第三十二話 ちっさいのとでっかいの
薄暗い部屋、仮面で顔を隠した少女たちが入って来る。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
それぞれが挨拶を交わし席につく。
異様な雰囲気。
危険な集団かもしれない。
「皆さん、集まったようね」
リーダー格と思われる少女が前に出た。
やはり仮面で正体を隠している。
「それでは……第十八回、『フィノさんを愛でる会』を始めたいと思いますわ!」
別の意味でヤバい連中だった。
よく見れば、部屋の壁には隠し撮りされたフィノの写真がビッシリと……。
「今日の一枚目、雑魚モンスターとたわむれるフィノさんです」
水晶に保存してある画像を投影用の特殊な紙にかざす。
スライムにほおずりされているフィノが大きく映し出された。
「エレガントですわ」
「エレガントですわ」
「……エレガントですわ」
集団から上品な拍手が起こった。
「では二枚目、町に現れた変質者を成敗するフィノさんです」
コートの下は全裸なおっさんを張り倒しているフィノの姿が映し出された。
「お見事にございますわ」
「お見事にございますわ」
「……お見事にございますわ」
こんな感じで怪しい集会は続いていく。
「――さて、本日のフィノさんはこれで終了ですが、ここで皆さんにお伝えしなければならないことがありますわ」
最後の写真鑑賞を終え、リーダー格の少女がそう言った。
「先日、会員ナンバー8……S・にゃんこさんが脱退しましたわ」
集団からざわっとどよめきが上がる。
「な、何故なのですか?」
「個人的な活動に専念したいからだそうですが、実のところ不明ですわね。『レン派』に下ったという疑惑もありますわ」
その言葉にどよめきはさらに強まる。
「お、お待ちくださいまし! なにを根拠にそのような!? よりによって野蛮で下劣なレン派などと……」
「……これを見てごらんなさい」
取り出されたのは一冊の薄い本だった。
部屋の中央に放り投げられた本を仮面の少女たちがなんですの? なんですの? とのぞき込む。
「こ、これはぁ!?」
「にゃんこさんの新刊!」
「はやく! はやく見せてくださいまし!」
薄い本の表紙ではあられもない姿のフィノとレンが抱き合っていた。
「皆さん落ち着いて、問題は同人誌の内容にありますわ」
「内容? いつもとどう違うんですの?」
「今までのにゃんこさんの同人誌は、フィノさんがあのチビガキをこらしめるというものでした。しかし、今回は――」
リーダー格の少女は少しためを作ってから言う。
「今回は! "純愛モノ"に変わっているのですわ!!!」
少女たちにズガーンと衝撃が走った。
あまりのショックにへたり込んでしまう者もいた。
「そ、そんなぁ……」
「こんな……こんなことが許されていいのでしょうか!?」
「死を! 裏切り者に死を!」
「キーッ! 焼くのです! そんな本は焼いておしまいなさい!」
「み、みたい! みたいわ! その本の中身を見せてちょうだい!」
熱気を増していく部屋の中で、彼女たちに気付かれぬよう、こっそりと抜け出す二人組がいた……。
◇
「はぁ、バッカじゃないの」
仮面を取って呆れ顔を見せたのはシェスカ。
目付きはキツイがまぎれもない美少女である。
藍色のクセ毛が汗でほんのり湿っていた。
「前はもう少しまともな集まりだったんですけど……」
後ろ手にそ~っと扉を閉めたのはスズだ。
仮面を取り、その地味な顔で苦笑する。
「あれじゃ怪しい新興宗教じゃない、エスニャが逃げ出すのも当然よ」
やや早足で二人は歩き出した。
「にゃんこさんの正体については、黙っておいた方が良さそうですね……」
「今のあいつらじゃ本当に報復とかやりかねないからね。いざとなったら戦ってでも止めなくちゃ」
「上級生も混じってると思うんで無茶ですよぅ……」
「だったらレン派に協力させるわ」
「もっと無茶ですってばぁ……あの人たちと会話なんて成り立ちませんよ……」
シェスカが不思議そうにスズの顔を見た。
「どうして? あんたレン派のことなにか知ってんの?」
スズはいやそ~な顔で答える。
「知り合いに何人かいるんですよ……」
「ふ~ん。どんな連中なの?」
「なんというか……クセのある人が多いんです。レンさんって変な人に好かれやすいんですよね。フィノさんを愛でる会も最近暴走気味ですけど、個人はまだマトモじゃないですか。レン派の人たちはあんなモンじゃないです。常識の通用する相手じゃないですよ」
「そ、そうなのね……」
詳しいことは分からなかったが、あまり関わり合いにならない方がいいのは確かなようだ。
「エスニャさんが心配ならフィノさんに相談しましょうよ。それこそツルの一声で片付くと思――」
「おバカっ!」
「あうっ」
ぺちっとスズの頭にチョップ。
「そんなことしたら私たちがあんな会のメンバーだってフィノにバレるじゃない! それだけはダメよ!」
「……じゃあ、どうするんですかぁ?」
頭頂部をさすりながらスズが聞く。ちょっと涙目。
「何があっても自分で解決できるように強くなる! 一日も早くね。元々そのつもりだったけど、理由が一個増えたわ。やっぱりこの世は力よ! 強けりゃその分わがままも通りやすいし」
後半部分は悪党の考え方では? と思ったがスズは黙っていた。
余計なことを言ったらもう一発チョップが飛んできそうだったからだ。
「そのためにも今日の試験は一発でクリアするわよ。こんなトコで足踏みしてられないから」
