第二十四話 ラスト・バトル
何をやっても上手くいかない……というのはよく聞く話だが、世の中にはその逆も存在する。
とんがり帽子の魔導士、ヴァリンはまさにそれだった。
七歳の時。
生まれて初めてのめり込んだのは、一対一で行う対戦型のボードゲーム。
教えてくれたのは三つ年上のゲーム好きな女の子。
楽しくて、楽しくて、幼いヴァリンは一日中ゲームのことばかり考えていた。
初心者のころは勝ったり負けたりしていたのだが、いつの間にかヴァリンが苦戦することはなくなっていた。
次第に女の子は対戦を避けるようになり、一緒に遊ぶことも……なくなった。
九歳の時。
画家を目指す青年と出会った。
淡い恋心を抱いたヴァリンは、彼から絵を習い始める。
絵画に興味はなかったが、上手くなるたびに褒めてもらえるのが嬉しくて、そのためだけに頑張った。
結果――すぐに彼を上回った。
当初こそヴァリンを褒めていた青年だったが、いつからか彼女の絵を辛い顔で見るようになり、最終的には画家になる夢を諦め、町を去っていった。
彼女の初恋は実ることなく……自らの才で彼を潰す形になってしまった。
その後も似たようなことはいくらでもあった。
なにをやっても上手くいくのだが、満たされることは決してない。それどころか、必ず嫌な思いをして終わるのだ。
いつしかヴァリンは――『なにも頑張らない人間』になっていた。
フィリス魔導学院から手紙が届いたのは、居辛くなった町を出ていきたいと考えるようになった、そんな頃だった。
◇
石造りの広くて長い通路。
外から逃げ込んできたヴァリン、エスニャ、シェスカの前に立ちはだかったのは、赤い金属人形。姿勢を低くし、一つ目のようについた黒いレンズが三人をとらえる。
「お前ら、慌てて逃げようとすんなよ。真っ先に死ぬぞ。こいつの速さはさっき見たろ? アタシが戦い始めたら走れ」
数歩前に出てヴァリンが言う。人形のレンズからは目を離さない。
「バカにしないでよ!」
強がりを言って剣を抜くシェスカ。
「……刃物、通るんですかねぇ?」
折り畳み式のナイフを取り出したエスニャ。
「やる気かぁ? んじゃ、まぁ、サポート頼むわ!」
そうは言ったが二人の力をアテにはしていない。甘くみているわけではないが相手が悪すぎるのだ。
言い終えた瞬間走り出すヴァリン。
人形が即座に反応し飛び掛かった! 人間にはまず不可能な速度。
「トルネードバリア!」
激しく巻き起こる風の魔力で身を守る。
人形が弾かれた瞬間には魔法を解除し、
「ウインドカッター! だっらぁああああ!!!」
両手を使い滅多打ち、反撃の隙を与える気はない。
限界近くまで刃を打ち付けた後、
「ソニックブーム!」
風の圧力で追撃を加えた。
ぶっ飛んだ人形は通路を転がる。
「はぁ、はぁ…………ダメかぁ……」
何事もなかったかのように立ち上がる人形。体中に傷をつけることは出来たが、大きなダメージにはなっていない。
(堅すぎんな……ホントめんどくせー……)
呼吸を整えながら対策を考える、だが相手はそんな時間を与えるつもりはないようだ。
再度、人形はヴァリンに突進を行う。
「チッ! トルネードバリア!」
ならば壊れるまで繰り返してやる、と同じ手で返すが、風の防御壁に触れる直前、人形はピタッと足を止め、視界から消えた。
「――ッ!」
すぐに振り向く、人形はヴァリンの横を抜けて走っていた。向かう先には――シェスカとエスニャ。
「ッのやろォ! ソニック――」
激昂し攻撃魔法を準備した瞬間、人形はぐるっとヴァリンに振り返る。
――釣られた。二人を狙ったのはフェイントだった。この状態ではもう防御魔法は使えない。
負けた……と直感したと同時、横なぎの強烈な蹴りが、ヴァリンの頭部に叩きこまれた――とんがり帽子が、床に落ちた。
「あ……うぁ……」
意識が戻ったヴァリン。気付けばうつ伏せに倒れていた。蹴り倒されてからどれだけ経ったのかは分からない。
頭に痛みは無くひたすらに熱かった。血もかなり流している。
ああ、だるい。面倒くさい。このまま目をつむってしまえばすぐ楽になれそうだ。
そんな考えがよぎった時、ガキンと金属音が不快に響く。
顔を上げ、ぼやける視界で状況を確認。
シェスカの剣が、人形に折られる音だった。
近くには血を吐いて倒れているエスニャ。
「く……く……ぐ!」
唇を噛んで途切れかけた意識を繋いだ。血の味が口の中に広がる。感覚はまだ残っている。
震える手をついて上体を起こす。
脳裏には過去の記憶がいくつも浮かび、自身の持つ可能性を探っていた。この事態を打開できる方法を!
