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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
四本目! NTRエンドを認めるな! 時を越えた炎の百合戦争

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第二十八話 全てをやり直す秘術



 翌朝。

 ミランジェが着替えをすませ部屋を出ると、少し遅れて隣の扉が開く。

 出て来るのは当然、


「フィ――」

「ほら、シャキっとして」


 声を掛けようとしたが誰かと話しているようだった。

 廊下に少しだけ出たフィノは振り返って部屋の中を見ている。


「ああ、今行く」


 眠そうな少女の声が聞こえてきた。


「えっ……」


 フィノの後から出て来た者を見て固まるミランジェ。


「おチビ……」


 レンだった。

 大きなあくびをしている。


「あっ、ミランジェ。おはよう」

「うん……おはよう」

「ん? なぜ派手女がこんなところにいる?」

「レンには言ってなかったっけ、ミランジェの部屋はあたしの隣に移ったんだよ」

「そうなのか」


 話しながら、フィノとレンは自然に、まるで当然のことのように手を繋いだ。

 それも指と指を絡ませる恋人つなぎでだ。


「それじゃ、あたしとレンは朝ごはん行ってくるね」

「う、うん……」


 困惑し、まだ固まっているミランジェを置いて二人は歩き出す。


「派手女は一緒に行かんのか?」

「ミランジェは毎朝走り込みをしてから食べるんだよ」

「ふっ……朝っぱらから暑苦しい奴だ」

「そういうこと言わないの!」

「ああ、分かったよ」


 やはり何かおかしい。

 今までの二人の関係とは何かが違う。

 何というか……"遠慮がない"のだ。

 ミランジェは仲良さそうに去っていく二人の背中を見つめながら、胸の奥に、じわじわと重苦しい感情が広がっていくのを感じていた。



 ◇



 夕方、仲間を連れリリィの討伐に向かっていたメリルが戻って来た。

 そして医務室に呼び出されたミランジェ。


「――で、村中探し回ったんだけどやっぱり見つからなくて……リリィさんが逃げた先に心当たりはないかなぁ? 何か言ってなかった?」


 真剣な表情でミランジェの目を見るメリル。


「いえ、うちには何も……」


 正直どうだっていいと思ってしまった。

 そんなことよりも、朝のことが気になって仕方なかった。


「……ミランジェちゃん、何かあったの?」


 表情をさらに固くしてメリルが聞く。

 普段のゆるい雰囲気とは違う、初めて見せる顔だった。


「大したことじゃないです。もう、戻っていいすか?」


 元気なく言うミランジェを数秒見つめ、メリルが再び口を開く。


「うん、いいけど……最後にひとつだけ。なにか悩んでいることとかあったら、気軽に相談してね? 私は魔法の先生じゃないけど、人生の先輩ではあるから。一人で抱え込んじゃうっていうのだけは絶対にダメ。昔、それをして酷いことになっちゃった人を知ってるから……」


 そう言って優しく微笑むメリル。

 思い出の中の誰かとミランジェを重ねて見ているようだった。


「……はい」


 少しだけ笑顔を見せて、ミランジェは医務室を出て行った。



 ◇



 夕日に照らされる雲を見ながら、ミランジェは寮に向かい歩いていた。

 気分は、晴れない。


(あ~、こういうの……他人だったらすっげーイライラすんだろうな)


 自分を客観的に見て情けなくなってしまう。

 うじうじと悩んでいる奴は大嫌いだ。

 芝居などを見ていても、主人公がそういうタイプだと殴りたくなってしまう。


(フィノっちに直接確かめよう、それしかねーって!)


 ぱん! と両手で頬を叩き気合を入れた。

 元よりあれこれ考えて物事を解決できた試しなど無いのだ。

 考える頭が無いのなら行動あるのみ、ずっとそうして生きて来た。


「よっしゃ! 行くぞ!」


 全力で走って寮に帰還。

 二段飛ばしで階段を駆け上がる。

 あっという間にフィノの部屋の前まで来て、少し呼吸を整えた。

 そして扉をノックする。

 いつもと同じ回数とタイミングで――


(もう、帰ってるよね……?)


