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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
三本目! 遠き時代のロールプレイングゲーム

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第二十話 超性能海賊



 フィノチームが順調(?)にゲームを進めている一方……


「いくら稼いだ? おチビ」

「貴様より多いことは確実だ」


 暗い森の中。

 向かい合って座るミランジェとレン。

 ぱちぱちと音を立てる焚き火が二人の顔を照らしだす。


「んじゃ、発表するぞ~。ミランジェが3221ゴールド。レンが3205ゴールド。僅差だけど、ミランジェの勝ちだな」

「なにっ!?」

「よっしゃ! へっへー、うちの勝ちィ!」


 少し離れて座っていたヴァリンが、置かれたコインを袋に入れていく。


「競うのは勝手だけどさぁ、メンドクセーからアタシを巻き込むなよなぁ」

「チッ……私にも長射程の魔法があればな……」

「あれあれ~? おチビィ、そんなダッセー言い訳しちゃうの? 負けたのは弱いからじゃないんですかぁ~?」

「くっ! くぅ~!」


 半泣きで地面を叩くレン。

 一見子供を虐めているようにしか見えないが、これでも三人の中では一番強かったりするお子様である。


「しっかし、よくやるよなお前ら。ま、(もう)かったからいいけどさ」


 袋のコインを手ですくい、笑顔を見せるヴァリン。


「うち最強目指してますんで! 負けるわけにはいかないんですよ」

「フィノたちにバレたら注意されそうだけどなぁ。仮にも人助けで入ったゲームだし」

「ゴールドを稼ぐことはゲームのクリアに近付く。問題はあるまい」

「お前らがケンカ始めなかったら、今頃は次の村に着いてただろうけどな」


 地図を広げたヴァリン。

 現在地が赤く光っている。非常に便利な謎の技術である。

 

「フィノっちたちはどのあたりにいるのかなぁ……」


 地図を見ながらため息をつくミランジェ。


「同じ大陸にいるのであれば分けた意味がない。恐らく東だろう」


 指を差してレンが言う。

 地図を見るかぎり、この世界は東と西に大陸があり、中央に小さな島。


「白と黒のオーブを世界の中心で捧げろ……って王様は言ってたな。普通に考えりゃ、東と西に一個ずつ隠されてるよな? こっちで見つけて、中央の島でフィノたちと合流って流れかな」


 最初に訪れた国では何故か王様が会ってくれた。しかも重要そうな情報までくれた。

 色々とあり得ないことだがゲームなので深くは考えない。


「先にオーブを見つけて待ってようよ。フィノっち驚かせたいしさ」

「向こうは足手まといが二人だ。いかにフィノといえど苦戦は避けられんだろうな」

「ここのモンスターやたら強いからなぁ……」


 買っておいた干し肉や水を口にしながら三人は会話を続ける。

 

「明日はこのビスカニって村まで行って――」


 話の途中、ヴァリンが何かに気付く。


「おい、お前ら……」

「分かっている。かなりの数だな。丁度いい、こいつらの分を稼ぎに上乗せすれば私の勝ちだ」


 レンは指の骨を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がる。


「森を焼き尽くさないようにすんの、結構大変なんだけどね」


 刀を鞘から抜くミランジェ。


「現実と違って金になるからいいよなぁ、ここは。少しはやる気になるってもんだ」


 ニヤリとしてとんがり帽子をかぶるヴァリン。


 周囲に感じる気配は十を超えるが……三人に恐れの色はない。

 深い森の奥から凶暴なモンスターの群れが襲い来る。

 炎、風、氷。三つの魔力が、闇の勢力を迎え撃った。



 ◇

 