片足をたて、体全体に力と魔力を込める。
ひとつだけ見つかった。出来るかもしれないこと。
失うモノが自分の命だけならば、何もせずに諦めていたはずだが……。
「守ってやってくれって……アイツに頼まれちまったからなぁ……」
頑張ることをやめた天才が、いま一度だけ、その心と体を奮い立たせる!
彼女の魔力に導かれるように、とんがり帽子はふわりと浮いた――
「うあああ!」
シェスカは泣きながら、折られた剣を投げつける。
人形は避けることも防ぐこともしなかった。攻撃として認識すらしていない。
その無機質な拳が、シェスカの頭を払った。
「ぐっ、あ……」
倒され、起き上がろうとするも力が入らない。
涙と血がポタポタと床に落ちる。
そんなシェスカに向かって、冷たい手刀が振り下ろされた――
その時だった。
人形の側頭部に、背後から蹴りが入る。
「さっきのお返しだ……クソヤロー」
帽子を目深にかぶった、魔導師がいた。
ぎしぃっ、と人形の頭部にヒビが入り、派手にぶっ飛ぶ。
壁に激突し、剥がれた金属片がパラパラと落ちた。
「ワリーな、後輩。ちょっと寝てたわ」
ぽんとシェスカの頭に手を置いてから、人形の方を見る、ヴァリン。
相手は四つ足の姿勢で両足に力を溜めている、これはレンを倒した時の構え。
その姿を見てもヴァリンは動じない、平然と歩き出す。
歩きながら、その身がすぅっと浮いた。
これは魔力の衣と呼ばれる技。体外に放出した魔力を身体の周辺に留め利用する。
「その気になりゃ、結構出来るもんだなぁ」
ヴァリンと人形。
動いたのは同時。
速度は互角。
互いに拳を打ち込んだ。
「……へへっ」
人形の拳は届かなかった、目に見えぬ何かに阻まれている。
一方ヴァリンの拳は、人形のボディを大きくへこませていた。
「らぁあああああ!」
拳を。
蹴りを。
ヴァリンは叩き込む。
高速の連打。
豪雨のような打撃の中、人形はもがくように手を出すが、やはり何かに阻まれる。
「おおおおおおお!」
敵の攻撃に合わせ風の魔力で身を守る、これはレンの技を盗んだモノ。
風を利用しての高速化はエリザの技。
攻撃の瞬間に魔力を放出し威力をあげるのは、師であるジズの技。
浮くのは……ヴァリンのオリジナル。
これらを同時に行うのは、右手で絵をかきながら左手で手紙を書くようなもので、通常ならば不可能である。
それが出来てしまうのが才能だ。
物事の覚えが速いだけならば、それは早熟というもの。
常人には決して踏み込めない領域に入れるからこその――天才。
「トドメだ!」
ヒビだらけの鉄塊となった人形に、乱暴に手を置いた。
「ソニックブーム!」
バラバラに破壊し、決着。
魔力が切れ、床に落ちたヴァリンは大の字に倒れた。
「ふひゃーー…………も、もう無理……」
持久力だけは、日々の修行が不可欠である。
◇
冥王の城、中庭。
二人の魔導士と赤い金属人形が戦っている。
「ファイアーボール!」
ミランジェの指から撃ち出される火球、人形は手の甲で軽々と弾き飛ばす。
「ハッ!」
間髪入れずに詰めるレン。
鉤爪のように開いた手で人形の腕を掴みにかかる。
「チッ」
かわされた。素早く二度三度と繰り出すが結果は同じ。
反撃の回し蹴りを両腕でガード、少し距離が開く。
それを見ていたミランジェがすぐさま火球を放つ。
今度は命中、数メートルは後退させた。
(ヤれる! 今のうちとおチビなら!)
