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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
最後のうねうね☆マジック!
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第百七話 バカみたいだけどこれがこの町の強さだから



「どうしてあんな所にいるんだか」


 水差しを持って自宅まで戻って来たフィノは、屋根の上にいるハイズとアニタを見てため息をついた。


「まぁ、話しやすいからいいんだけど」


 腕から触手を伸ばし引っかけて、自分も屋根に上がる。


「あー!」


 嬉しそうにフィノを指差すハイズ。

 アニタはすぐに剣を抜いて斬りかかった。


「まったく、アニタまで連れ出して……」


 フィノにその剣は届かなかった。

 見えない壁のようなもので、剣は途中で止められていた。


「やぁっぱり♪ 比較にもならないほど力が大きくなってる!」


 にたぁっと笑うハイズ。


「魔力を障壁に変えただけだから大したことないよ」

「そーなの?」

「うん、だけど」


 フィノは持っていた水差しをなでるようにして力を込めると、


「アニタを抑えてあなたを追い詰める。それは変わらない」


 隣の空き地に放り投げた。

 空き地の中心あたりに転がった水差しはそこに根を張り、芽が生え、グングンと上に伸びていく。


「けどね、あたしが一人で勝つだけじゃ、ただ力で上回るだけじゃ、その後何を言ってもきっとあなたには伝わらないと思う。ふさぎ込んでしまったその魂には」


 根はどんどん深く広がり、ミシミシと音をたてながら水差しは樹に変わっていく。


「だから、まず教えてあげなくちゃいけない。あなたの知ってることだけが全てじゃないって。(あたし)なんかよりもずっと凄い、人間(みんな)の強さと輝きを」


 雲に届きそうなほど大きく太く育って、枝が伸びて、葉が生い茂る。

 根元には沢山の花も。


「植物っていうのはね、命を伝えるための力なんだ。これからこの町でなにが起こるか、その霊視の目でよく見ておきなさい! ハイズ!」


 大樹に姿を変えたその水差しは、町全体に、(フィノ)の優しい力を流し始めた。



 ◇



「ぐふっ、ぐあ」


 蹴り飛ばされたレンが壁にぶつかり倒れた。


「よく耐えたもんだなぁ。けど、これ以上やるならホントに死ぬぜ?」


 拳をパキパキと鳴らしながらダリウスが言った。

 レンは折れた腕をかばいながら立ち上がる。


「まだだ、まだまだ……。ここは、守ってみせる」


「アッハハハ! 大したお子様だ。そうだ、ハイズちゃんに言ったらゾンビにしてもらえるかもな? なら、殺して君を仲間にするとしようかな」


 そこで、両者とも異変に気が付く。


「……花の、香り……?」


 レンは気持ちよさそうにつぶやいた。

 ただよってくるふんわりとした匂い。

 体だけでなく、心まで包み込んで癒すような心地いい空気だった。


「なっ!? かっ、体が!?」


 気が付けば、傷だらけだったレンの体はすっかり回復していた。

 それどころか消耗した魔力まで元に戻っている。


「あれ? オレ死んだような気が……」

「あっはぁ、た~ぶんアタシもヤバかったんだけどね。なんでかな、すんごい元気!」


 近くで倒れていたジズとユミルがむくりと起き上がった。生気にあふれた顔で。


「私はもう何があっても驚かないよ! 世の中冗談みたいな話ばっかりだからね!」


 そこにシュバっと現れたのはスズだった。

 背中にはニケの死体を背負っていたのだが、


「そうじゃな、流石のわしも生き返った経験は初めてじゃ」


 その死体がパチッと目を開けた。


「なんだ? 犬っころが生き返った? ゾンビ化してるわけでもないし、なにが起こってる?」


 ずっとニヤニヤしていたダリウスの笑みが消えていた。

 ニケはスズから降りるとビッと指を指す。


「ダリウス! 今度こそお主を捕らえるぞ! その罪、きちんと償ってもらう!」

「チッ!」


 ここでダリウスも自らの変化に気が付いた。

 蘇生していたのだ。ダリウスの体も。

 ゾンビとしての強化や苦痛の緩和が消えてしまった。


「スズ! 今度はわしらが前衛(メイン)じゃ! ジズとユミル、それからレンはサポートせい!」