 翌朝。

 ミランジェたち三人は森を抜け、地図を確認しながら次の村を目指す。


「ふあぁ……」

「気を抜くな派手女。そこらの草むらにモンスターが潜んでいる可能性もあるのだぞ」

「はいはい……ふあぁ……」


 とは言っても、晴れた草原なのでとても心地が良い。

 陽の光や涼しい風が眠気を誘う。あくびくらいは許してほしいものだ。

 昨夜はモンスターのおかげで寝不足である。

 戦闘そのものより散らばったコインを集めるのに時間がかかってしまったのだが……


「ヴァリン先輩がお金吹き飛ばすんだもん……」

「っせーなぁ。仕方ねーだろォ。風の魔法は使い勝手ワリーんだよ」

「え~……」


 ミランジェも森を火事にしないよう気を使っていたのだ、ちょっと納得いかない。


「それに比べて、おチビの戦法は状況選ばなそうで良いよね」

「当然だ。傭兵は基本的に相手も場所も選ぶことが出来ん。環境で実力が発揮しきれないようでは話にならんからな。一流ともなれば武器すら持たん」

「なに? おチビ傭兵になりたいの?」

「家業でな。親も姉妹も傭兵だ。国ではそれなりに名も通っている」


 ようやく分かった気がする。レンの強さの秘密。


「へ~。じゃあおチビも大人になったら傭兵やるんだ」

「……さぁな」

「お~いお前ら、見えてきたぞ! あれがビスカニの村だな」



 ◇



 村に入った三人がまずやったことは……


「ちわーっす」

「お、この家誰もいないじゃん! うち視線が気になっちゃうから助かるな~」

「さっさと調べるぞ」


 窃盗である。

 ゲーム内の人間にいくらいたずらをしても怒られなかったことから、ヴァリンが思い付いた攻略法だ。

 慣れた手付きでタンスを開け、壁にかかった袋を漁り、ツボを投げて割る。がしゃん!


