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KGI  作者: び
第一章 始まりと生活
4/5

強くなるために

 いつの間にか眠っていたようで、もう日は高く登り隣にアレンはもう居ない。リビングに出るとアレンはどこかに出かける様子でいた。


「おはよう、と言ってももう昼だけどな。よく寝れたらしいな」

「……お陰様で」


 添い寝されてぐっすり寝るってどっちが子供かわかったものじゃないね。もう昼なんだ……寝すぎた。


「どっかいくの?」

「ああ、依頼にな。少し遅くなるかもしれない。出掛けてもいいが充分気をつけるんだぞ」

「うん、アレンも気をつけてね」

「怪我せず帰ってくるさ。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 全帝の仕事だろうか。アレンは出掛けてもいいって言ってたけど用事もないし探索もする気はないし欲しいものとかも特にない……からアレンが帰ってくるまで家でぼーっとしてた。


 日が傾き始めた頃アレンは帰ってきて、少し疲れた様子だったけど怪我もなさそうだった。そしてご飯を作る。

 夜になって各自室で眠りにつく……けど僕はやっぱり寝れなくて。昨日の夜を思い出す。こっそりアレンの部屋に行くとアレンはぐっすり寝てた。入ってもバレないかな?寝てる?よね。


「失礼しまーす……」


 起こさないようにそっとベッドに上がってアレンの腕の中に入る。暖かい。落ち着く。……アレンが笑ったように見えた。

 翌朝、目を覚ますとアレンとバッチリ目が合った。


「オハヨゴザイマス」

「気づいてたよ、おはよう」


 軽く笑って僕を撫でる。きづかれてたんですかそうですか……


「今日も依頼片付けに行く。昨日ほど遅くはならないとは思うが」

「わかった、留守番してる」


 そしてアレンが家に帰ってくるまでまたぼーっと過ごす。部屋のお掃除をしたりしながら。今日はアレンは昨日よりも少し遅い時間に帰ってきた。

 1日掛るほど大変な依頼なのか、数をこなしてるのか。僕にはわからないけどアレンは疲れて帰ってくる。……全帝の仕事なんだろう。僕も、強くなって手伝いたい。…明日ギルドに行こう。行って、訓練して、少しでも戦えるようになろう。

 夜、各自室の行かず、もう最初からアレンのベッドに潜り込んでしまう。


「随分と大胆にダイブしてくるな」

「眠れないのでここで寝ます」


 1人で寝れないことに危機感は覚えるけど、でも今はこうさせていただく!

 アレンは笑って受け入れてくれる。僕はそれに甘えている。守られるように腕に抱かれているだけ。いつか、ううん。すぐ、すぐにアレンと肩を並べるくらいに強くなるから。


 翌朝もアレンは依頼に向かう。夏休みだからとマスターに酷使されているらしい……近ごろ魔物の動きが活発で高難易度の依頼量が増えてしまっているとのこと。手遅れになる前に片付けないといけないため、高ランクのギルドランカーは駆り出されてるという。


 アレンが出るのを見送ってから僕も出る。アレンに貰ったローブとリッカに貰った名前で。ギルドに行こうとして道がわからないことに気づいた。周りの風景は覚えてる。……転移できるかな。ギルドのドア、向かいにある宿屋、馬小屋、正確に位置を指定する。ギルドの前へ……


「『転移』」


 目を開けばそこは家ではなく、視界いっぱいに広がった青空。下には街。……おっと、ここは上空かな。転移失敗。


「って落ちる!!きゃああああああっ!!!!」


 地面にぶつかったらきっと痛い、だってここ結構高い位置だもん!どうしよう!どうしよう!?

 迫る地面にギュッと目を瞑り衝撃に備える……いや多分ぶつかったら死ぬかも。こんな事故死なんてアレンになんていえば、いや聞く口も無いんだ!


