街へ外出
ハルカがアレンに拾われたのが昨日のこと。今日はハルカに必要なものを揃えるべくデパートに行くようだ。案内も兼ねて魔法ではなく徒歩で行くと伝えられ、身支度を整えている最中なのだが。
「まだ?」
「もう少し…」
こんな調子で一向に出る気配はない。アレンが永遠とハルカの髪の毛をセットしている。魔法で様々な道具を出し髪の毛を緩く巻きふんわりとしたポニーテールにしているまではいいのだがヘアゴムを決めかねてるらしい。
「なんでもいいのに」
「いや、よくない」
どうしても譲る気は無いらしく、アレンは何か本を眺めながら創っては消してを繰り返している。その間ハルカは特にやることも無く、足を揺らしたり、指遊びをして少し魔力を集めたりしていた。魔力を上手く扱うことはまだできない。
結局1時間ほどかけて白いリボンに決まった。そのあと顔も弄られそうだっため慌てて抵抗するも虚しく、結局軽く顔色を整えられる。あまり効かなかった抵抗も功を成した様で、化粧の方は簡単に終わるが、アレンは不満げな顔をしている。ハルカの方も化粧をされたことに納得がいかないのか、頬を膨らませて怒りを表している。
そんなハルカを宥めつつ鏡を差し出す。鏡を覗き映し出されたのは、それはそれは幼い少女のような自分の姿だった。
「僕って男だよね」
「ああ、男だな」
あまりにも普通に答えるものだから、この状況を不思議に思う自分の方がおかしいのかと思い始めてしまう。しかしアレンは化粧をしている素振りがない。やはりこれは普通のことではないのかとハルカは頭を悩ませる。
実際、アレンはハルカを少女のようにしようと思っていた訳では無い。そもそもハルカが発育不足で女顔であるだけなのだ。
「でも顔色悪いのは本当だからな」
「そんなに?」
健康体とは言い難いことを、ハルカ自身はちゃんと自覚してるつもりのようだが、本人の思う以上に体調が悪く見える。そういうことなら仕方がない。と、煩わせるのは嫌だが世話されてる身で我儘は言えず、感謝して受け取るほかない。
そんなこんなで若干時間を要したものの漸く家を出る。
アレンに案内されながら歩く道には、度々魔法陣の刻まれた石が配置されていた。転移網と言うらしく、この国には複数の転移網があり各所への往来が楽になっている。
「便利だから覚えとけ、デパート以外にもギルドの近くにも行けるから」
「転移は?」
「出来ない奴がこれを使う」
転移が出来ない人は多く、複数人を同時に移動できる人は希少だと言う。自分の魔力を遠くに飛ばしその場に自分を送るという行為は難しく、しっかり自分の魔力を把握して扱う必要がある。
自分の魔力なのに分からないなんてへんなの……とハルカは思うが、血液の流れを意識して感じろと言うようなもので、出来る人は多くはない。
アレンが遠くを指さす。
「ここから見えるあの高い建造物がデパートだ」
「この前の……ドラ、とかいうのより大きいね」
「ドラゴンな、アレが出たらあのデパートは簡単に壊れるな」
「あんなに大きいのに?」
「デカくても丈夫とは限らないだろ」
幾ら補強したとしてもドラゴンの突進に耐えうる建造物が果たしてこの国に存在するだろうか。魔法で防御するのなら可能かもしれないが建物が大きければ大きいほど結界を保つための魔力消費は激しく、困難になることだろう。ハルカはただ、アレンならドラゴンにぶつかっても平気そう、むしろドラゴンの方が怪我をしそうだ。なんて考えていた。
綺麗に舗装された道を物珍しげに見渡しながら歩いていると建物に陰になっていたものが露わになる。
「ねぇ、あのおっきいのは?」
デパートの更に奥、建物の間から見えた色とりどりのゴンドラが円状に連なるもの─観覧車─があった。目に騒がしいそれに惹き付けられる。
「遊園地か。俺は入ったことないが、遊ぶところと言えばいいか。こっから見えるのは観覧車といって、あれに乗ってまったり景色を楽しんだりする」
「遊園地…」
興味津々といったふうに目を輝かせるハルカに、アレンは小さく笑いながら問いかける。