 五対一の戦いである。


「レッドテイル!」

「ブルーストリーム!」


 ジズとユミルが同時に放った魔法がダリウスの隙を作った。

 そこに飛び込んできたニケのツメによって胸を引き裂かれる。


「ぐあ!」


 追い打ちのようにスズがクナイを投げつける。両手足に突き刺さった。


「どうやら向こうに見えている樹に理由がありそうなんだがな」


 そこに駆け込んでいくのはレン。

 右手に冷気の魔力を集中させながら。


「とりあえず、貴様を倒すのが先だ!」

「グッ!」


 腕に刺さったクナイを口で抜き、カウンターを合わせるダリウス。

 しかし、


「ピキー!」

「!?」


 割り込んできてレンをかばったのはモンスターのスライムだった。

 レンの顔の前でぶにょんと潰れて打撃を殺してしまう。


「スラ吉か! お前も学院(ここ)の一員だったな!」


 思わぬ援軍に笑みがこぼれるレン。

 そのまままっすぐに魔力の拳を打ち込む。


「アイスエイジ! 一極集中!」

「ぐおおおおお!?」


 凝縮された氷の魔力をダリウスにぶち込んだ。

 解放された魔力が一気に広がり、分厚い氷となってダリウスを閉じ込める。


「どうだ、学院を守ったぞ。フィノ!」


 遠くに見える樹に向かって、レンは大きな声でそう言った。


 ◇


 倒れていたシェスカたちが起き上がる。


「あれ~? 生きてる!? 拙者なんだか死んでたような気がするんでござるが???」

「気がするどころか確実に死んでたッスよ。プリメーラさんの頭転がってたじゃないスか」

「あちし、飛び散った自分の内臓見ちった……」


 シェスカは落ちていた自分の剣を拾って、


「信じられないけど生き返ったみたい」


 自分の手や足を見ていた。


「一体何が何やら……」


 茫然(ぼうぜん)としているエリザに、


「植物とは命そのもの……やっぱり……」


 ぶつぶつと独り言を繰り返しているエスニャ。


「おい! フィノの家の方になんかあるぞ!?」


 天高く伸びた樹をヴァリンが指差す。


「お姉ちゃんだ! お姉ちゃんの匂いがする!」


 ルルが珍しく興奮しながら大きな声を出した。


「フィノが何かしたのね。それだったら、なんとなく理解できる」


 シェスカは安心したように笑って、


「みんな行くわよ! フィノを手伝いに行く!」


 剣を高くかかげてそう言った。


 ◇


「よぉ~~~しィ! 全員集まったな!? お前たちィ!!!」


 町で整列しているフィリス警備隊。

 先頭の隊長が大きな声を出した。

 隊員たちもそれに負けない声で返事をする。


「よーし! だが集まるまでにずいぶん時間が掛かったぞ! そこのお前! 何をやっていたぁ!?」


「はい! おやつの後のお昼寝タイム中にモンスターに襲われて、死んでおりましたぁ! 大変申し訳ございません!!!」


「バッカモーン! だが私も死んでいたから許してやる! 失った信頼はこれからの戦いで取り戻すのだ! 民間人を守りモンスターどもを一匹残らずせん滅するぞ! とっっっつげきィィィ!!!」


「「うおおおおお~~~!!!」」


 やっと集まったヘッポコ軍隊は、町で暴れるモンスターに突撃していった!


 ◇


「やー!」


 槍を持ってモンスターと戦う警備隊だったが、中には当然、手強い奴もいるわけで。


「おっほぉぉ!?」


 ちょっぴり苦戦していた。

 相手は赤くて強い、レッドゴブリンの群れ。


「怯むな~! 押せ押せー!」


 隊長の声もむなしく逆に押されてしまう隊員たち。

 だがその時。

 隊員たちの間を駆け抜け前に出た集団がいた。


「アチョー!」


 集団は格闘技を使いレッドゴブリンと互角以上に戦っている。


「な、なんだぁ! あいつらは!」


 ちょっと悔しい隊長。


「えぇ~い! 情けなくないのか! お前たちィ!」


 とかなんとかやっていると、ズシンズシンと音をたてて何かが近付いて来た。


「え? え?」


 ぬぅっと現れたのは、なんと巨大なドラゴンであった。


「むりー!!! むりむりむり!」


 隊員と格闘家たちがあわてて逃げ出す中、一人の男がバッと前に飛び出した。


「ホアッチョオウ!」


 その男はドラゴンの下に潜り込むと、凄まじい蹴りをその腹にぶち込んだ!


