02:本当に異世界とやらに来てしまったようです。
ふわふわと意識が浮かんでは沈み、沈んでは浮かぶ。陽だまりの中で眠ったらこんな風に気持ち良いんだろうなと、深雪は思う。しかし、思ってすぐに気づく、自分は死んだのに何故思考できているのだろうかと。
文字通り飛び起きて驚いた。見知らぬ天井に見知らぬ壁、木製のベッドと麻の含まれた掛け布団。それらを認識できる目と手。喪ったはずのそれらがここにある事。つまり自分は死んでいなかったという事に。
深雪は叫ばないにしろ、両腕を高く上げて喜んだ。自然と笑みがこぼれる。
「おや、気が付いたかい?」
ベッドから並列の位置にある開き戸から現れた人物に向き直り、深雪は笑顔のまま表情を固めた。
その視線は一点に集中する。
耳(この場合外耳)が長い。まるで小説に出てくるエルフの様に長い。
彼女は深雪の視線に気づき、クスリと笑った。
「エルフ族を見るのは初めてかい? その歳で吾輩らを初めて見るだなんて、君はどこぞの箱入り娘なのかな?」
「エルフ族?」
「そうさ。別に珍しいものでもない。
君は人間族だろう? それと同じようなものさ」
ここにきて深雪は急速に理解する。部屋の外には出てないが、肌で感じる空気の違い。エルフ族と名乗る女性。自分が本当に異世界に転生してしまった事を。
けれど、理解しても心はついていけるはずもなく、深雪は膝を抱え込んだ。
「あぁ、本当に異世界転生なんて起こるものなんだ」
「ん? なんだい、君は異世界人なのかい?」
本当に小さく呟いたのにやはり耳が大きいと聞こえてしまうのかと思い、遅れて彼女の言葉が脳内で反復される。
「ちょっと待って、異世界人ってどういう事?」
「言葉通りの意味さ。この世界ではない、異なる世界から来た人の事さ。
もっとも好き好んでそんな面倒事をするやつはこのご時世いるとは思えないが……」
「面倒事ってどういう意味ですか?」
「吾輩も専門家ではないから詳しくは分からないが、異世界召喚を行う事でこの世界の魂が増えるとか何とか。それにより魂の循環が滞るとか何とか。このまま異世界召喚をし続ければ、この世界は崩壊するとかなんとか。
そういうことが分かってから、異世界召喚は禁術とされたんだ。」
「禁術。……もし異世界召喚をしたら、どうなるんですか? 召喚された人は……。」
そう口に出して、深雪は怖くなった。その答えはイコールこれから自分に起こることだから。
「無論罰則がある。確か、術者は永久封印、召喚者は異世界追放だったかな?」
「追放?! 元の世界に送り返されるとかじゃなくて?」
「異世界召喚は高度な術式だが精度はあまり高くない。どの世界のどんな人物が良いかなんて指定は出来ない。だから送り返そうにもどこの誰だか分からないから送り返せない。
かといってこの世界にはこれ以上魂を有する余裕は無い。だから別の世界に追いやるのさ」
「そんな身勝手な……」
「召喚者はある程度の知性を持っているし、この世界に必ず有益をもたらすからね。だから術者はどんな世界の人でも良いから召喚したいのだよ。
けれどすべてが身勝手な訳ではない。召喚される魂はその世界でのいわゆる寿命を終えた魂に限定されるからね。君だってその口だろう?」
そう言われて深雪は自分の最期を思い出す。そして疑問を口にする。
「不慮の事故で死んだ場合も、寿命を終えた事になるのかな?」
「吾輩の知る限り、召喚者はみな一様に老衰だな。事故死したなんていうのは噂でも聞いたことが無い」
そう答えると彼女は「うむ」と言ったきり黙りこんでしまった。
しばらく沈黙が続き、深雪は耐え切れず口を開こうとした。
「吾輩以外、君がこの世界で接触した人物はいないね?」
「えっ、そうですね。私がその……死んでから初めて目が覚めたのがこのベッドの上だから、たぶん誰とも会っていないかと」
「なら良い。君はこれから吾輩の相棒として一緒に行動してもらおう。もちろん、自分が異世界人であることは口が裂けても言ってはいけないよ。初めからこの世界に生まれた人間族として振舞うんだ、良いね」
彼女がとても真剣だったから、深雪は首を縦に振る以外に出来なかった。
「よし、そうと決まれば君、名はなんと言うのかな?」
「深雪です、栂屋深雪」
「君の世界では二つ名があるのかね?」
「二つ?いえ、苗字が栂屋で名前が深雪です」
「その、ミョウジという言葉の意味が分からないが、この世界では名が重要であり、唯一のものなのだよ。だから名を聞かれたら必ず『ミユキ』とだけ答えなさい」
「……分かりました」
「素直でよろしい。
吾輩はフォグリア、エルフ族だ」
「私はミユキ、人間、族です」
「うむ、よろしくな、ミユキ」
<この話に登場したやつメモ>
●ミユキ(一人称:私)
・01にて死亡、異世界へ転生
・現世では栂屋深雪(つがやみゆき)
・余分なものはついてないけどついてて嬉しい所にもついてない
●フォグリア(一人称:吾輩)
・深雪の拾い主
・エルフ
・男口調だけれど女性
・弓矢の名手
・余分なものはついてないけどついてて嬉しい所にはついてる
・残念ながら低露出