「ちぇっ、2ゴールドだけかよ。しけた家だぜ……」


 拾ったコインをふところに入れたヴァリン。盗人(ぬすっと)っぷりがなかなか板についている。

 荒らした民家を堂々と出て次へ。


「ありゃ? こっちも留守か」


 その後も何軒か物色するが、村人の姿を見ることは無かった。


「無人の村……?」

「まさかな」

「先輩、おチビ、向こうに人が集まってるよ」


 ミランジェが指差したのは村の広場。

 集まっている者たちは全員直立不動で黙っているのでかなり不気味だ。


「村人はあそこに集まってたのか。それにしても何やってんだ?」

「ゲームの仕掛けではないのか」

「もしかして……うちらのこと待ってる?」


 関わりたくない気もする。

 ただ、村人が全て集まっているのなら店も宿も使えないので困ってしまう。

 仕方なく三人は広場に入った。


「よぉ~し! これで村のガキは全員いただいたな」

「そろそろ引き上げるとするか!」

「売ったらいくらになるかねぇ、うヘヘ……」


 武装したガラの悪い男たちが突然喋り出した。

 それと同時に近くの村人たちがうずくまり、うめき声をあげる。


「うわっ! 状況分かりやすっ!」


 言いながら刀を抜くミランジェ。ゲームだと分かっていても、こういう状況を見過ごすことは出来ない。

 瞬時に動き、賊たちを切りつけていく。


「あ、あれっ!?」


 たしかに当たったはずだが、虚しく空を切る刃。


「すり抜けた!? なら!」


 ならば魔法である。指輪に熱い魔力を送り賊に向けた。


「やめておけ。魔力の無駄だ」

「おチビ……じゃあほっとけっての!?」

「落ち着け。これはゲームの演出だろう。今は見ていろ……ということだ。たぶんな」


 去っていく賊たちを見送る三人。

 そのまま彼らが広場を出ていくと、村人の中から一人の老人が近付いてきた。


「ああ、困った困った。このままでは村は終わりじゃ!」

「あ、た、大変っすね」


 ゲーム側からはリーダーとして扱われているのだろうか、老人はヴァリンの前にやって来た。


「旅のお方ですか……とんでもない時に村にきなすったな。普段なら歓迎するところじゃが……実は西にある海辺の洞窟に最近海賊が住み着きましてな――」

「ああ~ハイハイハイ……倒してくりゃいんすね?」

「おお! 頼まれていただけますか! 海賊を退治してくだされば、礼として村の宝を差し上げましょう」


 さんざん村の家を荒らしておいて、礼までもらってしまっていいのだろうか。見た目はとてもリアルなゲームなので、流石のヴァリンにも罪悪感が……


「おいお前ら! 宝までくれるってよ。ちゃちゃっとやってこようぜ?」


 別になかった。



 ◇



「ガアアア!!!」


 ふくれあがった筋肉に、牙が生えた豚の頭部を持つ魔人、オーク。

 手にした巨大なこん棒を、目の前の小さな魔導士へ振り下ろす。

 破砕(はさい)音と共に、こん棒が地面を叩き割った瞬間には、飛び上がった魔導士はすでにオークの頭を掴んでいた。

 

「じゃあな」


 魔導士……レンは異常発達した指の力を最大限に発揮し、オークの頭を半回転。

 

「ガ……アア……」


 背中側に顔面を向けられてしまったオークは後ずさり、倒れたと同時にコインへ変わる。


「ここのモンスターも現実よりはるかに強力だな」


 その言葉とは裏腹に、レンの表情は涼しげでかすり傷の一つもない。


「おう、ご苦労さん」


 見物していたヴァリンが拍手をしながら近付く。複雑そうな顔をしたミランジェも隣に。


「気を付けろ。洞窟に入ってから敵の強さが不自然に増した」

「ゲーム的な都合だろ? そもそもこんなに明るいのがまずおかしいし」


 洞窟内はまるで照明(しょうめい)でもあるかのよう。


「もっと言えば、海賊がたむろってる洞窟にモンスターがいるのがおかしいんだよ。はじめっから不自然だらけだ。その辺も全部"ゲームだから"で片付くけどな」


 他の二人よりも経験のあるヴァリンはまずそこが気になっていた。

 表情を変えずに「それもそうか」と呟いてレンは歩き出す。それにコインを拾ったヴァリンとミランジェが続く。


(やっぱつえーなおチビは。フィノっち追い詰めたのはまぐれじゃない……気に入らないけど)


 前を歩く、小さな後ろ姿を見てミランジェは考える。

 あのオークと自分が戦った場合、こんなにあっさりと勝てるだろうか? 恐らく楽勝とまではいかない。

 レンに敗北してからは、彼女に勝つ為いっそう修行にはげんでいるのだが、道は長そうだ。


「おチビっ! 次なんか出てきたらうちがヤるから! (少しでも……経験つまねーとな!)」


 それでも諦めるつもりはさらさらない。

 この道の先ではフィノが待っているのだ。


「……好きにしろ」


 ほんの少しだけ頬を緩ませて、振り返らずにレンは答えた。



 ◇



「ありゃ? 行き止まりだな」


 やや広いところに出たが、海賊の姿は無い。

 隠された道などはないかと三人は付近を調べる。

 

「ま、まさか……」


 三人の視線が大きな水たまりに集まる。

 嫌な予感がする。

 

「アレじゃあ……ないよなぁ?」

「ヤダもうセンパァイ。んなワケないですよ~」


 笑い合っている二人を横切り、レンが前に出る。

 しゃがんで水たまりをしばらく見つめた後、なんと頭を突っ込んだ。ぶくぶく。


「――ぶはっ! 間違いない、ここだ。底のほうに横穴がある」

「ええーー!?」


 心底嫌そうな顔をする二人。


「この深さでは息が持たん。なにか方法を考える必要があるな」

「って言ってもこの辺はもう調べたからなぁ……」

「村に戻ってみる? なんか変な魔道具とかあるかもしんないし」


 ミランジェはそう言うと、道具袋から青い球を取り出す。


「これ使ってみたかったんだよね~。『ロレミトの球』だっけ?」


 森で見つけた宝箱に入っていた魔道具である。

 付属の説明書によれば、洞窟や建物などから一瞬で脱出可能な術が仕込んであるらしい。

 なんで森に宝箱があったのかとかは考えない。ゲームだからだ!