「女の子みたいな悲鳴あげて空から落ちてくるなんて……お下げの女の子でも静かに落ちてきたよ?」


 滅茶苦茶なことを考えていれば、衝撃もなくふわっとした空気に包まれると同時に先日も聞いた声が降りかかる。


「大丈夫?」

「えーっと、……ブラン!」

「そー、俺だよ。空から降って来てどうしたのさ、全帝もいまは依頼でいないでしょ?」

「転移失敗」


 そう、全帝はいない。こっそり訓練して強くなって驚かせようというサプライズ企画なのだ。でもあれ?おかしいな。確か高ランクのギルドランカーも駆り出されてるって言ってたような。


「そういうブランの依頼は?」

「俺はサボり」


 しれっと言ったけどダメだこの人。いやでもある意味好都合……?なのかな。


「僕魔法の練習したくて来た。全帝は魔法が苦手だって言ってたし、ブランはできる?サボってるなら僕に教えて」

「全帝に魔法の教えを請わない方がいいのは確かだ。よし、俺がノワールに稽古をつけてあげようではないか!地下までおいで」


 手招きされて地下の訓練室までいく。訓練室は以前来た時より人が少なく、駆り出されてるんだなーって思った。駆り出されてない人は駆り出されるほど強くなりたくて頑張ってるのかな。


「ノワールはさっき転移に失敗したっていってたね、転移魔法は行きたい場所に正確に行くためのイメージと、魔力を固定するための魔力制御が大切。まずは魔力制御の練習をしようか」


 そう言ってブランは右手に魔力を集める。人の魔力の動きはわかる。なら、僕の中にある魔力だってちゃんとわかるはずなんだ。


「魔力制御の訓練は簡単。まずは自分の魔力を正確に感じ取ろう。体に巡る魔力を感じる、右手に魔力を集めてみて」


 言われた通りに従うと、右手に魔力が集まっていくのが感じ取れる。温かな感覚?とでもいうのかな。魔力って言うものは曖昧で、なんとなくで使えてしまうからこそイメージが大事になるみたい。


「そしたらその魔力を右足まで移動させて、次は左足、左手、そして右手に戻す。体内循環の練習法。魔力を感じながらぐるぐるするんだよー」


 ぐるぐる……右手から右足に……右足から左足、左足から左手、左手から右手……意識的に魔力を動かすことで扱う技術が向上するらしい。やってみれば意外と簡単に出来る。


「上手上手、これここの世界の人にやらせると全然出来ないんだけどね。無意識に扱うのになれてしまっているから魔力を意識して感じ取るのが難しいらしいよ?でもそれだけ自分の魔力が体に馴染んでるってことでもある」

「なるほど?」

「それだけできれば充分かな。次は放出。魔力のボールを作ってみるよ」


 ブランはそういうと掌を上に向けて半透明のボールを出現させる。ボール越しに向こう側が見えるほど薄く、あまりに不安定だった。


「これは魔力密度が低い状態、触ってみて」


 ボールに触れると感触もなくすぐに霧散してしまった。続いてもう一度ボールを作るブラン。次に作ったボールは先程と同じ大きさで、色は濃くボール越しに向こう側は見えなかった。


「密度が低いと簡単に魔法は壊される、だから密度は大切なんだ。これが最適量」


 触ってみると固く、簡単には壊れそうにない。軽く小突いてもコンと音がした。魔力ってさわれるんだ…これに属性をつけると燃えたりするのかな。


「そして変質。魔力制御が上がるとイメージ次第では」


 ポイっと空中に投げられたボールは地面にぶつかり弾む。固い球体は柔軟性のあるゴムボールみたいになっていた。


「すごーい」

「でしょー、密度をあげ過ぎると大きくなるし魔力の消費量が高くなるから大きくならないように最適量を探ってみて」

「頑張る」


 ボール……半透明ボールが出現する。密度は薄く、すぐに壊れそうだ。少しずつ込める魔力の量をあげていく。目に見えて半透明のボールは密度があがり鈍い色に変わっていく。これが僕の魔力。ボールという器に注がれる魔力が器にぴったり収まるのがわかった。ここで止める。


「多分、適量?」

「……大分センスがいいね。もうちょっとかかるのが普通なんだけど……流石だなぁ。ちゃんと自分の魔力が感じ取れてるみたいだね。じゃあ訓練室の端っこに転移してみようか。次はブレないで転移できるはずだよ」


