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うねうね☆マジック!  作者: うさおう
最後のうねうね☆マジック!
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第百一話 魔将の力



「……なにが起こってんの?」


 寮の部屋、窓から外を見ながら、シェスカは不安げにつぶやいていた。

 町を包む結界の影響で昼間だというのに薄暗く、空に浮かんだいくつもの魔法陣からはモンスターたちが定期的に出現し町に下りるのが見える。


「シュノ、なにが起こってんのよ!?」


 同じ部屋で食事をしていたシュノセルに噛み付くように聞いた。


「さすがの私も何が何だかわかんねーッス」


 普段は元気に動いているシュノセルのアホ毛もしおれていた。


「閉じられた町にモンスター……。まるで五百年前の、魔王軍の侵攻ですね」


 シェスカの隣までやってきてそう言ったのはエスニャ。


「HAHAHA! いや~この世の終わりのような光景でござるなぁ!」


 やけくそのように笑っているプリメーラ。

 以上、四人がこの部屋に集まっていた。


「プリメーラ! 笑ってる場合じゃないでしょ! スズがまだ見つかってないのよ!?」


 そう、皆が集まっている、この部屋の主が戻ってこないのだ。

 何人で押し掛けても嫌な顔をするだけで、決して出ていけとは言わなかった彼女が。


「フィノやリオンならともかく、あのどんくさいスズが強いモンスターと出会ったら即死じゃない!」


 焦りが苛立ちとなって出てしまうシェスカ。

 とそこで、


「だ~めだ。どこにもいねーよー。スズのやつ」


 軽い言葉と動作で窓からするりと入って来たのはリオン。


「おかえり、リンネの部屋も調べた?」


「あぁ。やっぱ学院にゃいねーよ。たぶん町だろうけど、あっちは今とんでもないことんなってるぜ。警備隊が戦ってるけど全然手が回ってない。おまけにちょくちょく竜巻が発生して人間や建物を吹っ飛ばしてる」


