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精霊殺しの雨

 殺ってしまえ。とフィラルドは言った。

 ラーゴは再戦が決まったことで口元をニィっと歪ませる。


「……再び闘いに身を投じてもよいが、魔力を貰えないだろうか継承者よ」


 レオドラートは魔力の補充を求めた。


 精霊は契約すると、契約主からしか魔力を受け取れない。

 契約をしなければ空気中や、その辺に居座る動物、地中から洩れ出る魔力を摂取出来るのだが、契約をすると精霊の魔力はその契約主に依存してしまう。


 一見、契約をすることは悪いことに聞こえるかも知れないが、決してデメリットばかりというわけではない。


 例えば、契約をしている精霊としていない精霊の二つに、同じ人間が同じだけ魔力を与えてみると、契約をしている精霊は無駄なく魔力摂取出来たのに対し、契約をしていない精霊は魔力の大半を無駄にしてしまう。

 また、空気中から魔力を摂取出来ると前述したが、それは微々たるもので、契約した魔術師から常時魔力を提供された方がはるかに効率よく魔力摂取出来る。


 契約をしていない精霊は、年を経ると周りからの魔力摂取だけでは体を保てなくなり自然消滅をしてしまう。

 年月を経た精霊は確かに強力だが、姿を保つだけでも多量の魔力が必要になる。だから、こうした弊害も出てきてしまうのだ。


 話は戻るが、レオドラートは契約主である王となった者と、王となる者の最大保有魔力量の2割まで魔力を常時摂取出来るという契約だが、それ以外に一つだけ魔力の補給方法がある。

 それは、王か王太子が直接レオドラートに魔力を捧げることだ。


「足りなくなったのか」

「……先ほどの破魔魔法は、大いに魔力を浪費するものだ」


 ……実を言うと、常に足りていないがな。


 レオドラートは年を経るごとに着々と衰えてきた力を感じ、思った。

 せめて、力を維持できる位の魔力が欲しい、と。

 しかし、そのくらいの魔力を摂取するとなると前王と王、王太子から貰っている魔力を最大保有魔力の2割から7割程までに引き上げないと、無理な話だ。


 しかも、今の王族には契約を改正出来る程の力は持っていないから、それは理想論だが。



 訓練場にメルリナとフィラルドとそれぞれの精霊以外の姿はなく、そこから少し離れた学園の映像放送がなされる大きな建物に生徒達とクルスはいた。


 これはラーゴが生徒が訓練場にいるとやりにくいという抗議をしていたので、生徒を避難させたのだ。

 映像を映す仕組みは、ただ今訓練場の上空を飛んで周る、一つ目のコウモリのような翼の生えた目玉の魔法生物が見ている景色を東屋に魔法で送り、かの魔法生物が見ている景色を、それ専用の装置が映し出す。というものだ。


 空中に映し出された映像に、フィラルドとメルリナが相対するように立っている映像が映し出されている。



「ラーゴ。私は貴方に闘って欲しいとは思いません。消えて欲しくありません。ですから、今からでも勝負を取り下げた方がいいのではないでしょうか……?」


 メルリナは少しだけ不安げな表情でラーゴを見つめた。


 ラーゴはやる気になっているが、あの破魔の光がある限りラーゴに勝機はない。とメルリナは考えている。


 要は、

「お嬢さんも俺が負けると考えているんすね!」


「はい。逆にどうすればあの破魔魔法を持った相手に、ただの精霊が勝てるというのです?」

「簡単なことっすよ。相手に破魔魔法をメッチャクチャ使わせればokっす! あの破魔魔法は強力っすけど、消費魔力は馬鹿喰らうんで! 使わせまくれば、そのうち使えなくなるっすよ」

「そうなのですか? 王国の守護精霊は常に破魔魔法を使えると聞いているのですが……」


 メルリナが知っている教科書知識だと、あの守護精霊は光を際限なく操る。と言われており、他の資料なんかの話でもそれが出来ると書いてあったり、出来ないとおかしいくらいの大事を成し遂げていたりしている。


 ラーゴはチッチッチッと舌を鳴らして答える。


「それはおそらく大昔の話っすよ。それこそ俺がこの世に意思を持つ以前の……。

 あの破魔魔法、ただの光のままで周囲をピカらせてる方が厄介っすけど、あの爺さんはわざわざ槍状に形成し直していたっす。それは、少しでも魔力の使用を抑える為だと考えられるっす!

