第二十七話 魔の性教育
そしてお祭り当日。
約束通り二人で出かけたミランジェとフィノを迎えたのは、花やリボンで飾られた美しいフィリスの町。
大通りには屋台が並び、仮装した人々が行き交い、なかには楽器を持って歌う者もいる。
「うわ~~、すっごい!」
目を輝かせてフィノが叫ぶ。
「フィノっちはこういうの初めて?」
「うん!」
「そっか……じゃあさ、今日はうんと楽しまなくっちゃね!」
無邪気に笑うフィノを見て、ミランジェは思わず抱きしめたくなってしまうが、我慢して歩き出す。
「あれ、スズだ」
知り合いの顔を見つけたらしいフィノが小走りで近付いていった。
東国風のひと際浮いた屋台で、見たこともない食べ物を売っているのは、
「あっ、フィノさんにミランジェさん。こんにちは」
上から下までながめても、顔のそばかすくらいしか覚えていられない程に影の薄い女の子だ。
今日は黒い髪の毛をお団子にしているのでまだマシだった。
フィノとミランジェを見てペコリと頭を下げた。
「珍しいもん売ってんね~」
小さく丸まったクレープのように見える。
他に客は一人もいない。
「たこ焼きといいます……おひとつどうですか。買ってくれるのなら新しく焼きますよ」
スズはおっとりとした口調で試食をうながす。
「たこ? たこってどんな生物よ? うち見たこと無いわ」
「あぅ……たこはですね……触手があって、ぬるぬるしてて、うねうねで……」
「へ? あたし?」
「うぅ……フィノさんではないです……」
三人で話していると、ようやく客がひとりやって来た。
「ス~ズ~ちゃん! おひとつくださいな~♪」
女医のメリルだった。
相変わらずデカい胸だなぁ、とミランジェは会うたびに思っている。
「これ、『オコノミヤキ』だよね? ジパング好きのお友達に食べさせてもらったことあるんだ。さてはスズちゃんもマニアだな~?」
財布を取り出しながら上機嫌にメリルは言った。
「あのぉ……商品名は提灯に書いてあるんですけどぉ……あと私マニアとかじゃなくてそっちの出身なだけです……あ、ひとつ二百ディーナになります」
ぼそぼそと話しながらスズはたこ焼きを作り始めた。
意外と手際が良い。
「そうなの? ジパングマニアはよく見るから、スズちゃんもそうだとばっかり……ミランジェちゃんもだよね?」
「うちも違いますよ。刀を使ってんのは、魔導士を目指すきっかけになった人が持ってたからってだけですね」
「ありゃ、そうだったんだ。ならその人はマニアだね! きっと」
自信満々な笑みでメリルは言い切った。
何も知らずによく言う、と思うが、ミランジェにも答えは分からない。
あの人について知っていることは、刀と雷の魔法を操る魔導士だということだけ。
名前すらも分からないのだ。
(今頃……どこで何やってんのかな……)
「――ミランジェ、そろそろ行こ? レンのライブ始まっちゃうから」
思い出に浸っていたところをフィノに呼び戻された。
「あ、ゴメン。ボーっとしてたわ」
「それじゃ、メリル先生。あたしたちもう行きますね。スズ、一皿ちょうだい。作り置きのやつでいいから」
屋台にお金を置いてたこ焼きを一皿手に取ったフィノ。
「はぁ~い。気を付けて遊ぶんだよ~」
メリルに見送られ、二人はその場を離れて行った。
「スズちゃん、私のは『アンコ』をた~~っぷり入れてね! あれ好きなんだぁ」
「……たこ焼きに餡子は入らないんですけどぉ……別のなにかと間違えてますね。一応焼けましたけど……」
スズは出来立てのたこ焼きを皿に盛りつけ手渡した。
「やだなぁ知ってるよ~。前食べた時はお魚の形をしてたけど」
そう言って楊枝を使いポンと口に放り込んだ。
「あっ、出来たては熱――」
「あちゃちゃちゃちゃ!!!」
何と間違えたんだろうね?