ミランジェはそう確信。
レンは近距離で互角に動き、ミランジェの魔法は人形の強靭な身体を徐々にではあるが削ることに成功している。
だが……。
「ぐあっ!」
人形の蹴りがレンの脇腹に、氷の鎧でも威力を殺しきれない。
その足を両手で掴み、ねじり壊そうとするが上手くはいかない。生身の相手とはわけが違う。
「おチビ!」
駆け出すミランジェ。勢いを付けた飛び蹴りを人形に当て、レンを助けた。
(だんだん押されるようになってきたな……)
少し息が上がっているレンを横目で見て気付く。
互角に戦えるといってもこちらは人間だ。体力も魔力も消耗していく。
「……このままでは勝てないな」
まっすぐ敵を見つめ、声をかけてくるレン。
口には出さないが雰囲気で問いかけている。何か手はないかと。
「一発でキメられそうな魔法もなくはないけど……遅いんだよね」
「それでいい、使え。発動までの時間は稼いでやる」
「当てられねーって話だよ!」
「数秒でいいなら捕らえることも出来なくはない。私もろともでいいからやれ」
「はぁ!?」
「遠慮するな。貴様如きの魔法で私は死なん」
そう言ってレンは走り出した。
「バカガキがっ! 後悔すんなよっ!」
ミランジェは両足を開き、指輪に魔力を込め始めた。
「アイスニードル!」
開いた手から氷の槍が伸びる。人形は手刀であっさりとそれを切断。
すぐに魔法を解除しレンは格闘戦を挑む。
裏拳をかわしその腕を蹴り上げる。
横方向からの拳打を受け止め、懐に入った。
対フィノを想定しての訓練が、ここに来て生きてくる!
「アイスショック!」
人形のボディに手を置き凍結させた。決して逃がさぬよう魔力を送り続ける。
「今だ! 撃て!」
氷の鎧を最大出力で展開。
ここで魔力の全てを使い果たす覚悟。
そうでもしなければ耐えられない、彼女の熱さをレンは誰よりも知っていた。
「手加減しねーよ? おチビ」
準備は出来ていた。
ミランジェは下半身に力を入れ開いた手を突き出す。
師から受け取った、火力に全てをかけたその魔法の名は――
「ファイアキャノン!!!」
烈火の魔力が魂の奥底から呼び起こされる。
それは手の平に集中し押しとどめられ、やがて極大の火炎弾となって撃ち出された!
周囲の酸素を食らいつくすかのように飛ぶ炎の塊が人形に直撃。
レンを巻き込みながら付近を灼熱地獄に変える。
「おチビ……ヤっちゃったかな……」
天を衝く火柱をぼんやりと眺めるミランジェの隣に、だんっ、と小さな魔導士が着地した。
「おチビ!」
「急激な温度変化に耐えられなかったようだな。途端にもろくなったぞ」
その手にはねじ切った人形の頭部があった。
「まとめてヤっちゃったかと思ったよ」
嬉しそうな笑顔でミランジェは言う。
レンの服は所々焼け焦げているが、本人は涼しい顔をしていた。
「言っただろ。貴様如きの魔法で私は倒せん」
ぷいっと目を逸らしてしまったレン。
ミランジェの表情がムッと変わる。
「……あぁ? もう一発ブチ込んでやろーか?」
やっぱり、このガキとは仲良くなれそうにない。
あらためてそう思ったミランジェだった。
◇
城壁を突き破る大きな音がした。
「おっ?」
ミランジェとレンがそちらに目をやる。
ゴロゴロと転がって来たのは、触手で拘束された赤い人形。
両足と首がへし折られていて、頭部の一つ目レンズが割られている。
「ミランジェ、レン、怪我はない!?」
二人にフィノが駆け寄る。
「なんとかね……」
「魔力は大分消耗したがな」
「そう……良かった」
人形の機能停止を確認し、フィノは触手を消した。
「その魔法、ずいぶん使いこなすようになったな」
フィノに外傷がないことを確認しながらレンが言う。
これだけの強さを持つ人形を相手に苦戦した様子が全くなかった。
学院の授業を受けるようになったフィノは魔法の精度を上げ、実戦的な体術も学んでいる。
レンも鍛えてはいるのだが、以前よりも差が付いていることに気付いてしまう。
そんなことを考えている時ではないのだが、やはり悔しい。
「それでも、あのリリィって魔族には勝てなかった……もっともっと頑張らないとだね」
にっと笑って、フィノは答えた。
『全ての守護者が倒された……戦う時が来たようですね』
女の声だ。
まずフィノが、遅れてミランジェとレンが上を見た。
ゆっくりと、綿毛が落ちるようにゆっくりと、女が一人、空から降りて来る。
長い黄金色の髪に大きな赤い瞳、全身に密着したボディスーツのような服。
