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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
最後のうねうね☆マジック!
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第百四話 明日を取り戻すための



 魔将ガルドは満足そうに町を闊歩(かっぽ)していた。

 建物の壊れる音、人間の悲鳴、愛する者を奪われて泣く声。

 聞こえてくるもの、目に入るもの全てが魔族の本能を(よろこ)ばせた。


「どうだリリィ。素晴らしいと思わないか」


 首に掛けたネックレスを掴んでそうつぶやいた。

 こんな姿に変えられても、彼女にはこの光景が見えているのだ。

 だがネックレスが発するのは、悦びではなく深い悲しみと怒り。


「クハハハ。どうやらしつけが必要なようだ」


 笑っていると、ビシっと小石が投げつけられた。

 飛んで来た方を見る、


「ほ~、まだ動く元気があったか」


 そこにいたのはルル。

 ポタポタと血を垂らしながらガルドをにらみつける。


「……かえせ」


 ネックレスがどくんと脈打った。


「かえせ! ソレかえせ!」


 怒りに染まった表情で、


「かえせ! すぐにかえせ! メリルもなおせ! 家もキレイにしろ! リリムをかえせ!」


 ルルはネックレスを何度も指差す。


「かえせって、言ってるだろぉおおおおおおおお!!!」


 飛び掛かるルル。

 だが、ガルドが上半身を少し動かすだけでその拳は空振った。


「かえせ! かえせ! かえせええええええええええええ!!!」


 奪われたのは、ルルにとって宝石のように輝いていた日々で、家と家族は、生まれて初めての幸せで、


「かえせ! かえせぇえええええええええええええええええ!!!」


 血の混じった咆哮(ほうこう)は、怪我の痛みさえ消し去って、いつも通りの明日がきっと帰ってくると信じて、少女にその拳を突き出させていた。

 が――。


「うるさい」

「ぐあっ!」


 あっけなく首をつかまれてしまったルル。


「大人しくしていれば命は取らん」


 魔族の力でギリギリと締め上げられる。


「あがあああ……」

「クハハ、苦しいか? 悔しいか? それでいい。人間の負の感情こそが我ら魔族の――」


 その時。

 目にも止まらぬ速さでガルドの前を横切る、一陣の風。


「なんだと?」


 それは、ルルを掴んでいたガルドの腕の、肘から先を全て奪っていった。


「速いな」


 ガルドが目だけを横にやる。

 そこに立っていたのは、ルルを抱きしめ、レイピアを強く握り、抑えきれない強い殺気をガルドに向けているエリザだった。


「エリザぁ……メリルがやられちゃった、リリムも……」


 泣き出したルルに、エリザは温かな笑みで応える。


「よく頑張りましたわね、ルル。後はワタクシに任せなさい」


 消えるような速度でその場から離れ、建物の壁を背にするようにルルを座らせた。

 傷の応急手当をし、(いつく)しむように頭をなでた。


「これでもう大丈夫ですわ。少し待っていなさい。すぐに終わらせて戻ります」

「エリザ、ネックレス! あいつのネックレス! リリムが変えられた! 取り返して!」


 エリザの服を掴んで懇願するルル。


「ネックレスですね。いいでしょう」


 その手を優しく握ってから、エリザは、


「ならば、奴の首ごと持ってきますわ」


 レイピアを取って立ち上がると、ガルドの方に歩く。


「もういいのか」


 ガルドは剣を握って待っていた。

 切り飛ばされた腕を綺麗に再生させて。


「まさかルルの手当てを黙って待っているとは、意外でしたわ」


「我ら魔族の目的は人間の根絶ではない。支配下に置き、絶望を与え、生み出される負の念を糧とすることにある。殺すのはほどほどでいい。特に子供の命は重要だ。子供に地獄を見せて生かしておけば、それは人間社会に大量の『負』をまき散らすことに繋がるからだ」


 淡々と説明するガルド。

 エリザはその場でレイピアを振ると、大きな声を出した。


「吐き気がする! 貴様のような(やから)はただ殺すだけでは収まらない! この世のあらゆる苦しみを味わって死ねっ!」


「クハハハ! それだ、その憎しみがいいのだ!」


 次の瞬間、魔力で強化されたレイピアと魔将の剣がぶつかり合った。

 エリザは風の速さで動き、ガルドはしっかりそれに対応する。

 普通の人間の目では決して見ることの出来ない高速の剣戟(けんげき)