◇
フィノに声を掛けて来るファンの相手をしつつ、二人は町の広場へ。
普段はただ広いだけの場所なのだが、今日は少し様子が違った。
特設舞台が用意され、その前に大勢の客が集まっている。
ほとんどの客がチビキャラ化したレンのイラスト入り衣装を着ていて、キラキラ光る不思議な棒を持って奇声を発していた。
怪しげな宗教団体にも見える。
「良かった、間に合ったみたい」
「おチビの奴スゴイ人気だな~」
集団から数歩下がったところで足を止めるミランジェとフィノ。
「レンにライブ見に行くって言ったらね、『来るな!』って凄い顔で言われちゃった。恥ずかしがらなくてもいいのにな~」
そう言って嬉しそうにたこ焼きを食べるフィノ。
レンのライブになどまったく興味がないミランジェだったが、釣られて笑顔になってしまう。
『待たせたな! クズ共ォ!』
二人で話していると、いきなり拡声された声が響いた。
直後、舞台の上で大きな爆発が起こり白い煙がブワッと広がる。
「「うおおおおおお!」」
と客の歓声が上がる。
煙が徐々に晴れ、舞台の上にポーズを決めた美少女の姿が現れる。
「凄い! 来たよ! レンだ! かわいい!」
「う、うん」
興奮しながらレンを指差すフィノ。
ミランジェはちょっと嫉妬してしまうが、たしかに可愛い。
透き通るような水色の髪をツインテールにして、肩と太ももを強調する衣装が清涼感のある色気を放っている。
表情は相変わらずムスっとしているけど。
『さぁ始めるぞ! 一曲目だ!』
レンがビシっと人差し指を上に向けると、どこからともなく軽快な曲が流れ始め、彼女の歌が始まった。
(ずいぶん本格的にやるんだなぁ、おチビの奴……)
周りの客たちは盛り上がっているので、イマイチ乗れないミランジェは孤独を感じてしまう。
早く終わらないかな……と考えながら、ふと隣のフィノを横目で見た。
ぴょこぴょこ跳ねながら手を振っている。とても可愛らしい。
(今ならバレない……か……?)
上着のポケットに手を入れた。
掴んだのは……真実の眼。
(べ、別に、何回だっていいじゃん……大したことじゃないって……)
その想いとは裏腹に、真実の眼を持つ手は震えていた。
急に周りの音が小さく感じられ、心臓のリズムがやけに大きく聞こえる。
冷や汗をかき、今にも泣きだしそうな顔でフィノをのぞいた――
――――ゼロ!
ゼロだ!
フィノの頭の上にはゼロの数字が光り輝くように浮いていた!
「ぃよっっっっしゃぁあああ!!! ッシャア! オラァ!」
なんて尊い数字なのだろう。
ミランジェは二度、三度と拳を天に突き上げ歓喜の叫びをあげる。
「わぁ、ミランジェも熱くなってるね!」
「え? あ、ああ、うん。そうなんだよね~☆」
状況のおかげでごまかすのも簡単だった。
やはり世界のすべてはミランジェに味方している。
絶頂のさなか、初めてレンに感謝する気になったミランジェだった。
◇
ライブが終わり、レンとの握手会が始まった。
熱心なファンたちは列を作り、順番に舞台へ上がりレンと触れ合う。そして手渡しで記念グッズを受け取るのだ。
ファンにとっては至福の瞬間、興奮のあまり気絶している者もいた。
殴ってください! と頼み込んで空の彼方まで飛ばされている命知らずも少なくない。
「あたしも並びたいけど、レンは嫌がるかな?」
「いんじゃない? 喜ぶかもよ~(おチビの奴どんな顔するかな? にしし)」
意地悪な笑みのミランジェにうながされ、
「……よし、行ってみるよ」
と、フィノは行列の最後尾に並んだ。
(意外と知ってる顔もいるなぁ)
行列をながめながらあくびをしているミランジェに、男が一人近付いて来た。
「お嬢様~、探しましたよ!」
実家で雇っている使用人だった。