「そうだな。行ってみるか」


 球を地面に叩きつけ、三人はいったん村に引き返した。



 ◇



「まさか使うと無くなるなんて……」


 村の中を歩きながら、ガッカリした様子で言うミランジェ。

 洞窟を出たと同時にロレミトの球は粉々に砕け散ってしまった。


「そもそも魔道具では無かったのかもしれんな」


 ゲーム内専用の道具だった可能性がある。

 いくら超古代文明といえどあんな便利なモノが現実にあったのだろうか、真相は闇の中である。


「おっ! あったあった」


 ヴァリンが村の道具屋を発見。

 何かを探すならまずはここだろう。

 

「いらっしゃい」

「おっさん。水ン中潜れるようになる道具ない?」


 流石にないよなぁと思いながら聞いてみたが、


「あるぜ」

「あんの!?」


 あったみたい。


「水神のビキニだ。こいつを装備すると水中でも呼吸が出来るようになる」


 出されたのはやたら露出度の高い水着。しかもちょっと透けてる。


「…………このゲームさぁ」

「うちもこれはちょっと……」

「わ、私が着られるサイズはないようだな……洞窟の探索は貴様ら二人に――」

「あるぜ」


 店のおっさんは子供用サイズを渡してきた。


「なっ、なんだと……」


 水着をつまんでぷるぷる震えるレン。


「おチビはこういう事やってんじゃん。今度写真集出すんでしょ? ライブとかもやってるみたいだし」

「好きでやっているのではない! それにここまで派手な恰好はしていない!」


 アイドル活動を始めたらしいというのは知っていた。

 フィノ推しのミランジェには理解できないがファンも多い。


「……まぁ、仕方ないか……誰かに見せるわけでもないし……おっさん、これ売ってくれ」

「おう、ひとつ2000ゴールドだ」

「たっけぇな、クソ!」

「知ってるか? 防具は装備しないと意味がないんだぜ。ここで着ていくか?」

「着ていくわけねーだろっ!」


 ヴァリンはおっさんに6000ゴールドを投げつけた。



 ◇



 再び洞窟の奥までやって来た三人。

 来ている服を脱ぎ、水神のビキニに着替える。


「下着のほうがマシだなこれ……」


 トレードマークであるとんがり帽子も脱いだヴァリン。嫌そうに自分の体を見る。

 水着のサイズが小さいようで、胸がかなり強調されている。


「ひゃ~。ヴァリン先輩って、美人なだけじゃなくてスタイルも良いですよね。うへへ」


 けっこう余裕そうなミランジェ。

 それなりに美形で背が高く、手足がすらっと長い。

 ここまでは良いのだが、ヴァリンを見る表情がセクハラ親父のようになっているので台無しである。


「…………とっとと行くぞ」


 レンは水着姿で腕組み。仏頂面。

 この恰好で二人と並ぶとちょっと劣等感を持ってしまう。

 小柄というよりは成長中。今はまだ小さいが、無限の可能性が詰まっている。


「本当に水中で呼吸出来んだろーなぁ……」

「ウソだったら店を燃やしてやりますよ」


 恐る恐る水たまりに入る。


「ごぼごぼ! (すげぇ! マジだ!)」


 底まで潜り、横穴から先へ進む。

 しばらく水中を泳ぐと、上から差し込む光を発見。


「ぶはー! こりゃあたしかに水着必要だわ」


 水から上がると扉を発見。


「いかにもボスが待ってますって感じだな」

「っつーか水着で戦うのか、うち……」


 ミランジェは服と共に刀も置いて来てしまっている。

 次は自分が戦うと宣言してしまっているのだが……


「代わりに戦ってやろうか?」

「いい! 魔法だけでなんとかしてやるよ」


 レンの善意を受け入れるわけにはいかない。

 意地があるのだ。



 ◇



「あぁ? なんだぁテメーら?」


 扉の先にいたのはサーベルを持った男。頭には青いバンダナ。


「こいつが海賊だな。叩きのめしてやる」


 歩み出るミランジェ。

 ゲームでも現実でも賊は変わらない。

 自らの欲望を満たすために暴力で弱者を(しいた)げる存在。


「自分一人の力じゃ何もできないくせに……ゲームだって分かっててもムカつくわ」


 指を向け魔力を指輪へ。


「くらえっ! ファイアーボール!」


 炎の球が撃ち出された!

