2話 お茶目な神様
お楽しみいただけると嬉しいです
「と、いうわけじゃ。」
突然語り出したお爺さん(自称神)に聞いた話によると、僕は死んでしまったらしい。
僕は頭を強く打ちつけ、そのまま意識を失った。
そのまま落下し鉄棒や鉄柱の下敷きになり、踏みつけたトマトのようになったのだとか。
そんな情報聞きたくなかった。
頭を打ち付けた時の痛みも感じなかったし、痛み無く死ねたのは幸運だったのかもしれないが…
「楽しみにしてたゲームがああああああ!」
僕は悲しみのあまり叫んだ。それはもう血の涙を流すほどだ。
「そこで物は相談じゃが」
そう言ったお爺さん(自称神)を見た。そのお爺さんがボヤけて見えるのはこの涙だけが原因では無い。
僕は生まれつき目が悪いのだ。いつもはメガネをしているし、していないときはコンタクトをしている。
ちなみに僕の身体は死ぬ前の通りピンピンしてるが何故か裸である。何故だ…
身につけてる物は持ってこれなかったとかなのか?
「お主、剣と魔法の世界に興m「あります!!」…」
神様の言葉を遮り、自分でも目が爛々としてるのがわかる。
こういう小説やアニメはたくさん見た。そういう妄想もたくさんしてきた。
もしかしたらそういう事なのかと最初は思っていたがあまり期待しすぎると違った時の絶望感が半端ない。
もしかしたら異世界行けちゃう!?
お主の魂をどこどこにうんたらかんたらしてなーむー…
なんて会話がされた時の絶望感。
わかる?!それはもう死ぬほどだ。
…死んでいるが。
ともかく!これは夢にまで見ていたシチュエーションだ!
チートで無双でお金ガッポリでハーレムで...ハーレムはいらないな。
やばい、考えただけで興奮する!
なかなか先を話し出さない神様に話を促そう。
「神様!剣と魔法の世界に行けるんですか!?」
「促そうもなにもまだ2秒も黙っていなかったのじゃが…
まぁよい。そうじゃ、お主をワシの管理している世界に行ってもらおうとおもってな。」
おぉ!定番だ!思考を読まれているのも定番だ!
しかし、ふと考える。
みんながみんな死んだ後は、このような話になるのか?
だってパルクールの事故で死んでしまった人が神様に会えるものなのか?
誰かの命を救ってとかだったらわかる。歴史に影響を与えた人とかでもわかる。
だけど僕はそういったことは一切していない。
一般ピーポーだ。
と、するとだ。向こうの世界にもたくさんの地球人がいるのかもしれないのでは?と考えてしまう。
そうなるとチートが貰えるかも怪しい。
ここもテンプレっぽく「魔王を倒して」とか「世界を救ってくれ」シリーズなのかな?
できればそっちのパターンでチートを貰いたい。欲望には忠実に。
「色々考えているところ申し訳ないんじゃが、お主が考えているようなことではない。
死んだものは基本的に魂世に送られそこで集まった魂が混ざり合い、新しい魂を生み出し、
同じ世界で生を受ける形になっておるし、別に世界を救って欲しいという頼みも無いのじゃ。
今のところペデュンが崩壊する恐れも無いしの。」
「魂世?ペデュン?」
「魂世というのは魂の世界。死んだ者たちの魂が送られる世界のことじゃ。
正式には魂世・地球、という枠組みになっておる。地球のための魂世が存在するということじゃな。
ペデュンはワシが管理している世界の名前じゃ。ちなみにワシが付けた。」
ほうほう、神様自ら付けたお名前ですか。センスありますな。
あれ、じゃあなぜ?
「それはじゃな、確認したいことがあっての」
「確認したいこと…ですか?」
「そうじゃ。実は今朝、地球の様子をたまたま見ておっての。その時偶然にもお主の朝の様子を見ておったのじゃ。」
朝…。起床して遅刻の時間で、朝風呂して、朝食を食べて、妄想をして、そのまま学校に行っただけのはずなんだけど…。
「うむ。その後からじゃ。学校で周りから色々言われてるとこからじゃの。」
ふむ、確かいつも通りからかわれているところからか。それがどうしたんだろう?