 ガタッ、と扉の向こうから物音がした。

 慌てて動いたようなそんな音。


「ミ、ミランジェ。今日は早いね……ビックリしちゃった……」


 ほんの少しだけ扉を開けて、フィノが顔をのぞかせた。

 笑顔ではあるのだが……。


「……うん。ちょっち気になることあってさ。聞きに来たんだ」

「そうなの? 着替えるから少し待っててね!」


 そう言って扉を閉めるフィノ。


(やっぱり、なんか変だな……)


 待ちながらそう思うミランジェ。

 いつものフィノならば扉を全開にして迎えてくれるのに……。


「ごめんね、待たせちゃって」


 すぐに廊下(ろうか)へ出て来たフィノ。

 いつも通りの笑顔、後ろ手に扉を閉めた。


「や~、待つくらいは全然ヘーキ! むしろ、こっちこそいきなり来ちゃってゴメンだよ」


 一生懸命、普段のノリを作る。


「それで、聞きたいことって?」

「……おチビのことなんだけど」

「レン? それなら今あたしの部屋にいるけど……」


 どうして? と言いそうになったが、飲み込んだ。

 別にそれだけならおかしな話ではない。


「……今朝一緒に部屋から出て来たけど、なんでかな~とか思ってさ」

「ああ、レンは昨日あたしの部屋に泊まってたからだよ」


 なんとなく分かってはいたが、嫌な話だった。


「ふ、ふ~ん……そうなんだ……今日も、泊ってくの?」

「たぶん、そうなっちゃうかも」


 と、フィノは苦笑しながら答えた。


「そっか……」

「ミランジェ、一緒に夕飯行かない? レンと三人で」


 内臓が急激に重くなるような感覚に耐えながら、


「や、うちは、いいや……」


 絞り出すようにそう言って、ミランジェはその場から逃げ出した。



 ◇



 数日後、修行にまるで身が入らないミランジェはフィリスの町をぶらついていた。

 抜け殻のようになってフラフラと歩く。


「おい」


 楽しく輝いていた日々はすっかり暗いものになってしまっていた。

 何かをされたわけでも失ったわけでもないのに。


「おい、派手女」

「…………あ?」


 レンに声を掛けられた。


「最近どうした?」

「……べつに」


 立ち去ろうとするミランジェの後をレンは付いてくる。


「らしくないじゃないか。元気だけが貴様のとりえだったはずだ」

「……うるせーな、カンケーねーだろ。おチビには」


 どうしてもイラついてしまう。

 別にレンが悪いわけでもないのに、こんな態度を取ってしまう自分自身が嫌になる。


「フィノも心配していたぞ」


 もう答えることはしなかった。

 口を開けば、どんな酷いことを言ってしまうか分からなかったから。

 身長だけなら大人と子供ほどにも差がある二人、互いに無言で歩く。

 やがて無駄だと判断したのか、レンはミランジェから離れて行った。



 ◇



 それからしばらくして……。

 レンはフィノの部屋に引っ越し、二人で暮らすようになっていた。

 次第にあの二人は恋人同士なのではないか、と周囲から(ささや)かれるようになり、フィノもレンも否定はしなかった。


「ミランジェ……学校やめちゃうってホントなの?」


 悲しげに言うフィノ。


「うん……明日には出ていく」


 作り笑いすら出来なくなってしまったミランジェ。

 すでに荷物を運び出し、片づけられた自室の机を見ながら言った。


「そうなんだ……シェスカもいなくなっちゃったし……寂しいな……」

「人それぞれ事情はあるし、仕方ないよ……」


 自分に言い聞かせるようにつぶやくミランジェ。

 仕方がない。

 その言葉で納得し、気持ちを切り替えることが出来たらどれほど楽なのだろう。


「それより、フィノっちも今日変だよ? 調子悪そうじゃん」

「……なんだか体がだるくてね。吐き気もするんだ」

「医者……メリル先生に診てもらったら?」

「一晩たっても続くようだったら相談しようと思ってたんだけど……明日はミランジェの見送りをしたいから、今から行ってこようかな」