 海賊は脱力した状態でボーっとしている。

 ミランジェも、後ろで見ていたレンとヴァリンも、勝利を確信する……が。


「シィッ!」


 着弾寸前、目をクワっと開いた海賊はサーベルを縦一閃。

 炎の球は真っ二つに割れ左右の壁に当たった。


「…………は?」


 一瞬の出来事にぼんやりと口を開けているミランジェ。

 海賊は目にも止まらぬ速さでサーベルを数回振ってから上段に構える。

 先程までのチンピラ然とした雰囲気など微塵(みじん)も感じさせない、美しさすら感じる剣舞だった。


「油断するな派手女! そいつをただの賊とは思うな! 首が飛ぶぞ!」

「お、お、おかしいってこいつ! これだけの技があってなんで海賊なんてやってんの!?」

「……ゲームだからじゃね?」


 便利な言葉だ。


「仕方ないなぁ。手伝ってやるよ」

「ッ! いいから先輩も見てなって!」


 ヴァリンの提案を蹴って目の前の相手に集中。

 経験をつむにはこれくらいの相手でなければ意味がない。


(とにかく落ち着けって……リンネちゃんに言われたっけ)


 つい両手でファイアーボールを連射したくなってしまうが我慢する。それで倒せる気はしないし、この先の戦いに備え魔力を温存する必要もある。

 サーベルを構えたままジリジリと距離をつめて来る海賊。間合いに入ることは死に等しい。


「……ファイアーボール!」


 撃った。

 目標は海賊――ではなくその真上だ。

 洞窟の天井が爆風とともに吹き飛び破片が落ちる。

 それが合図のように海賊はミランジェに突っ込んできた。いちいち上を確認していてはその隙に撃たれるからだ。

 

「ファイアーシールド!」


 炎の障壁を展開し、ミランジェは迎え撃つ姿勢。


「バカやめろ! そんなレベルの魔法じゃぶった切られるぞ!」

「いや、派手女は分かっている」


 海賊は高速の剣を振るった。

 炎の盾にたやすくサーベルが切り込まれる。


「まずは、相手の強みをなんとかしろって……リンネちゃんに教わったからねぇ……」


 切り裂かれた炎から現れたミランジェは、サーベルを両の手で挟み受け止めていた。

 直後、海賊の顔面に飛び蹴りを入れ、武器を取り上げる。


「うお!? すげーなミランジェ……」

「魔法障壁を切って剣速が鈍ったところを捕まえたか。未熟な防御魔法も使い方次第……ということだな」


 ミランジェは転んだ海賊に再度ファイアーボールを撃ち込み、コインへと変える。


「どうよ! 見てた? うちの活躍!」

「正直死んだと思ったわぁ」

「ヴァリン先輩は正直すぎ!」


 喜ぶ二人の後ろでレンは、何も言わずに落ちたサーベルを見つめていた。

 彼女が知る以前のミランジェならば、もっと強引な戦い方をしていたはずだ。

 だが今は少し違う。優秀な身体能力と熱い度胸の中に見える、冷徹(れいてつ)な魔導士の影。


(リンネだな……この短期間でよくやる)