「その時に、『おいおい、女がなんで男の制服着てんだよ?』とか、ラブレターを貰ったり
していたがお主の返答が『僕は男だよ。』じゃったの」
あぁー、毎回毎回同じことを言ってくる生徒Aとその他の男や、女だと信じこんで告白してきたりラブレター送ってくる奴がいるな。
言われ慣れ過ぎて怒りもなにも感じなくなったな。一種の作業感。作業ゲーは苦手なんだけどね。
というか神様声真似ベラ上手いですね。というか本人の声じゃん。
「そのときにワシは思ったんじゃ。」
なるほど。そのときの気持ち的なことか…。
うーん、昔は確かに怒ったり泣いたり、自分の顔を両親にあたったり…あの時は本当に申し訳ないことをしたと思ってる。
父親は席を外し、母親は僕を抱きしめて泣いた。
「この顔の所為でいじめられている」なんて言えば親が困るのは当然だ。
あのときは母親がなんで泣いてるのかもわからなかった。
中学上がって少ししてからかわれた時に、この記憶が蘇り両親にとても申し訳ないことを言ったと自覚した。
母親は背が小さく僕でも可愛いと思う容姿をしていたし、父親も背は高くないが締まった身体をしており、
顔もカッコいいと思っていた。そんな両親のことが大好きだったんだから、
自分自身のことも好きになれると思った時には、自分を好きになれた。
っと、話が大分逸れたがそのときの気持ちなど「どうも思わなかった」だ。
「え、男じゃと!?…と。」
......。
さっきまでの思考はどうするんだよ。
あと神様にもわからなかったってある意味すげくない?
神すら騙す容姿か…カッコいいな!
「かわいいの間違いじゃと思うぞ。」
......。
「お主が今裸なのは確認の為じゃな」
うぉい!裸なのは僕のムスコを見るためだけかい!
最初に股間部分見てたのそれが原因かよ!
「うむ。本当は風呂に入ってる時に確認しようと思ったんじゃが、その前にお主が死んでしまったのじゃ。
一度気にするとわからないと気持ち悪いじゃろ?
歯に残飯が挟まったような。だからここに呼んだのじゃ。」
なるほど。歯と歯の間に肉とか挟まるとすごい気になって不快な気分になるけど
それと一緒にされるのはいやだ。
「ここに呼ばれる者は、『渡り門』を通りここに辿りつくのじゃが、元の身体の幻像も一緒じゃから丁度いいと思っての。」
この渡り門というのは魂を別の世界へ送る時に使われているらしい。
渡り門を通らない魂は、他の世界へは行けないようだ。
魂世・地球へは行かずに渡り門を使い一度ここを通ってから別の世界の門を潜り、そちらの世界の適正を得るのだそうだ。
よくわからん。
あまり多くの魂を他の世界へと送ってしまうと魂量のバランスが崩れて少子高齢化現象が起こりやすくなるらしい。
現在の日本はまさに少子高齢化真っ盛り。...つまりそういうこと?
あ、違う?そうですか。
「確認も出来て満足じゃし、そろそろ転生の準備をしようかの。」
転生か。赤ちゃんからスタートは面白そうだな。不自由そうでもあるけどなんとかなるんじゃないかな。
赤ん坊のうちに魔法を使うと魔力量が増えたり、スキルのlvを上げれたりできるしね!
...あれ、このままだと魂世とかいうのに送られて、魂ごっちゃ混ぜーの記憶失いーのチートも無しーの異世界生活?
それは困る!ただの村人Aとかになる可能性すらある!
「それって、記憶なくなったりしますか?」
「そうじゃの。世界の危機でもないし、手伝ってもらいたいこともないしの」
あれ、テンプレ!?何処行ったの!?せっかくの異世界が!!ここはなにがなんでも記憶だけでも残してもらわないと困る。
チートはこの際仕方ないとしてもせめて記憶だけは!
「どうにかなりませんか!?記憶だけでも…ほら確認の為に呼んだのは神様の私情ですし、
その神様が呼んだ相手の願いも叶えてあげてもいいのではないですか?!」
もう何を言っているかわからないけど、熱意が届いたのか
「ふむ、記憶を残すだけならその幻像を実態化させ、適正を調節して、そのまま転移すれば良いだけじゃから良いがの。」
おぉー!やった!
