3話 何事も経験
お楽しみいただけると嬉しいです
ーーーチュンチュン
鳥の鳴き声で目が覚めた。
目を開けて最初に目に入ったのは木々とその間から覗く青空だ。
…硬い。どうやら地面の上で寝ていたようだ。身体中が痛い。
そして裸。
「なんでやねん。」
そりゃ、突っ込むだろう。
外で裸で寝るとか生まれて初めてだよ。人のいないところに送るって言ってたから誰かに見られる心配はいらないけど物凄く恥ずかしい。身体に土付いてるし。
確かアイテムボックスに服を入れてくれたんだよな。
「ってどうやって出すんだ?」
名前言うとか?
「アイテムボックス!」
...なにも起こらない。
え、嫌だよ?裸のまま街に行くの。おまわりさーん、コイツです。
って言われるの必然だよ?異世界来ていきなり牢屋行きとか嫌だよ?
裸で捕まって牢屋行く小説とか読んだことないよ?葉っぱとかで隠していけばいいの?
ヤバイ、乗り越え方がわからん!
大丈夫大丈夫。クールになれ。
アイテムボックスは呼ぶものじゃない。こう、空間から出すものだ。
目を閉じて手を目の前の空間にねじ込む感じにすれば、あら不思議。
なにも起きな...
ん?今一瞬文字みたいなものが見えたような。
もう一回、目を閉じて。
おっ、これだこれこれ。
手を空間にねじ込むとか全く関係なかったけど結果オーライ。
イメージが大事だからな!
目を閉じて意識すれば自分の持ち物が漠然と表示される感じ。
そこには服があったので、出してみよう。
出でよ、服!
「おぉー!出た!」
これは興奮する!魔法だよ魔法!念じただけでなにもないとこから突然服が出たよ。
「よく見えないけど、昔の人が着てそうな服だな。」
服とかあまり拘り持たずに親が買ってきてくれたものを着ていただけだから繊維がうんたら、とかわからないが古そう。
両親が亡くなってからは適当なシャツに、適当なズボンだけを買って過ごしていた。
文明が前の世界ほど進んでいないのだろう。よくある話だ。
とりあえず服を着た。
「これでおまわりこいつはされなくなったな。」
裸で街に行かなくて良くなった。
「次は視界の確保だな。」
ずっと視界がボヤけている状態はさすがに不安だ。
確かコンタクトを自分で作れる魔法をもらったんだよな…
「というかチートもらえなかったんだけど。魔物に襲われたらどうするの?寝覚めが悪いんじゃないの?ねぇ!神様ー!」
叫んでも返事はもちろんなかった。
「さすがに返事はないか。はぁ。」
小さくため息をついた。そして息を止め、目を閉じて、腕を上に伸ばしながら息を吸った。
「すぅ、よし!」
ポジティブへの切り替えをするときの儀式みたいなものだ。
マイナスに物事を考えそうなときにいつもしている。
「コンタクト作りだ!これも念じる系なのかな?」
これも念じてみよう。むむむ...
コンタクトコンタクト...
ん?ダメだ、出ない。
やり方がわからないのは困るな。説明書でもあればいいけど。
まぁでも、ゲームみたいだと思えば楽しみながらできるでしょ。
説明書は読まないで操作して慣れる人が圧倒的に多いと思うんだ。僕もその一人。
あの間ってなんか楽しいんだよな。ワクワクしたり、こんな風にできるのかなって妄想したりするの。
ただ30分くらい経っても出来なかった。
「あれ~?これはまずくない?」
どなたか眼鏡をください。伊達ならいらないけど。
ちなみに僕の視力は0.07。近づかないとそれがなんなのかわからないくらい。
近づいても見えない時あるし。
だから眼鏡やコンタクトが必須なんだが...
「あ!度か!」
コンタクトにもさまざまな度数があるんだからコンタクトだけじゃ出ないのも当たり前か。
「僕が使ってたコンタクトの度数は-5.50、ソフトでベースカーブは8.7。」
目を閉じ、使い慣れていたコンタクトが右の人差し指に乗っていることをイメージ。
目を開けるとそこには...
「出来た。」
透明だけど、しっかりと存在感のあるコンタクトレンズが一つ。
「よっしゃー!」
コンタクトが落ちないように左腕でガッツポーズをとる。
そしてさっそくつけてみる。
「いつもより違和感がないな。魔法で作ったからなのかな」
よくわからないが良い出来だったらしい。反対の目の分も魔法で生成した。
「これで周りが良く見えるな。」
ぼやけていた視界がクリアになり、木々の葉も一枚一枚しっかりと見える。
周りをキョロキョロ見ていたら、僕の背後の奥の方は、木々が生えていないようだ。
行ってみると、道があり、右を見ると登り坂になっており先が見えない。
左を見ると道がずっと続いており、遥か遠くに街が見える。遠そうだ。
だが悩む必要もないので、そのまま街が見えている道を進んで行く。
街道の道を進む。
着くまでまだ相当時間がかかりそうだな。
「異世界にきたらまずやらなければいけないことがあるな。」
小説の中だと必ずと言っていいほどにみんながやっていて、成功する確率は半々といったところか。
それは...
「ステータスオープン!!」
そうステータスである。これが出ればレベルという概念もしっかり存在しており経験を積むことでステータスが上がるのだ。
しかし
「出ないパターンか。ショック。」
どうやら出ないらしい。出ないパターンでもレベルなんかが存在してたりするし、そこまで落胆する必要もないか。
何事も経験、大事。経験値、美味しい。
「お次は魔法ですよ魔法!」
チートは貰えなかったが、ここは剣と魔法の世界。
一般人くらいの魔法力はあっても良いのではないかと思う。
ならやっぱり詠唱だよね。やばいテンションが爆上がり!
