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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
三本目! 遠き時代のロールプレイングゲーム

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第二十二話 赤い守護者



「ま、待ってくれ! いったい何があったんだ!? どうして君があいつと……」


 薄暗い町に雨が降る。

 男は、誰かの家の前で女に詰め寄った。


「ごめんね……」


 女はそれだけ言って黙る。

 雨の落ちる音だけが、ただただ聞こえてくる。

 

「いい加減諦めたらどうだ? 彼女は俺を選んだんだ」


 家の扉が開き、中から美形の男が現れた。


「ケイ! 貴様!」

「やめてイモス!」

「ティ……ティリス……なぜ……」


 再び女は黙る。美形の男がその肩を優しく抱き寄せた。


「イモス……彼女がずっと悩み、泣いていた時に何故そばにいてやれなかった? 婚約者であるお前にはその義務があったはずだ」

「そ……それは……」


「――なぁ……これいつまで見せられんだ?」

 

 男の後ろに、傘をさした美少女が三人いた。

 死んだ魚のような目をしたヴァリン。

 真顔で焼き菓子をほおばっているレン。

 くっ……と辛そうに顔をそむけるミランジェ。


「我慢しろ。これもゲームのシナリオだ……もぐもぐ」

「っつってもさぁ、なんで寝取られモノなワケ? もう少し一般ウケするストーリー用意しろよ」

「さぁな。趣味なんだろ、製作者の」


 雑談をしている間にもゲームは進んで行く。

 美形の男は、見せつけるように女と口づけをかわしていた。

 

「「うわあああああああああ……」」


 絶叫と共に崩れ落ちるイモス……とミランジェ。

 美形と女は家の中に入っていってしまった。


「あ~あ」

「もぐもぐ……終わりか?」

「これで終わりだったらミランジェがもたねーぞ」


 イモスは力なく立ち上がり、ヴァリンを見た。


「みなさん……僕はもう町を出ていくことにします……助けていただいた恩は生涯忘れません……これくらいしかお礼が出来ないのですが……」


 渡されたのは小さな黒い宝石。


「うっわ! 本当に終わっちまったよ……」

「ちょっとイモス! あんたこれでいいのかよ!?」


 ミランジェの言葉には答えず、イモスはとぼとぼと去っていった。


「くっそー、納得いかない……うちだったら絶対黙って引き下がったりしない!」

「架空の人間相手に熱くなるな」

「気持ちは分からなくもないけどなぁ」


 もらった宝石をしまい込むヴァリン。


「まぁ……胸糞悪い話は忘れよう。これで目当ての宝石が十個そろったな」

「とっとと巫女のところに持っていくぞ」

「ちょい待って! 先にお風呂行こうよ。あの巫女さんフィノっちに似てるしさぁ、キレイにしていきたいじゃん? へへ」

「ゲームの人形に妙な気を起こすなよ」

「あぁん? 起こすわけないでしょ! うちはフィノっち一筋だっての」

「ンじゃあまず風呂なぁ」


 白い羽を取り出したヴァリンは、それをぽいっと放り投げる。

 すると三人の体は浮き、光の矢となって飛んでいった。



 ◇



「それにしても、意外とあっさり作ってくれたよなぁ。黒のオーブ」


 波に揺れる船の甲板、船べりにもたれかかったヴァリンが言う。機嫌が良さそう。


「どうせまた何か持ってこいって言われると思ってましたからね~」


 脱いだ上着を肩にかけたミランジェが返す。日差しと風を全身で楽しんでいる。

 

「しかし、いくら探しても白のオーブの情報は出てこなかったな。そっちはやはりフィノたちの担当ということか」


 竿を持ち、海に釣り糸を垂らしているレン。真顔。


「おチビずっとソレやってるけど、釣れんの?」

「……暇つぶしだ」


 現在向かっているのは世界地図の中央にある島だ。

 今まで船を出してもらうことが出来なかったのだが、黒のオーブを手に入れた途端あっさり行けるようになった。

 そこで二つのオーブを使えば何かが起こるらしい。


「っ! おい、来たぞ!」


 レンの竿が強く引かれた!

