでも鋭い女の子である。
「そもそも金儲けに恩人を利用して良いわけ!?」
「後からではありますが、フィノさんから了承は得ていますよ」
「気持ち悪いレンとの純愛もやめなさいよ!」
「こうした方が双方のファンにウケが良いんです! 分かりやすく数字に出ますからね……純愛で怒るのは一部のクレーマーくらいなものですよ」
せめて、外でやってくれないかなぁ、とスズは思ったが口には出さなかった。
というか、出せなかった。
◇ ◇
その日の夜……。
「毎晩すまないな」
学生寮の管理人室、お湯を入れてもらったティーポットをレンは受け取った。
「ううん、レンちゃんにはいつも助けてもらってるから……」
ほんのりと頬を赤くして返事をしたのは、レンと歳の近いおさげの少女だ。
「見回りは学院長からの指示だ。貴様が恩を感じる必要はない」
「……うん。おやすみ、レンちゃん……」
「ああ」
管理人室を出たレン。
寮は暗く、一歩進むごとに木造りの廊下は小さな音を立てる。
五感が研ぎ澄まされ、ティーポットから届く茶葉の香りに思わず表情がゆるんでしまう。
こんな顔をフィノに見られるわけにはいかないな、などとぼんやり考えていると、自室のドアが見えてきた。
必要な家具以外は何も置かれていない部屋、テーブルの上に用意してあるマイカップにレンは茶を注ぐ。
こうして大好きなお茶を楽しみながら、レンの一日は終わるのだ。
「んーーー…………」
っと体をほぐしてから、レンはベッドに入った。
後はもう眠るだけ、今日もまたパーフェクトな一日であった……となるはずだった。
「――うん? なんだ、これは……?」
なんか、ぐにゃっとしたモノに手が触れた。
「??? ――うわぁ!?」
ぐにゃっとしたモノは急に動き出し、レンに覆い被さった!
「レン、ミツケタ、アタシノ、ヨメ」
「な!? フィノ!? いや、違う? なんだ……なんだ貴様は!」
ベッドの中に潜んでいたのはフィノの姿をした赤いスライムだった。
力で跳ねのけようとするレンだったが、赤フィノは微動だにしない。
「ばっ、馬鹿な!? なんて力だ! ならば――アイスショック!」
「ムダダ、ソノテイドノ、コウゲキデハ、イタクモ、カユクモナイ」
「なにぃ!?」
「レン、アタシノヨメ、サア、アサマデ、アイシアウゾ」
「なっ、何を考えている!? やめろっ! やめろぉおおおおおお!!!」
…………翌朝。
レンは粘液やらなんやらでぐっちょぐちょになったベッドシーツを、真っ赤な顔で洗うことになってしまった。
なお、朝までレンをねちょり続けたビッグバンスライムは逃走し、催眠術が解けて暴れているところをリンネの手によって退治された。
めでたし、めでたし?
~あとがき~
こんなところまで読んでいただいてありがとうございます。
今回は学院の日常編みたいなものをと考えていて、もっと短い予定だったシェスカたちの試験編、エリザのフードファイト編、下着専門の美少女怪盗VSレン編の短編三本セットみたいになる予定だったんですが、シェスカ編が広がったのでこれで一つのエピソードにしてみました。
全体通してふざけた内容にしたのは初めてだったんですけど、これはこれで楽しいですね。
実はトップクラスにお気に入りだったけど、絶対本編には出せないなと思っていたプリメーラを動かせて大満足です。
美少女怪盗VSレンも気に入ってるんでそのうち膨らませてやりたいと思ってます、次の次の……次くらいかな?
次回は、最近あまり主人公らしい活躍をしていないフィノのお話、最終章なんかにも繋がっていく本筋を進めたいと思っています。
フィノの秘密も半分くらい明らかにする予定です。
すごく真面目な内容になるんで今回との温度差がけっこう酷くなりそうです。
実はこのうねうねマジックというお話がどんな終わり方をするか、というのにはしっかりとしたイメージがあります。
真面目な話も今回みたいなふざけた話もたくさん積み上げて、その全てに意味があるような、そんな最終章にしたいなぁと考えています。
フィノたちが最後の試練を乗り越えるためには、まだまだピースが足りない状況なので、この先も結構長くなってしまう予定なんですが、暇つぶし程度に付き合ってもらえたら作者はとても幸せです。
次の話を始めるには設定の細かい部分までしっかり詰める必要があるので、もしかしたら再開に時間が掛かってしまうかもしれませんが、書ける状況にある限りは絶対に放り出すことはしないつもりなので、万が一再開が遅れても見限らないでください!
ではさようなら~。