 それに、あの下衆男は魔力量はそこそこ持っているみたいっすけど、爺さんが必要としている光属性の魔力の質がダメダメっすね。例えるのなら、ワインを水で1:9で割ったみたいな薄さっす。酔いたいのにそんなほぼ水の酒だったらそりゃあアルコールが足りなくて、酔えないっすよ!」

「それでは、長い時間逃げ回り相手の破魔魔法を多用させながら闘うのですか?」

「それもいいっすけど……そんなに長々と闘おうとは考えてないっす」


 ラーゴは人差し指を突き立てて、誇らしげに胸を張った。


「これで片付けるっすよ」

「一分……ですか?」


 そう聞いて首を傾げるメルリナを見て、ラーゴはゆっくり首を振った。


 悠然としたラーゴの姿は、一種の敬礼を捧げたいほど自信に満ち溢れている。

 そして、いつもよりも気持ちしゃんとしていた。


「いいや、一秒っす」


 そのラーゴの瞳には、確信と呼べる自信の姿があった。

 このことは決定事項であるかのように宣言をしたのだ。


 メルリナはそんなラーゴに、即座に声をかけた。


「無理ですね」


「ちょっちお嬢さん! ここは俺がかっこよくビシィッと決めたところっすよ! キャーラーゴ素敵! ってなるところっすよ! なのにそんなゼリーメンタルな俺のハートを泡立て器でかき混ぜるような否定はよしてくださいっす!」

「いえ、一秒で決まることはありえません。どちらが勝つか宣言されるまでが闘いなので、1秒以上はかかると思います。常識的に考えてください」


 メルリナはそういった。


 つまり、メルリナはラーゴがレオドラートをすぐに倒すことが無理と思っている訳ではなくて、勝負を決するのに1秒で足りる訳がないと冷静に突っ込んでいるのだ。


「それじゃ5秒で決めるっす!」

「本当に出来るのですか? 5秒で……なんて」


 ラーゴが守護精霊を5秒で倒すなんて出来るとはとても思えなかったが、「いえ……」とメルリナは首を横に振ったあとラーゴに微笑み、口を開いた。


「貴方がそんなに自信がたっぷりあるのですから、それを信じることが貴方の契約者である、今の私に出来る唯一のことですよね。……でも、逆に5秒で消される……なんてことにはならないでください」

「任せるっすお嬢さん! 試合の合図が響いたとき、精霊殺しの雨を降らせて見せるっす」


 その精霊殺しの雨が、一秒で決めるといった秘策なのだろう。

 あまりにも、物騒な名前だったものだからメルリナはポツリと呟いた。


「精霊殺しの雨……? 私、その魔法をラーゴが使っているところは見たことないですよね?」

「ウィース。俺のお嬢さんに見せていない魔法の一つっす! ま、この名前は俺が勝手に言ってる俗称なんすけどね。以前の契約主が作った魔法なんで、どこの魔導書を探しても載ってないものっすけど」


 なんてことないように以前の契約者が魔法を作ったなんていうラーゴ。

 前の契約者がどんな人か分からないが、相当な魔法師なんだろうということは分かる。

 この学園に居る可能性が高いそうなので、機会があったら会ってみたいとメルリナは思った。それと同時に、その魔法師が生徒ではないことを願う。

 先生ならその人に魔法の指導を頼めるが、同級生なら教えを乞うことは立場上出来ないし、自分の学園一の魔法師という地位が脅かされるからだ。


「メルリナの精霊、消される準備はもう出来たかい?」


 フィラルドが妙にキザったらしい仕草でそういった。

 よく見ると彼は少し息が上がっていて、それを隠すためにオーバーに演技をしているのかもしれない。


「魔力の譲渡お疲れちゃんっす! 息上がってるんすけど、大丈夫っすか? すか?」


 コテンと首を傾げニヤニヤ笑うラーゴの仕草にイラッとして、フィラルドはラーゴを睨みつけた。

 しかし、何を思ったのか王太子は一転、余裕を思わせる笑みを浮かべる。


「ああ、レオドラートにお前を消滅させる為の魔力を注ぎ込んだからな。勝負はすぐに始まる。もうお前は消滅への一本道しか残されていないのさ。そして、メルリナ……君を私の手中に収めてみせよう」