「行ってみるか?」
「いいの?」
「今度一緒に「ほんと?約束!約束ね!!嘘ついちゃやだよ!」
「お、おう」
アレンと一緒に遊園地へ行く約束。ハルカにとっても初めての事であるはずなのに妙な既視感を覚える。頭になにか引っかかってるような気がして。頭がズキズキと痛む。目の前が暗くなるような感覚。
─一緒に
まだ行けてないよ…─
「ハルカ?」
「っ、アレン…」
「顔色が悪い。どうかしたか?」
知らないでも知っている。よく、知っているはずの声がハルカの頭で響く。でも知らない。何度も響く声。それが一体誰の声なのか。
「ううん、大丈夫。なんでもない」
身に覚えのない声、思い出そうとする度頭が痛む。これは自分の記憶なのか、それとも別のなにかなのか。
「そうか?無理はするなよ」
妙な既視感。僕はどこから…誰と。そもそも今のは自分の記憶なのか?たしかに知っていたはずだ、でも思い出すことは出来ない。ハルカが思い耽っているとアレンの背中にぶつかってしまう。
「わっ」
「あぁ、すまん。ここがデパートだ」
目の前には見上げる程高いデパートがあった。遠くで見た時よりもずっと高く、想像以上に大きい。
デパートは回転ドアが入口になっており、アレンは平然とその中へと入っていくが、ハルカはタイミングを掴めずアレンを眺めていた。ハルカが呆けた顔でアレンを目で追っていると、そのことに気づいたアレンが苦笑いで1周回って戻ってくる。
「何してんだよ」
「入り方が」
「あー……すまん、配慮が足りなかった」
そっと差し出される手に己の手を重ねれば、ぎゅっと握られたままに腕を引かれる。アレンに包まれた手、ハルカの手に比べると一回りも大きい。自分の体の小ささ、脆さ、弱さ、全てがあまりにも未発達で不完全な体躯。なんと情けないことか。
「んじゃ行くぞ」
アレンにくっつくような形でクルクル回転する入口を攻略して僕はデパートに入店することに成功した。ちょっと挟まれそうで怖かった。
「これ入りずらくないの?」
「俺は特に」
「そっか」
「時期慣れるだろ」
だといいけど。
デパートの中は眩しく、煌びやかな照明と真っ赤なカーペットの敷かれた床。上を見あげれば、どこまでも続いていそうなほどの階数があった。周りを見渡すも、上に行くための階段は存在するせず、ただ沢山のショップと人で埋め尽くされていた。
「これどうやって上に行くの?」
「あれを使う」
アレンの指さす先には、丸く囲ってある「転移用魔法陣」があった。あの中で魔力を込めながら行きたい階数を望めば移動ができる。外にあった転移網と同じ仕組みだが、このデパートの転移陣同士を繋いでいるため外には出ることは出来ない。
「俺らが今から行くのは5階。いくぞ」
腰に回された腕が離れて変わりに手を握られる。
「魔力の扱い方は」
「わかりません」
「おー、いい返事だな。んじゃそのまま俺に掴まってろ」
掴まっていろ、というがハルカがアレンに捕まっていると言うが正しい。
アレンに触れる手のひら、指先からあたたかな感覚がが伝わる。アレンの魔力に昨日の重苦しさはなくて、緩やかな流れ。
ふわっとした流れは気がつけばもうなくて、ハルカの周りの景色が違っていた。色とりどりの服達がずらりと並んでいる。無事5階へ着いたようだ。
「まずはお前の衣類から揃えようと思ってな」
その一言が長いショッピングの始まりだった。
アレンがハルカの髪のセットに1時間以上を費やしたことを覚えているだろうか。そんなこと記憶の彼方に吹っ飛ばしたハルカは「よくわかんないからアレン選んで」なんてことを口走る。愚かな選択をしたものだ、と後のハルカは語る。
表情の乏しいアレンさんは、一瞬だけ動揺した様に伺えたが、コンマ1秒の間に既に行動に移り、ありったけの服を「候補」として持ち出した。その瞬間ハルカの表情がが死んだ。
知ってる?後悔ってあとからするもんなんだ。
