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するすると這って進みながらあっちこっちに目を向ける。
この森は人の手が入っていないようで、道なき道を進んでる状態だ。
今は蛇だからすいすい進めるけど、ここを人間として歩いていたなら大変だっただろう。
木々の間にさまざまな草やこけ、シダ類、それに菌類が生えている。
森の中を見回していて気付いたのだが視界に違和感がある。
単色の陰影だけの映像が重なって見えるような、別々に見えているような。
これが熱を感じて見ているということなのだろうけど、それが二つある。
この二つは見え方が微妙に違っているが、どうして違いがあるのかはよくわからない。
まぁ、蛇の視界はこういうものなのだろう。
そういえば、今は腹が減ってないけど、そのうち狩りをしなきゃいけないか。
手ごろな獲物を見つけたら狙ってみてもいいかもしれない。
パッと思いつくのはネズミや卵なんかだけど、今の体じゃ飲み込めないかもしれない。
となると、虫とかになるんだが。
チラッと周りを見回す。
いたるところに虫がいるのがわかる。
ただ、食欲はあまりわかない。
脚とかが引っかかりそうだし。
まぁそのうち食べないといけないんだけど。
そんなことを考えていたら、前方からガサガサというなにかが動く気配がした。
気配はだんだんと近付いてくる。
蛇と虫以外で初めての遭遇ってことになりそうだ。
ここがどんなところなのか少しはわかるかもしれない。
結構大きそうな気配だし、隠れておいたほうがいいだろうな。
ひとまず、落ち葉の中へ隠れて様子をうかがうことにする。
少しして気配の主がゆっくりと姿を現した。
あれはイタチか?
でも、イタチにしては大きいし耳が長い。
茶褐色のそいつはヒモのようなものを二つほど口に咥えていた。
なんだあれ?
注意深く見てみた。
それは蛇だった。
そうわかった瞬間、血の気が引いた。
怖い。
今すぐに逃げ出したい。
だが、動いて気付かれれば俺も、あぁなってしまうに違いない。
それはいやだ。
体が落ち葉の中から出ているんじゃないかと不安で、もっと落ち葉の中に入って隠れたい。
でも、音を立ててしまう気がして動きたくない。
俺は息をひそめて、そいつが通り過ぎていくのを祈るように見つめ続けた。
そいつは蛇を咥えたまま、こちらに気付くことなく去っていった。
はぁ、ほんの少しの間だったのに、どっと疲れた気がする。
蛇は捕食者だ。
それは間違いない。
ただ、結構捕食されるんだった……。
知っていたのに忘れていた。
運が悪ければ、俺もあいつらみたいになっていただろう。
用心深くならなくてはいけない。
今日はもう休みたいから寝床を探すことにする。
とりあえず、落ち葉の中から這い出して、あいつが去っていった逆の方向に向かう。
なるべく離れてから、見つかりにくそうな場所を探す。
今の俺は、もし見つかったら逃げ切るのは、まず難しい。
なにしろ俺は慣れていない上に体が小さいから、あまり速く移動することが出来ない。
さっきのやつに追いかけられたら、全力で逃げたとしても、すぐに追いつかれてしまうのは簡単に想像できる。
なので、見つからないことが重要になると思う。
隠れるだけなら、さっきみたいにすればいいけど、できれば木の上のほうがいい。
基本的に移動する時は地面を確認しながらになるし、見つかっても木を登らないといけないので木登りができない動物は襲ってこれないと思う。
ただ、イタチって木登りうまいんだよな……。
フクロウなんかに襲われた場合は、どうしようもないかも。
それでも地上よりはマシだと思う。
だけど、どうやって登るかが問題だ。
手足がないのもそうだけど、この辺の木はどれも大きくて枝が上のほうにあるから手がかりがほとんどない。
やるだけやってみて、無理そうならさっきみたいに隠れるか穴でも見つけるしかないか。
少し斜めに生えた木の幹にへばりついて、体を持ち上げられるかやってみる。
ふぉおおおお!お?
案外、いけるぞ。
かなり力がいるけど、でこぼこしている樹皮に腹側の鱗が掛かって支えになっているようだ。
そうやって、なんとか枝のある場所まで登りきった。
あー、疲れた。
下を見てみる。
うおぉ、たけぇ……。
ここなら、たぶん大丈夫だろう。
さて、寝るとするか。
と思ったんだが、目を閉じようとして気付いた。
目が閉じれねぇ……。
よくよく思い出してみれば、まばたきをした記憶がない。
もしかして、蛇ってまぶたないのか?
そーっと尻尾の先で目を触ってみる。
なんか膜みたいなので覆われてるようだ。
ふむ、これで保護してるからまぶたがないってことかな。
うーん。
目を開けたまま寝る人とかもいたし、そのうち寝落ちするみたいな感じで寝れるか。
それから、ぼーっとしていると、すっと意識が飛んだ。