 自己陶酔しているのか、フィラルドは恍惚とした顔を日向に晒した。

 先程までは王太子と婚約するのは構わないと思っていたメルリナだが、その恍惚とした顔を見て、ぞわりと背中が羽根で撫でられたような感覚に陥り、体が拒絶反応を起こす。

 腕を見ればポツリと鳥肌の姿が確認出来た。


「ラーゴ、必ず勝ってください」

「勝利以外あり得ないっすね!」


 その後、訓練場の様子を見ていたらしいクルスから準備が整ったと判断されたからか、声がかかった。


『双方、準備はいいか?』


 訓練場の拡声の魔道具から聞こえた声に、メルリナは表情を引き締め、フィラルドは相変わらずニヤニヤと笑っている。レオドラー卜が負けることはないという、余裕の笑みだった。


 その表情を曇らせるのに、分単位の時間は必要なかった。


『では、始め!』


 その合図とともに、メルリナはラーゴに目を向けて言った。


「それでは、ラーゴ。お願いします」

「ウィース。"地に降り注ぐは祝福の災禍"」

(詠唱句……! 精霊が詠唱をしているところなんて、初めて見ました……! ……それに、これは!)


 精霊は基本、それぞれ一つの属性しか持たない。

 生まれ持った属性の魔力以外を持つことは出来ないのだ。


 一つしか属性を持てないが、その代わり、その生まれ持った属性の魔法は詠唱無しに自由に操れる。

 その精霊が詠唱をしたのだ。


 詠唱は何故するのか?

 詠唱とは、そもそもが世界との契約魔法である。


 その句を唱えることで、使おうとしている魔法を多少の魔力と引き換えに世界が補助をし、使いやすくする。それが詠唱をする意味だ。


 精霊は生まれ持った属性を自由自在に操ることが出来る。と言われている。

 また、他の属性を持つことはない。

 だからこそ、詠唱は精霊には必要ない。


 しかし、ラーゴは詠唱をした。

 だから、メルリナは驚いた。


(ラーゴに魔力を使われているのですか!?)


 そして、もう一つ驚いたことがあった。

 それはラーゴの元に動くメルリナの魔力だ。


 普通、精霊は契約主の魔力を自由には引き出せない。

 混じり気のある魔力を操作することは、契約している精霊だとしても出来ないのだ。


(この魔力の流れ、止めることは難しくなさそうですが……)


 メルリナはそれをしなかった。

 ラーゴのいう精霊殺しの雨を降らせる上で、必要なものなのだと何となくわかったから。


「"祝天の棘雨 グァリジョーネスピナテンペスタ" 」


 そして完成した魔法。

 この訓練場上空に突如として現れた暗雲。いや、それは正確な表現ではない。

 暗雲と言うには雲が明る過ぎるのだ。


 その雲は暗いのに、不自然に明るく、白く輝いて、傍から見ても分かる違和感があった。

 その光景は、災禍と言うには神々しく、祝福と言うには邪悪過ぎた。


 そして、雲から注がれる大量の雨。嵐。

 それは、立つことも困難な自然の猛威。


 魔法の完成と同時にメルリナとラーゴ、ついでにフィラルドを守るように水のベールをラーゴは展開した。


 この"|祝天の棘雨《 グァリジョーネスピナテンペスタ 》"という魔法は単純な水属性の魔法ではない。その為、水精霊のラーゴでは簡単には操れず、意識のほとんどをこの魔法に割いてしまうのだ。


 一度目の闘いでこの魔法を使わなかったのは、意識のほとんどを割いてしまうから、この闘いを見ている生徒達に水のベールを展開し忘れるかもしれなかったからだ。


(ここまで魔法までの距離が遠いと、光を届けさせるのにも、膨大な量の魔力が必要っすよね! 今の爺さんにこの魔法を消せるだけの魔力の魔法を放とうとしたら、大きな痛手となるっす。)