 笑顔を作るフィノ。無理をしているのが手に取るように分かった。


「うちも付き添うよ、心配だし」



 ◇



 医務室の前、ミランジェは立ったままフィノを待っていた。

 こうしていると、フィノを学院に連れて来た日を思い出す。

 あの時は学院長室の前で彼女を待っていた。

 これから始まる日々を楽しみにしながら。


(まるで悪夢だな……夢ならさっさと覚めろっての)


 いつからこうなってしまったのだろう。

 思えば祭りの日、あの日からすべてが狂ってしまったように感じる。

 そう、あの魔族と出会った時から――


「おまたせ、ミランジェ」


 フィノが出て来た。

 ミランジェとは対照的に明るい表情。


「……どうだったの?」


 はにかむようにうつむくフィノ。

 下腹部をさすりながら、ゆっくりと視線を上げ、その言葉を口にした。


「え~~っとね……ぜんぜん心配なかったっていうか……その――」



 赤ちゃん……出来ちゃったみたい……。



「あ……ああっ……」


 心を守るため、ずっと考えないようにしていたこと。

 こうなることを恐れていたから、学院を離れる決意をした。

 知りたくなかった。

 聞きたくなかった。


 この後、ミランジェはフィノから逃げ出すように、学院を去っていった――





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 ――――そして、二十年の月日が流れた。


 猛吹雪の中を平然と歩く魔導士がいる。

 黒のローブに身を包み、大きな袋を背負っていた。

 一歩踏みしめるごとに、足元の雪が一瞬で蒸発していく。


 しばし歩き、やがて二階建ての大きな館の前に着いた。

 閉ざされた門に魔導士が蹴りを入れると、門は爆風と共に吹き飛んだ。



「ミランジェ! 入って来る時に門を壊しちゃダメって言ったじゃない!」


 館に入った魔導士を少女の声が迎えた。

 中は暗く、その姿は見えない。


「いちいち結界を解く手順がかったりぃンだよ」


 魔導士が手のひらを上に向けると、そこから炎のかたまりが浮かび上がり、館の中を光が照らした。


「まったく、誰が直すと思ってるのかしら」


 そこにいたのは黒い毛並みの猫だった。

 魔導士は黒猫の前に背負っていた袋を置く。


「なに? それ」

「前に言ってたろ? "過去をやり直せる"秘術の触媒(しょくばい)だ」

「…………たしかにそんな話をしたことがあったわね」


 その時、黒猫の影が浮かび上がりその体を包み込んだ。

 影と一体化した猫は徐々に形を変えていき、赤い瞳をもった少女に変化した。


「まさか真に受けてるとは思わなかったけど」


 少女は袋を開き中の物を一つずつ取り出していく。


「世界樹の葉っぱ……ユニコーンのツノ……聖王の腕輪に……神龍石!? こんなものどうやって手に入れて来たの?」


 呆れた様子で少女が聞く。


「話してたら朝になっちまう。記憶はやるから後でじっくり楽しみな。さぁ、ウチをとっととあの日に帰してくれ」

「ちょっと待って。ミランジェ……それがどういうことか分かる?」


 自らの影を椅子に変化させ、少女が座った。


「リリィが余計なことをしたとはいえ、フィノとレンは間違いなく幸せになったわ。あなたはそれを壊そうとしているのよ?」


「そうじゃねーよ。それはあくまでこの時間軸での話だろ? 過去に戻ったウチが何をやっても、こっちのフィノたちに影響はないはずだ」


「あなたが干渉することによって、あの二人の未来は変わってしまうわ。どちらかが不幸になってしまう可能性だってあるのよ?」


「それでもウチは諦めたくない。わがままなのは分かってンだよ」


「……実はね、私あの子たちの様子を見て来たのよ」


「どうだっていい」


「子供が十三人いたわ。フィノが九人、レンが四人産んだみたいね。とても幸せそうだった。レンは美人になったわよ? 学院長が板についてたわ。最初の子はヴァリンにくっついて家出しちゃったみたいだけど」