「グオオオ!」


 一撃で沈むドラゴン。

 男は垂直に上がった足をゆっくりと下ろして。


「フッフッフ。この町で本当に強いのは魔導士ではない! それは俺たち――」


 カッコよくなんか言おうとしたところで、


「いっでぇえええええええ!!!」


 お尻を抑えてぶっ倒れた。


「た、大変だー! 師範の切れ痔が再発したー!」


 男は格闘家の集団に担がれて帰っていった――。


 ◇


 ブオーーーー。っと、馬車くらいしか想定されていない石の道を何台ものトラックが走っていた。

 何故かマフラーが改造されていてすんごいうるさい。

 車体のいたるところにフィノのイラストが貼ってある。痛トラ。

 痛トラックはモンスターたちをひき倒しながら爆走し、やがて止まると、


「はぁ~い。迷える子触手のみなさぁ~ん。こちらへ避難してくださいまし~」


 中から仮面の集団が降りてきて、逃げ遅れた町の人たちを保護し始めた。

 それどころか。


「どぉっっらぁ~!」


 金棒を持った奴が近くのモンスターを次々と殴り倒し始めた。

 他にも。


「ケケケ。フィノ様のお膝元で好きにさせん。血の制裁を、ですわ!」

「ちょっと~、ちゃんと録画しといてよね~。あとでフィノちゃんに見せて褒めてもらうんだから~」


 やたら強いのが仮面の中に混じっている。


 さらに両手にマシンガンを持ったグラサンマッチョの男たちまで次々とトラックから降りてきて戦い始めたのだ。

 ターミネー〇ー軍団である!


「フィノ様ー! このグレン・ビャクヤ。あんなこと言ってましたが、フィノ様の元で聖戦に参加するべく戻ってきてしまいましたわ~! よいしょお~」


 それらを率いていたリーダー格の仮面は、樹に向かって手を振って、近くのモンスターにショットガンをブチ込んだ。

 なんか、こいつらが一番町の役に立っていた。


 ◇


『カーーーー!!!』


 町を端から端まで、その赤いゴキブリは一秒もかからず駆け抜けた。

 通り道にいたモンスターたちがまとめて上空に打ち上げられ、


『ホッホッホ。触手の少女らを倒すのは、ワタシの役目ですからね』


 赤いゴキブリのボディが黄金に変わり、スパークを発しながら輝く気をシュインシュインとまとい始める。


『お見せしましょう、ワタシの真の力を。こうなってしまっては前ほど優しくはないぞーーー!』


 ズドドドド! とその気を光線に変えて何発も上空に放った!

 それらは打ち上げたモンスターたちに直撃し、ドラゴンだろうがなんだろうがお構いなしに粉々に破壊していく。


『おっと。この星まで破壊しないようにパワーを抑えなければ』


 なんかもう、いろいろと台無しだった。



 ◇



「……バカみたい」


 ハイズは呆気(あっけ)に取られていた。

 いつの間にかガルドとマイラは倒され、ダリウスも拘束されていた。

 送り込んだモンスター軍団も壊滅寸前。


 ついさっきまでは圧倒的に優勢だったのに、完全に逆転されてしまっていた。

 この町の住人たちの手によって。

 本気で戦力を集めたことを少し後悔していたくらいだったのに。


「バカみたいかもしれないけど、これがこの町の、人間(みんな)の強さなんだよ」


 人じゃないのも混じってるけどね! とフィノは笑った。


「……」


 ハイズは言葉を失っていた。

 目の前で起きた奇跡と人間たちの強さに。

 こんなものは見たことがなかった。

 知らなかった。


「たしかに、世の中には嫌なことがいっぱいあるよ。夢みたいな楽園なんかどこにもない。人は間違いを犯すし汚いところだってある。いつでもどこでも、誰かは泣いてるし困ってる。悲しいけどそれが現実」