 天より降り注がれた鋭い棘の雨は、地に墜ちると地面に穴が空く。

 この訓練場はちょっとした闘技場の役目も担えるように、少数ながら観客席も付いているのだが、その席は今の魔法で使い物にならなくなった。


 また、雨が降ると自動的に訓練場を覆う、屋根の役割を持つ結界も、この魔法の雨には効果がない。


「ぬぅ……」


 レオドラートは唸りながら破魔魔法の光を発した。

 眩い光が王を守る。

 破魔魔法は問答無用で、魔法を無効化する。


(……なんだ? 先ほどの魔法より、連射性能は上がった。……が、受けた時に負う代償は、此方の魔法の方が低いだろう……! ……だが、なんだ!? この、悪寒は……!?)


「レオドラート! 何をしているっ! 私の魔力をたっぷりとくれてやっただろうっ! 即、反撃して、その精霊を消してしまえ!」


 反撃をしないレオドラートに、腹を据えかねたフィラルドが吠える。

 レオドラートは主の見えないところで、歯を食いしばった。


(……たっぷり……か。……あれでは、足りるわけがないだろう)


 その様子を見ながら、ラーゴは思う。


(……爺さん精霊も大変そうっすね。美女に仕えるなら多少の性格の悪さは目を閉じられるっすけど、あんなへなこちょゲス野郎にまでヘコヘコするとか……。

 俺だったら考えただけでも反吐が出るっすよ。


 ……まぁ、この勝負には関係のないこと。手加減する気は、俺が一人の女に一途になること以上に、あり得ないことっすけどね)


 レオドラートの光が強くなる。

 反撃しようとしている相手を見て、ラーゴは口端を吊り上げて最後の手を打った。


「これで終わりっすよッ!! "反響する雨音(リフレイン)"」


 未だに降りしきる土砂降りの雨。

 その雨は訓練場の地面に水溜りを作っていた。


 突如、水溜りの水が逆再生の映像のように、天へと向かう。

 まるで、重力の方向が真逆になったようだった。


 当然、レオドラートの足元に溜まっていた水も、天空へ大雨を降らす。


「っ!!」


 反撃へ移ろうとした瞬間だった事もあり、レオドラートは下からの攻撃を対処出来なかった。

 そして、水の粒が体を穿つ。


「ぐっ!!!」


 その痛みは、今まで受けたことのないものだった。

 全身を水の棘で貫かれたレオドラートの体は、自然と魔力を消費して、再生する。

 受けた傷は即座に治った。


 レオドラートは破魔の光を下にも展開した。

 しかし、急いで展開した為か、光に隙間が生まれたのだろう、今度は上から降る雨がレオドラートの体を穿つ。


「がッ!!!」

(なんだ……!? この魔法は!? 闇属性魔法の回復を阻害する効果が秘められている!? 其処に水属性魔法の回復促進も加えられているのか……!?)


 水属性の回復促進の効果と、闇属性の回復阻害の効果がせめぎ合い、傷を癒やすスピードはいつもと変わらない。


 だが、傷を癒やす際に使われる魔力は、比較にならなかった。


 一方的にやられるレオドラートを見て、フィラルドが何も言わないはずもなく、長めの金髪を振り乱して叫ぶ。


「何故反撃をしないんだ! レオドラート!! それでもお前は王家の守護精霊か!? 王家の役に立つことがお前の存在意義だろう!! 私を侮辱した、あの不遜で不愉快な水精霊をこの世から消せ!!! 塵芥にしろ!!! 今すぐに!!!」


