2.イデアと自発的対称性の破れ
前項でエーフェスと宇宙の誕生について書きましたが、自分たちが今生きているこの実在の宇宙が生まれるまでには、もうワンクッションあったのです。
そのクッションとなる世界が“イデア”です。
まず、イデア論について語る必要があると思います。
イデア論はプラトンという哲学者が考えた学説です。
以下、wikiから引用――
イデア論は、プラトンが説いたイデアに関する学説のこと。
本当に実在するのはイデアであって、我々が肉体的に感覚している対象や世界というのはあくまでイデアの《似像》にすぎない、とする。
~中略~
《まさに~であるもの》あるいは《~そのもの》の存在(=イデア)を想定し、このイデアのみが知のめざすべき時空を超えた・非物体的な・永遠の実在・真実在であり、このイデア抜きにしては確実な知というのはありえない、とした。
――引用ここまで。
これまた完全に理解したわけではないのですが、自分はぼんやりと“イデアという完全な世界があって、この世界はそれの不完全な模造品に過ぎない”と考えました。
以上の予備知識を踏まえて、エーフェスの話に戻ります。
エーフェスという心は、自分自身が生まれたいという願望を実現すると、今度は自分の居場所を創ろうとします。
唐突ですが、新世紀エヴァンゲリオンの最終話にこんなシーンがあります。
主人公が何もない白い世界を漂っている映像が流れます。
そこに、一本横線が引かれました。
そうすることで地面ができて、主人公は地に足をつけて立つことができます。
これと同じように、エーフェスは自分がいる場所を認識した――つまり赤ちゃんが目を開いたようなイメージなのですが――その場所こそがイデアです。
前述した通り、イデアは完全な世界です。エーフェスはそこを漂いながら、様々な原始的概念を生み出していきます。(点、線、円という形など)
イデアにあるものはすべて完全なのですが、実在はしていません。
イデアというのは心の世界なので、言わばすべて妄想というわけです。
エーフェスの創作意欲は留まることを知らないので、今度はその妄想を実現させたいと思います。
その結果生まれたのが、自分たちが生きるこの実在の宇宙なのです。
これだけ聞くとファンタジーだな、と思う方もいるかもしれません。
しかし、一応これにも科学的モチーフがあります。
“自発的対称性の破れ”という言葉をご存知でしょうか?
これを説明する際によく鉛筆のお話が使われるので、自分もそれをそのまま引用します。
先の尖った鉛筆があります。
様々な計算を行い、その鉛筆をまっすぐに立たせる装置の設計図を作りました。
その装置は鉛筆の中心を軸に完全な回転対称性を保つことが可能で、まっすぐに立たせることができそうです。
しかし、実際にその装置を作って鉛筆を立たせようとしても、鉛筆はまっすぐに立たずに倒れてしまいます。
完全だったはずの鉛筆を立たせる装置の設計図も、実際に作ってみると不完全になる。
これを“自発的対称性の破れ”と言います。
これは宇宙の歴史に深く関わっている学説です。
というのも、初期の宇宙は完全な対称性を保っていたと言われています。
完全な対称性を保った状態では、質量がゼロになってしまいます。
なぜ? と思うかもしれませんが、そうなんです。そういうものだと思ってください。
この“完全な対称性を保った質量ゼロの宇宙”こそが、イデアなのではないかと考えました。
プラトンのイデア論と、南部陽一郎氏の自発的対称性の破れを勝手に結びつけたわけです。
そして、エーフェスが実在の世界を創る動機が生まれます。
「イデアには完全な心が満ちているが、実在してはいない。だから実在させたい」
妄想(完全)だったイデアという世界から、実在(不完全)を生み出したいと思う。
“自発的に対称性を破った”わけです。
結果、神の粒子と呼ばれるヒッグス粒子が生まれ、この宇宙は質量を獲得した=実在するようになったわけですね。
ヒッグス粒子に関しては……興味があったら調べてみてください。




