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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
最後のうねうね☆マジック!
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第百八話 お仕置きのうねうねマジック!



「ウソでしょ……」


 目の前で繰り広げられているお祭りのような戦いを見て、ハイズはそう漏らしていた。

 たっぷりと時間を掛けて準備した伝説の勇者が、人類の歴史上最強の存在が、あっけなく敗北しようとしていた。

 楽しそうに戦うフィノの仲間たちによって。


「ハイズ、もう終わりだよ。負けを認めて」


 一緒にその祭りをながめていたフィノがハイズの方に。


「……分かった」


 ハイズは素直だった。


「確かに凄かった。ヤドリギさんだけじゃなくて、人間たちも。甘く見てたね」


 ハイズは笑顔だった。

 作った顔ではなく、自然な微笑みで。

 

「ごめんね。まだちょっとついていけてない。今日のところはもう帰るよ」


 何かから解き放たれたように清々しく。


「楽しかったよヤドリギさん。ありがとね。本当に、ありがとね」


 ほんの少しだけ涙を見せて、ハイズはその体から出ていった。


「……ハイズ」


 フィノはその抜け殻になった死体を優しく抱きしめると――。



「あたしが、それであなたを許すと思う?」



 こわ~~い顔で、そう言った。



 ◇



「楽しかったなぁ」


 暖かくて風の気持ちいい原っぱ。

 ハイズはそこに寝転んでいた。


「やっぱり、ヤドリギさんは凄かった」


 ここは霊界の一部分。

 ハイズの思念が作り出した、彼女の領域。

 決して誰も追うことが出来なかった、彼女だけの世界。


「奇跡を見せてもらえた」


 感動的な演劇を見終わった少女のように、幽体のハイズは胸に手を当てる。


「あの人たちのこと、あの町のこと。もっと知りたいな。最初っから」


 手を上に向けて念じると、一冊の本が具現化された。

 本の表紙には『うねうね☆マジック!』と書かれている。

 これは霊界の現象記憶(アカシックレコード)という、地上での出来事すべてが記された存在から取り出した、あの町での記録だった。


 ハイズは嬉しそうにその本を開く。


「ヤドリギさんの所にミランジェちゃんがやってきて始まるんだね~」


 お菓子も具現化して、うつ伏せになって本を読む。

 足をパタパタさせながら読書を楽しんでいた、だけど――。


「え?」


 晴れていた空に雲がかかり始めた。

 おかしいな。

 ここは全てがハイズの思い通りになる領域なのに。


「え? え? え?」


 ゴゴゴゴ……と雷が鳴り始め、次の瞬間、霊界中に響くような大きな声が聞こえて来た。


『ハイズ! まだ話は終わってないよ!』


「あえええええ!??? なんでぇ?」


 腕を組んで空からゆっくり降りて来たフィノ。

 お説教モード。


『あなたが捨てていった肉体から、魂の残滓(ざんし)をたどってここまで来たの。思念追跡(サイコメトリー)っていう霊能力を極めるとこんなことも出来るんだよ』


「し、知らなかった……」


『うん。まだまだ若い魂だからね。これから知らなくちゃいけないことが沢山あるんだ』


 ハイズは慌てて立ち上がると、ステッキを取り出してフィノに向けた。


「い、いちお~ミーの霊力はアニタちゃんを完全に支配できるくらいには強いんだけど……」


 霊界での強さは持っているエネルギーの強さである。

 ということはつまり。


霊界(こっち)で、(あたし)にかなうと思う?』


 にぱっと笑うフィノ。

 それと同時に、世界にビシビシと亀裂が入っていく。

 空も大地も空間も、ガラスのようにバリンと割れて、宇宙空間のような世界に変わった。


「だ、だよね~~」


 霊力の差は明らかで、百倍などという話ではまるできかない。

 何万、何億、何兆――。

 まるで一人の人間と星を比べているような、そんな規模でパワーが違う。

 歩んできた人生の回数がまるで違うのだ。

 それは、流してきた涙と振りまいてきた笑顔の差でもあった。

 


『ラッシュヴァイン!』



 フィノの腕から打ち出された何本もの触手がハイズを捕まえた。


「あ、あ、あああ~~~~!!!」


 叫びながらギュアっと引き寄せられていくハイズ。

 フィノはミシミシと拳に力を込めて、


『どぉっっりゃああ~~~~!!!』


 神の拳をハイズの顔面に叩き込んだ。


「ぐべらっ!」


『ハイズ! あたしと一緒に地上に戻るんだ! 捨てた肉体に帰って、その人生を最後まで生き抜きなさい! あなたの自由は奪う、霊能力も閉じるよ! やってしまったことはもうどうにならないけど、現実を知って反省して、いつの日かもう一度やり直せるようにね! あたしも、一緒に頑張るから!』


「はい……。ご、ごめんなひゃい……」


『うん。いい子!』


 フィノは優しく微笑んで、ハイズの頭をなでた。

 こうして、呪術師ハイズとフィノたちの決戦は、完全勝利で幕を閉じたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 激闘の次の日。