3時間ほど時間を潰してアレンの服選びという名の「ハルカちゃんの着せ替え衣装ショー」は幕を降ろした。中には数着女性物と見受けられるものもあったがアレンはしれっと購入して行く。ハルカは口を挟むまもなく、そんな体力すら奪われ燃え尽きかけていた。
「つかれた」
「すまん、つい楽しくなってな」
「……こんなに沢山いいの?」
3時間の末選び抜かれた服やアウターたちはかなりの量の紙袋の山となっている。
「金の問題は無い。勿論持つ手間もない」
無駄にイイ顔でアレンは魔法を使って紙袋を仕舞う。
「それも魔法?」
「ああ、ボックスという。無属性の小さなポーチと空間属性の巨大な倉庫の2種類があるんだが、俺の使うものは空間の方だ」
「無属性、空間属性」
説明されようともハルカはその単語がどう言ったものなのか理解することは出来ず、首を傾げる。そんなハルカに苦笑しながらアレンは1冊の本を取り出す。
「少し属性について説明しよう」
そう言ってデパート各所ににある休憩スペースに移動する。丸いテーブルにイスが数セット置いてあるスペース、その中の1つにつき本を開く。
「魔法には属性がある。誰でも、魔力さえあれば扱える無属性。全ての元になるものだ」
「全ての元……?」
「あぁ、無属性に特性を付加することで魔法は使用者の想像を形にする。一般的には、火、水、風、雷、土、光、闇がある。わかるか?」
本に書かれた表には属性の相性など記されている。火は水に弱いが光とは相性が良い、等。
わかる、という意思表示にコクリと頷いてみせるハルカ。その動作を確認して説明を続ける。
「よし、じゃあさっきの空間属性だが、先話した7属性を一般属性と呼び、その他にもたくさんの属性が存在する。まあ挙げれば限りがないが、空間もその他の属性のうちの一つで、その他の属性を全て特殊属性と一括りにしている」
「一般属性と特殊属性、なるほど」
本に記された文字を食い入るように読み込む。特殊属性、空感、時、重力、創造、破壊、影、血……数えるだけキリがない量の特殊属性が羅列されていた。
「無属性に属性付加をすることで魔法の幅が広がる訳だが、誰でも扱える無属性には便利なものがある。転移もそれだな。そしてボックス。俺のは空間属性だと言ったが、無属性のボックスに空間を付加すると容量が増えるんだ。魔力量に応じて容量は変わるが、想像次第だな」
「想像?」
「人の数だけ魔法はある。同じ魔法でも人の想像する形で魔法は形を変える。魔法ってのは言葉の解釈によるんだ」
1つの単語に対して何を想像するか、どう感じるかによって使用した魔法の形は変わる。正しい形が存在しないのが魔法だと言う。
「言葉の解釈……難しいね。ところでアレンの属性は?」
「そこに乗ってるのだいたい全部に適正している」
「ほぇ〜、すごいね!じゃあ魔法何でも使えて最強だね!」
「そういうわけでもないんだが……」
いい渋って、言葉を濁して曖昧にそう言う。触れてはいけないところだったかと眉を下げてアレンを見上げると笑っていた。ハルカはなんとも言えない気持ちになる。
「質問はないか」
「だいたいわかったよ」
「お前教養はないが理解はいいな」
「褒めてる?貶してる?」
「褒めてるよ」
アレンは笑いながらハルカの頭を優しく撫でた。そう、髪が乱れないように。1時間かけた髪を乱さないように。気恥しい気持ちと同時にやるせない感情がハルカの中に沸いた。
「次どこ行くの?」
「武器屋、ギルドに登録した以上は依頼をこなす必要がある。」
「あー、でもそうだよね」
「危険なものは受けなくていい、簡単な採取とかな。ナイフでもあれば便利だ。魔物に遭遇しても逃げていい。余裕があれば魔法を使え。剥ぎ取りにナイフが便利だ」
「ナイフ推すね」
アレンに連れられ武器屋を覗くと沢山の種類の武器が並んでる。剣、斧、槍などのよく見るメジャーな武器からあまり見た事のないようなマイナーな武器まで揃っている。
「んで俺のおすすめは」
「ナイフ、でしょー」
呆れ半分に言い返し、ハルカは店内を見て回る。ハルカの身長ほどある大斧の前で足を止める。