 訓練室の端っこ。イメージして目標座標に魔力を固定する……言うほど簡単じゃないなぁ。目を閉じて、次目を開けた時に僕がたっている場所を思い浮かべる。


「『転移』」


 地面に足がついてる。浮いてないし埋まってもいない。目を開けるとブランは遠くにたっていて、僕は訓練室の端っこにいた。


「無事成功だね」

「できた!」

「ここに来てまだ10分くらいしかたってないのによくそんな簡単にできるね。そもそも魔法をまともに使えないのに転移が出来ることが異常だ。本当は転移は難しい技術なんだよ」


 思ったよりもあっさりできたけど……もしや僕稀代の鬼才なのでは?なんて。


「んじゃ続けよう。ボールの数を増やすんだ。同時に多数の魔法を操れるのは戦況を有利にする、手数が多いに越したことはないからね」


 ブランの指示に従い、ボールを増やそうとするも先に出していたボールがブレて霧散してしまう。ただボールをポンっと出して置いておくだけじゃダメらしい。


「ちゃんと維持しながら増やしていかなきゃ。魔法をカタチのまま保つ。そして自由に操る。これが出来ればあとはもう数を増やしていくだけかな」


 ボールに魔力を込めつつ、霧散しないように保ちながらボールもう1個増やす。それを制御しながら僕が増やせる限りのボールを作っていく。


「基本の技術ではあるんだけどこれを疎かにしがちなんだ。強くなるには魔力の制御から、強い魔法なんて基礎ができてからじゃないと……わお、いっぱい作ったね」

「すごい?」

「やばい。何個あるのこれ」

「30くらい?もうちょっとできそう」

「個別に操れるの?そこにあるだけじゃ意味が……わぁ、スゴォイ」


 自分の魔力を感じ取ることが出来ればどれだけ増やしても自由に操るのは簡単だった。ボールの形を動物の形にしてブランを追いかけ回して遊んだ。これだけ自在に扱えたら完璧だと、魔力の塊を相殺しながらブランは苦笑していた。


「俺が君に教えることはもうないよ……卒業おめでとう」

「魔法は?」

「魔法?ああ、ファイアボールとかそういうのね、あれ俺が使ってるのは俺が勝手に考えて適当に使ってるだけだから参考にならないし。それにほら、魔法はイメージ。詠唱なんてなくても発動できる。魔法は君がつくるんだよ」


 そういえばアレンもそんなこといってたような気がする。あとは僕の属性か……手当たり次第にやってみるかな。まずは火っぽいの!とりあえずブラン燃えろ!!


「あっっづ!!!?なに!?なん、なに!!?」


 燃えた、燃えるもんだね……じゃあ消火に水、バケツをひっくりかえしたみたいないっぱい水!


「………ノワールさん?」


 ずぶ濡れだね、乾かすには風?どらいやーとかいうのがアレンの家にもあった。ブオォォオオオオと音がしてブランは乾いていく。


「ノワールさんあの、属性をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「不明?」

「不明と申しますと?」

「僕の属性、なにかわかんない。だからこれも、火っぽい属性と水っぽい属性と風っぽい属性ってだけ。別の」


 もしかしたら僕ボックスも使えるんじゃない?と思ってやってみたら使えてしまった。これは……便利。お部屋に置きっぱなしにしてある刀しまっておこうかな。


「未知の属性ってことか……それでいて火っぽいのと水っぽいのと風っぽいのが使用できる」

「空間っぽいのも使えた」

「……もういっそ思いつく限り全部の属性試してみようか?」


 というわけでやってみた。結果、使えてしまった。ブランは感電したり発光したり闇に飲まれたり潰れたり体の真ん中から空間がズレてしまう前に「それはやめよう!」って叫んだり……ボロボロ。でも僕は回復の魔法は使えないらしく、ブランは自ら回復をしていた。


「うーん…チートかな?でもこれらの属性ではないんでしょ、じゃあ一体なんの属性なんだろう……明日も来る?」

「うん、刀も練習する」

「そっか、じゃあ時間とるから一緒にノワールの魔法について色々調べてみよ」

「ん、また明日」

「じゃ、俺は依頼してくる!全帝に怒られないように!!」


 ……今度告げ口してあげようかな。そんな思考を読んだように口元に人差し指を当てて言って笑った。


「サボりのこと内緒だよ!」

「ウン、ナイショ」


 明日、明日もアレンは依頼いっぱいするのかな。ブランは転移ででかけていく。……お腹減った、ご飯食べてこ。ここのご飯は美味しいってアレンが言ってたし。

 食堂に行くとオネェさんが厨房にたって腕を奮っていた。


「あら見かけない顔ね、新入りかしら?今日のオススメはワイルドボアの生姜焼きよ」

「じゃあそれください」

「はぁい、ちょっとまっててねぇ」


 低い男性の声なのに妙に高くてねっとり……いや、しっとりした声……?