 釣り糸が張り、獲物との力比べが始まる。


「――ふん、雑魚め。私の敵ではない!」


 船べりに足を掛け、一気に竿を引っ張り上げる。

 ばしゃっと海面から飛び出した赤い魚を片手で掴み、キリっと決め顔。かっこいい。


「「おお~」」


 見ていた二人が拍手。

 

「…………食ってみるか、こいつ」


 竿と魚を置き、ナイフを取り出すレン。


「へ? おチビ正気?」

「いや、面白いかもよ? ゲーム世界の魚とかちょっと気になるじゃん。ミランジェ、この棒に火くれよ。よわ~くな?」

「大丈夫かな~~。ファイアーボール!」


 大丈夫なわけないでしょ、とシェスカがいたら止めていたかもしれない。

 だがこの場にいるのは三人だけである。

 そのまま(あぶ)って食べてしまった。


「悪くなかったな」

「いやウマかったわ~。こりゃあ商売になるぞ!」

「現実とこっちを自由に行き来できるならアリっすよね~。フィノっちにも食べさせてあげたいなぁ…………うっ!?」


 ぐ~~~ぎゅるるるるるるる――――


「おっ……おおっ……うおお……」


 下腹部をおさえ、うなり始めたミランジェ。冷や汗をかいている。

 

「だははは、おいおいどうしたんだよぉ。モンスターみてーな声だして――ヴぇっ!?」


 ぐぎゅるぎゅるぎゅるぐぎゅるぎゅる――――


「うーん……うぅ……は……ああ……ンン……んぐっ……」


 同じように腹に手をやるヴァリン。徐々に前かがみになり、とんがり帽子がぽとっと落ちた。

 

「ま……まさか……はうう!?」


 二人の様子を見て恐怖したレン。

 彼女にも当然の如く襲い来る、体内の異物を追い出すための、腸のぜん動運動。


「くおおおおおお…………」


 何故あんなものを食べようと思ったのか、後悔するも時すでに遅し。

 そして、三人の脳裏をある言葉が閃光のように駆ける!