思ったよりすんなりokがもらえた!
「しかし、いきなり人の街にお主を転移させては問題じゃし、人里から離れたところになるのじゃ。
戦闘力皆無のお主がそのようなところにおれば魔物の格好の餌じゃ。
さすがに転移させてすぐ死なれても寝覚めも悪い。能力を付与しようと思うがなにかあるかの?」
チートまでもらえるの!?日頃の行いの賜物か!...違うか。
チート、チート。
色々あるけど...あ、その前に
「神様は魔法が使えますか?」
実際に魔法を見たほうがいいアイデアが出そうな気がする。
「もちろんじゃ。」
あ、でもよく見えないんだった。
「なら、音の魔法にしようかの。ほれ《音爆》。」
と、なにかを言う前に神様が魔法を構築し、魔法名ぽいものを言い具現化した。
キュイイイイイイイン、と金属同士が高速で擦りあう音がしてからーー
バコォオオオオオオン!!!
爆発が起きた。
いや、実際に爆発はしていない。爆発のような音がしただけだ。
…とりあえずすごいのはわかった。
耳がやばそう。幻像だからかはわからないけど鼓膜がぷっつんしたとかは無い。
幻像、ダメージ、通らない。的な?
でも、身体の中を音が掻き回し、地震でも起きたかのような振動を返してきた。
幻像にも影響出たとか音魔法強ない?
これ、普通の人が受けたらショック死とかするんじゃなかろうか。少なくとも耳から血は出そうだ。
あー、とりあえず見たいな。ぼやけててなにも見えないのがもどかしい。
「あの、神様。こんなこと頼むのもあれなのですが、眼鏡か「《エクスヒール》」コンタクトレンズなどがあれば…」
話している間に神様が何かを呟き、緑色なオーラのようなものが見える。
なんだ?。
「ふむ、コンタクトかの?」
疑問に思っていると神様がそう尋ねてきた。
「あ、はい。」
「自分で作れるようになったほうが良いかの?」
ん?コンタクトを?魔法で作れるようにしてくれるのかな?
「そうですね。自分の好きなように作れると便利ですよね。あと外すときもコンタクト用の入れ物があると嬉しいのですが」
「あい、わかった。付与などは自分で出来るようにしておくゆえ色々試してみるが良い。
入れ物は…そうじゃの空間ポーチも使えるようにして直接空間ポーチへの出し入れが出来るようにしておくかの。
かなりのサービスじゃぞ。」
おぉー、付与とか空間とか聞くとテンションあがるね!
空間ポーチはいわゆるアイテムボックスってことでいいのかな?
「ありがとうございます!我侭言ってそれを聞いてもらっちゃって。さらにサービスまで。」
「よいよい、ワシもお主を気に入ったからの。」
なんか気に入られてたけど、なにかしたっけ?してないよね。
「空間ポーチに向こうの平民が好む服を数着、お金を少し、食料を少しだけ入れておく。
着いたらまずは空間ポーチの確認をするのじゃぞ。」
お金と食料までもらえるとは至れり尽くせりだな。本当にありがたい。
「はい!わかりました!」
「それでは、送るぞい。」
「え?」
あれ、なんで?チートは?くれないの!?
僕の心の声はスルーされ
「武運を祈るのじゃ、《転移》」
まばゆい光に包まれ視界が真っ白になり
僕は意識を手放した。
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「かわいい子に良いところを見せる為にハリキリすぎてしまったの。自分の魔法で危うく死ぬとこじゃったぞい。ほっほっほ。」
神様は自分の魔法で死にかけた。そしてその影響で鼓膜が破れ耳から血が流れ出し、優衣の言葉が聞こえなくなっていた。
さらに相手の心を読む魔法が切れてしまったことは神様しかしらない。
「しかし、チートチートと内心言うてたのに、コンタクトを作るスキルが欲しいとはなかなかどうして、面白い子よの。
魔眼ではなく、コンタクトか。興味深いの。」
お茶目な神様が一人、そこにいた。
お読みいただきありがとうございます。
また次話もお願いします。 秘ナツキ