第二十一話 おっさんは女の子の愛が欲しい
深い深~いダンジョンの最奥部。
「はぁっ!」
フィノは気合の声と共に、石造りの床を蹴り、駆ける。
対するは白銀の鎧と剣を持つ男。
剣による横なぎの攻撃を屈んでかわし、フィノは男の顔面に拳を打ち込んだ。
鈍い音と共に男は吹き飛び壁に激突。壁にはクモの巣のようにヒビが入った。
「ふぅ……これで最後かな」
額の汗をぬぐって一息。
「もう出てきて大丈夫だよ!」
笑顔になって、すみっこに置いてあった二体の石像を見て言う。
すると石像はパッと光り、シェスカとエスニャに変わった。
「流石ですフィノさん。本当に一人でアクドル騎士団を壊滅させてしまうなんて……三人で戦うことを前提に作られている敵だと思うんですけどねぇ。いやはや、恐れ入りました」
「これで飛空船を譲ってもらえるね! 船が空を飛ぶなんて信じられないよ!」
「ちょっとフィノ! あんた怪我してるじゃない! ヘラヘラしてないでみせて!」
怒りながらシェスカはフィノを座らせると、道具袋からビンを取り出し、中の液体をフィノのほっぺたに塗っていく。
「かすり傷なのに……」
「いいから!」
「……回復薬も残り少なくなってきましたね。石化の杖もさっき使ったら折れてしまいましたし」
「脱出用の球もあとひとつだね」
「薬と球は買えばいいけど、杖はもう少し大事に使うべきだったわね」
『ラストロンの杖』という一品ものだ。
戦力外の二人を石化させることが可能で、敵から身を守るのに重宝していた。
「はい出来た。気を付けなさいよ」
「うん、ありがとう! シェスカ」
「か、勘違いしないでよね! あんたがやられたら全滅しちゃうんだから! 別に心配してるワケじゃないし!」
「……全滅は本当のことなので、ツンデレ発言としてはちょっと弱いですねぇ」
「ツンデレって……なぁに?」
「いえ、こちらの世界の話です」
よいしょ、とフィノは立ち上がった。
「そろそろ町に戻ろうか!」
「その前にメダルおじさんの家に行きましょ。『大きなメダル』三枚も拾ったのよ。景品貰わなきゃ……たしか次は召炎玉だっけ? いらないかもだけど」
「では、まずはここを出てメダルおじさんの家。それから町に戻り物資を補給した後、メインクエストを進めるという流れで行きましょう」
エスニャは道具袋からロレミトの球を取り出し、床に投げつけた。
◇
フィノたちがゲームを開始してから、すでに十日以上が経っている。
当初は困惑することも多かったが、今では慣れたものだ。
ゲーム内の道具なども活用し効率よく進めていく。
口にこそ出さないが、三人ともこの危険なゲームを楽しいと感じはじめてもいた。
「そうか……息子の仇を討ってくれたか……」
老人は写真を見ながら話す。
「……おじいさん」
「船なら町の外に泊めておいた。さぁ、行きな。ここにもう用はねェはずだ」
「うん……」
元気なく返事をして、フィノたちは家を出ていく。
「ゲームだって分かってても、しんみりしちゃうね」
「見た目は本物の人間ソックリですからね」
「町の外に船を泊めたって言ってたけど、そんなものあったかしら?」
「無かったと思います……見た目が分かりませんが」
何かと説明が丁寧なゲームではあるのだが、飛空船というものに関してはろくに語られてこなかった。
考えていても仕方がないので、三人は町の外へ向かう。
「凄い! 本当に浮いてる!」
目をキラキラさせて飛び上がったフィノ。
そこにあったのは地面から少し浮き上がった帆船だった。
「見た目は木造の……普通の船ですね……」
「そうよね……」
ぼーっと船を見上げるエスニャとシェスカ。
フィノはそんな二人を置いて、船体の横に付いたハシゴからささっと上がった。
「あなたたちですね? オーガストル神殿に行こうなんて命知らずは」
船上で待っていたのは華奢で線の細い男、笑顔はさわやかである。
フィノは一瞬何の話をしているのか分からず戸惑ったが、すぐにゲームのシナリオだということを思い出した。
「はい。えっと……白のオーブ……だったかな? それがあるらしくって」
戦闘以外は二人に丸投げしていたので自信がないが、たしかそんな話だったはずだ。
「僕はペペと言います。師匠からの命令で、皆さんをこの船で世界中どこへでもお連れしますよ」
「そっか、おじいさんの……」
「フィノさーん、待ってくださ――あっ、カワイイ男の子ですねぇ……女の子みたいな腕してるじゃないですかぁ、男性ホルモンちゃんと出してます~? ふひっ!」
遅れて上がって来たエスニャ、ペペを見ていやらしく笑う。
「エスニャさん……ペペさんにいたずらしちゃダメだよ?」