 厨房の中から、厨房から聞こえるとは思いたくない獣の咆哮が聞こえたようなきがした。多分気のせいだよね。間もなくして出された食事、でぱーとで食べたやつよりも美味しそう。


「いただきます!」


 お肉は柔らかくて口の中でとろっと溶けてしまった。舌を包むソースが箸を自然と白米に向かせる。

 確かにこれは美味しい、僕もこれくらい料理できたらなぁ……帰ってきてからもご飯作らなきゃ行けないアレン…疲れてるよね。


「これってどうやって作るの?」

「うふふ、それはナ・イ・ショ、よ♡でもそうね、気になるならそこのショップでレシピ本を買うといいわよ」

「レシピ本……」


 そこのショップ、と指を刺された先には本が並ぶお店があった。食べ終わってから見に行くとレシピ本が数種類置いてあったけど、僕の所持金じゃ足りない。ご飯食べちゃったからほとんど無い。


 依頼、依頼行って貯めよう。そのために明日も頑張ろう。


 翌日、ブランとの約束で訓練室で魔法戦闘を行う。彼は容赦なく僕に魔法を浴びせてくる。勿論僕もそれなりに返してはいる。相殺したり氷らせて礫のようにブランに返したり。レーザー咆で狙い撃ちしたりね。魔法で剣の形を作って投擲したり……剣は投擲物だよ。


「ノワールの魔法は精密で綺麗なものばかりだ。無駄がないし、なにより全帝の殺人的な魔法と全然違う」

「殺人的?」

「そう、彼が普通に使う魔法はあまりの威力に火を出せばその熱量に周囲を燃やし、氷を扱えば生命全てを氷に閉じ込めてしまう」


 どこか遠くを見つめるように、何か言いたげに。もし僕が本気でや頑張ったとしても、そこまで辿り着くことは出来るのかな。目標はアレンと同じもしくはアレンより強くなること。誰にも負けないくらい強く…


 そう意気込んで、ブランの周囲の空気にプラズマを発生させて爆破する。直撃することなく簡単に防がれてしまうから普段からは想像つかないけど、戦闘の方は確かに実力があるらしい。


「っ、ちょっと待って!今のどうやった!?」

「普通に?空気ビリビリって?」

「うーん、普通じゃないよそれ」


 …嘘だぁ。

 ブランはぶつぶつと独り言を呟いてる。よく聞こえないけどとりあえず攻撃の手は緩めない。よそ見してるのにブランに攻撃は全然当たらないから複雑な気持ち。漸く彼の中で納得のいく答えがでたようだ。


「わかった。普通なら自らの魔力に属性を付加して使用するものを、ノワールは空気中のエーテルに魔力干渉をして属性変換させてるんだ」

「つまり?」

「ノワールが属性を持っているんじゃなくて空気中にある魔力の素を自分の魔力に馴染ませて操ってるって言えばいいのかな、魔法じゃ今みたいに相手の周囲の空気を爆破させるなんてできない。魔法を用意して相手にぶつけてやっと爆発させるに至る。でもエーテルを直接変換させてるなら話は別」


 エーテルに干渉して魔法を産む力……ややこしくて難しい。魔法が使えることに変わりないならそんなに気にすることもないかな。


「よくわかんない…でも、そっちの方が攻撃しやすそう。ブランはやらないの?」

「できないんだよ、言ったでしょ?普通じゃないって。エーテルは生命そのもののエネルギーのようなものなんだ、それを自在に操れるなんてそれこそ神業。世界か神様に愛されてるとしか思えないね」

