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4 光からしたらいい迷惑

「...」


朝だ。

ありすは、目覚ましの音で目を覚ます。


「あれ、目覚ましなってない?」


しかし、ありすがいつも朝に聞いていたはずの音はなっていなかった。無意識に止めたとでも言うのだろうか。

残念ながら、記憶には無い。


「目覚まし時計...あ、あった」


少し寝ぼけているので、目覚まし時計がどこにあるかをド忘れしていたが、場所は変わっていなかった。

ということは、寝ている最中に蹴飛ばして、壊したわけではない。

現在の時刻を確認するありす。いつもかけている時間は朝七時だ。


しかし、時計の針を見て驚く。


「あ、あれ、今五時!?」


朝五時になんて起きたのは人生で初めてかもしれない。何か、寝れないようなストレスでもあったのだろうか。


「いや、ストレスなら毎日受けてるわね」


ありすのストレスの原因は、男子にあった。

最近はひどくなる一方だ。見られるだけで寒気がして、吐きそうにまでなる時がある。

今はなんとか笑顔を保っていられるが、友達と話している最中に倒れこんだりしたら、それこそ迷惑がかかる。


何かいい方法は無いものかと悩むありすだった。


「まあ、今は悩んでても仕方がないわね」


そう言ってありすは、自室から出る。

ありすは一人暮らしだ。親は放任主義で、お金だけ出してくるような親だったので、ありすも気にせずこちらに出てこれたわけだが。

しかし、一人というのは、意外にも寂しいものである。


とはいえ。


「男性恐怖症なのに、結婚なんて出来るのかなあ...」


長年、男と言うのは変態だというのはわかっている。世の中のカップルは、女性がそれを我慢しているのだと、ありすは思っていた。


パンの上にいちごジャムを塗りたくり、そのまま口に運ぶ。

いちごの甘さが口の中に広がり、今日も頑張れと応援してくれるようだ。


「うん、頑張る!」


ありすの脳内では、いちごは女性という固定概念が定着しているため、仮にいちごが男性という想像ができた場合、この家は吐しゃ物まみれである。


「でも、その前に」


ありすは、光に未だにお礼を言えていない。

既に一週間だ。このままでは、どこぞのガハマさんになってしまう。

パンを食べ終え、牛乳を一気に飲み干す。


「とにかく、早いとこお礼を言わなくちゃ」


そうしたら、光のあの目の正体も、わかるだろう。











「...」


今日も今日とてだるい。

光はもう慣れた通学路を、けだるそうに歩いていた。これまでの優等生ぶりからは考えられない歩き方である。きっと家族が見たら卒倒してしまうだろう。


その光の隣を、やけに上機嫌で歩いている女子がいる。

名前は春。名字は知らない。というよりも知る気が光には無い。


光は、なんとなく、声をかけた。


「なあ、お前本当に俺の家に住み着く気?」

「んー、来週には新しい場所に移るから、それまでかな」

「そうか」


光は内心安堵する。得体のしれない人と、一つ屋根の下で暮らすというのは、正直言ってストレスがマッハで溜まるのだ。

これが一カ月続いたとする。その時は、光は発狂してしまう自信があった。


春が、光を向いて笑っている。


(...ホント、得体のしれない奴だな)


光からして、春はただの未確認生命体としか見えなかった。


「あ、もうついちゃったね」


春が、少し残念そうに言う。

しかし、光はまったく残念ではない。HRにでさえすれば、後は屋上へと向かうだけなのだ。そこだけが、後一週間の救いの場なのだ。


「そうだな」


そのまま中に入り、靴を履き替える。

下駄箱は男女別になっており、数少ない休憩スポットだ。今の光にとっては、そうなっている。


「光くん、早く行こうよ」


少し休憩していると、春が迎えに来てしまった。


光は、仕方なく指定靴に履き替え、進んでいく。

階段を上る度に、光は憂鬱な気持になっていく。


(ったく、あの時断っておけばよかった)


その通りである。


「ねえ、光」

「あん?」

「どうして、私の告白を受けてくれたの?」

「...」


まさか、その質問をされるとは思っていなかった光は、外には出さないものの、中では動揺していた。


(まじかこいつ。そんなぐいぐい来るやつだったの...いや、俺の家にいる時点でそうだな)