『『トイレどうすんだよっ!?』』



 前かがみの状態で三人は青い顔を合わせ、視線のみで意思疎通を行う。


『海だ! 海しかねーだろぉ!』

『本気ですか!? うちら一応花の女学生っすよ!? ゲームとはいえ船員のおっさんたちに見られますよ!? 何もかも!』

『背に腹は代えられん……ここでぶちまけたいか? 下着の替えなど無いぞ……』


 あくまでアイコンタクト。


『肝心なのは位置取りだ……横に並んでするのは嫌だからな……私はこっち……貴様らは向こうだ……』

『待てレン! それだとお見合いしながら出すことになるぞぉ? 互いに力んでる姿がバッチリだぞ!』

『ちょっともうホント……ヤバイってぇ!』



 ◇



 港に船が着いた。

 げっそりとした顔で、三人は桟橋(さんばし)をよろよろ歩く。

 遠目には町が見えていて、小さな城も確認できる。


「あそこで胃腸薬買えないかな……」

「ゲームの中で現実の薬が売っているとは思えん……」


 得体のしれないものは二度と食わん、そう心に誓いをたてるのだった。



 ◇



 城下町に入って情報を集める三人。

 民家をあさりつつ話を聞く。


『町から北にいったところに、神獣を(まつ)った塔があるよ』

『オーブとかっていうのを北の塔で使うと何かが起こるらしいゾイ』

『最近王様の様子がおかしくてね。すっかり人が変わっちまった……この間も皿を割っただけのメイドが処刑されたよ……優しくて良い人だったんだがなぁ』

『王様が北の塔にやたら強い人形を置いて封鎖しちゃったんだ。なんなのかなぁ、アレ』


「つまりぃ、王様をなんとかしてから北に行けってことだな?」


 顔色が良くなってきたヴァリン。

 町中のベンチで休憩中だ。三人仲良く並んで座る。


「すぐに進みます? ここで待ってりゃフィノっちたちも来そうですけど」

「オーブがそろわなきゃ塔に行っても意味無さそうだし、待ってりゃいんじゃね? 王様の方は、三人でもどうにか出来そうだけどなぁ」

「……ただ待っているというのはどうもな。それに――」


 すくっとベンチから立ち上がるレン。振り返って二人を見た。


「その人形とかいうのを倒してしまえば、町の問題を無視できるのではないか?」



 ◇



 というわけで、城下町でのイベントはスルーして塔までやって来た。


「あれが例の人形か……私がやる。貴様らは手を出すなよ」


 指をほぐしながらレンは前に出る。


 視線の先にあるのは、真っ赤な金属で出来た人形。

 二メートル近くある身長に対し、胴体や手足は細長い。

 のっぺりとした頭部には鼻も口も無く、黒のレンズが一つ目のように付いているだけだ。

 人間や魔族、モンスターとはまったく異質な、現実世界では決して見ることのない存在だった。

 ピクリとも動かず塔の前に立っている。

 不気味な印象。

 

「……先輩、なんか変な感じしません? あの人形」


 小声で言うミランジェ。


「魔力を感じるからだと思うぞ」

「魔力? あれモンスターですよね?」

「知らん。けど感知は出来る。それもとびっきり濃いやつだ」


 珍しく真剣な顔で、ヴァリンは赤い金属人形を見つめていた。


「アイスニードル!」


 地面に手を置くレン。

 氷の魔力が地を伝い、人形の足元からヤリのように鋭いツララを発生させた。

 直立不動の状態から消えるように回避する人形。


「おチビ! 右に逃げたぞ!」


 言われずともレンは分かっている……が。

 目で追いかけた先にいた人形の姿勢、体を大きく伏せ、獲物に襲い掛かる直前のネコ科動物のように、両足に力をためている姿を見た瞬間――

 突き付けられる、死のイメージ。


「かはっ……」


 腹部に鈍い痛み、呼吸が止まり胃液が逆流する。

 驚異的な速度で突っ込んできた人形の拳が腹にめり込んでいた。

 魔力の衣で氷の鎧を展開しなければと思うも、全てが遅い。

 人形は二本の指をたて、レンの瞳目掛け突き出した。


「ソニックブーム!」


 目つぶしをくらう直前、風圧の壁が人形を吹き飛ばす。


「レンを運べ! 逃げんぞぉ!」


 言われずとも動いていたミランジェ。素早くレンを担ぐ。

 吹き飛んだ人形は空中でバランスを取り難なく着地を決める。ダメージもない。再び臨戦態勢を取る。

 ヴァリンは人形を見もせずに、逃げるミランジェを追って走り出していた。



 ◇



 城下町へ逃げ帰って来た三人。

 広場のベンチに負傷したレンを座らせた。


「うん、ありゃあ無理だわ。正規の手順で進もう」


 水筒を渡すヴァリン。


「すまない……」


 受け取るレン。さすがに元気がない。

 その姿を見ていたミランジェが悔しそうに口を開く。


「……三人がかりならヤれねーかな?」

「勝てる可能性はあると思うけどなぁ、その代わり誰か死ぬかもよ? 勝たなきゃいけない理由はないんだし、危ない橋は避けるべきだろ」

「そうですけど……納得いかねーっていうか」

「ムキになっても良いことないぞぉ? それ早死にする奴の考え方だ」

 

 リンネにも似たようなことを言われた気がする。

 しかし、人間の性格はそう簡単に変わるものじゃない。悔しいものは悔しいのだ。

 