 衝撃で付近の建物を震わせるほどの、激しい戦いの果てに――。


「ぐっ!」


 先に膝をついたのは、エリザだった。

 切られた肩を抑えるが血が止まらない。


「腕は悪くない。動きだけならば勇者をも凌駕(りょうが)する」


 エリザに剣を向けるガルド。


「だが、怒りに振り回されたな。余計な力は剣を鈍らせる」

「……偉そうに!」


 キッとにらみつけるエリザ。

 ガルドはその剣を振り上げ、


「悪いがトドメを刺させてもらうぞ。お前の力は我ら魔族に届きうるものだ。この先大きな障害となるやもしれん」


 振り下ろそうとした、が。


「だったら、私みたいにちっこくて弱っちいのは見逃してもらえるんスかね?」

「誰だ!?」


 聞こえてくる謎の声、だが周りには誰もいない。

 しかし、その声はだんだん近付いて来ていた。


「本当は魔族となんか関わりたくないんスけどね。お姫様の命令なんで、私のことだけは許してくれるとうれしーッス!」


 まずエリザが、直後にガルドも気付いた。

 気の抜ける様な声が聞こえてくるのは、二人の真上――。


「ライトニングスネイク!」


 それはガルドが上を見た瞬間、雷の魔力で作られた蛇が落ちてきてガルドの剣に噛み付いた。


「ぐおお!?」


 術の威力そのものは弱かったが、感電して動きが一瞬止まる。

 そこに長い足をめいっぱい使って走って来たのがプリメーラ。


「うおお! やっぱりこれが最終奥義でござるかぁ!」


 助走をつけて肩から体当たりをぶちかました。

 いくら中身が強くとも、体は普通の人間の死体である。

 ガルドはあっさり弾き飛ばされ地面を転がった。

 そこにステップを踏むように軽やかに近づいて行くのが、


「ルルの言ってたネックレスはこれか? あちしはスリじゃねんだけどな~」


 リオンだった。

 すっと手を近付けただけでネックレスを奪っていた。


「エリザ! 魔法の準備しときなさいよ!」


 エリザのレイピアを拾って走りだしたのがシェスカ。

 勢いをつけ、転んだガルドの胸にそれを深く突き刺した。

 そしてルルの近くに来ていたエスニャが叫ぶ。


「エリザ先生ー! 今です! レイピアに魔法を!」


 レイピアに手を向けたエリザが全力で唱える。

 彼女の持つ魔法で最大最強の威力を誇るソレを。

 

「ハリケーンスラスト!」

「ぐあああああああああ!」


 レイピアを中心に発生した風の刃がミキサーのようにガルドの体を引き裂いていく。


「ついでにこいつも食らっとけ! ソニックブーム!」


 シュノセルをぬいぐるみのように持って空から降ってきたヴァリン、手のひらを向け魔法を発動。

 轟音と共に撃ち出された風圧の壁が切り裂かれていくガルドの体をとらえ、建物の壁をぶち破りその向こうまで吹き飛ばした。


「うひょ~、やるなぁあいつら」


 素早く安全な所まで下がっていたリオン。

 その首にかけたネックレスがもぞもぞと動き始めると……。


「ぶは! 油断するな! 攻撃を食らいながらも体を再生していたぞ!」


 煙と共にリリムに変化した。


「うお? 本当にネックレスに変えられてたのか。半信半疑だったけど」

「そうだ、こうしている場合ではない! リオン!」

「んむぐっ!?」


 強引に唇を奪って、


「だがお前たちの攻撃は確実に効いているようだ。おかげで、町を包んでいた奴の結界が弱まったぞ!」


 これで、転移の術が使える。

 リリムはポケットから小さくなった水差しを取り出すと、魔術で元の大きさに戻し、


「セス! 聞こえるか!? 水差しを送るぞ! これでそっちはどうにかしろー!」


 空間に開けた穴に放り込んだ。

 そしてすぐに高く飛び、その場の全員に聞こえるように、


「逃げろぉー! 奴は魔将の名を持つ魔族だ! 本気になればあんな攻撃は通じん! 全員すぐに逃げろぉー!」


 必死の形相で叫ぶ。

 吹き飛ばされたガルドの魔力が、大きく膨らんでいくのを感じ取っていたから。

 町を覆う結界もすでに復活していた。


「一匹たりとて逃がしはせん。私を怒らせたからにはな」


 起き上がり、体を再生させ戻ってきたガルドの姿は、もう人間の死体ではなく、最上級の魔族そのもの。

 硬く変化した赤い皮膚に牙、体の筋肉はふくれ上がり、大きなツノが生えていた。


「逃げろ! 逃げろと言っている! はやく、はやく逃げるんだ!」


 叫び続けるリリムは泣いていた。

 どうしようもないことが分かっていたから。


「やめろ! 戦おうとするな!」


 それでも叫ばずにはいられなかった。

 大切な女たちが町を、仲間を守ろうとしてしまっていたから。

 四肢を奪われ、切り刻まれ、無残に殺されていく皆を見ながら、


「にげ……ろ……」


 生まれて初めての、涙を流していた。


「……」


 やがて、その場の全員がやられた時、リリムは逃げ出していた。


「ぐうううう……」


 悔しさと悲しみと怒りで、気が狂いそうになっていた。

 涙をポロポロと流しながら、みじめに逃げ出した。



 けれど――。



 その戦いは決して無駄にはならなかった。

 リリムが一矢報いるつもりで送った水差しは、ルルが心の底から願い拳を突き出した、いつも通りの明日を取り戻すための、この絶望的な状況を(くつがえ)すための、最初の――――。

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