地面に降り立った女とフィノが、互いに見つめ合う。
「あなたが冥王ですか?」
『はい』
即答。ピクリとも体を動かさず口だけが不自然に開く。
「……あなたはイヴさんですよね? ゲームに入った時に話し掛けて来た……」
『何故、分かったのですか?』
「このゲームの人間やモンスターからは命を感じない。だけど、あなただけは違ったんです……だから、あたしはイヴさんを倒すことは出来ません。もう終わりにしませんか? ここに来たすべての人を元の世界に返してほしいんです」
イヴは首を横に振った。
『私はこのために生まれたAIであり、ゲームそのものでもあります。"役割を果たす"、それが本来のロールプレイングゲームです。あなたたちも私も、このルールから逸脱することは出来ません』
「…………何の話をしてるのか、全然分からないけど……説得は無理なんだね」
フィノが拳を構える。
ミランジェが刀を抜いた。
レンは指の骨を鳴らす。
『挑戦者たちよ。これが最後の戦いです。準備はよろしいですか?』
こくんとフィノがうなづき、ラストボスとの戦いは始まった。
『第一フェーズ開始。カートリッジロード、カラーはレッドを選択します』
イヴの左腕が砲身に変化した。フィノたちに向け、
『発射』
火球が撃ち出される。
「魔法! うちと同じ炎……ってかあの腕どうなってんの!?」
三人は散開するように回避。
「うおおお!」
素早いフィノが向かって行く。
『オーラブレード』
イヴの右手に筒のようなものが握られている、その先から炎が噴き出し剣に変化した。
炎の剣を持ちフィノと激突。
剣と拳を交え高速のやり取りを行う。
「その程度か? あの人形の方がまだ恐ろしかったぞ」
フィノの拳を避け体勢が崩れたところを狙ったレン。
振り向きざまに切りつけられたが氷の鎧が防いでいた。
「くらえ!」
頭部に鋭い蹴りを突き入れた。
「ラッシュヴァイン!」
そこをフィノの触手が捕まえる。引き寄せて、
「はぁっ!」
強烈なアッパーカット。
そして空中に飛ばされたイヴに指を向けているのは……ミランジェ。
「さすがに三対一は無理があったね。ファイアーボール!」
撃ち出された火球がイヴに到達する直前……
『第二フェーズに移行します。マルクスエフェクト展開』
彼女の赤い瞳が青く変化する。
瞬間、その瞳からエネルギーの膜が一気に広がり触手と火球を消滅させた。そのまま全方向に大きく広がり戦場を包み込む。
「ば、ばかな……」
自身の手を見つめ、レンは小さく震える。
魔力が、使えない。完全に消えてしまっていた。
フィノとミランジェも困惑の表情。
『これより、戦闘領域内でのオーラ兵器使用を禁止させていただきます』
イヴの腕は元に戻り、両手足が赤く変色。
ただの筒に戻ってしまった剣を投げ捨てる。
「レン! ミランジェ! 離れて! ここからはあたしが一人で戦う!」
事態の深刻さを悟ったフィノが叫ぶも、すでに遅い。
一瞬で移動したイヴの拳は深々とレンの腹にめり込んでいた。
「がはっ!」
崩れ落ちるレンの頭を鷲掴みにし、顔面に膝蹴り。
血が吹き上がる。
先程までとはスピードもパワーも別物だった。
「レェェェン!!!」
飛び込んだフィノがイヴを攻撃、かわされるが当てるのが目的ではない。
隙を見てレンを救出、ミランジェに投げ渡した。
「ヴァリンさんたちのところへ!」
「わ、わかったよ!」
レンを抱きかかえたミランジェが通路へ走る。
それを守るようにフィノは強く地を蹴りイヴに立ち向かう。
「おおおおおおお!」
拳と拳が。
蹴りと蹴りが激しくぶつかり合う。
爆発のような衝撃音が連続で響く。
自分が負ければすべてが終わる。
その事実がフィノの潜在能力を限界まで引き出した。
仲間たちを守りたい。
守らなければ。
『ぐあ!』
鋼鉄の人形すらも破壊するフィノのパンチが胸に打ち込まれた。
体に亀裂が走り、初めてイヴの顔が歪む。
「うおおおおお!」
フィノはこの機を逃がさない。
裂帛の気合で追撃に移る。
前蹴りからの旋脚、右ストレートに左のフック、ボディブロー。
圧倒的な攻撃力から繰り出されるコンビネーション。
『がは! ぐ……が……』
確実に。
確実にイヴの身体を破壊していく。
「やあああああああ!」
あと一歩……という、その時。
イヴの瞳の色が、元の赤に戻った。
震える手を砲身に変えフィノに向ける。
『カートリッジロード、ブルー……発射!』
圧縮された水の弾丸が撃ち出される。