「いやですねぇ、分かってますよぉ」
少し困った顔になるフィノ。
ゲームに慣れてきてからというもの、エスニャは登場人物を人間扱いしなくなっていた。
セクハラ発言を平気でかまし、女性のスカートは挨拶のようにめくる。
夜中に宿をこっそり抜け出し、裸にしたイケメン二人をくっつけて遊んでいるのもフィノは知っていた。
「それじゃあ、さっそくオーガストル神殿に向かうかい?」
「他の場所に飛んでいただくことは出来ますかね?」
「それじゃあ、さっそくオーガストル神殿に向かうかい?」
「ダメみたいですねぇ。レンさんたちのパーティーと合流出来れば頼もしかったのですが……」
そんなやり取りをしていると、ゆっくりとシェスカが上がって来た。青い顔をして。
「シェスカ? 大丈夫?」
「へ、へ、平気……べ、別に……飛ぶのが……怖いとかじゃないし……」
「怖いんだね。何かあったらあたしが助けるから安心して」
シェスカが来たことを確認したエスニャ。フィノを見て口を開く。
「さて、ペペさんに言えばすぐにでも次のダンジョンに向かってくれると思いますが、準備はよろしいですか? 白のオーブが手に入ればいよいよ冥王との決戦が待っています。オーガストル神殿は一筋縄ではいかないはずですよ」
その問いに、フィノは笑みを浮かべ、無言のままうなづいた。
◇
猛毒の沼に囲まれ、凶暴なモンスターが徘徊するオーガストル神殿。
フィノたちは空飛ぶ船を使い、そんな極限の地に降り立った。
「近くに来ただけでこれか」
船から下りた三人を囲むモンスターの群れ。
「手荒な歓迎ですね……」
「……やってやるわよ!」
「シェスカ、エスニャさん。あたしが道を作るからついてきて。全部相手してたら日が暮れちゃうよ」
言うと同時にフィノは地を蹴った。
神殿の入り口目掛け猛スピードで走りモンスターと戦う。
「おおおおりゃあああ!!!」
投げ飛ばし、蹴り飛ばし、殴り飛ばす。
ゲームを進める程に強さを増していくモンスターではあったが、ここに至ってなお、ほぼ一撃でフィノは敵をコインに変えていく。
後ろを走る二人がその戦いぶりに恐怖を感じ始めた時、フィノは神殿の入り口に到達した。
「二人とも! 急いで! 後ろからもたくさん来てるよ!」
転がり込むように神殿の中へ。
戦いながら走って来たフィノよりも他二人の方が息が上がっている。
「ふぅ……ここまで追っては来ないって分かってても不安になるわね」
外にいるモンスターを見ながらシェスカが言った。
現実ではありえないことだが、ゲーム中の敵は建物や町、ダンジョンでもフロアが変わればパタッと戦闘をやめるのである。持ち場のようなものが設定されているようだ。
「これじゃあ船に戻るのも一苦労だね」
「白のオーブを見つけるまではここから出ない。それくらいの覚悟で挑みましょう」
少しだけ休んでから、三人は神殿の探索を開始した。
◇
「うぎゃあああああああ!!!」
シェスカが叫んで尻もちをつく。
フィノは笑顔のまま固まっている。
エスニャは立ったまま白目をむいて気絶していた。
「……なによコレ……」
神殿の地下一階。
順調にモンスターを撃破しながら進んでいたフィノたちの行く手を阻んだのは、大きな扉である。
「趣味が悪いってモンじゃないわ……」
問題はその扉だ。
なんと巨大なおっさんの顔が生えている。
半端にハゲ散らかした頭、油でテカテカとしたデコ、たるんだ頬、潰れたような鼻のとなりにあるホクロからは毛が一本。
こっちを見てる。真顔で。
「……何か書いてあるね」
扉の近くにあった石板を見つけたフィノ。
「『純情な乙女の愛の言葉により道は開かれるであろう』……って書いてあるよ」
「は? アイ? 目? なんで? どうして? なにがどうなってこういう状況になってんの?」
混乱しているシェスカ。
「もしや……この人に愛の告白をすることが扉を開ける条件なのでは……?」
いつの間にか意識を取り戻していたエスニャが震えながら言った。
恐るべき条件である。
「フィノ! パンチしていいわよ! 全力で! 助走も付けて! 壊して進みましょう」
「いや……でも……さすがにこれは殴れないかなぁ……」
「経験上ゲームの仕掛けを無視して進めるとは思えませんね……」
「いっ、嫌っ! 私は嫌だからね!」
「純情な乙女っていうのはあたしたちでいいのかなぁ?」
「少なくともフィノさんやシェスカさんならば問題ないと思いますよ」
よしっ、と小声でつぶやいたフィノ。
扉のおっさんに近付き、ニパっと笑った。
「おじさん! 大好きだよ!」
直後、おっさんの顔が変化する!