「レンは少し休んでな。アタシとミランジェで城に行ってくるから」

「分かった、頼む……」



 ◇



 ゲームのイベントを進めるため、城までやって来たヴァリンとミランジェ。

 王様が悪い、なら倒せばいいという直球な考えでここまで来た。

 城門を守る兵士を無視し、中に入ろうとしたところ、


「待て。許可のない者を通すわけにはいかん」


 止められてしまった。


「はぁ!? マジかよ……メンドくせーなぁ」


 当然と言えば当然の話なのだが、このゲームで不法侵入を(とが)められたのは初めてである。


「いったんおチビのとこ戻ります?」

「そうだなぁ。町の方で見てない茶番があるんだろうし、戻るか」


 引き返そうとしたところで、気が付く。


「うおっ!?」


 二人の後ろには、メイド服を着た女性が立っていた。悲し気な表情で。


「旅のお方ですか? 悪いことは言いません。この城には近づかない方がいいですよ。ここの王は――」

「あぁ、良かった良かった。これで話が進むわ」


 どうやら城門で追い返されるのがイベントの発生条件だったようだ。

 メイドさんはいろいろと事情を説明してくれる。

 だいたい王様が悪いという話なのだが、兵士が見ている城門の前でこんな話をするのは命知らずとしか言いようがない。


「え!? では旅のお方が王を倒してくださるのですか!」

「あ~ハイハイ、やりますやります」

「では、城に侵入する作戦をお話します。ここではマズいので宿の二階、一番奥の部屋まで来てください……私はこの城でメイドをしているサンディと申します。では後ほど」


 サンディは小走りで去っていった。



 ◇



 二人はレンと合流し宿へ向かった。

 階段を上がり、指定された部屋に入る。


「ご足労いただきありがとうございます」


 中ではサンディが待っていた。

 三人はベッドに座り、話を聞く。


「城に入る方法ですが、こっそり忍び込むのはまず不可能だと言っていいでしょう。最近の王は用心深く、徴集(ちょうしゅう)した兵に城の警備をさせています」

「ふむふむ」

「しかし、その分兵の質は低いといった問題も抱えています。そこでですね――」


 サンディは一枚のチラシを取り出した。


「じゃーん! 実は今日! 城下町の広場で武道大会が開催されるんですよ!」


 なんか話が変な方向に進み始めた。


「レン、広場でそんなことやってたかぁ?」

「いいや」


 細かいことを気にしてはいけない。これはゲームなのだ。


「この国の男たちは熱いバトルが大好きなんです! 兵士たちも仕事をサボって大会を見に行きたくてウズウズしているはず! そんな状況でですよ? ふらりと現れた旅の者が大活躍したらどうなると思いますか!?」


 急にテンションが上がった気がする、このメイドさん。


「え? えっとぉ……」

「城の警備が手薄になるんですよ!」


 結構無理がある気がする。


「というわけで、皆さんの中から一人、大会に参加していただきたいのです。他の方々はその隙に城へ行き王を……」


 あ~そういうことね。と納得する三人。


「ん、どうやって分ける?」


 二人を見てヴァリンが言った。


「私が大会に参加しよう」


 名乗り出たのはレンだった。


「おチビ……大丈夫?」


 心配そうに言うミランジェ。


「さっきのダメージがまだ残っていてな。全力で戦えそうにはない」

「だったら!」

「だからこそだ……どう考えても、城へ向かう方に戦力が必要だろう」

「よし! じゃあそっちはレンに任せるわ」


 ヴァリンが立ち上がり、レンの頭をぽんと叩いた。



 ◇



 その後、詳しい作戦の説明をサンディから聞き、二手に分かれる。

 ヴァリンとミランジェは城に向かい、レンはサンディに連れられ広場へ。


 ついさっきまでは閑散(かんさん)としていた広場だが、今は中央に巨大なステージが設置され、たくさんの観客で込み合っていた。

 エントリーを済ませて来るといってどこかへ行ったサンディを、レンは観客席に座って待つ。


(大会の話を聞いたことで用意されたのか……)


 内容にバカバカしさを感じることはあるが、このゲームの技術はとてつもないものがある。

 現代人が再現するにはまだ数百年はかかりそうだ。


 レンは歴史に興味がない、だが危険を冒してまで古代の遺跡を発掘しようとする者が多いのも分かる気がする。

 それに――


(あの異常な強さの鉄人形……どうやって作った……?)


 古代の戦士は、あんなものと対等に渡り合うことが出来たのだろうか。

 これだけの文明を持ちながら、なぜ現代に残らなかったのか。

 一人で考えるも、当然答えは出ない。


「お待たせしました、レンさん。こちらへどうぞ」


 サンディに案内され、ステージの近くに設置されたテントの中へ。

 他の参加者の姿は見えないが、気にはしない。

 しばし待つと、係の者がレンを呼びに来た。


「第一試合が始まります。ステージへどうぞ」

「ああ」

「少し待ってください」


 テントを出て行こうとしたレンをサンディが呼び止める。


「レンさん、あなたは優勝するために参加するのではなく、ヴァリンさんたちが城に侵入する時間を稼ぐために戦うのです。くれぐれもお忘れなく……」

「……ああ」


 ぶっきらぼうに返事をして出て行った。

 大会を盛り上げるために決して負けるな、という意味だとレンは理解した。



 ◇



「うけてみよ! 我が分身拳!」


 ステージの上、腹の出たおっさんが四人に増えた。

 対するレンは眉一つ動かさず近付いていく。


「あぎゃ!」

「ぐえ!」

「ひぐぅ!」

「ああん!」


 四人それぞれをワンパンで倒す。


(よ……弱すぎる……)