「「はぁ~~~……」」


 フィノとミランジェが疲れた顔で息を吐き出した。

 場所はお昼の学生食堂。


「ミランジェも疲れてるね……」


 お茶をちょっとすすってフィノが。


「うん、体中痛いし。昨日からずっと質問攻めされててさ。どうやってそんな強くなったの? って。戦ってたのうちじゃなくてあいつなんだから知らねーって」


 ぐで~っとテーブルにほっぺたを乗せて話すミランジェ。


「あはは、大活躍だったもんね。もう一人のミランジェ」


「しかもうちの指輪はまたリンネちゃんに没収されたし」


 若い方のミランジェちゃんに返したわけじゃないからね~。

 ともう一度取り上げられてしまったのだ。残念。


「にしても」


 ミランジェは隣の席で食事している女性をジロジロと見始めた。


「勇者様ってこんなゆるい人だったんだね」


 そこには幸せそうに菓子パンを頬張っているアニタがいた。


「未来のパンって甘くて美味しいですねぇ~。えへ~」


 のんびりとした話し方と動作でもくもくと食べていた。


「ほらアニタ。食べカスこぼしてるよ」


 テーブルを雑巾でフィノがふいてあげる。


「ふわ、ありがとうねぇ~」


 一人だけ時間の進みが遅いんじゃないかってくらい食べるのも話すのも遅かった。


「し、信じらんない。このボーっとしたお姉さんがあんなに強いなんて……!」


 納得いかなそうにミランジェが言う。

 実際あり得ないくらい強かった。

 未来のミランジェを含めたあれだけのメンバーを同時に相手取りしっかり生き残ったのである。


「非常時はもうちょっとカッコいいんだけどね」


 苦笑しながらフォローするフィノ。


「さて、それじゃあ、あたしは帰ろうかな」


「ん、フィノっちもう帰っちゃうの? 何も食べてないじゃん」


「うん。家の掃除もまだ残ってるし、お客さんも来るしね。ほらアニタ、帰るよ」


「はぁ~い」


 アニタを立たせると、その手を引いてフィノは食堂から出ていった。


「……子供が一人増えたみたいだな」


 ボソッとミランジェはつぶやいていた。



 ◇



「ただいま~」

「おかえり、フィノ」


 パタパタと飛んできて出迎えたのは使い魔のリリムだ。

 また手のひらサイズに戻っていた。

 決戦時にヘンなモノを召喚した代償に魔力の大半を失ってしまったのである。


「お昼ごはん買って来たよ。みんなで食べよ」

「食事ならばルルが台所で何やら作っていたぞ」

「え? ルルが?」


 フィノが驚くと、台所の方から皿を両手で持ったルルがやってきた。


「ルル。ご飯作ってくれたの?」

「うむ、セスに食わせる」

「そっか。お母さんに」


 微笑んだフィノはアニタと共に家に上がって、みんなでセスの部屋に向かった。


「お母さん。大丈夫?」

「ああ、痛みとかはないぞ」


 ベッドに寝ていたセス。

 水差しを使った反動で歩くのも難しい状態だった。


「ふふ、ルルがご飯作ってくれたんだって」

「マジか」

「うむ、特性スープ、元気が出るよ」


「ごめんなさい。私のせいで……」


 しゅんとしたアニタが謝った。


「あっはっは、気にすんなって! 操られてたんだし、アニタは悪かないよ」


 さわやかに笑い飛ばすセス。

 それでも元気がないアニタに、ルルが持っていた皿とスプーンを差し出した。


「これ、アニタが食べさせてあげれば、それで仲直り」


 ぱぁっとアニタの表情が明るくなった……けど、フィノだけはちょっと嫌な予感がしていた。


「ルルちゃん、ありがとうね!」


 それを受け取ったアニタがスプーンでスープをすくって、セスの顔の前に持っていく。


「はい、ど~ぞ♪」


 べちゃ。


「あっっちぃ! あっっっちぃいい!!!」

「あ~~~ごめんなさいぃ~~~」


 ボタボタ。


「あぢゃああああああああ!!!」

「ふわ~~~!?」


「やっぱりか~……」


 リリムからさっと渡されたタオルでこぼれたスープをふくフィノ。

 そんな感じで騒いでいると、


「邪魔するよ」


 窓から忍者のようにするりとメイドさんが入ってきた。


「お、おお、スズか」


 セスが体を起こした。


「言われた通り来たけど、何の用?」


 壁に背を預けてスズが聞く。


「いやさ、ハイズにも勝ったし、そろそろ親父を家に呼ぼうかと思ったんだけど、いったいどこにかくまったんだ?」


 その質問にスズはちょっと固まってから答えた。


「知らない。彼を逃がしたのは師匠だし。というか、私はセスが知ってると思ってたんだけど」


「マジか?」


「マジだ」


 あぁ、いつも通りまた大変になるなぁ。

 とフィノはそう考えていた。


「仕方ないね。しばらく学校休んで、じっちゃん探そうか」


 このままでは卒業がいつになってしまうのか、それは分からないけれど、それもまぁ悪くはないかなぁ、と、フィノは相変わらず、困ったように微笑んでいるのだった。

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