「絶対持てないからやめておけ」
「ロマンのあるおっきい武器」
「その細腕じゃナイフしか持てないだろ」
「まさかそんな…」
あきらめ悪く彷徨きながら、魅力的な剣に惹かれて持ち上げようと手をつけたが棚から持ち上げることすら叶わない。
「無理だ、諦めよう。現実は無慈悲だ」
「くっ…それでも僕は諦めたくない!」
現実と向き合うことの出来ないハルカを諭すアレン。店内で2人が少し騒いでいると明るい声が降り掛かった。
「あっれぇ?王道バトルファンタジーみたいなセリフが聞こえたと思ったらアレンじゃーん!」
赤っぽい茶髪、長い前髪は片目を隠している。まん丸く大きな目は子犬みたいで、人懐っこそうな「巨人……?」
「はい?」
「フッ」
ハルカの呟きに吹き出すアレン。ハルカが見上げるくらいの身長のある人物。しかしアレンの方が高いように見える。首が痛くなるほど見上げた記憶はない。いつも僕の視線に合わせてくれてるわけだ、と気づいて悔しいような嬉しいような言い難い複雑な気分になる。
「えっと、彼女?」
「可愛いだろ」
「誇らしげに言うね?違うよ」
「と、本人も仰る通り。彼女は男性だ」
「ちょっと、今なんかおかしかったよアレン、ねぇ」
見上げるハルカの暗い底なしの沼のような目から逸らしてわざとらしく口笛を吹く。珍しいアレンの姿に楽しそうに笑うアレンの知り合いらしき人は鼻息荒くハルカに詰め寄った。
「男の娘!イイネッ!彼氏(彼女)だねわかりますデート中でしたか!」
テンションと勢いが激しく、興奮気味の男。ハルカはそっとアレンの後ろに隠れる。普通に気持ちわ……もとい怖かった。
「黙れ五月蝿い。ハルカが怯える」
「ハルカちゃんっていうの?」
「気安く呼ぶな、伝染る」
「何がっ!?伝染らないよっ!!?」
「誰?」
とても、親しげ……いやどうだろう、アレンは心底ウザそうな顔してる。相手方は気にしてない、もしくは視界に入ってない様子だ。
「あ、ごめんね。俺はリッカ・タチバナ。アレンと同じ学園に通うクラスメート!アレンとはいつも仲良くさせてもらってます!」
「仲良くってか世話役というか、駄犬………?」
「酷いっ!」
「残念なやつだが、これでも一応勇者の仲間らしく実力はそれなりにあるぞ」
「一応とか酷いっ!!」
「勇者?」
聞きなれない言葉にどういう意味だろう。とハルカが首を傾げていると意味がわかってない事が伝わったらしく、簡単に説明をしてくれた。
「えっとね、この世界には魔王…悪いやつが居て、それを倒すために地球から選ばれた人間が召喚されるの。それが勇者。んで俺はその召喚に巻き込まれちゃった一般人」
「こいつが勇者とかありえないし考えたくないもんな」
「酷いっ!!!ゴホン…そんなわけで、俺はこことは違う世界、地球の日本からやってきた異世界人なのだ」
魔王とか召喚とか、そんなことよりもハルカにとって重要な言葉が出た。地球の日本。ハルカがいた場所の確かにニホンという地名だったはずだ。
「ニホンは、ほんとにある…?」
「あー、そういや最初そんなこと言ってたな」
「僕はチキュウからきた、ってこと?」
「そりゃ納得だな、こっちのこと何も知らなくても」
「なんの話??」
不思議そうな彼の問いにアレンを見上げる。アレンは静かに頷いた。信頼できる人物だ、と。その事実が少し信じられない。今までの会話を振り返っても、アレンが信頼を置く人物とは思い難い。もしかして信頼できるからこそなのかとも思ったが、手放しで信じるには少々問題のあるやり取りだった。
「だがまぁここでする話でもないからな、買い物の後にしよう」
「剣……」
「それは諦めろ」
「そんなぁ、僕だってかっこよく振り回したい……」
「剣は振り回すもんじゃないしお前にゃまだ早い」
「これは?」
「鎌も持てないだろお前……」
「そんなぁ……」
色んな種類の武器に目を移らせてはアレンに止められ、結局ハルカは1振りのナイフを選ばざるを得なかった。