 目を剥き、眉間に深いシワを作った、フィラルドの怒声が訓練場へと響いた。


「くっ! ……はぁぁぁぁぁああああーーーーーーっっっ!!!!!!」


 天地を揺らすほどの大声。 

 フィラルドの声に応えるかのようにレオドラートは、残り少ない魔力を使い破魔の光槍を創り出し、天へと……ではなく、ラーゴへ向けて投射した。


「へ……、またこの槍っすか!?」


 それなら、とラーゴは一回目の闘いの時も取った手を使う。


 自分の居た位置に、ラーゴは魔力の大量に込められた自分を模した水の人形を作った。

 また、その際、後方に前方の水の人形と同じ形のものを、今度は少なめの魔力で作る。


 単純な水属性の魔法なので、瞬きの間程の時間もかからない。

 そして、ラーゴ自身は己の魔力を隠蔽して、一番小さな姿となれる光の玉となる。


 飛ばされた光槍が、最初に作ったラーゴ人形を貫く。

 貫かれたラーゴ人形は水で形を保っていられなくなり、光槍が当たったところから、ただの水の塊となって地面に落ちた。


 光槍は止まらないかに見えた。

 しかし、一つ目のラーゴ人形を倒したところで、突如、光槍が消失した。


 いや、消失したのは、魔法だけではない。

 レオドラート自身が、この訓練場から消えたのだ。


「これで、闘いは終わりっすね」


 展開した魔法を全て解きながら、ラーゴはポツリと呟いた。


 レオドラートは宝玉となり、フィラルドの手元に戻っていた。

 だが、宝玉の輝きは、闘う前とは比べ物にならない程、色褪せていた。


『そ……まで……、しょ……は……リナ』


 そこにクルスの勝利宣言が響き渡る。

 ひどいノイズ塗れの声だった。

 それもそのはず、ラーゴの魔法で拡声の魔道具が壊れてしまっていたのだから。


 そのノイズの中でも、クルスが忌々しげな様子なのはわかった。


「レオドラート!!! どういう事だ!!! おい!!!」


 フィラルドは宝玉となったレオドラートに向けて、そう問いかけた。


「お前は王家の守護精霊だろう!!! 伝説の精霊なんだろう!!! なんだ、この体たらくは!!! 何故、あの精霊を消さない!!! 答えろ!!! レオドラート!!!」


 しかし、返事はない。現界していないのだから当たり前だ。

 稀に、精霊と強い信頼を築いている契約主の場合、宝玉の状態でも会話出来るそうだが、フィラルド達にはそれは出来ない。


 フィラルドは、憎悪すら抱いていそうな表情で、レオドラートを呼び出す。


「 "古より王国を護りし光の精霊よ 今ここで現界せよ" 出てこいよ!!! レオドラート!!! 」


 そう唱え、呼び出したが、レオドラートは現れなかった。


「……どういう事だ。契約主が呼び出しているのに、現界しない……? おい! 私が呼んでいるんだ!!! 直ちに出てこい!!!  "古より王国を護りし光の精霊よ 今ここで現界せよ" 出てこい!!  レオドラート!! "古より王国を護りし光の精霊よ 今ここで現界せよ" おい!!! 出てこいよ!!!  レオドラート!!!」


 何度もレオドラートに呼びかけるフィラルドだが、姿は一向に宝玉から変わらない。

 ラーゴはフィラルドに近づく。


「いつまでそんな無駄なことをしているんすか?」

「貴様ァ!!! 私に恥を欠かせたことを後悔させてやるっ!!! お前はレオドラートに消される運命なんだ!!!  "古より王国を護りし光の精霊よ 今ここで現界せよ" 出てこいよ!!! レオドラート!!!  …………何故だ。……何故現界しない」


 何度呼びかけても現れる様子のないレオドラートに、フィラルドは遂に呼びかけるのをやめる。

 ラーゴはそれを確認して、口を開いた。


「だから、無駄なんすよ。その爺さん精霊には、現界するだけの力はもうないっすから」

「……どういう事だ?」

「言葉通りの意味っす。もう、魔力を消費しすぎて、現界すら出来なくなったんすよ。最後に無理な攻撃を仕掛けた事が、一番の原因っすね。……確かに爺さん精霊は、伝説と呼ばれるだけのポテンシャルはあったっす。けど、もう伝説は終わりっすね。

 既に、今摂取している魔力量が増えない限り、爺さん精霊は自然消滅する他ないっす」


 そして、授業終了の鐘がなった。

 ラーゴは踵を返して、メルリナの元へ戻る。

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