 このままリンネがミランジェを鍛え続けた場合、いったいどれほどの怪物が生まれるのか。

 期待と、ほんのわずかな恐怖を、レンはその小さな胸に抱いていた。



 ◇



「下っ端が世話になったみてーだなぁ?」


 洞窟の奥から姿を現したのは大柄な男。部下と思わしき者を数人連れている。


「あんな強い奴が下っ端でたまるか!」


 設定された台詞なのだと分かっていても、真面目に返してしまうミランジェ。


「少しは腕に覚えがあるようだが、これならどうだぁ?」


 男は部下たちに指で合図。するとタルを持った者が何人かやって来て、中身を地面にぶちまけた。

 透明な液体がドロロっと広がる。


「毒ッ!? ……じゃないか」


 ヴァリンはすぐに思いなおす。自分たちもいる空間に毒をまくことはしないだろう。


「先輩……この液体……」

「どうした?」

「めっちゃヌルヌルしてます!」

「ええー!?」


 足元の液体をすくったミランジェがその手を上げると、ねばーっと糸を引く。

 はぁ、とため息をついたヴァリン。


「お前らバカかぁ? こんなモンばら撒いちまったら互いに動けなくなって――」

「いけぃ! 野郎どもォ!」

「オゥ!!!」

「ウソッ!?」


 海賊の手下たちは何の問題も無く走って来た。滑らない靴でも履いているのだろうか。

 一人一人が先程の下っ端と同程度なのだとすれば非常にマズい状況である。


「ヤバヤバヤバヤバ!」

「ヴぁっ、ヴァリン先輩! 引っ張らないで下さいよっ!」

「だ、だって下がぬるぬる滑って……」


 ミランジェとヴァリンは掴み合った状態でどうにか姿勢を維持していた。何度も足がつるっと滑りそうになっているが、互いに素晴らしいバランス感覚で持ちこたえている……が、

 

「んばああああああ!!!」


 無理だった。

 絡み合ったまま派手に転ぶ。口の中に液体が侵入して水着が脱げて飛んだ。

 そこに襲い掛かって来る海賊。ゲームオーバーは近い。


「いやあああああ!」


 そんな二人の様子を大人しく見ていたレン。

 呆れたような顔をしてから、地面に指を置く。

 

「……アイスエイジ」


 氷の魔力が広がり、液体ごと地面を一瞬で凍結させた。

 ボスを含め、海賊たちは全員足が氷付き動けない……ミランジェたちまで巻き込まれてるけど。


「あひぃぃぃ……寒い寒い……」

「おチビィ! うちらだけすぐ溶かしてぇ!」


 ほぼ裸の状態なのでそりゃあ寒いはずである。


「そんな器用なことが出来る魔法ではない、少し待っていろ」


 必死で脱出しようとしている海賊たちに近付いていく。


「風邪をひく前には、終わらせてやる」


 薄く笑い、レンはその小さな手を伸ばした。



 ◇



「まさか本当に海賊を退治していただけるとは……これをどうぞ。村の宝、『黒の欠片』でございます」

「おほっ、サンキューじいさん」


 ヴァリンが受け取ったのは小さな黒い宝石。


「これ売れんの?」

「それを含めてこの世界に十個存在しているそうでな。全て集めることが出来れば、伝説の『黒のオーブ』になると言われております」

「あ~、そういうやつね……って十個ォ!? メンドくさっ!」


 噛み合わない会話にももう慣れっ子である。

 礼を受け取り、ヴァリンは老人の家を出た。


「お礼貰って来たけど……これと同じのあと九個見つけろって」

「うわ、面倒くさいですね」

「だが、ゲームのクリアには必要なのではないか?」

「レン正解。オーブになるんだってさ」


 村の外を目指す三人。


「はぁ、結局おチビに良いとこ持ってかれちゃったなぁ」

「言葉の使い方を間違えているぞ。あれは助けられたというべきだ」

「別にいいんじゃね? 勝ったんだしさ。ミランジェは変なところに拘るよなぁ」


 歩きながら地図を広げるヴァリン。


「次の目的地は……こっから北東だな。町があるってよ」

「どうせ何か問題が起きてんでしょうね」

「だろうなぁ。だんだんどういうゲームか分かって来たわ。そこで悪い奴を倒せばまた黒の欠片がもらえるはずだ」

「まだ九個探さなきゃいけないんですよね……うしっ! 全部集めるまでにもっと強くなってやる!」

「ふっ……次は私に助けられるなよ? 派手女」


 なんだかんだで、ゲームを楽しみ始めている三人でした。

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