7話 絵本と思いつき
お楽しみいただけると嬉しいです。
目を覚ます。
あーこういうときに言わないといけないセリフがあるんだ。
「知らない天井だ。」
うん、言いたかっただけ。
どうやら僕は昨晩あのまま寝てしまったらしい。
となると、ここはディンさんの家の一部屋なのだろう。
周りを見渡すと机に椅子。机の上にはデスクライトのような物が置いてある。
他には棚と本棚、その他には僕が寝ていたベッドが一つ。
あれ、ここまで運ばれたことになるのか。
申し訳ない気持ちでいっぱいいっぱいだ。
それとコンタクトレンズを付けたまま寝てしまったが、地球にいたときのような
痛みやかゆみが無い。なんでだろう?確か目の細胞も呼吸をしているけど、コンタクトレンズをすると酸素不足になって目に悪影響が出ると眼科の先生に言われた気がする。
ということはこの魔法で作ったコンタクトレンズは酸素を取り込んでくれているのかな。憶測でしかないけど。あとずれてもいないようだ。
なんて便利なレンズだ。魔法万歳!
早くに起きすぎたのか、備え付けられてる窓の外はうす暗い。
まだみんな寝てる時間なのだろう。
完全に覚醒してしまった状態だから二度寝をするのもなんだし、昨晩考えられなかったこれからのことを決めていこう。
まずは言語習得。これは必須だろう。
お金を稼ぐ。
お金の価値を知る。
この世界の常識を知る。
言葉がわからないとこの重要なことが知れないのだから言葉は偉大だ。
当たり前か。
次に僕のスキルのレベリング。
スキルの検証もしないとだな。
MPが回復しているかの確認も含めて僕自身を鑑定する。
「《鑑定》。」
そこには
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名前 鈴野 優衣 (人族)lv1
HP 10/10 MP 799/800
[筋力]12
[防御力] 8
[俊敏]14
[器用] 7
[魔力] 3
[幸運]56
[スキル]
[サブスキル]
<吸魔:1><鑑定:1>
[エクストラスキル]
<コンタクトレンズ生成:1>
[称号]
<コンタクトレンズ生成者><招かれた者>
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MPは回復しているが1減っている。鑑定にもMPを消費するということなのか。
椅子を鑑定してみた。
△#△
жШ^〇л☆。
相変わらずなんて書いてあるかわからん。昨日ギルドで見た石版の文字に似ている気がする。
この世界の言語になっているのか。言語習得をしないと鑑定スキルも使えないとは。
異世界、恐ろしい子!
そのあとに自分を鑑定したところ
鑑定の消費MPは1らしい。
鑑定にもMP使うんだ。微々たる物だから気にならないけど。
あとは時間で回復するのかも知りたいな。今は3減った状態だからしばらく
スキルは使わないようにしよう。
物音を立てないように、ゆっくりと立ち上がり本棚へと向かう。
「本をお借りしまーす。」
小声で呟き置いてある一冊の本を取り出し表紙を見る。
子供用の絵本だろう。
お嬢様ヘアーの女性が、フード付きのみすぼらしい服に身を包んでお城の中にいる。
パラパラと捲ってみると、読めない字と一緒に絵が書いてあった。
読めないがストーリーはなんとなくわかる。
お嬢様ヘアーの女性はお姫様だった。
そのお姫様は日々、勉学、ダンスのレッスン、礼儀作法の勉強をしている。
そんなお姫様は自分の部屋の窓から見える街の様子をキラキラした目でみている。
お姫様は決心したような顔をし、表紙にあるマントの様な服に身を包んでいるところだ。
そのあとは外で出会った兵士と恋に落ちるというストーリーだ。
絵本あるあるな話だ。
「むかしむかしあるところにってね。」
僕は苦笑しながらページをパラパラと捲っていき、ふと気付いた。
翻訳用コンタクトレンズ作ればいいのでは?と。
その瞬間口角が上がったのが自分でもわかった。
嬉しさのあまり勢い良く立ち上がってしまった。ガタっと音がしてしまい慌てて息を殺し家の中の音を聞き、物音一つしないことに安堵した。
よかった。今の音で誰か起きてしまうかと思った。
僕はいつもの深呼吸をして「よし」と自分を落ち着かせ、ベッドにまた腰掛けた。
まだ5分くらいしか経っていないがMPが回復しているかみてみよう。
MP 799/800
となっていた。回復しきったのか。MP回復は早いんだな。
少なくとも5分で3は回復することになる。
細かい検証はまた今度にして、今は翻訳のコンタクトレンズだ。
僕は急く気持ちを押さえ、昨日のようにコンタクトレンズの効果を考え、
生成を開始した。
「よし、出来た。」
完成した。
僕が生成したコンタクトレンズは二つ。
一つ目のレンズの鑑定結果は
翻訳レンズ
翻訳 lv1
記眼 lv1
《記眼》
意識した言葉を表示する。表示はレンズ自体にされる。
なぜ意識した言葉なのかというと、理由は翻訳のスキルだ。
《翻訳》
意識した文字が装着者のわかる文字で表示される。表示はレンズ自体にされる。
つまり話しかけてきた人の言葉が文字として眼に映る。装着者にしかわからないようになっている。はずだ!