 リオンの口調は軽いが表情は真剣そのものである。

 シェスカは少し考え込んで、


「……町に行くわ。スズをほっとけないもの」


 決意を秘めた瞳でそう言った。


「へあ!? 正気にござるか!?」

「だって仕方ないじゃない。誰かが行かなきゃあの子死んじゃうわよ。なんでもかんでもフィノに頼ってられないし」


 ベッドの下から細身の剣を取り出したシェスカは腰のベルトに差した。


「シェスカ様、さっすがにやめといた方が良いと思うッスよ? 学院からは寮で待機するように言われてるわけだし、最悪退学もあり得るんで」


「そのためにあんたを連れてくんでしょ、シュノ。教員に見つかった時なんて言うか考えといて」


「あははは……マジッスか」


「あわれシュノ殿。な~む~」


「なに祈ってんの、あんたも行くのよプリメーラ」


「……それマジに言ってるでござるか?」


「当たり前でしょ。あんた一番おっきいんだから、武器持ってれば戦力になるじゃない。ホントはヴァリンが良いけど今日は見かけないし」


「残念! にござったなぁ! 拙者は今武器は何も持って――」


「はい、頼りにしてるわよ」


 シェスカはベッドの下から両手剣を引っ張り出した。


「こ、これは! かつて勇者様が持っていたとされる伝説の剣!? 実在していたのでござるか!」


「学院の武器屋で五万くらいだったわ。あげるから手伝って」


 押し切られたプリメーラは仕方なく剣を背負う。


「エスニャはどうする? あんたスズとはあんま話したことないでしょ?」


 そう振られたエスニャは薄く微笑んで、


「行かせてください。友人の友人は、やはり、友人だと思っていますから」


 ゆっくりと、けどハッキリとそう言った。

 シェスカはちょっと驚いて。


「……なんか、あんた最近変わったわね。知り合ったばっかの時とは正反対よ。色々と」

「フィノさんならそうおっしゃるかと」

「ふ~ん、そういうことか」


「ですが、どうやって学院を出るんですか? 門は間違いなく教員が見張っていると思いますが」


「あ~お嬢さんたち。そういうことならあちしに任せな?」


 にやっと笑ったリオンが、カギ爪の付いたロープを手品のように取り出した。



 ◇



「食らえッ!」


 赤髪の教員、ジズは作り出した炎の球をサッカーボールのように蹴り飛ばした。

 炎球は形を歪ませながら飛び蛇型のモンスターに着弾し爆発、これを撃破した。


「これで学院に入り込んだのは全部かな。次に警戒しねーと」


 キョロキョロと辺りを見回し一息。


「ジ~ズ~。こいつらの焼却もおねが~い」


 明らかに自分より大きなモンスターをまとめて引きずってきたのはユミル。


「うっす、了解です」


 ジズはピシっと背筋を伸ばして返事をした。


「あっはぁ♡ こういう時便利よね~炎使いは」

「戦う時は校舎なんかに燃え移らないよう気を使う必要はありますがね。けっこう大変なんすよ」


「ジズ、こちらも頼めるか」


 同じようにモンスターの死骸を引っ張ってきたのはレンだった。


「いいけど、どうしてレンが戦ってんだよ? 生徒は寮で待機って指示されただろ」


「学院長から直接の指示があった。教員たちと協力して学院を守れと」


「そういうことか……。いくら強くても緊急時に生徒を動かすなんて、ずいぶん信頼されてんだな。ま~、たしかにレンなら頼りになるけど」


「あは、最近は初期の問題児っぷりが嘘みたいに優等生だもんね~、この子は」


 ムスっとした顔で腕を組んでいるレンの頭をわしゃわしゃとなでるユミル。


「そんな話はどうだっていい。それより、ミランジェとヴァリンは何をやっている? この状況であの二人を遊ばせておくというのはあり得ないぞ。学院の守りとして十分機能するはずだ」


「学院長があいつらの実力を把握してないワケねーし、声かかってねーならなんか理由があんだろ」


「う~ん、そういえば二人とも今日は見かけないわね……アレ?」


 それに気が付いたのはユミルだった。

 教員の一人がフラフラとこちらに近付いて来ていた。

 苦しそうに、一歩踏み出すごとに口から血が垂れている。


「ダイアナ!?」


 慌てて駆け寄ったジズが彼女を支える。


「が、学院長に報告を……長身の男……学院に乗り込んできて……恐ろしい強さで……」


 絞り出すようにそこまで言って、


「……オイ、オイ! ダイアナ!」


 彼女がその続きを話すことはもうなかった。


「死んでる……。相手は人間? この状況で?」


 悲しそうな顔でユミルが言った。

 すると――。


「いや~ごめんね? 別に俺もそこまでやる気じゃなかったんだよ。簡単には殺すなってこっちのボスから命令もあったし。でもさぁ~、せっかく楽しい戦いをしてたところを邪魔されたばっかりで、ちょっと力入っちゃったみたいなんだよね。ごめんごめん」