どんどん歩く速度を上げていくシェスカに、スズは「大丈夫かなぁ……」と考えながら付いていくのだった。
◇
「おー! 来た来た! シェスカとスズだな?」
二人がやって来たのは学院内の決闘場。
入り口の脇で待っていた赤髪の教員が手を振って近付いて来た。
「座学の方で何度か顔合わせてるけど、直にやり取りすんのは初めてだよな? オレはジズ。よろしくな!」
白い歯をにっと見せてジズは笑った。
「スズです。よろしくお願いいたします」
「シェスカよ。よろしく」
二人は学生手帳を取り出し手渡した。
「――――よし、確かに本人だな……んじゃ、付いてきな」
ジズが手帳を確認し、三人は決闘場の中へ向かう。
「この試験がクリア出来たら次は初めての実戦だ。それだけに難易度はたけー。一度や二度ダメでもへこたれんなよ?」
「失敗する前提でケアしようとすんのやめてくんない?」
「ははは、そりゃ悪かったな。……いやさ、ここで詰まって諦めちゃう奴ってのが結構いるんだ。初めて魔法が使えるようになって楽しくなってきた頃だろ? それだけにな……新入生は入学式とこの試験で半分くらい消えちまう」
「ただの根性無しじゃない。そんな連中戦わせたところでどうせすぐ死ぬわよ。さっさと辞めた方が本人のためでもあるでしょ」
「ああ、学院側もそういう考えなんだ。でもさぁ、人の夢が潰れるところを見るってのは、やっぱりいや~なモンだぜ? だからオレは出来る限りフォローするようにしてんのさ」
「甘い! 教員がそんな態度じゃ――」
熱くなるシェスカの口をスズが慌ててふさいだ。
「そ、そうだ、ジズ先生……今日試験を受けるのは私たちだけですか?」
「いいや、あと二人いる。先に来たからアップしながら待っとけって言っといた。名前はたしか……シュノセルとプリメーラだったか」
「うっ!?」
なんとも嫌そ~な顔で、スズは固まった。
◇
「ライトニングハンド! 最近会得した必殺魔法ッス。これでさわりゃあ一撃KOッスよ」
「HAHAHA! 左様にござるか! ――ならば! 邪王飛天流奥義・大地昇竜剣の構えにござる! これは大地を鞘に見立てたバットゥージュツで……あ、あれ? 抜けない!? あー! シュノ殿待って待って……あばばばばばば――」
ぐるりと観客席に囲まれた決闘場の中央、やたら背のちっさい女の子とでっかい女の子が戦ってた。
「ふっ、これでまたレンさんグッズが買えるッス」
ちっさいのは気絶してピクピクしてるでっかいのから財布を奪うと当然のような顔で中身を抜いた。
「お~い! 残りの二人が来たぞ~……ってプリメーラの奴気絶してるじゃねーか!?」
そこにやって来たのは嫌そ~な顔をしたスズとシェスカを連れたジズ。
「売られたケンカを買っただけッスよ。この人、丈夫さだけは魔王級なんですぐ目覚めるはずッス」
ちっさいのはピョコピョコと三人に近付いていく。
「んん? スズさんじゃないッスか。偶然ッスね」
「えぇ……まぁ……」
「隣の人は初めましてッスね。私はシュノセル、スズさんの友達ッス」
「シェスカよ」
シェスカは差し出された小さな手を握った。
「……手荒れ無し、肌ツヤ良し、体臭キツくない、これみよがしな装飾品無し――」
「な、なにかしら……?」
手を繋いだままシュノセルはブツブツと呟いている。
重力に逆らって伸びたアホ毛が一本ギュルギュルと暴れていた。
「――シェスカ様!」
「ひっ……」
急に大声を出しグイっと顔を近付けるシュノセル、アホ毛がビシィっと直立した!
「あなた……『お嬢』ッスね? それもかなりの……ハイパーメガトン級の『お嬢』ッスね? 金の匂いをビンっビンに感じるッス!」
「ま、まぁね……」
確かにシェスカの実家は金持ちだった。
それも金持ちなんて言葉じゃ表現出来ないくらいの超大金持ちだ。
「私のことは気軽にシュノとお呼びください……ふふふふふ……末永く、よろしくお願いいたします……」
こいつと深い関係になってはいけない。
シェスカの本能がそう告げていた。金持ちの本能が。
「――ハッ!? 拙者はいつから寝てたでござるか!?」
そうこうしてたらひっくり返っていたでっかいのがガバっと起き上がった。
そしてスズを見つけてニカっと笑う。
「おー! スズ殿! 偶然にござるな!」
「その流れさっき私がやったッスよ」
「隣の方はたまに授業で見かける……えぇっと――」
「シェスカよ」
「そうそうシェスカ殿! 拙者は朧月清玄と申す、東国の出身にござる!」
とても背の高い女の子は爽やかに微笑み自己紹介した。
切れ長の目に高い鼻、すらりとした長身に手足、けっこーカッコよかった。
「へ~、そうなんだ。言われてみれば口調もそれっぽいわね。でも見た目はあんまり――」
「あう……あのぉ……シェスカさん。その人の自己紹介ぜんぶウソです……」
恐る恐るスズが口をはさむ。
「その方はプリメーラさん。普通に地元の人で、学院には実家から通ってます……」
「マンガの読み過ぎで頭がイカれた自分をサムライだと思い込んでる変態ッスよ。シェスカ様のような高貴な方はあまり関わらない方がいいッス。汚れるんで」
うへぇ……という表情に変わるシェスカ。
「HAHAHAHA! 二人ともてきびしーでござるなー!」
プリメーラは腕を組んで高笑い。
その姿とやたら体をすり寄せてくるシュノセルを交互に見て、少しだけスズの気持ちが分かったシェスカだった。
「というわけでシェスカ殿、これからよろしくでござる!」
「よろしくッス! シェスカ様!」
ちなみにレン派の二人だった。




