6話 居心地の良い場所
楽しんでもらえると嬉しいです。
獣耳の受付嬢、あらためシルエットさんと兵士の男の人、ディンさんの名前を覚えた。
名前を呼んだだけなのに距離がグっと近くなった気がする。
名前を呼び合うのって大事だよね!そのあとの会話ができないけども!
でもこれが一歩目だ!大切な一歩。名前を呼びあっただけでウルっとした。
その後はシルエットさんとディンさんが何かを話したあと、ディンさんは
僕に視線を向け、扉を指差した。
そしてそのまま扉に向かって歩き出した。
シルエットさんを見てみるとニコリと笑いながら僕に手を振っていた。
バイバイってことだよね?じゃあディンさんに着いていくのが正解かな。
シルエットさんに手を振りかえし、ディンさんの後について行く。
外に出るとディンさんが待っていた。
「ユウイ!」
と僕を呼び手招きをしている。
ディンさんのとこまで走って行く。
そして元来た道を戻っていく。途中右に曲がり少し歩いたとこで
たくさんの家が並んでいるところに出た。
その一つの前にディンさんが立ち、僕のほうに向き直った。
そして親指を立て、自分を指してから家を指した。
「ディン ☆$。」
自分の名前のあとになにかを言った。
ディンさんの家だってことかな。今の単語を覚えよう。
何度もその単語を口に出しながら暗記していると、いつの間にか家の中に入っていたディンさんが綺麗な女性を連れてくるところだった。奥さんかな?
ミディアムロングでカールのかかった金色の髪。目の色は透き通る空のような青色。まさに米国人!
身長は160くらいだろうか?僕より大きい。ま、まだ伸びるし!
着てる服は僕と似た感じの服で、下は長いスカートのようになっている。
服のことは僕はよくわからないけど着飾っている感じではないのだろう。
それでも控えめに言って、この女性は美人だ。
ディンさんの容姿について、今まで語ってなかったな。
ディンさんは185くらいでツンツンとした髪型で茶髪。目の色は自然の暖かさを感じさせるような緑色である。
二人が並んでいると美男美女だ。お似合いの二人だ。
僕が二人を観察していたら、女性の方が笑顔だけど目が笑っていない顔でディンさんを見てなにかを言っている。
ディンさんはなにやら慌てているがどうかしたのだろうか?
ディンさんが必死に何かを言い、女性が驚いたような顔でこちらをみた。
次第にその驚いた顔が悲しそうな顔をし、次いではディンさんを見て苦笑した。
なんだなんだ?ジェスチャー含めてくれないと理解できないぞい。
首を傾げていた僕を指差しながらディンさんは
「ユウイ。」
と女性に向けて言った。
僕のことを紹介してくれたらしい
次に女性を指差しながら僕に
「キャルロイ。」
と言った。女性の名前はキャルロイさんらしい。
また口に出しながら彼女の名前を呟いていると
「☆ж★!△#!」
と子供の声が家の中から聞こえてきた。
出てきたのは二人の子供なのだろう。
明るめの茶色の髪で短いながらも二つ結びにしたかわいらしい女の子が。目はパッチリとしており色は父親譲りの緑色。
四、五歳くらいだろうか?
あと十数年もすれば母のキャルロイさん同様美人になるだろう。
その女の子を抱き上げたディンさんは
「クレア。」
と言った。
女の子の名前はクレアちゃんらしい。可愛らしい名前だ。よく似合っている。
僕はクレアちゃんに手を振り、笑顔で自分を指しながら
「ユウイ。」
と自己紹介してみたが暴れだしたクレアちゃんをディンさんが降ろすと
そのままキャルロイさんの後ろへと走って隠れてしまった。
どうやら人見知りをしているようだ。
ディンさんとキャルロイさんは苦笑し、キャルロイさんがなにかを僕に告げてから
家の中へと入っていった。
ディンさんも家の方へと向かってしまった。
ここでお別れのようだ。
家の場所を教えてくれたのは困ったことがあったら来てくれって意味なのかな。
...心細いな。一人でやっていけるのかな。
言葉もわからないし。
どうしよう、大分暗くなっているし宿がどこにあるのかもわからない。
お金はディンさんにしたようにすればなんとかなるかもしれないが...