「決着! 決着です! 優勝は謎の旅人、レン選手です」


 拡声された進行役の実況が広場に響く。

 簡単に優勝出来てしまった。

 赤い人形の強さを目の当たりにしたばかりだったので、かなり気を入れて(のぞ)んだのだが……


 賞品の道具とゴールドを受け取り、レンはテントに戻った。

 

「レンさん! まずいことになりました!」

「な、なんだと?」


 困惑しつつも戻ったレンに、慌てた様子のサンディが詰め寄る。


「観客たちの盛り上がりが足りません! あっさり勝ち過ぎです!」


 言われてようやく自らの失敗に気付く。

 そう、勝つために参加したのではない。場を盛り上げるために参加したはずだった。


「し……しまった……」


 これではヴァリンたちの作戦に支障が出てしまう。

 もっと戦いを引き延ばし、ギリギリの激戦を演出する必要があったのだ。


「なにか手はないのか!? 今からでも出来ることは……」


 焦るレンを見て、サンディは急に落ち着いた様子に変わる。


「……ありますよ。たったひとつだけ」

「なにっ!?」


 こうなるのが分かっていたと言わんばかりに。


「――それは、歌です!」


 まるで手品のように、どこからともなくパッと衣装を取り出したサンディ。

 フリフリの付いたカワイイ超ミニスカメイド服だ。胸元も開いてる。


「なん……だと……」

「これを着て歌って踊るのです。うんと可愛く! 男どもの視線をクギ付けにしてください!!!」


 至ってまじめ、大まじめ。


「くぅ~~~~……」


 顔を赤くしてレンは考え込む。

 絶対にやりたくない!

 だが、これ以上失敗を重ねるわけにもいかない。

 ヴァリンとミランジェには一度命を救われてしまっているのだ。


「さぁ! レンさん! さぁ!」


 ずいずいっとメイド服を突き付けて来るサンディ。


「………………いいだろう」


 覚悟を、決めた――



 ◇



 あまりにもつまらない戦いを見せられ、冷え切った広場。

 そろそろ帰るか……などと聞こえてくる。


『みんなぁ~、おまたせ~!』


 会場に突如、甘い少女の声が響く。


「な、なんだぁ?」


 ざわつく観客たち。

 その時! ざしゃあっと擦過(さっか)音をたて、ステージ上に一人の美少女が現れた!


『今日はぁ、レンのために集まってくれてありがとぉ~~』


 服に仕掛けがあるのだろうか、レンの媚びた声は大きく、遠くまで響く。


『いっしょーけんめー歌うからぁ、最後まで聞いていってね~♡』


 死に物狂いである。やらねばミランジェやヴァリンが死ぬかもしれないのだ。

 レンも命を賭けねばなるまい。


『出会っちゃったらどうしよ~♪』


 歌が始まる。

 たったひとつ、レンに残された武器である。


『にゅっるにゅっるでうねうねーの~♪』


 観客たちのテンションが上がり始めた。


『ドキドキな、まほっお~♪』


 手を振り腰を振り、全力でアピール。

 ミニすぎるスカートから下着が見えそうになることもあるが、鍛えた体と天性のバランス感覚でガード。


『だって、好きになっちゃったから~♪』


 くるっとターン、そしてえへっとポーズを決める。ウインクもバッチリだ。


『そ~れ~はぁ、うっねうねのまほお~♪』


 盛り上がる観客。

 レンはトドメとばかりに満面の笑みを向けた。

 だが……


(うっ!!??)


 レンの動きが止まる。

 観客の中にいた少女と目が合ったからだ。

 短くそろえられた黒髪。

 小柄な体。

 にぱ~っとした屈託(くったく)のない笑顔。

 それはレンのよく知っている女の子――フィノだった。


『………………ぁあああああああああああああああ!!!!!!』


 目の前の現実から、レンは――――逃げ出した。

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