「…………なに? 今デート中だから超忙しんだけど」
「でっ、でーとぉ!? いったいどのようなお方と!?」
「うちが誰と付き合おうが勝手でしょ。で? 何の用?」
男はこほんと咳払いしてから話を続ける。
「だんな様から、どうしても会わせたいお方がいるのですぐ戻るようにと……」
「はぁ? 今からぁ? 何のために!?」
声を荒立てるミランジェ。
これからが良いところなのだ、これからが。
「理由までは僕にもちょっと……」
「~~~っとにもぉ!」
突っぱねてやりたいところだがそうもいかない事情がある。
学費や生活費を親に出してもらっているので逆らえないのだ。
「これからが本番だったのに……じゃあ町の外で待っててよ、相手に謝ってくるから」
そう言って行列に並ぶフィノの元へ向かう。
「チェッ、最悪だ」
歩きながらつぶやいた。
だが、まぁいいだろう。とすぐに思いなおす。
フィノと仲を深めるチャンスならこの先いくらでもあるはずだ。
今回はライバルであるシェスカを遠ざけることが出来ただけでも十分である。
今日の穴埋めをするという理由で、別の日に予定を入れるのも悪くない。
それならどこへ遊びに行こうか、そんなことを考えながら、ミランジェはフィノに声を掛けた。
◇
「これでくだらねー用事だったら、オヤジの髪焼き飛ばしてやる」
故郷の村に着き、馬から下りたミランジェが不機嫌そうに言った。
「おっ、お嬢様!」
馬をつなぐ使用人を無視して家の中へ。
「ただいまー!」
「おかえりー!!!」
威勢よく帰宅したミランジェを三倍くらいの声量で迎えたのは、鋼のような筋肉を持った大男である。
なぜか上半身裸だった。
「ミラ! どうして最近帰ってこねぇんだ!? 心配するだろうが!」
「メンドクセーし学校が超楽しいから」
投げやりに答えて、テーブルの上にあった果実をかじるミランジェ。
「で、なんでわざわざ呼び出したワケ?」
「おぅ、じつは最近村にすげぇ力を持った賢者様が越してきてよ。色々と助かってるんだがな……昨日お前の話をしたらどうしても会いたいって言うんだよ」
「賢者ぁ? 会いたいなら自分で来なよ」
「それがよぉ、フィリスには入れねー事情があるんだと」
「ふ~ん、どこいんの? さっさと会って町に帰る」
「おいおいおいおい……泊っていかねーのかよ!?」
「暇すぎて死ぬ」
◇
その後、泣きながら泊っていけと懇願する父親の頭に火をつけたり色々やった挙句なんとか賢者の家を聞き出したミランジェ。
さっさと済ませて帰ろうと急いで向かった。
「こんちわ~、ミランジェですけど」
やや強めにノック。
「入れ」
女の声だ。
言われるがままに家の中へ。
「うわ……」
薄暗い部屋に充満する強い臭い、思わず鼻をつまんだ。
見れば部屋中に赤いキノコ。
ここで栽培しているようだ。
「ようこそ、我の住処へ。赤とはなかなかだな」
「うわっ!」
今度は驚いて飛びのくミランジェ。
真下からいきなり声がした。
「な、な、な、なにあんた……」
仰向けの状態で寝そべっている女。
薄暗い部屋に金色の瞳が光っている。真顔。
「我が名はリリィ、魔族だ。お前は以前、結界に閉じ込められた状態で陰茎を生やしたことがあるだろ? あれは――」
「ファイアーボール!」
寝ている女に全力で火球を叩きつける。
が、直撃の瞬間ふっと魔法はかき消えた。
「待て、待て、待て。話を聞け」
「死ね! いますぐ死ね! テメーのせいでうちがどんだけ恥かいたと思ってんだ!」
次から次へと火球を叩きつけるもその全てが消されてしまう。
「ファイアキャノン!」
最大の威力を持つ魔法もやはり通用しない。
かざした手の平で簡単に消されてしまった。
「はぁ、はぁ……」
「もうやめておけ。魔力の無駄だ」