「どうでもいいッつッてんだろッ!」


「ここからフィノの話なんだけど聞きたくないの? ビックリするわよ?」


「どうでもいい、何度も言わせんな。この世界のあの子は幸せになった……それでいい。けどここはウチにとって悪夢でしかない。さっさと目覚めたいんだよ」

 

「はぁ……意志は固いのね……」


 取り出した道具を少女は床に並べていく。


「この術がどういうものか、もう一回説明するわ。これはどちらかと言えば呪いに近いものでね。あらかじめ設定した目的を達成するまで何度でも同じ時間の中をループすることになる……下手をすれば永久に未来へ進めなくなるわよ」


「ああ、構わねーよ」


「じゃあ、戻りたい日を教えなさい」


「祭りの日……いや、その前日が良い。あの子との約束をすっぽかしちまうことになるからな」


「設定する目的は?」


「あのクソ魔族の影響からあの子を守ること」


「フィノを手に入れたいんじゃないの?」


「……横やりが入ったのが気に入らねーだけさ」


「うふふ……本当にそうかしら」


 少女はくすくすと笑いながら魔導士の手を掴んだ。

 そしてその手が黒く輝くと、魔導師の手の甲に月の紋様が浮かぶ。


「はい出来た。あなたが目的を達成した時、この印が消えるわ」

「助かる」

「ついでに私の魔力も少し渡しておいたから。ありがたく使いなさい」

「べつに頼んでないけど?」


 ため息をついて少女が数歩離れる。


「あなたはリリィを甘く見すぎている。かつて魔王軍から追放されたのも、思想に問題があったからで実力は本物よ。魔王様や私に及ぶほどじゃなかったけど……近い力を持っているわ。扱う術の種類だけなら魔族一かもね」


 それを聞いた魔導士はニヤリと笑みを浮かべる。


「ハッ、甘く見てんのはどっちだろうな? ま、貰えるモンは貰っとくわ」


 館を照らしていた炎が徐々に、暗く、黒く変わっていった。


「自信があるのは良いことだけどね……もし困ったらメリルに頼りなさい。あの子ならきっと事情を説明せずとも助けてくれるわ」


「メリル……? あ~、学院にいた女医さんか。何者なんだ? あの女」


「伝説の勇者の子孫……の仲間だった術士よ。一時期は魔族全体を敵にして戦っていたわ。けど色々あってね。最近じゃ復活した私を仲間にしようとする程のお人好し」


「へへっ、負けたのかよ」


「言い訳にしかならないけど本気出せなかったのよ!」


 少女は不機嫌そうな顔で、魔導士が持ってきた道具一つ一つに手を触れていく。


「さて、準備は出来たわ。もういいの? 本当にこの世界に未練はないのね?」


「ああ、やってくれ…………その……今日までありがとな。あんたには世話になった。やり直した未来でもまた会いたいもんだ」


 その言葉を聞いた少女は口に手を当て、嬉しそうに笑う。


「ふふふ、残念だけどそれは無理ね。フィノの隣で幸せそうに頑張ってるミランジェじゃ、私が気に入ることはなかったはずだから……」

「たしかにそうだな、残念だ」

「ええ、私もあなたの物語を最後まで見届けることが出来ないのは、本当に残念よ……」


 少女は魔導士の胸に手を置いて、触媒から抜き出した力を解き放つ。


「……"輪廻(りんね)伊弉冉(いざなみ)の法"発ッ!」


 絶大な闇の魔力と、触媒から抜き出した聖なる力を利用した秘術が発動し、魔導士の魂は別の時代へと運ばれて行った。


「いってらっしゃい、ミランジェ……」


 抜け殻となった魔導士の顔を、愛おしそうに少女がなでた。

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