目をつむり、とても気持ちよさそうな笑顔を作った。温泉に入った時のような、そんな満たされた笑顔だ。
「あ! ああ~~! なんか『達して』ますよ!」
だが扉は開かなかった……
「あたしじゃダメなのかなぁ……」
肩を落とすフィノ。
「いえ、効果は間違いなく出ています。何か……何かが違っているんですよ。彼の心に深く刺さっていないんだ……」
口元に手を当て深く考え込むエスニャ。
「――――フィノさん! ちょっと!」
なにやら耳打ちするエスニャ。ごにょごにょ。
「そう言えばいいんだね。分かった!」
フィノは再びおっさんの前へ。
わざとらしくモジモジしながら、
「あのね……あたしね……お兄ちゃんのこと……ずっと好きだったんだ」
瞬間、おっさんの顔は変化する!
あぶら汗をかき、梅干しのように顔面の皮膚がきゅっとしぼむ。
まるで大便が肛門を通過している時のような、快感と苦痛の狭間をさまよっているような……そんな、なんとも言えぬ表情だった。
「カーッ! これでもダメか! ははぁん……さてはちょっとひねくれた性癖を持っていますね? ならば……フィノさぁん!」
「はっ、はい……」
エスニャは再度耳打ち。ついでに道具袋から取り出したネコ耳をフィノに装着した。
「じゃあ……いくよ!」
フィノ、三度目の挑戦。
「おじさん、あたしのことそんなに好きなの? しょうがないにゃあ……いいよ」
にゃん! とポーズをとって言った。ミランジェが見ていたら卒倒していたかもしれない。
肝心のおっさんの表情は……なんだかつまらなそう。
「くっそー! 外したか! ならばぁ!」
ムキになったエスニャが道具袋をひっくり返した。
中からはバニースーツやら何やらが大量に出て来る。
「フィノさぁん!」
「ひっ!?」
その後も、あの手この手で落としにかかるが扉は開かなかった。
「何故だ……何故開かない……いったい……これ以上どうしろと……」
膝をつき、打ちひしがれるエスニャ。もう想像力の限界であった。
その時、ずっと見ていたシェスカが大きなため息をついた。
「ほんっとくだらないゲームね。こんなところまで進めてキモイおっさんに愛をささやけとか……作った奴もキッショイ奴なんでしょうねきっと」
唐突に、カチャッと扉が開いた。ほんの少しだけ。
おっさんは「うっ!」という顔をしている。
「は?」
不思議そうにするシェスカ。
それを見ていたエスニャは声をあげる。
「そうか! そういうことかぁ! 分かった! 完全に理解った! オーガストル神殿敗れたりィ!!!」
ガッツポーズを作ってからシェスカに詰め寄る。
「なっ、なによ!」
「シェスカさん! 奴はドMなんです!」
「はぁ!?」
「ああいう人種にとっては攻撃が愛のカタチなんですよ! 罵るんです! 踏むんです! フィノさんも手伝ってください!」
「え? ええ?」
エスニャはドカッとおっさんの顔を蹴りつけた。
「ほんっとに気持ちの悪いおじさんですね! こんな状態になってよく生きていられますね! 私だったらすでに死んでいますよ!」
ぐぐっと扉がさらに動く。
さぁ、二人も! と振り返り目で訴えるエスニャ。
「あ、あたしは、おじさんみたいな人好きじゃないなぁ! こうしてやる!」
おっさんの鼻をつまんでぎゅう~~っとしぼるフィノ。効いてる効いてる。
「あんたってほんと吐き気をもよおすほどのキモさだわ!」
ぺっ! とツバを吐きかけるシェスカ。たぶん本心。
それがトドメとなったのか。おっさんの顔は大きくゆがみ、扉は完全に開かれた!