 ニヤニヤとしながら歩いて来たのは、ダリウス。


「まぁでも、もっと強そうな連中のところに案内してくれたのはラッキーだったかな。一応魔法使いのエリートなんだろ? ここにいるのは」


「……ブッッ殺す!」


 涙を流しながら激怒したジズは炎の球を作って思い切り投げつけた。


「それでもやっぱ、こんな所に残ってる時点で二軍かな」


 ダリウスは飛んで来た炎球を掌底突きで打ち消した。


「炎使いなら山に来た子の方が強そうだった」


 余裕たっぷりに笑うその背後、まわりこんでいたユミルが短剣を振りかぶって――。


「シャアッ!」

「ぐふ!?」


 振り向いたダリウスの正拳突きがユミルを吹っ飛ばした。


「やべ、またやっちゃった」


 と、殴った拳を見てつぶやくダリウスだったが、ユミルは再び立ち上がって短剣を構えた。


「ありゃ?」


 不思議そうに首をかしげる。

 どんな鍛え方をしていてもしばらくは動けない程の一撃だった。


「氷か?」


 よく見ればユミルの腹には砕けた氷が付着していた。

 彼女を守る鎧のように。


「二軍とは言ってくれるなチャラ男。誰と比べているのかは知らんが、守りで私の右に出る者はいないぞ」


 冷気の魔力を全身から放出させながら、瞳だけを怒らせているレンだった。


「アッハッハ! 天才キッズってのはどうしてみんな、俺をそう呼ぶんだろうね!」


 レンを見て楽しそうに笑い、ダリウスは力強く地を蹴った。



 ◇



『なぁ……。おい、聞こえるか? リリム』


『セスか!? 無事だったのか! そちらの状況は!?』


『わり、細かく説明する体力も残っちゃいねーや。なにより、あたしにもなにが起こったのかよく分からないんだ』


『……そうか、急ぎで何か伝えたいことがあるのか?』


『あぁ。あの水差しを送ってくれ。それで、全部解決する気がするんだ』


『水差しだな。良いだろう。だが少し時間が掛かるぞ。死なんようにだけ気を使って待っていろ』


 リリムは目を開けてセスとの念話を中断。


「こいつが町に張った結界の影響で、転移の術が使えんのだ」


 その視線の先にはいるのは黒い剣を持つ魔将、ガルド。


「やあああああ!」


 メリルの術によって身体能力を強化されたルルが飛び掛かった。


「素晴らしい速度だが所詮子供だ」


 ガルドは容易くそこに剣を合わせるが、


「波動消滅! 単身魔封印!」


 両手に札を持って割り込んできたメリルを警戒してすぐに下がる。

 メリルは武道家のように足を開いた構えを取った。

 そんな彼女を見て、ガルドは口を開く。


「リリィほどではないが貴様もかつて戦った時より弱っているな。動きは向上しているが肝心のエネルギーが半分以下だ。それでは大した術は扱えまい」


「……」


「愚か者め。勝利に酔って修行を怠けていたようだな。しかし――」


 ガルドの、普通の人間の死体でしかなかったそのボディが赤く変色していく。


「我ら魔族の糧となる人間を、無意味に殺すつもりはないが、貴様だけは別だ」


 肌は硬質化し、牙が生え、魔族そのものと言える姿に変わっていく。


「二度と魔族を(おびや)かすことが出来ぬよう。ここで確実に仕留める!」


 それは、かつて魔将と呼ばれた魔族の、全力で戦う時の姿だった。


「ルル! 気を付けろ! さっきまでとは別物だぞ!」


 叫んだリリムは魔術で鎖を生み出し、ガルドを拘束。

 そこに人外の力を拳に込めたルルが駆け込む。


「情けないなリリィ、こんな貧弱な術が何になる!」


 あっけないほど簡単に鎖を断ち切って、ガルドはルルをその剣で切りつけた。


「ぎゃ!」

「ルルちゃん!」


 回復させるために動いたメリルの前には、もうガルドがいた。


「くっ!」


 とっさに構えるも間に合わず、


「あっ……」


 その剣は、メリルの体を深々と切り裂いた。

 ガルドはおびただしい量の血を流し倒れたメリルを満足そうに見下ろすと、


「……よし、確実に息の根は止まっているな」


 そうつぶやいて笑みを浮かべ、元の人間の姿に戻ると、リリムの方に向き直る。


「なんということだ……くっ!」


 逃げ出そうと窓の方に飛んでいくリリムだったが、ガルドの腕がぎゅっと伸び、その小さな体を掴んで引き寄せた。


「離せ! 我に触れるんじゃない!」

「今は大人しくしていろ」

「なにっ!?」


 魔術でリリムの体をネックレスに変化させた。


「ハイズを支配下に置いた後で、ゆっくりと思い出させてやる。我ら魔族の本性をな」


 それを首に掛けて、


「我らが王の復活まで真摯(しんし)に働けば、今度こそ魔将の地位を授けてもらえるやもしれんぞ? ククク、ハハハハ、ハッハッハッハッハ――」


 高笑いをしながら、ガルドは血に染まったフィノの家を出ていった。

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