3 告白されたから受け取ってみた
なんとか書き終わりました
更に一週間が過ぎた。
「...今日もあそこに行くか」
光は、朝のHRだけは出て、すぐに屋上へと向かうという生活を確立していた。
校長も、この件については認めている。なにせ、テストを受ければ全て満点なのだし、容姿もいい。校外に出すパンフなどに採用するという条件を飲んだ光は、こうしてサボることを許されている。
これまでで一番、光は光自身のことをほめていた。
「あ、あの!」
「...俺になんか用か?」
いつもの定位置(屋上)に向かおうとしていると、廊下で女子に声をかけられた。
光は他人の名前を覚える気がないので、名前を思い出すことはできないが、隣のクラスにいたような気がするとだけわかった。
光は、なんとなく面倒そうな雰囲気を感じ取る。
(まさかだが、告白なんてしないよな?)
光は、この高校に入学して、早二週間で極度の面倒くさがり屋になってしまっていた。
これを家族が見たらどう思うだろうか。きっと、光は誇らしげに言うのだろう。
「あ、あの、放課後、屋上に、来てください、お願いします!」
そういうと、名も知らぬ女子は光の前から走って逃げて行った。
光は、返事も出来ずに、ただ困った表情を浮かべた。
(なんてこった、これから告白じゃねえか)
しかし、ここで光は閃く。ここ最近の閃き具合と言ったら、ニュータイプをも凌ぐ勢いだ。
光は、不敵な(つもりの)笑みを浮かべる。この作戦は、今まで最高だと自負しているからだ。
しかし、廊下で笑顔を出したことにより、それを見ていた女子に一目ぼれされるのだが、このときは何も考えていなかった。
授業終了のチャイムが鳴り響く。
「...放課後だな」
もう少し詳しく言えば、まだ掃除中なのだが。
光は既に屋上に来ている。別に、そわそわして早く来てしまったとか、そんな青春している男子ではない。ここがもはや光の第二の家なのだ。
そんな屋上の扉を、誰かがノックする。
その音を聞いて、光は遠さに物陰に隠れる。
(...こんな早い時間から、誰だ?)
こんな時間から屋上に来ている奴は、余程の屋上大好き人間か、それとも最初からここにいるかのどちらかだ。
しかし、と光は思う。
この学校は、掃除が当てられていない班は無い。なら、どうして光以外の奴が来るのだろうか。
「...まだ、来ていない、か」
聞いているだけで心が落ち着くような声が光の耳に入る。
この声、どこかで聞いたような...。
(朝のか!)
光は、慌てて影から出る。
「...あ、いたんだ」
「ああ、いた」
なんとも、屋上で出会った男女がする会話ではないと思ったが、これでいいと光は思いなおす。
そして、最近思いなおしすぎじゃないかとも思った光だった。
「え、っとね、藤堂くんに、話があって」
「まあ、そりゃそうだろうな」
逆に、他に誰がいるのだろうかと、光は思った。
「まずは、始めまして、私の名前は、春っていうの」
「ああ、よろしく」
その名前を聞き、光は春の見た目を改めて見る。
(ふむ、モデルでもやってそうなプロポーションだな。顔も悪くない)
最低であった。
「それでね、藤堂くん、わ、私と、付き合ってほしいの!」
「ああ、いいぞ」
光は、即答した。
これにはもちろんわけがある。
(クックック。最低な彼氏だとわかれば、俺はこの学校の生徒全員に嫌われる。これで目的は達成したも同然!)
後は、ここから卒業するだけ。そんな光の、一見簡単そうで、難しい作戦は、幕を開けた。
しかし、その事情は一切知らない春は、素直に喜ぶ。
「ほ、ホントに!?」
「ああ、嘘はつかねえよ」
「や、やったぁ...」
腰が抜けたのか、春はその場に座り込む。
光は、手を差し出した。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん、ありがとう。でも、大丈夫、嬉しくて、立てなくなっちゃっただけだから」
そこで、光の良心が訴えかける。
『それで本当にいいのか』と。
(ああ、これでいい。春も、こんな奴と付き合うより、人は見た目よりも中身だということを嫌でも知って、別れていくだろうさ)
光自身も気づかないうちに、春のためにもなることをしようとしているが、このことに光は気づかないであろう。
「それじゃあ、また明日!」
「ああ、じゃあな」
光は、春が屋上から出て行ったところで、首をかしげる。
(彼氏彼女の関係になったら、一緒に帰るとかするもんじゃないのか? まあ、目立たなくて済むからいいけど)
そして、光は鞄を持ち、帰っていく。
(まじかああああ!!!)
光が、屋上へと続いている階段を、降りていく。その近くで、ありすは隠れていた。
そう、一部始終を、聞いていたのである。
「ま、まさか...よね」
相手が光だから隠れられているのであって、他の男子生徒にはばれているのだが、ありす本人は全く気付いていない。
隠れているところから出る。
掃除用具の中に隠れていたので、その拍子に箒が出てくるが、その方向を見ずに手で受け止める。
そして、ありすは身震いする。
まさか、お礼を伝えようと調べているうちに、付き合い始めてしまうなんて。
(これじゃあ、私が呼び出したら、気まずい状況になっちゃう...でも、あの女の前で礼を言うのはなんかやだ...)
ありすは、自分でもわからない気持ちに左右されていた。
最近になって、男性恐怖症だということに気がついたありす。まだその症状は軽いもので、会話をしている分には、足が少し竦む程度で済むのだが、視線を感じると、どうしても息がしづらくなる。
通院をしようか迷っているレベルなのだ。
「...いや、ちゃんと礼は言わなきゃね」
明日の放課後、しっかり伝えようと決意するありすだった。
光宅にて。
「おい、なんで俺の家にいる」
「なんでって...彼女だから?」
光が家に帰ると、なぜか、今日の放課後に告白してきて、そこで彼女になった春がいた。
(え、ホントになんでいるの? 謎なんですけど)
家は光が一人で住んでいる。故に、鍵はかけてきたはずなのだが...。
光がそう思いながら、春の方を見ると、春は二本の細い棒をくるくる笑顔で回しているのが見えた。
「まさか、それで開けたのか?」
「はい、そうですけど?」
「...俺のプライベートな時間はどこに?」
しかし、ここでうろうろしていても仕方がない。
中に入り、光は自分の部屋に鞄を投げ入れる。
「とにかく、帰れ」
「え、帰る場所無いよ?」
「...どういうこと?」
「...おい、起きろ」
「むにゃむにゃ...」
「遅刻するぞ」
次の日。光は春を家に泊めていた。
理由は、昨日の会話。
『私、彼氏の家に泊まるって言って来たから、帰る場所無いよ?』
『は?』
最初は冗談かと思った光だが、その表情から、嘘ではないことが理解できる。
最悪だ、と光は内心舌打ちした。
(まさか、こんなことになるとは...な)
流石に、この状況で外に締め出すほどの鬼では無いし、そもそも鍵をかけたところですぐに開けられる。恐らく、チェーンをかけても、すぐに破壊されるのであろう。
「最悪だ」
嫌われようとしているのに、彼女が普通に出来てしまった光だった。
しかも、好きでもなんでもないのに。
この物語は、基本的に、光側、ありす側それぞれの三人称で進んでいきます。
変なところがあったら、言ってください。主に、高校のルールの点で()