武器屋を後にして、書店によりアレンに数冊の本を買い与えられる。言葉が若干不自由なこともあって勉強用に、と。他の買い物は家具はアレンが創造の魔法で作ってしまったし、その他の生活必需品も揃っているらしいので買うものは無い。服も造ればいいのにと思うハルカだが、アレンのセンスが出てしまうためハルカの服は買った方が良いらしい。確かにスカートだらけは困るなと思いつつ、買ってもらった服の中に無かったかと記憶を巡らせる。無いと言いきれなかった。一抹の不安と共にアレンの家に帰宅。客人を連れて。
「いやぁ、長かったね。もう、なんで俺はここにいるのだろうとか考えちゃうくらい空気だったね!」
「デートに割り込んだお前が悪い」
「それは申し訳ないことをした」
デートとはなんだろうと、アレンを見上げると頭を撫でられる。子供扱いをされている気がしてハルカがその手を払うとアレンは悲しそうな顔をした。自分が悪いことしたような気になるが、ハルカは気付かないふりをしてリッカに向き直る。
「それで、2人はどういう関係?地球から来たかもしれないハルちゃんといつの間に出会って今に至ったわけ?」
話があらぬ方向へ脱線しかけたが、脱線させた本人の口から本題が。ヘラヘラしてて軽そうな印象の割に、案外しっかりしているのかもしれない。
「簡単に話すと……どうなる?」
「ある日 森の中 ハルカに であった
危険な森の道ハルカが襲われた」
「誰に!?」
「ドラゴンだな。襲われてたところに助けに入り、話を聞いてみると名前と年齢しかわからず、家を聞くとニホンと答えたが俺は地球をご存知じゃなかったわけだ」
「どうやってここに来たのか覚えてなくて、気づいたら森の中にいたの。今まで地球にいたとしても、地球にいた記憶もない。貴方が地球から来たって聞いて何かわかるかなって思ったんだけど……」
「あ、リッカでいいよ」
今それ言う?と言いたい気持ちをグッとこらえて、それでも残念なものを見るようなハルカの目は全てを物語っていた。何も言えないハルカにかわってアレンがリッカを小突く。
「コイツはちょっと馬鹿なんだ」
「酷いっ!アレだね、つまりハルちゃんは王道ファンタジーの主人公的な立ち位置だ。凄い図だなぁ……勇者召喚系に巻き込まれ、捨てられ主人公に、異世界トリップ…主人公多いなこの世界」
聞きなれない単語ばかりでついていけないが、ハルカが引っかかる単語があった。
「……捨てられたの?」
「「俺?」」
ハモる2人。どうやら2人共孤児で親がいないという。リッカは地球で孤児院にて生活。アレンは所属しているギルドのマスターに拾われ、リカルドはマスターのファミリーネームだそう。
「淡々と言うけど重くない?普通なの?ありふれてるの?」
「まぁ……ニホンには親のいない子は結構多かったかな」
「ここも口減らしとかはよく聞くな」
「なにそれこわい」
2人の話を聞いて恐怖を覚えるハルカ。平和という言葉が程遠いものに思えた。
結局、リッカと話したことで得られた情報は大したものではなく、地球から来たにしろ地球の記憶を取り戻してもろくでもない可能性があり、別世界で記憶を辿るのは非常に困難だろうという結論の元、気にしないことになった。
「この世界の知識が元々ゼロでも、これから知っていけばいい事。チキュウのことを思い出してもこちらで有効活用することもないだろう」
アレンもハルカも、ハルカの傷のことをリッカに話すことは無く黙っていた。言う必要は無く、ハルカ自身出来れば隠しておきたいことだ。リッカは帰り際、同じギルドに所属してるから見かけたら声かけて、と言い残して帰って行った。
今日の晩御飯はアレンの手作り。昨日はカップ麺だったのだが、意外にもアレンは料理上手だった。一人暮らしが長いから、とアレンは言う。
柔らかなベッドのなか、僕は今日も落ち着けなかった。昨日もそうだ。包まれるような心地良さが落ち着かない。初めての感覚はあまりにも、僕の心を掻き乱す。体がざわつく。得体の知れぬ焦燥に駆られる。疲れた。
───眠れない。