ドパァン! と音をたててフィノを弾き飛ばした。
「げほっ、ごほっ……魔力が……戻った?」
びしょ濡れのフィノが口を拭う。
全身に亀裂が入ったイヴ、黄金色の髪が虹色に変化していく。
『第三……フェーズ……移行……オーラブラスト……エネルギー充填開始……』
空中に浮かび上がり、両腕を砲身に変え、フィノに向けた。
◇
「先輩!? どうしたんすかそのケガ!?」
負傷したレンを抱きかかえ通路に戻って来たミランジェ。壁に背を預け座っているヴァリンたちを見て声をあげた。
「……うっせーなぁ。見りゃ分かんだろ? 怪我して休んでんだよ」
「向こうはどうなってるのよ?」
ミランジェが座らせたレンに傷薬を塗るシェスカ。
「魔法が使えなくなる変な術を使われたから戻って来た。今はフィノっちが一人で戦ってる……」
「相手は冥王……ですか?」
ぐったりと座っていたエスニャが聞く。
「そう名乗ってたけど、ただ用意されただけの敵キャラとは違う感じだったよ……フィノっちは止めようとしてたけど、無理だった」
「……そうですか」
そう呟いて考え込んでしまう。
「くっ……まだだ、まだ私は戦える……」
「わっ、馬鹿! 動くんじゃないわよ! あんた重症なのよ!」
意識が戻ったレン、立ち上がろうとするもシェスカが無理矢理座らせた。
その様子を見ていたヴァリンがミランジェの方を向く。
「……魔法が使えなくなる術かぁ、確かにさっきから魔力を感じねーわ。大分消耗してたからそのせいかと思ったけどな」
「魔法が使えないならおチビもうちも足でまといにしかなりません……死ぬほどクヤしーっすけど……」
話している途中、外から衝撃音が連続で聞こえてくる。
「おーおーやってんなぁ。流石のフィノも厳しいんじゃないかぁ? あいつがやられたら全員お終いだな」
他人事のようにヴァリンは言う。
「ご、ごめんなさい……」
震えた声がした。
言葉に涙を乗せたエスニャだった。
「私が……私のせいで……こんなことに……巻き込んで……ごめんなさい……うっ、うう……」
「…………泣くな、モヤシ」
すすり泣くエスニャの声が響く中、意外にも口を開いたのはレンだった。
「後悔にも謝罪にも意味はない。反省だけしたらすぐに前を見ろ。あれだけ弁が立つなら頭は優秀なはずだ。泣いている暇があったら何か出来ることを考えてくれ」
「レンさん……」
「お、おチビが人を慰めてる……!」
「貴様は黙れ」
くくっと声を押し殺して、ヴァリンが笑う。
そして、んっ? と何かに気が付いた様子。
「魔力……戻ったなぁ……」
ニヤけながら言った。
レンが立ち上がる。
「行くか。フィノを援護する」
涙を拭いて、エスニャも立ち上がった。
◇
「ラッシュヴァイン!」
空中のイヴに触手を伸ばすが、彼女を包む魔力によって弾かれてしまった。
『カートリッジ接続、オールカラー、セーフティーロック解除――』
「ど、どうしよう……」
膨大な魔力がイヴに集中していくのが分かる。
しかし、取れる選択肢がフィノにはない。
見ていることしか、出来ない。
『――エネルギー充填120%……オーラブラスト、発射!』
砲身となったイヴの両腕から炎、水、風、雷、土の魔力が同時に放たれる。
極太のレーザー砲と化した魔力の濁流が身構えたフィノを飲み込んだ!
「うあああああああああ!!!」
死を覚悟した、その時だった。
「アイスコフィン!」
「バブルプリズン!」
「ファイアーシールド!」
「ストーンウォール!」
「トルネードバリア!」
氷の棺がフィノを守った。
さらに大きな泡が包み込み、目の前にはつたない炎の盾が、それを補強するかのように現れる石の壁、そして暖かな風の魔力が強靭なバリアを形成した。
(みんな!)
仲間たちの魔力を感じ、胸がぐっと熱くなる。
容易く。
あまりにも容易く砲撃を耐えきることが出来た。
そしてフィノは空を見上げる。
驚愕の表情でこちらを見ているイヴがいた。
たった一人の、イヴがいた。
仲間たちの想いを力に変えて、フィノは魔力を指輪に流し込んでいく。
「ラッシュヴァイン!!!」
左腕からこれまでで最高の速度と強度を持った触手が無数に撃ちだされる。
それらは空中のイヴをあっさり捕獲し、
「だりゃあああああああああ!!!」
強引に引き寄せた。
フィノは渾身の力を込めて、右のパンチを叩きつけた。
イヴの体はバラバラに吹き飛び、
『これ……で……やっ……と……』
なにかを呟いて、消滅した。
イヴが消えた直後、その世界は、光に変わった。