ゆらりとリリィは立ち上がる。
背には黒い翼が生えていて、一目で人外の存在だということが分かる。
悔しいが実力差は明らかだった。
仮にミランジェが百人いたところで、かすり傷ひとつ付けることは出来ないだろう。
「なんで……うちの村にテメーがいんだよ……」
「フィノに会うため、お前たちの町に戻ろうと思ったんだがな。以前は無かった強力な感知結界が町全体を包んでいた。通ることも破ることも容易いが……それをすれば間違いなく術者との戦闘になってしまうだろう。負ける気はしないが、フィノの機嫌を損ねたくはないからな。町に近いこの村で機を待つことにした」
呼吸を整えたミランジェ。
部屋をぐるっと見回してから口を開く。
「部屋がキノコだらけなのはなんで?」
「村の者たちから金を得る上手い方法はないかと聞かれてな。暇つぶしも兼ねて陰茎茸を作ってやることにした。現代でも貴重品らしいな、とても喜ばれたぞ」
どう見てもドリーの店にあったヤリたい茸である。
最近になって栽培方法が分かったと聞いていたが、まさか自分の村で生産されていたとは夢にも思わなかった。
「……うちに会いたがった理由は?」
「フィノをここに連れてきてくれ。同じ学校なら知っているだろ?」
「いやだ」
「嫌か」
う~むと考え込むリリィ。
本気で上手くいくと思っていたのだろうか。
「では我を連れて行ってはくれないか? お前の魂と同化すれば結界をやり過ごせる」
「いやだ。っつーかそれならうちじゃなくても良くない?」
「町に入るだけならそれでもいいが、フィノを見つけるまでが大変だ。我がうろついていたら目立ってしまう」
「あんたどう見ても変質者だもんね」
「そうらしいな」
はぁ、とため息をつくミランジェ。
「うち帰るわ。それとさ、あんたのこと黙ってるワケにもいかないから、学院側に報告させてもらうよ。早けりゃ明日にも討伐隊が来ると思う。怖けりゃ今日中に逃げなよ」
「ほぉ、警告してくれるのか」
「根っからの悪人じゃなさそうだし、村の連中が世話になったみたいだからね。うちがもっと強けりゃボコボコにしてやったけど、それも無理だし」
そう言って去っていくミランジェの背中を、リリィはじっと見つめていた。
◇
夜、学院に戻ったミランジェはリリィのことをすぐに報告した。
緊急で職員会議が行われ、メリルを中心とした討伐隊が編成されることになった。
「はぁ~~、とんだ一日になっちゃったなぁ」
サンドイッチを食べながら寮の階段を上がるミランジェ。
会議に付き合わされ、夕飯を食べはぐったので買って来たのだ。
「あ、フィノっちまだ起きてる……」
普段ならもう寝ているはずだが、扉のすき間からぼんやりと明かりがもれていた。
いつもの調子でノックする。
「おかえり」
笑顔のフィノが出て来た。
もやもやした気分が一瞬で晴れていく。
彼女さえいてくれれば、もう他には何もいらない。
それだけで幸せを感じられる。
「今日はゴメン。うちの方から誘ったのに……」
「気にしないで。それより、急な用事は何だったの?」
「あぁ、あとでゆっくり話すよ。今日は疲れちゃったから、もう休むね……」
リリィのことは教員たちから口止めされていた。
「そっか。おやすみ、ミランジェ」
「……うん」
優しく微笑み合う二人。
ほんの数秒だが、誰にも邪魔されない、光り輝く時間。
名残惜しさを感じながらも、ミランジェは部屋に帰った。
◇
ミランジェと別れたフィノ。
扉を閉め、椅子に座って本を読み始めた時だった。
『ようやく会えたな、フィノ』
「ッ!? その声は――」
どこからともなく聞こえてくる声。
忘れもしない、かつて相対したなかでもっとも強大な力を持った者の声。
「待て、待て。そう身構えるな。言っただろう? 今度は客としてくると」