「どうして?」

「エーテルに自在に干渉することを許されてるからだよ。属性に縛られない君は、君次第で誰よりも高みに登ることができるだろうね。」


 誰よりも……アレンより強く、アレンを守れるくらいに…?役にたてるかな。たちたいな。今度こそちゃんと。


「僕、頑張る。強くなって全帝助ける」

「俺も出来る限り手伝いたいところだけど、刀は使ったことないしな……こっちでもあまりポピュラーな武器でもないし。」

「それはなんとか、なんとなくできそう」


 多分チキュウで扱ったことがあるか、扱ってる人を見たとか身近にいたとかだとおもう。妙に手にしっくりくるし…


「そっか!多分それだけ魔法が扱えれば実戦だって大丈夫だと思う。これでも一応Xランクだからね、君の強さは保証するよ」

「ほんと?ブランより強くなれる?」

「それはノワールの頑張り次第かな〜!俺も簡単に負けないけどね」


 軽い調子、声のトーンもまるで変わりない。でも、たった一息の間に空気が張りつめた。紛れもなく、彼も強者なんだ。見上げてもフードで顔は分からない。笑った口元だけが見える。


 息が、出来ない。


 どうしたの?って声をかけられてやっと肩の力が抜ける。彼なりの プライドだろうか、初めてブランが怖く見えた。

 その後はもう逃げるようにして家に帰ってしまった。帰ってきたアレンにタックルしてしまうほど。強そうに見えない強者ほど恐ろしい…そう、思った。


 翌日ブランとギルドで落ち合うも、昨日の威圧感が離れなくて警戒してしまう。床に落ちてた石を全力投球して「いてっ」なんて声を上げて頭にコブを作ったブランを見てやっと緊張が解けた。謝った。

 恨めしそうなブランと模擬戦をして魔法はもう大分自由に扱えるようになった。刀の方も扱いがあってるのかはわかんないけど…今のところは何とかなってる。


「随分上手に扱うね、まるで少し前まで使ってたみたいに。一般家庭の出ではないのかな」

「だろうね」


 一般家庭の出でこんな傷だらけな身体にはならないんじゃないかと僕も思う。わかんないけど。もしかしたらなるかもしれない。


「そうだ、ランク上げるなら最高ランクのSをこなすといいよ。ポイントが貯まればランクが上がる、依頼のランクが高いほどポイントは多く貰えるからね」

「最高ランクはSなの?Xランクとかは?」

「Sから上は一気に難易度が上がるから、そこから上は試験が必要で一つづつあげてかなきゃいけないんだよね。まずはS、そうしたら受付に昇級申請して、SS、SSS、その上にXランクがあるんだよ」


 Sになってからじゃないとその上受けることができないのか。まずは依頼を受けてポイントを貯めて来いと。


「じゃあ早速行ってこようかな」

「ちなみに今のランクは?」

「F、僕1回しか依頼受けてない」

「それならSランクの依頼を20回くらいこなすといいかな」

「わかった、受けてみる」

「俺もそろそろお仕事しないと」


 そうだね、僕が教えてって言ったんだけど本当は依頼しないといけないんだもんね。しっかり働いて全帝の負担を少しでも減らせるよう励みたまへ。


「ありがと」

「どういたしまして!困ったら念話くれればいくらでも協力するから!」

「いいの?」

「もちろん、だって俺ら友達でしょ?」


 友達…そう言われると不思議な気分だ。アレンが友達かと言われたらそうではないような気がする。ブラン、もといリッカは僕の初めての友達なのか。


「友達、そっか、そうだね。またよろしくね」

「任せて!それじゃ、依頼選びに行こうか。俺も受注しなきゃだし」


 受注するべく電子掲示板からSランクの依頼を探す。20個って言ってたよね。なんか適当に……ドラゴンとかウルフとかなんか強そうなのが並んでる。沢山ありすぎて選ぶのも大変だ。取り敢えず上から20個選択して印刷、内容はあとで見る。

 選び方雑!って声が聞こえた気がした。


「お願いします」

「…Sランクですか?」


 Fランクが受けるには、みたいな顔。まあ推奨はされないよね。後ろでブランが、初見のゲームをいきなり高難度で挑む初心者の図。とか言っていた。意味はよく分からないけど声は笑っていた。


「大丈夫です」

「ギルドでは一切の責任を負いかねますが」

「わかってます」

「…はい、受注完了です。死なぬようお気をつけて」


 Fで受けるには難しいのかもしれないけどSランクまでなら一般人でもできるって事だから貼られてるんだ、大丈夫。僕が目指してるのはその上にある、これくらいできないと。


 1つ目の依頼は花の採取。生息地が危険地帯なのだそうでSランク指定になっているみたい。場所はちょっと遠いかな。ブランに貰った地図を広げて生息地帯を探すとかなりの距離がある。行ったことがないから転移は使えない。