さて、お気に入りの詠唱と魔法から...
「全てを無に帰せ、零無。」
漆黒の太陽が現れ、そこに存在する全てのものを引き寄せ、空間をも飲み込む。
漆黒の太陽が無くなったそこには、なにも残っていなかった。
「という妄想をした。」
うん、なにも起こらなかった。
勝手に考えた詠唱と魔法じゃダメってことか?
ならオーソドックスに
「ファイアーボール!!」
...なにも起こらない。
これは、街に着いてから誰かに聞くのがいいかもしれない。
となると
「発動できた魔法で色々試すか。神様は付与能力が自分で出来るって言ってたから、なにか付けれるのかもしれない。」
鑑定系とかあったら便利だな。あとは魔眼的なものを作れたり出来るのかな!発動中は目の色が金色になるとか良くない?!
かっこいい!それだ!魔眼だし魔法の源的なのが見れて、魔法打ち消しちゃったり!?
いや、吸収のほうがよさそうだ。いや、両方だな!
吸収した魔法で別の魔法とか作れたら強そう!?
いいねいいね!
それから...
「ふむ。」
僕は呟く。かれこれ30分くらいは歩いてるがまだまだ街は遠い。
ただ、一人で脳内魔眼レンズ作成の妄想をしていたから別に苦ではなかった。
むしろ楽しかった。
そんな僕の右手と左手の人差し指にはコンタクトレンズが二つ...
出来ちゃってるよ!え?いいの!?
効果を複数個付けようとしたら出来なかったけど、吸魔と引魔だけにしたところ出来た。
アイテムボックスに入れたらアイテム名わかるから入れてみたところ
『魔眼レンズ』『鑑定レンズ』
出来ちゃってるよ、おい!
二つだけだけど付けれるならもっと強いのを付けるべきでは!?
時を遅くさせるのとか、見ただけで対象を破壊するのとか!
結果
「出来ないんかい。」
出来なかった。
色々と試した結果わかったのだが特化型にしないといけないらしい。
破滅の効果のみを載せたコンタクトレンズも、時を遅くさせるコンタクトレンズも出来たが
この二つを組み合わせることは出来なかった。
魔眼レンズなら魔法系統の効果、破滅レンズなら破壊効果など。
それでも十分チート臭がするが。
まだ実際に使ってはいないから機能するのかはわからないが。
魔眼レンズを左目に付けてみる。
「特に変わらないな。」
発動するにはやっぱり声がトリガーだよな。
目を閉じ集中する。ちなみに声はトリガーになっておらず別に言う必要もないんだが
やっぱり口に出した方がカッコいい。
「『魔眼』」
言葉と共に目を開けると
「…わぁお」
ボヤっと粒子のような物が飛び交っている。。
先ほどまでいた街道なのに、全く別の場所と見間違えるほど幻想的なものだった。
「この粒が魔法の源?みたいな物か。」
魔素とでも呼ぶか。
「この魔素は空気中にたくさんあるのか。なら吸魔も大気中のを吸収して後で使うとかもできそうだな。」
早速吸収してみる。
「『吸魔』」
そう言って、魔素を吸収するイメージをする。
目の前に広がる魔素がそのまま左目へと吸い込まれていく。
「おぉー!」
僕は歓喜の声を上げた。暖かいものが左目に流れる。
しかし…
「あれ?」
少ししか吸収出来なかった。僕を5人ほど並べた範囲くらいの魔素しか吸収出来なかった。
それがどのくらいの魔法を生み出せるかは知らないが
それと、目が熱くなっており勝手に涙が流れ出てくる。
36時間フルでゲームをしていた時の現象に似ている。
目が熱くなってきたかと思うと涙が勝手に流れてくるんだよな。あれ、なんなんだろう?
...ドライアイ?
そんなことよりも
「まさかの上限有りか。いや、設定で上限無くせば…。」
試して見たがダメだった。
「えー、大量に吸魔して魔法をぶっ放してみたかったのに。そういえば鑑定のコンタクトも作ってたんだった」
魔眼でテンション上がりすぎてて鑑定レンズの存在を忘れてた。
鑑定のレンズを右目に入れる。
近くの石を拾い、意識を集中する。
すると脳裏に浮かびあがったのは…
○△
☆^$#жоШ
とあった。
「読めねえぇぇぇぇぇ!!」
鑑定スキルは異世界での基本中の基本だがまさかの文字化けである。
嘘だろ...バグとかツラヒ。
いや、まだだ!
「魔眼の鑑定もしてみよう!」
左目から取った魔眼レンズを右目の鑑定レンズで鑑定してみるとそこには
魔眼レンズ
・吸魔 lv1
・引魔 lv1
「こ、コイツは…!?」
読める!なんで?!わからん!
そこはさておき...
今僕が注目してるのはもちろんlvの部分。
「lvが存在するとかキタコレ?!」
そう、ゲームのようなシステムがあるのだ。これはテンション上がる!
そして魔眼レンズと吸魔と引魔。
どれも僕が考えた名称だ。
「吸魔・引魔のlvが1なのは当然だよな。」
使ったことないのだから当たり前だ。
使っていくことでlvが上がるのだろう。経験値扱いなのか、馴染んでいくとlvが上がるのか。
僕が実際に自分のlvを上げたことがないからわからないな。
覚えたことを長い間放置していれば、使い方を忘れたり、勘を忘れることもある。
lvが下がったりすることもあるのかもしれない。
まぁ、どうせlv1なのだからそんなこと気にせずに、lvを上げることだけを考えていればいい。
つまり...
「レベリングだ!!」
お読みいただきありがとうございます。
また次話もお願いします。 秘ナツキ