しかし、すぐに納得し、落ち着きを取り戻す。そして、質問に質問で返す。


「お前こ「春」そ...なんで、俺なんかのどこを好きになったんだ?」

「名前...まあいいや。なんでって、そりゃ、全部だよ?」


全部ねえ。それって、どこ? って聞かれたときに誤魔化す答えの一つじゃないか、と光は思う。

もっとも、光がそう聞かれたなら、どこだろうな、と笑って誤魔化すのだが。


「そうか」

「それで、私の質問は?」

「...なんでだろうな」

「えー?」


はたから見たらただの仲の良いカップルなのだろうが、光はもうすでに別れたいと思っていた。


そんなカップルが教室に入っていく。

そこで、光はおかしいことに気がつく。春は隣の教室のはずなのに、どうして光の教室に入ってくるのだろうか。


「おい、お前「春」の教室は隣だろ」

「......別に、彼氏の隣にいたいと思うのは変?」


そう言われては、光には断る理由は無いのだが...。


「いや、もうチャイムが鳴るぞ」

「あ、ホントだ。それじゃあ、お昼にね」

「...ああ」


そう言って、春は光の側を離れていく。

春はかなりの美少女だ。光でもそれは理解している。

本当なら、この教室にだってついてこないでほしかったというので光の気持ちだったのだが。


「おい、今の春ちゃんだよな?」「なになに、もしかして付き合ってるの?」「嫌われたい奴が交際してるとかマジ笑えるぜ」


こうして騒がれるし、最後の奴のように正論を言われるのが面倒だったのだ。


光は、それらの質問の一切を無視し、自分の机へと向かう。しかし、光の行く手を阻むように、何者かが立ちふさがった。


「ご、ごめん。少し聞きたいことがあって」


栗色のセミロングで、身長150付近だろうか。かわいらしい顔をしているので、周りの男子達は庇護欲かきたてられているのだろう。

光は全く思わないが。


「...なに?」

「え、えっとね、その、春ちゃんと、お付き合いをしているのって、本当なのかな、って...」

「...」


いちいち区切るな、さっさと用件を述べろ、と光は思えるほどには性根が腐ってきているようだが、それにちゃんと答える辺りは、まだ甘いようだ。


「ああ、そうだが」

「! そ、そう、なんだ...」

「?」


光が事実を言うと、見るからに少女は落ち込んでいく。

光は己のしたことを振り返るが、どこにも悪い点は見当たらないので、不思議には思いつつも、自分の席に座る。

そこで、再び閃く。


(そうか、こういったことをしていればいいんだ!)


きっと、今回のことで、栗色の少女を泣かせたという噂が広がるだろう。それは全くの事実なので、光も聞かれれば認める。

これで、一層嫌われるはずだ。


(よかった。忘れられるとかにならなくて)


嫌われたいのに忘れられたくないというのは少しおかしいような気もするが、とにかく、光は安堵していた。

机の上で腕の枕を作り、教師が来るまで寝てようと頭を倒すと、強気な女子の声が聞こえた。


「ちょっと、なんで泣かせてるわけ?」

「...」


恐らく光のことだろう。しかし、光は心底どうでもいいと思ったので、頭を起こさずにそのまま寝ようとする。

しかし、それを許さなかった強気な声の女子は、光の頭を叩いた。


「ちょっと、あたしが話しかけてるのに、寝たふりってどういうこと?」

「...いや、寝たふりじゃなくて本当に寝ようとしていたんだが」

「そんなのどうでもいいから、なんでうちのひびきを泣かせてるわけ?」


(くそ、質問に素直に答えたらこれだ。会話が成立する気がしない)


しかし、このまま無視しても、教師が来るまで絡まれ続けるのだろうし、HRを終えた教師がどこかに行ったら、また始まるのだろう。

光は、素直に答えることにした。素直に。ここ重要。


「なんで泣いているかは俺も知らない。本当のことを答えたら泣き出した。それだけだ」


頭を起こすのはなんだか面倒だった光は、そのまま答えた。


「ちょっと、頭起こして、こっち見ながら話しなさいよ...!?」

「...ったく」


強気な女子に無理やり顔を上げられ、少し不機嫌になる光。

しかし、光の顔をあげた張本人は、そのまま固まってしまった。しかも、光の顔をガン見しながら。


(俺の顔になんかついてんのか?)


光は、恋愛をしたことがなく、その点に興味もないので、その女子が光の顔に見とれていることには気づかない。

ウザそうに、光は女子の手を払う。


「はぁ...俺が知ってることは言ったぞ。これで満足か?」

「あ、あぁ...響、本当?」

「え、う、うん、本当だよ」


(こんな女子を護りたくなる男子って、ホントちょろいな)


これが光の内心である。最低である。


光はこれ以上関わる気は無かったので、そのまま机に突っ伏す。


(朝からなんでこんなにストレスをためなきゃいかんのだ...)


光は順調に、腐っていった。


その隣の教室では。


「光くんと一緒に登校ってどういうこと?」「付き合ってるの?」「まじかよ!」


ありすが教室に入ってくると、いつもはそれぞれのグループで話しているのに、教室にいる人全員が、一か所に集まっていた。


(まあ、片方の入口をふさいでいるだけでよかった、両方ふさがれてたら入れなかったし)


ありすは自分の席に着き、鞄を降ろす。さすがに、クラスメイト全員が集めっているのだ。ありすも、情報を集めないわけにはいかない。

それに、何が起きているのかも、単純な好奇心で気になる。


「ね、どうしたの?」

「ん、ありす。おはよ」

「うん、おはよ」


一番近くにいた女子に声をかける。この子の名前はほのかという。

ありすが調べた限りでは、特段アイドルをやっているわけではなく、雨が降っていても、叫んで雨をあがらせるなんてこともしていないようだ。

なんでありすがそんなことを調べたのかは、ありす本人にもわからない。


「なんでも、光くんと女子が一緒に歩いてきたって話」

「あー、なるほど」

「何、知ってたの?」

「知ってたって言うか、知っちゃたと言うか」

「何それ」


とはいえ、ありすの言い方も正しい。光を尾行していたら、告白されていたのだから。しかも、光はそれを即答。

そんな場面に遭遇したというありすだった。


「まあ、とにかく、本当なんだね」

「うん、そうみたい」


別に、ありすが二人が付き合っていることを隠す必要もないと思い、事実を言う。

きっと、光も、面倒くさそうに本当のことを言っているのだろう。


そして、チャイムが鳴り、教師が入ってくる。


「おいお前ら、なんでこんなに一か所に集まってるんだ? さっさと席につけー」

「あ、先生来たみたい」

「だね」


ほのかと笑いながら、席に戻るありす。

既に、この教室の全員と友達になることができていたありすだった。

男子は言わずもがな、ありすの美貌に抵抗することは出来ず、友達申請を承諾。女子は、ありすが邪な考えを持っていないことを早々に理解し、友達に。

ありすは、光と違い、自身の目的を順調に達成していたのだった。


いいですね、高校生活。自分も過ごしたはずなんですけど。

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