「リリィ……」
突然目の前に現れたリリィを見てフィノは目をぱちくりさせる。
「透明になって来たの?」
「違う。ミランジェの魂と一時的に同化していた。ここまで上手くいくとは思わなかったが」
ベッドに腰掛けるリリィ。
「困ったなぁ。どうしよう」
「やはりお前は冷静で良いな。最近は荒らっぽい女とばかり会うから特にそう感じるよ」
「も~、どこでなにしてたの?」
呆れたようにフィノが聞く。
「我を追放した魔王の顔を見に行ったんだがな。魔王城は廃墟、おまけに妙な連中に待ち伏せされていた」
「あ~、メリル先生の友達と戦ったんだっけ」
「襲われたから逃げて来たのだ。あの電気兎め……エルクとかいったな。よくあれだけの戦力を集めたものだ。この町の結界も恐らくそのメリルという奴の仕業だな」
「うん、そうみたいだよ」
リリィからはまるで敵意を感じない。
本当に話をしに来ただけのようだった。
「む、誰か来るぞ」
扉の方を見るリリィ。
ああ、と思い当たることがあるようにうなづいたフィノが扉を開けた。
「……よく分かったな」
ノックをしようとしていたレンが立っていた。
顔には出さないが結構驚いている。
「遅くなってすまない。ほら、昼間欲しがっていた服だ」
「わぁ~、ありがとう」
レンのファンたちが着ていたものと同じデザインの服だった。
「誰かと思えば氷の少女か」
ぬっとフィノの後ろから顔を出したリリィ。
彼女がただ者ではないことを一瞬で見抜いたレンの表情が険しく変わる。
「……誰だ?」
「待って! ここじゃマズイから、とりあえず中に入ってよ」
「分かった」
靴を脱いでベッドの上にちょこんと正座したレン、その隣にリリィ。
二人とも、真顔。
「え~っと……どう説明しよう」
困った笑顔を浮かべるフィノ。
普通に説明すれば戦いになってしまうだろう。
「ふむ、お前たちは恋人同士か?」
唐突に、リリィがブッ込んだ。
「なっ、なぁにィッ!?」
「へ? 違うけど……」
顔を赤くして焦るレン、きょとんとするフィノ。
「なんだ、違うのか」
リリィがっかり。
「だって……あたしたち女同士だよ?」
不思議そうに、本当に心の底から不思議そうにフィノがたずねた。
それを聞いたリリィは両手を使っておおげさに「やれやれ……」と言う。
「無知は罪ではないが恥ではあるぞ。年の離れた友人として、教育してやらねばならんな。そもそも恋愛や結婚とは女同士で行われるべきものだ。陰茎茸の発見で、男の存在価値はすでに無くなったと言っていい」
何やら落ち着かない様子のレン、首をかしげるフィノ。
「でも、女の子同士じゃ子供が出来ないんじゃない?」
カッ! とリリィの金色の瞳が光った。
そしてその手に現れる、赤いキノコ!
「出来る! 出来るのだ! フィノ、そもそもお前……"赤ちゃんがどうして出来るのか"知っているか!?」
ふるふると首を左右に振るフィノ、「あっ……ああっ……あっ……」とか言って真っ赤な顔したレンがもじもじし始めた。
「丁度いい、役者は揃っているな。じっくりたっぷりねっぷりと、我が教育してやろう! 素晴らしき世界を味わうがいいッ!」
そう言って、リリィは手にしたキノコをレンの口にねじ込んだ!
◇
その頃、隣の部屋では寝巻きに着替えたミランジェがベッドに入っていた。
(今日は色々ありすぎて、疲れちゃったな)
ベッドの中で目をつむる、これだけで意識がすーっと溶けていく。
(明日は……フィノっちと……)
大好きな人のことを考え、幸せにつつまれながら夢の世界に旅立っていく。
そんなミランジェの部屋に、隣から小さく、誰かの苦しそうな声がもれてきていた……
この日、この時から、ミランジェの、長い長い悪夢が始まった――