 目を開けて、黙ってフィノを見るハイズ。


「でも、(あたし)超越者(あなた)を大きく上回る、この笑っちゃうような強さや輝きも、たしかに現実なんだよ。人間が生み出す楽しさと温かさなんだ」


 フィノは優しい口調で語る。


「ハイズ、あなただって、そんな可能性を秘めた人間なんだよ」


 その時、嬉しそうにフィノを見ていたアニタが、何かを伝えようと口をパクパク動かした。


「うん、分かってる。あの樹はもうじき消える」


 振り返って大樹を見た。

 樹は上から光の粒となって、ゆっくりと消滅を始めていた。


「リリムが水差しに仕込んだ術だね。お母さん以外が使ったら消えるようになってた。この道具は危険だし、扱いが難しいものだからきっとこれで正解。最後はあたしが壊そうと思ってたけど、ホント、気の利く使い魔だね、あの子は」


「そうだろう。もっと褒めるがいい」


 バサバサと翼を羽ばたかせ、リリムが上から降りて来た。


「!?」


 ハイズが驚くと同時に、アニタが剣を振った。

 リリムは魔法陣の盾でその剣を受け止めた。


「五百年ぶりだな勇者。かつて我を殺さずに封じたこと、一時期は復讐も考えたが、今となっては感謝しているぞ。おかげで良い(あるじ)に出会えた」


 魔法陣が割れ空間の裂け目が出現、アニタはそこに吸い込まれた。


「フィノ。勇者は我と女たちで倒す。お前はこいつと決着を付けろ」


 アニタが転移させられたのは、さっきまで大樹があった空き地。


「来たな。こっからが本番だ。やるぞ! サラマンダーインストール!」

「フフ……作戦とかは……まぁいらないかな……バトルゴーレム……レベルスリー……」


 そこにいたのは、この町で最強の魔導士が二人。

 ミランジェとリンネ。


「ちょっと、状況がよく分からないけど、私も手伝います! 回生結界!」


 フィノの家から飛び出してきたのは女医、メリル。


「フィノ! どこ行ってたのよ! あんたが遅れたから苦戦したじゃない! 私も戦うわ!」


 シェスカを先頭に仲間たちが次々と参戦してくる。


「ゆ、ゆ、勇者様相手に拙者が出来ることってあるのかなぁ~あ?」

「突進、突進。身長だけならプリメーラさんのが上ッスよ」

「バトルはあちしの専門外だけど、たまにゃいっかー!」

「伝説の勇者アニタ様、相手にとって不足無しですわ!」

「ルルも、たたかう」


 ミランジェとリンネを中心に仲間たちと勇者が戦う。

 土のゴーレムがインファイトを仕掛け、ミランジェが荒い炎で攻撃し、仲間たちがそれぞれの戦い方で勇者を攻撃する。


 彼女たちが反撃で死なないようにリリムとメリルが全力で援護していた。


 押していた。

 信じられないことに。

 彼女たちは伝説となった力を確実に上回っていた。


「クッソー! オレも混ぜろ! このままじゃまたリンネに良いとこ持ってかれちまうぜ!」


 さらに駆けつけてきたのがジズ。


「あっは♪ いつもならこういうのには乗っからないんだけどぉ、今はいっかぁ♡」


 続いてユミル。


「えぇ、ユミル先生までですかぁ!? で、では私も微力ながら……」


 控えめにエスニャが。


「プクー!」


 切り合いの最中に蹴り飛ばされたエリザを、風船のようにふくらんだスラ吉が優しく受け取めた。


「だはははは! どうだ! スラ吉は頼りになるだろうが! アタシのスラ吉は!」


 ヴァリンは泣きながら笑っていた。

 

「血が騒ぐな。わしもサポートではなく殴り合わせてもらおうか!」


 ニケは獣人モードで勇者のふところに飛び込んだ。


「こんなに人がいるんじゃ、忍装束は見せられないな」


 メイド服でやってきたスズ。

 それでも仲間たちで一番の体術を見せていた。


「こんな人数で戦う日が来るとはな。本当に、外の世界に出て良かった。町は楽しいな! フィノ!」


 いつもはむっつりしているレンも子供らしい笑顔で戦っていた。


「空よ! 大地よ! 我に力を与えよ! 女たちを守るため、今ここに天の意志を具現化させる! 我が魔力を贄に現れ出でよ! 陰茎王ォォォ!!!」


 最後に、リリムがどさくさでヘンなモノを召喚しようとしていた。

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