「ふぅ~~~! 強敵でしたね……」
どこか、やり遂げたような表情のエスニャだった。
◇
動く床、大量の落とし穴、モンスター無限沸き、宝箱の底に隠されたスイッチ等々、厄介なトラップが行く手を阻むが、知恵と力、それまでに集めたゲーム内の道具を駆使しフィノたちは神殿を攻略していく。
「これが最後の一つだね」
神殿内で見つけた石板の欠片を、フィノは台座のくぼみにはめた。
ゴゴゴ……と壁が動き、下り階段が現れる。
進んだ先で見つけたものは、大きな宝箱だった。人間一人くらいならすっぽり入ってしまいそう。
「……開けるよ」
両脇の二人を見てから、フィノは宝箱のフタを持ち上げる。
「あれ? 空っぽだ……」
だが、よく見れば底に魔法陣が描かれている。
フィノが二人に話し掛けようとした時、魔法陣はカッと光を発した。
うわ! と三人は目を覆う。
「くっ……目が……くだらない嫌がらせ!」
不機嫌そうに言うシェスカ。目はつむったままだ。
「ハズレですか……しかし、他に道とかありましたっけ? ねぇフィノさん……」
エスニャの問いかけに返事はなかった。
「フィノさん?」
やはり返事がない。
どうにか回復してきた視力であたりを見回すが、フィノの姿はなかった。
「ワープトラップ……以前にもありましたね」
しかし分断させられたのは初めてである。
フィノはともかく、シェスカと二人きりというのは少々気まずいなぁ……とエスニャが考え始めた時、その声は聞こえて来た。
『白のオーブを求めし者よ……神獣の力を得たくば、我に力を示せ』
ビクっとして振り返る二人。
そこにいたのは……
「ガーゴイル!」
二本のツノが生えた狼のような頭部。背中には羽。
人間のような手足を持ち、全身は紫色の皮膚で覆われていた。
「ど、どうするんですか!? よりによってフィノさんがいない時に!」
狼狽えるエスニャ。
ガーゴイルは以前ダンジョンのボスとして出て来た相手だが、その時戦ったのはフィノだ。
「どうするって、やるしかないでしょ!」
勢いよく剣を抜いたシェスカ。
「剣術のお稽古は大嫌いだったけど……これに望みをかける日が来るなんてね」
強気な態度ではあるが、剣を持つ手は震えていた。
後輩の健気な姿を見たエスニャは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「……シェスカさん。どこに飛んだのだとしても、フィノさんは必ず戻ってきてくれます。それまで――」
懐から折り畳み式のナイフを取り出す。
「命を繋ぎますよ!」
ガーゴイルは二人に向かう。
鋭い爪をたて、飛び掛かった。
「ストーンウォール!」
エスニャが手をかざすと床から石の壁が出現、見事に爪撃を受け止めた。
「やるじゃない!」
「油断しないで! 持続力はほぼありません! 機を見て階段に走りますよ!」
『キシャアアアアアア!』
エスニャの言葉通り追撃によって石壁は破壊されたが、その瞬間二人は横を抜け走る。
しかし、
「やはりこうなっていましたか」
階段はバリアのようなもので守られていた。
大物との戦いではいつものことで、こうなってしまうとロレミトの球でも脱出は不可能だ。
もっとも、外に出られたとしてもモンスターの群れに囲まれてしまうのだが。
再び爪を構えたガーゴイルを見てエスニャは素早く深呼吸をした。
生きるため、限界まで頭を冷やす必要がある。
(ストーンウォールが数発で割られる……たとえ一発でもくらえば終わりだな)
心拍数の上昇に比例し思考の瞬発力も上がっていく。
死を背にした戦いは初めてのことだったが、追い詰められた時に発揮される人間の底力にはエスニャ自身も驚いていた。
次にやるべきことが、分かる。
「私のそばから離れないでください!」
「分かったわ!」
「サンドストーム!」
砂嵐がガーゴイルを包む。
ダメージはないが一時的に動きは止めた。
エスニャはありったけの魔力を指輪に集めていく。
「ストーンウォール!」
再び石の壁が出現。
しかし今度は四枚、ガーゴイルの四方を塞ぐように出現させた。
「シェスカさん!『召炎玉』を!」
ゲーム内で手に入れた攻撃用の道具だ。
シェスカは道具袋から急いで赤い玉を取り出した。