 こんな時は探知魔法で花の位置を捜索、空間把握、『空繋』で花の場所と僕の現在地の空間を繋げて『空渡』。空渡による次元の裂け目を潜れば目前に目的の花。魔法って便利!アレンに貰った図鑑を見ながら花を採取して依頼完了。

 Sランクの依頼も数分で達成出来ちゃう空間魔法って素晴らしいね。危険なんてなかった。


 2つ目は調査依頼。とある地域で謎の死が相次いでいるらしい。

 空繋でさくっと移動して探知。魔力を使って空気、水質、地質の異物を探る。川の水にどうやら毒が紛れているようだから上流に移動して根源を断つ。原因は上流にある鉱山にある毒性鉱物が出す液体が川に流れたこと。掘っている最中に露出した毒性鉱物に気づかず放置された結果かな、見た目はただの岩だ。

 石ころから水が出てくるってファンタジー、掘り出して保管、そして浄化魔法で毒素を抜いて依頼完了。


 もう少し依頼をやっていこうかと思ったけど買い物があるから今日はここで一旦終わろう。ギルドで報告をして毒性鉱物のことで少し騒ぎになったけど有用性はないとの事で破棄して事なきを得た。


 依頼達成報酬も貰えたので、ギルドのショップでレシピ本を購入。デパートに寄ってレシピを眺めながら材料を買って帰宅する。アレンが帰ってくる前にご飯作ろう。と、した。


 出来上がったのはところどころ焦げて料理と呼ぶにはあまりに不恰好な卵焼き。オムライスにするはずだったそれはお世辞にも美味しそうには思えない。

 初めて触るものばかりで、当然上手く作れるはずもなく。黒く焦げ形を保たないそれは果たして食べ物と言えるだろうか。でも、作り直す時間もない。ただただ呆然としていると玄関の扉が開く音がした。

 こんなのアレンに出せない。手の中にあるオムライスが歪んでいく。


「ハルカ?なにして」


 キッチンまで僕を探しに来たアレンが僕を見て言葉を詰まらせる。情けない顔をしていたせいか、それともこのケチャップライスの上にだらしなく横たわる卵焼きのせいか。アレンの顔は疲れが滲んでいて、それなのにこの惨状。手伝いたかった。負担を減らしたかった。それなのに結果はただ手間を増やしただけ。汚れたキッチンを片付けること、この料理の後始末。何も言葉に出来なかった。

 アレンは呆れたような顔で言い直す。なにしてる、じゃなくて僕に促す言葉を。


「そんなとこ突っ立ってないでテーブルに持ってけよ」

「でもこれ、失敗して…こんなのアレンたべれない…」

「なんで?」


 本当にわからない、といった顔。焦げた料理だから人に出せない。そんな当たり前を気にもとめずにそう言った。


「だって、失敗した」

「それがどうした。作ってくれたなら食うし、お前が食わないなら両方食うぞ」


 僕の手から取り上げられた出来損ないの料理は見栄えも悪くて味も苦くて焦げた部分はジャリジャリしてて美味しくなかったと思う。でもアレンは美味しそうによく噛んで飲み込んだんだ。


「食わねぇの?」


 真っ直ぐこちらを見つめてくる紫に瞳はただ純粋にその料理を求めてくれてる様で。アレンがどう思ってるのかわかんない。本当は美味しくないって思ってるかもしれない。僕に気を使ってくれてるのかもしれない。


「僕、アレンの負担を少なくしたくて。アレンのために美味しいご飯作りたくて。」

「充分美味いよ。負担とは思ってねぇけど、お前が俺のために作ってくれたことはありがたいし嬉しい」


 綺麗になくなった器の中。「ご馳走様」って器を片付けに立つアレンの背中。


「明日、明日はもっと上手に作るから!」


 足を止めて振り返る彼の顔。いつもの優しい顔。目を細めて口は緩やかな弧を描く。


「ああ、楽しみにしている」


 いそいそと口に運んだオムライスは少ししょっぱい味がした。

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