早速だけど困ったしディンさんを呼び止めて聞くべきなのかもしれない。
「ディンさん!」
心細さを紛らわせるために大きな声が出てしまった。
ディンさんはこちらを振り返り何事かといった風にこちらを見てから
なにかを察したのか苦笑しこちらへ戻ってきた。
そしてその大きな手のひらで僕の頭をぽんぽんしてから
僕の手を掴み歩き出した。
家の中へと。
「ディンさんかっこよすぎか。」
現在僕は食卓についている。ディンさんの家にお邪魔させてもらっている。
家の中へ入った後、ここの椅子に座っていてくれと言われ(ジェスチャーでだが)
ディンさんは奥の部屋へ入っていった。
頭ぽんぽんからの手を引く動作が自然すぎて一瞬なにが起きたのかわからなかったが、かっこいい男はそういう動作を自然とするものなのかもしれない。
僕も見習おう。
キャルロイさんが食事の準備をしているのか、ここまでいい匂いがする。
お腹が鳴った。その音が聞こえたのかディンさんが笑いながら僕の隣の椅子に座った。
キャルロイさんが鍋を食卓の真ん中に置き、お皿を用意した。
クレアちゃんを座らせてから僕の目の前に座った。
煮込んだ野菜やお肉をお皿に盛り、僕の顔をみながらあらかじめ用意していた
砕いたパンのような物を入れるジェスチャーをした。入れる?ってことだよね。
入れてもらおう。僕は頷いた。パンを入れ、そのお皿を僕の前に置いてくれた。
ディンさんやクレアちゃんにも同様にお皿に盛り、各々の前に置いた。ディンさんが食べ始めてからキャルロイさんとクレアちゃんも食べ始めた。
僕は手を合わせ
「いただきます。」
と呟きいただく。
三人は僕を不思議そうに見ていたが僕が食べ始めたら、各々もまた食べ始めた。
僕は食事に拘りはないほうだ。出されたものは食べるし、好き嫌いはない。
不味いと感じたことはほとんどない。味覚バカではない。はずだ。
おいしいものはおいしいと感じるし。
そんな僕が頂いた料理の感想を言わせてもらうと
「うんま!!」
すごく美味しい。野菜の甘みと香辛料のスパイスがスープ全体に染み込んでおり、一口食べたらまたすぐにもう一口と手が止まらない。
肉もなんの肉かはわからないけど、噛んだ肉は柔らかく、肉汁と共にスープがあふれ出る。
パンは元は固いのだろうが、スープに浸したおかげでモチモチした食感だ。これは合う!僕はあっという間に盛られたご飯を平らげてしまった。
キャルロイさんを見てみるとこちらを見ながらニコニコしていた。
食べてるとこずっと見られてた?恥ずかしいんだけど。
キャルロイさんは自分のお皿にスープを盛るジェスチャーをしてから僕へと首を傾げた。
おかわりいる?ってことかな。
僕はお皿を持ち上げ
「お願いします!」
と頷いた。
「ごちそうさまでした。」
ご飯を食べ終わり、キャルロイさんが食卓の後片付けをはじめたから食器をさげるのを手伝った。
洗い物をしようとジェスチャーで伝えたところ、首を横に振られ先ほど僕が座っていた椅子を指差した。
座っていてってことかな。
お言葉に甘えて少し腰掛けることにする。
おかわりを2回もしてしまった。普段小食なのだがこちらに来てから歩き続け、
精神もブレまくっていたせいか疲れたし体力もたくさん使ったことが原因だろう。ご飯食べてなかったし。
水の流れる音と食器を置く音が響き、クレアちゃんがディンさんになにかを話している声を聞きながらこのあとのことを考える。
まずは...言葉を..それから...
気付いたときには夢の世界へと旅立っていた。
まずい、食事に無頓着すぎてどういう料理を登場させていいのかがわからない!
と、すごい困ってしまいました。
お読みいただきありがとうございます!
次話も読んでいただくると嬉しいです。