「使うことは無いと思ってたけどね!」
魔力を流し石壁の中へ投げ入れる。
数秒後、爆発するように火柱が上がった。
「や、やったかな?」
「……今ので魔力が底をつきました。これでダメなら――」
最後まで言うことは出来なかった。
燃え盛る石壁を貫いた光線が彼女に直撃したからだ。
「うわああああああ!!!」
「エスニャ!」
石壁が破壊され、炎に包まれたガーゴイルが歩いてくる。
倒れたエスニャを守るように、涙を流し剣を構えるシェスカ。
「シェスカさん……私のことより……自分が生き残る方法を……考えて……」
「うるさい! ケガ人は黙って寝てろ!」
『侵入者よ……力を示せ……』
炎に焼かれなお、ゆらゆらと迫り来る怪物。
勝てる可能性は万に一つもないだろう。
ガーゴイルは目を光らせ始める、これがエスニャを攻撃した技だろうか。
それは、シェスカが死を覚悟した瞬間だった。
涙でぼやける視界の向こう、バリアを突き破り入って来る女の子。
ずっと待ち望んでいたその姿を見た途端、全身の力が抜けた。
「ごめん! 待たせた!」
「……遅いよ……フィノ……」
光線を発射されるより早く、飛び込んできたフィノの拳がガーゴイルを肉塊に変えた。
◇
意識を取り戻したエスニャがいたのは、飛空船の中だった。
(…………生きてる)
自分の手のひらをぼんやりと見つめる。
今頃になって、強い恐怖に襲われた。
命の危険があるゲームだということは分かっていたはずなのに、心の何処かで甘くみていたのかもしれない。
「エスニャ! 大丈夫!?」
フィノとシェスカだった。嬉しそうに顔をのぞき込んでくる。
「ええ……申し訳ありません。何度も世話になってしまって……」
「何言ってんのよ。フィノが来るまで時間稼いだのはあんたでしょ」
「ごめんね……あたしがもう少し早く戻れたら……」
「いえいえ、命があっただけでも儲けものです。ふふっ」
軽い気持ちで彼女たちを巻き込んだことを後悔するが、もう遅い。ゲームはとっくに始まってしまっているのだ。
「あの……オーブはどうなりました?」
始めてしまったものは、終わらせなければならない。
エスニャの言葉を聞いて、フィノは道具袋を漁りだした。
「ガーゴイルを倒したら手に入ったよ!」
そう言ってぼんやりと光るオーブを取り出した。
「これが……白のオーブ……」
「今ね、世界の中心にある島へ向かってもらってる。そこで二つのオーブを使うんだよね?」
もう一つのオーブはレンチームが見つけているはずだ。
彼女たちにも謝らなければならないだろう。
「まぁ……でも……今は、ちょっと休みたいですね……」
そう呟いて、エスニャはゆっくりと、まぶたを閉じた。
◇
島にやって来たフィノたちは、眠ってしまったエスニャを船に残し、探索を始める。
と言っても、島には小さな国があるだけである。
フィノとシェスカは島の城下町に入った。
「レンたちはもう来てるかな?」
「どうかしらね。向こうは戦力だけならあるけど、ゲームに必要なのってそれだけじゃないし」
知恵やチームワークなども求められるのである。
時には変なこともしなければならない、おっさんの顔を虐めるとか。
「あれ? なんか向こうが騒がしいね」
わいわいガヤガヤと大勢が集まっている。
それとなんか歌声が聞こえる。女の子の声だ。知っている声のような気もする。
「あ! あれって……」
歌声に導かれるようにたどり着いたのは、町の広場。
設置されているステージの上で、一人の女の子が踊っていた。
「は!? ウソでしょ!?」
驚くシェスカ。
なんでかって言ったらステージ上でフリフリの付いた超ミニスカメイド服を着て歌って踊っている娘に見覚えがあったからだ。
『そ~れ~はぁ、うっねうねのまほお~♪』
腰を左右に振り、媚びに媚びた甘い声で歌う。それは紛れもなく二人の知っている女の子だった。
「うわぁ……レン可愛いなぁ……」
笑顔で見つめるフィノと、ステージ上のレンの目が……合った。
時が凍り付く。
『………………ぁあああああああああああああああ!!!!!!』
絶叫しながら物凄いスピードでレンは逃げ出した。
いったい彼女に何があったのだろう?
それは――次回で!