それを翻訳してもらうわけだ。これで相手の言っていることがわかる!はずだ!
はずだはずだ!
まだ試していないから上手く行くかはわからないが、上手く行って欲しい。
ちなみに翻訳のスキルは先ほどの本の文字を見たところちゃんと翻訳されたから
読みに関しては心配いらなくなった。
本の始まり方が「遠い昔あるところに」だった。
むかしむかしじゃないんだなーなんてニマニマしながらバカなことを考えていた。
この翻訳レンズを生成して満足していたが気付いてしまった。
「自分の伝えたいことが伝わらないじゃん!」
と。
だから頭を捻りながらもう一つのコンタクトレンズを生成した
それがこれだ。
通訳レンズ
通訳 lv1
読眼 lv1
《通訳》
意識した言葉が相手の伝わる文字で表示される。表示はレンズ自体にされる。
《読眼》
意識した文字の発音が装着者のわかる文字で表示される。表示はレンズ自体にされる。
こっちのレンズは正常に効果が発動したことを確認できた。
試しに「遠い昔あるところに」をディンさんを想定して、《通訳》のスキルを使ったところ同じ文字が表示された。
読眼での発音もあってるかわからないが出た!
お分かりいただけただろうか!
この二つがあればコミュニケーションが取れるのだ!
これで騙されて奴隷になってのバッドエンドは回避された!
ちなみにこのスキル達にもlvが存在する。
まだlvが1だからか一つの単語しか翻訳できないのだ。
「遠い」「昔」「あるところ」
みたいな感じだ。幸いなのが文法が日本語と同じだった点だろうか。
中学のときにやった英語の並べ替え問題みたいな感じにならなくてよかった。
...あれ苦手だったんだよな。
lvが上がると翻訳できる単語が多くなるのか、それとも文単位でできるのか。
とりあえず何度もスキルを使わないといけないようだ。
めんどくさいが仕方ないよね。勉強にもなるし、いつかこのコンタクトレンズに頼らなくても話せるようになろう。
家の中で話し声が聞こえてきた。
ディンさん達が起きたのだろう。
あれから二時間ほどが経った。
MPの消費量や回復速度の検証をしながら、言語の問題は一応の解決をしたから
次の問題のことや、しなければいけないことを考えていた。
あっという間に時間は過ぎた。僕も立ち上がり凝り固まった身体を解し、部屋から出た。
そこには料理をしているキャルロイさんと鎧を着込んだディンさん、人形で遊んでいるクレアちゃんがいた。
ディンさんは僕に気付き
「☆л〇。」
意識するが特になにも起きない。記眼スキルが失敗したかと瞬きをしたらなにかが見えた。
眼を閉じてみるとそこには文字が表示されていた。
その文字を今度は翻訳スキルを使ってみる。すると日本語で
『おはよう』
とあった。
おー!成功だ!相手の言っていることがわかった!嬉しくなってうんうんと頷いて
目を開けてみると心配そうな顔をしたディンさんの顔があった。
朝の挨拶をしたあと唐突に目を瞑り出してうんうん頷いてたらなにかあったのかと心配するのも当然か。
でもまだだ!まだ挨拶を返していない!
両手を前にだしてちょっと待ってとジェスチャー。
ディンさんは首を傾げてよくわかってなさそうだったけど仕方ない。
また目を瞑り通訳のスキルを使いおはようを意識する。
すると先ほどと同様の文字が浮かびあがる。その文字に読眼スキルを使用し発音がカタカナで表示された。
僕はそれを口にした。
「オ、オハヨウ。」
僕の一声にディンさんは驚いたような顔をし、次いでは嬉しそうな顔で頷きながら
「おはよう!」
と言ってくれた。
発音がちょっと違っていたみたいだ。
「おはよう!」
僕も笑顔でそう返した。
絵本の時に文字が見れたのは、そのページが黒色で塗られていたから
という理由が一応あります。暗いところで見える文字…みたいな感じの設定です笑
お読みいただきありがとうございます。